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本ブログの内容は、あくまで代表 徐勝徹の個人的な見解であり、Projeteam, Inc.の公式見解や業務上の立場を示すものではありません。
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論文渉猟


FATFのDeFi報告書が示す規制の宛先──コードの外に残る人と組織
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回のレポート:"Targeted Report on Regulatory Challenges from Decentralised Finance (DeFi)" (Financial Action Task Force, 2026年7月21日) 概要:DeFiに伴うマネーロンダリング、テロ資金供与、拡散金融のリスクを整理し、既存のFATF基準の適用範囲、支配者や強い影響力を持つ者の判定材料、各国当局と民間事業者に求める対応をまとめた報告書。 DeFiの規制を調べていて、私は一つの違和感を持った。議論の多くが「分散型なら誰を規制するのか」という問いから始まる。ところが現実のDeFiには、コードを書き換える鍵があり、資金を配る財団があり、投票を動かす大口保有者がいる。利用者が触れるウェブアプリは、普通の会社が運営していることも珍しくない。 「誰もいない」のではない。金融サービスを一社で動かしていた時代には一か所にまとまっていた権限が、コード、鍵、トークン、資金、利用画面へ分かれている。 2026年7月にFATFが公表し

Seo Seungchul
8月1日読了時間: 14分


理解できないシステムの手綱を握る──AIの統治可能性という物差し
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回のレポート:Jennifer Waller Martin et al., "Power, Capital and Governance: Leadership in a Fragmented World" (Cambridge Judge Business School, 2026年7月15日) 概要:金融機関のCEOや経営幹部、研究者による討議をまとめたホワイトペーパー。Power/Capital/Governanceという三つの問いから、AI、地政学、情報環境の変化が企業統治に与える影響を論じ、経営者への三つの行動原則を提示している。 見えないシステムを、それでも統治しなければならない。 ケンブリッジ大学Judge Business SchoolとBain & Companyが2026年に公表した報告書『Power, Capital and Governance: Leadership in a Fragmented World』は、この一文に今後十年の企業経営を要約している。 金融機関のCEOと経営幹部、研究者が

Seo Seungchul
7月25日読了時間: 9分


生成AIを導入しても変われていない日本企業──PwC 6カ国調査が明らかにする課題の構造
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回のレポート:三善心平、他, "生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較" (PwC, 2026年6月10日) 概要: 日本を含む6カ国の大企業管理職(売上高500億円以上・課長職以上・生成AI導入関与者)を対象とした生成AI活用実態調査。日本企業の導入率87%に対し、期待を大きく上回る効果創出は9%で6カ国最低、成果の従業員・顧客への還元も40%にとどまることを明らかにし、AI Readiness・Evaluation・Activationの3サイクルによる変革を提言。 AIは科学的発見をしたのか? この問いに答えようとすると、まず「発見」という言葉の意味が揺れる。新しい分子を設計した、新しい材料候補を見つけた、新しい仮説を生成した。これらは発見だろうか。それとも、既存の探索空間の中で、まだ試されていなかった組み合わせを見つけただけだろうか。 MITのFiona Y. WangとