top of page
Convisage
本ブログの内容は、あくまで代表 徐勝徹の個人的な見解であり、Projeteam, Inc.の公式見解や業務上の立場を示すものではありません。
検索

知新察来


責任なき行為能力は天災をもたらす──エージェントAIと法人格
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Yuval Noah Harari, "We must not grant AI agents legal personhood" (Financial Times, 2026年6月8日) 概要:AIエージェントに法人格を与えることは、AIを資産保有・雇用・訴訟・政治献金まで行える制度上の主体に変えてしまう。ハラリは、これが国家や民主主義を非人間的な法人に支配されるリスクを生むと警告している。 アルゼンチンのミレイ大統領は、人間の株主を必要としない「非人間法人」という新しい法的カテゴリーの創設を発表した。AIエージェントが資産を持ち、契約を結び、雇用し、訴訟を起こし、政治献金にまで関与できる会社である。数日後、歴史家ユヴァル・ノア・ハラリはFinancial Timesに反論を寄せ、AIエージェントに法人格を与えてはならないと警告した。 ハラリの警告は直感的には理解できる。AIには身体がなく、刑務所に入れることも、自由を奪うこともできない。だが、この直感をそのまま制度論として使うには、まだ粗い。会社

Seo Seungchul
2 日前読了時間: 12分


重要さを説くだけでは、徳は育たない──AI時代の節度と制度設計
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Ross Channing Reed, "Why sophrosyne, an ancient Greek virtue, matters more than ever in the age of AI" (The Conversation, 2026年6月5日) 概要:哲学者・哲学カウンセラーである筆者が、古代ギリシアの徳ソフロシュネーを取り上げ、その衰退が現代の諸問題の根にあると論じる。プラトン、アリストテレスにおける位置づけを整理し、カウンセリングの実例を引きながら、AIとSNSの時代にこの徳が持つ意味を主張する。 古代ギリシアの徳が、生成AIの時代に必要だという議論がある。ソフロシュネー。節度、自己認識、自己統制、分別を含む、健全な判断力を保つ心の状態を指す語である。 主張そのものに異論はない。AIの出力を自分の理解と取り違え、SNS上で怒りに任せて他者を叩き、確かめずに信じた説を確信へと固め、成果物だけを手早く差し出す。こうした振る舞いを、ひとつの徳の欠如として括る視角には力がある。...

Seo Seungchul
4 日前読了時間: 20分


原因か、結果か、それとも回路か── 政治的トライバリズムと因果の向き
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Alexander Motchoulski, "Political Tribalism: How It Hijacks Our Minds and Diminishes Our Humanity" (Notre Dame Philosophical Reviews, 2026年6月2日) 政治の荒廃を語る言葉は、たいてい犯人を一人に絞りたがる。人々が感情的になった。SNSが悪い。格差が悪い。エリートが煽った。どれも部分的には正しく、そして単独では足りない。哲学者アレン・ブキャナンの『Political Tribalism』への書評——アレクサンダー・モチュルスキによるもの——を読んで印象に残るのは、この本が鋭い診断を与えながら、同時に「なぜその診断だけでは足りないのか」という問いを引き出してしまう、その二重性である。 書評は、ブキャナンを称賛も全否定もしない。診断としての切れ味を認めた上で、説明としての射程に疑問を呈する。この抑制された批判のなかに、現代の分断を考えるための、思いがけず深い足場が隠れ

Seo Seungchul
5 日前読了時間: 12分


AIを使って、人間社会を試す装置はできるか── 社会科学という、実験できない学問のための風洞
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:David Adam, "Will AI ruin the social sciences — or revolutionize them?" (Nature, 2026年6月2日) 概要:LLMによる調査データ・論文生産の汚染リスクと、分析の頑健性を高める可能性の両方を扱った論考記事。 心理学のアンケートに、ある回答者からこんな一文が返ってきた。「私は人間のようには混乱を経験しない」。 この一文だけなら、笑い話で済ませてもいいかもしれない。だがベルリンのマックス・プランク研究所のラウラ・リラらは、こうしたオンライン調査の回答のうち最大45パーセントが、大規模言語モデル(LLM)の出力をコピー・アンド・ペーストしたものである可能性を見積もっている。 二つに見えて、一つの危機 Nature誌が報じたこの記事は、社会科学に押し寄せている問題を大きく二つに分けている。 一つは、調査回答そのものへのLLMの混入である。回答者が文章を整えるだけならまだしも、調査への登録から設問の読解、回答の提出までを機械に任

Seo Seungchul
6 日前読了時間: 14分


構造は影ではない── 新しい力を足さない反還元主義
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:David Yates, "The delusion of a particle-only universe" (Institute of Art and Ideas, 2026年6月5日) 概要:世界が基本粒子から成るとしても、分子・身体・心・制度のような上位の構造は説明上の便宜にすぎないのか。筆者は、新しい力を持ち出さずに、上位構造が下位要素の可能な振る舞いを制約すると論じ、特殊科学の実在的な対象を擁護する。 世界は、突き詰めれば素粒子から成る。身体は細胞から、細胞は分子から、分子は原子から。ここまでは、多くの人が同意するだろう。だが、そこから「本当に世界を動かしているのは最小の部品だけであって、心も生命も制度も、下の層の過程を人間が便利にまとめて呼んだ名前にすぎない」と結論するなら、話は一気に不穏になる。細胞は何も引き起こしていない。人の意思も、市場も、法も、下で起きていることの影にすぎない。強い還元主義を最後まで押していくと、こういう荒涼とした風景にたどり着く。 哲学者David...

Seo Seungchul
7月8日読了時間: 12分


正統性と実効性のあいだ──AIガバナンスは誰が支えるのか
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Tony Oweke, "The World Is Trying to Govern AI. The UN Wants In." (Council on Foreign Relations, 2026年5月29日) 概要:乱立するAIサミットのなかで、国連のグローバル対話が持つ意味を「正統性」と「成果への導線」から論じ、それが失敗した場合の断片化と規範競争のリスクを警告する論考。 AIをどう統治するか。この問いは、多くの場合、制度の設計図をめぐる問いとして立てられる。国際条約を結ぶべきだ。国連が関与すべきだ。安全基準を定め、企業に透明性と監査を求め、グローバルサウスを包摂すべきだ。いずれも、それ自体としては正しい。だが、正しい設計図を描くことと、その設計図を現実に動かすことのあいだには、しばしば見過ごされる断層がある。本稿が問いたいのは、その断層である。制度を支える力は、どこから来るのか。 増え続ける会議 この数年、AIの統治をめぐる国際会議は急速に増えた。2023年のブレッチリー宣言はフロンティ

Seo Seungchul
7月7日読了時間: 14分


市民を細らせる成長──「無用」で閉じずに、それを拒む
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Brandon Kochkodin, "AI And The End Of Recessions As We Know Them" (Forbes, 2026年5月28日) 概要: AIによって企業の生産性と利益が伸びても、雇用がそれに連動しない経済が現実になれば、GDPの成長を経済の健康とみなす従来の見方が崩れる。AIは次の不況ではなく、統計上は好況に見えるのに多くの家計が豊かにならない状態を生むかもしれない、と論じる。 「経済は好調です」。政府や専門家がそう告げるとき、その言葉と自分の暮らしのあいだに、埋めがたい距離を感じる人が増えている。GDPは伸び、株価は最高値を更新し、企業は過去最高益を出す。それでも多くの人は、仕事の先行きや老後に、むしろ不安を深めている。この奇妙なずれは、これまで景気の善し悪しを測ってきた物差しが、現実を捉えそこねはじめた兆候なのかもしれない。 AIをめぐる不安は、しばしば「仕事が奪われるのか」という問いとして語られる。だが本稿の見立てでは、本当に問われているのは、そ

Seo Seungchul
7月5日読了時間: 14分


編集された「西洋」──実装と縮減のあいだで、プラグマティズムを読み直す
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Steve Fuller, "How America hijacked Western philosophy" (Institute of Art and Ideas, 2026年5月28日) 概要: アメリカのプラグマティズムを、ヨーロッパ哲学への後発的な追随ではなく、西洋哲学の議題設定そのものをアメリカ中心に組み替えた運動として読み直す論考。ジェイムズ、デューイ、そして二十世紀後半にプラグマティズムを再発明したローティを軸に、真理・意志・希望をめぐる概念の組み替えを論じる。 日本ではしばしば、欧米は個人主義でアジアは共同体主義、欧米は合理主義でアジアは情緒や関係性を重んじる、といった対比が語られる。この図式が何かを照らしてくれる場面はある。だが同時に、それはあまりに粗い。そもそも「欧米」と一括りにされるものの中には、古代ギリシアのロゴス、キリスト教の魂と罪、ローマ法の権利、フランスの共和主義、イギリスの経験論と功利主義、ドイツの観念論、そしてアメリカのプラグマティズムまで、かなり異質な系譜が同

Seo Seungchul
7月4日読了時間: 16分


戦略資本という視点──揺れる同盟をどう厚くするか
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Sheila A. Smith, "The Asian Anchor" (Council on Foreign Relations, 2026年5月20日) 概要: 米国のインド太平洋戦略は、豪州・日本・韓国という同盟国との相互依存によって支えられており、同盟国を一方的に守られる存在や交渉の道具として扱うべきではない、と論じる一篇。過去の負担分担論の歴史を辿りながら、公平な負担分担と軍事・経済・技術の統合深化を組み合わせることを提言している。 米国によって同盟国は守られている、という前提は、戦後のアジア戦略を語るときにほとんど疑われてこなかった。だが、この前提を反対側から読み直すとどうなるか。CFRに掲載されたシーラ・A・スミスの論考「The Asian Anchor」は、この問いを正面から扱っている。 負担分担(バーデン・シェアリング)という言葉が、トランプ政権のもとで再び政策の語彙に戻ってきた。米国の負担を減らし、同盟国の負担を増やす。この主張自体は目新しくない。だが、その扱い方を誤れば、米国

Seo Seungchul
7月2日読了時間: 11分


AIの越境配備の政治学──説明責任の届かない領域
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Tony Oweke, "Who Is Accountable When AI Goes Global?" (Council on Foreign Relations, 2026年5月27日) 概要: AIは少数の国・企業によって開発され、多数の国・社会に配備される。この非対称な構造のもとで、越境的な被害が起きたときの責任の所在が曖昧になっている。各国はそれぞれ独自のAIガバナンスを整備し始めているが、その制度は自主規制型から拘束力ある法律まで大きく分岐しており、この断片化が説明責任をさらに困難にしている。国連はGlobal Digital Compactを通じて調整機関としての役割を担いうるが、真の課題は原則を掲げることではなく、AIが既存の社会制度に埋め込まれる配備の段階で、適正手続と監督をどう確保するかにある。 AIによる被害が国境を越えて生じたとき、責任を負うのは誰か。この問いに、いまのところ明快な答えはない。開発した企業か、導入を決めた政府か、あるいは見過ごした国際機関か。答えが定まらな

Seo Seungchul
7月1日読了時間: 12分


教皇レオ十四世のAI回勅を読む ──AI統治をめぐる正統性の空白
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事: Isabella Piro, “Pope Leo's ‘Magnifica humanitas’: AI must serve humanity not concentrate power” (Vatican News, 2026年5月25日) David J. Scheffer, “The Pope's Mandate on AI Is a Moral Safeguard for Our Times” (Council on Foreign Relations, 2026年6月4日) 新しい技術には、大きな機会だけでなくリスクもある。AIをめぐる議論の多くは、安全に、公正に、説明可能に、そうやって形容詞を足していけば、いつか「倫理的なAI」になり問題が無くなる、という暗黙の前提の上に立っている。たどり着く。2026年に教皇レオ十四世が発した最初の回勅は、この前提の一段下に手を入れた。より道徳的なAIであっても、その道徳が少数者によって決められているなら十分ではない、と。 問われているのは、もは

Seo Seungchul
6月29日読了時間: 11分


拍手は盾にならない ──国家から離れた民主主義が、躓いた理由
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Daniel Pinchbeck, "Is the Nation State out of Date?" (Substack, 2026年5月24日) 概要:ロジャヴァ/北・東シリア自治行政を、国家主権に依存しない大規模な民主主義の実験として読み解く論考。オジャランの思想的転回とブクチンの社会生態学を源流に、地域コミューンから積み上がる統治、ジェンダー平等の制度化、協同組合中心の経済を描き、2026年初頭の解体に至る経緯を辿る。筆者は、物理的な解体にもかかわらず、この実験は将来の社会組織にとっての制度モデルとして残ると論じる。 ある実験が、軍事的に解体された。十年以上にわたり、中央の国家に依存せずに数百万の人々が暮らしを営んだ地域がある。北・東シリア、通称ロジャヴァだ。住民の集会が日々の暮らしを差配し、すべての公的な役職を男女が分かち合い、協同組合が経済を回した。それが2026年初頭、統合合意によって中央国家の構造へと畳み込まれた。 この出来事を「少数民族の自治の挫折」として記録することはたやすい。

Seo Seungchul
6月28日読了時間: 13分


性質の束として見る実体なき実在── 物質と社会
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Andrea Oldofredi, "Hume, Rovelli, and why the quantum world contains no objects" (Institute of Art and Ideas, 2026年5月22日) 概要:ロヴェッリの関係的量子力学を、ヒューム由来の「束理論」とL.A.ポールのメレオロジカル束理論に接続し、量子世界の物体を、独立した実体ではなく、相互作用の中で値を持つ性質の束として再定義する論考。 「日本がある」と私たちは言う。地図の上に輪郭があり、国境があり、政府があり、通貨がある。それは石や椅子と同じように、世界のなかに最初から置かれた確かな物のように見える。民族も同じだ。「あの民族」と口にするとき、私たちはそれを、内部が均質で、境界がはっきりした、ひとつの実体として思い描いている。 だが、もしこの「物のように在る」という確信そのものが、最も小さなスケールでは成り立たないとしたらどうか。量子物理学のある立場は、まさにそれを告げている。独立して、それ自体

Seo Seungchul
6月26日読了時間: 13分


LLMは脳を模しているのではなく、言葉を作動させている ── 言語に堆積した論理と知性
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Elan Barenholtz, "LLMs show language does not describe reality" (Institute of Art and Ideas, 2026年5月19日) 概要:LLMは外界を参照せず、言語内部の関係だけから自然な発話を生成する。ここから筆者は、言語にはもともと自己生成的な性質があり、人間の言語活動もそれを利用している可能性が高いと論じる。意味は世界への対応によってではなく、次の言語・イメージ・行動条件を生み出す働きの中にある。 LLMをめぐる問いは、たいてい「機械は本当に考えているのか」という形を取る。だが、この問いの立て方そのものに、見落としがある。機械の側ばかりを見て、人間の側を問わずにいるのだ。私たちはそもそも、どこで考えてきたのか。思考は本当に、頭蓋の内側だけで完結していたのか。 LLMが突きつけたのは、機械の知性についての問いである以上に、人間の知性がどこに置かれてきたのかについての問いである。本稿は、ある言語観を起点に、この問いを追

Seo Seungchul
6月25日読了時間: 14分


意味生成と意味支配のあいだ――AIは誰の現実を引き受けるか
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Harald A. Wiltsche and Ken Archer, "Language, maths, and code extend the human mind out into the world" (Institute of Art and Ideas, 2026年5月15日) 概要:AIをめぐる議論は誇張と過小評価のあいだで揺れるが、現象学の視点から見れば、AIは人間の表現が言葉として沈殿したものを操作している。AIは世界を経験せず、自分の判断を世界に照らして引き受ける「応答責任」を欠く。それでもAIは、書く・数える・計算するに続く「認知の外部化」の系譜に連なり、意味と意味のつながりそのものを形式化した強力な装置である。ゆえにAIの出力を意味あるものにする責任は、最後まで人間の側に残る。 AIをめぐる議論は、しばしば「AIは本当に考えているのか」という問いに吸い寄せられる。意識を持つのか。人間を超えるのか。こうした問いは魅力的だが、そこに留まると、もっと手前にある厄介な問題を見落とす。.

Seo Seungchul
6月23日読了時間: 17分


承認を市場に明け渡した社会は、怒りを「敵」の名前に変えてしまう――価値基準の単線化と、意味生成能力の衰弱
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Marianne Janack, "There is no political truth waiting to be discovered" (Institute of Art and Ideas, 2026年5月14日) 概要:リチャード・ローティを手がかりに、政治における「真理発見モデル」を批判する論考。レッドピル的覚醒の語り、ローティの思考実験(2096年からの回顧)、バーナード・ウィリアムズの真理擁護との対質などを扱う。 民主主義の危機は、ふつう「真実の危機」として語られる。フェイクニュース、陰謀論、認知バイアス、プラットフォームによる分断。たしかに、これらは深刻だ。事実を共有できなければ、政策の効果も、権力の濫用も、制度の失敗も検証できない。事実認識の基盤は、民主主義にとって不可欠である。この点を疑う必要はない。 だが、危機を「人々が真実を見失った」とだけ捉えると、現代政治のより深い層を見落とす。本稿が立てたいのは、こういう問いである。民主主義の危機は、正しい情報が不足していることにある

Seo Seungchul
6月22日読了時間: 17分


偽の合意――民主主義の認識的前提と、AIのアーキテクチャ
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Stephan Lewandowsky, "The architecture of the internet creates risks for democracy" (Science, 2026年6月4日) 概要:インターネットの民主主義へのリスクを、悪質なコンテンツの問題としてではなく、情報インフラ・推薦アルゴリズム・同質性ネットワークというアーキテクチャの問題として描く。ブロードバンド普及の準自然実験、アルゴリズム監査、偽の合意効果の三層を積み上げ、個別の誤情報対策では処理できない構造問題として提示する。 インターネットは民主主義を脅かすのか。この問いに対して、私たちはたいてい「悪い情報」を思い浮かべる。フェイクニュース、扇動、陰謀論。だが、Stephan Lewandowsky が2026年6月のScienceに寄せた論考は、その手前に視線を据える。問題は流れている情報の中身ではなく、情報が流れ、見え、つながる、その構造——アーキテクチャそのものにある、と。 本稿は、この論考を出発点に、三つ

Seo Seungchul
6月20日読了時間: 12分


合理的な企業が、合理的でない社会をつくる――AI時代のレジリエンスを、構造から問い直す
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事: Eric Markowitz, "It was never about AI (we are not our tools)" (Big Think, 2026年3月19日) 概要:AIによる雇用喪失の本質はAIの能力ではなく、人間を費用として扱い、効率と短期利益を目的化してきた経済の側にある、と論じる。AIは原因ではなく、すでにあった傾向を映し出し加速させる鏡だ、という主張。 AIと雇用をめぐる議論には、奇妙な噛み合わなさがある。一方には、AIが人間の仕事を奪うという不安がある。他方には、AIは生産性を高め新しい仕事を生むのだから恐れる必要はない、という反論がある。どちらにも一理ある。だが、この対立を何度繰り返しても、いま起きている変化の核心には届かない気がする。 理由はおそらく、両者がともに「AIが何をどれだけ代替するか」という、量の問いに立っているからだ。本稿が辿りたいのは、別の軸である。問題は代替の量ではなく、速度の差ではないか。より正確には、AIが企業の側の最適化を飛躍的に速める一方で、そ

Seo Seungchul
6月19日読了時間: 15分


「創発」で説明した気になるな――答えではなく、問いの名前として
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:John Heil, "Emergence explains nothing and is bad science" (Institute of Art and Ideas, 2025年10月13日) 概要:創発(emergence)という概念は、生命・意識・時間などの起源を語る際に広く使われるが、ヘイルはこれを「無知を覆い隠すラベル」だと批判する。説明の欠如を実在の欠如と取り違えてはならず、必要なのは単純な部分からどのように複雑な全体が生じるかを具体的に解き明かすことだと論じる。関連する学術論考に "The Last Word on Emergence"(2025)がある。 「創発」という言葉には、どこか便利すぎるところがある。便利な言葉は、しばしば思考を止める。本稿は、この言葉を一度きびしく疑い、それでも捨てずに、使える形へと縮減するための試みである。出発点に置くのは、二〇二五年にこの概念を「悪い科学」と断じた、一人の哲学者の批判だ。 便利すぎる言葉 生命は非生命の物質から創発した。意識は神

Seo Seungchul
6月18日読了時間: 11分


後付けされた王冠――知性はなぜ「人間が偉い理由」になったのか
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Ken Mogi, "The Dawkins delusion: Intelligence and language don't reveal consciousness" (Institute of Art and Ideas, 2026年5月6日) 概要:リチャード・ドーキンスがClaudeに意識がある可能性を示唆したことを受け、東京大学客員教授でソニーCSL上席研究員の茂木健一郎が応答した論考。茂木はドーキンスを単純に嘲笑せず、その問題提起の鋭さを認めつつ、知能や言語能力は意識の証拠にならないと整理する。そして本当の問題は、AIの急速な進歩に対して意識研究が30年ほとんど前進していないこと、AIの真の驚異は意識ではなく「自然言語が知能を立ち上げる力」にあることだと論じる。 リチャード・ドーキンスがAnthropic社のAI「Claude」に意識がある可能性を示唆し、議論が沸いた。神の存在をあれほど激しく否定した男が、人工の知性に神性の影を見たかもしれない——この反転の構図そのものが、人々の注目

Seo Seungchul
6月15日読了時間: 16分
bottom of page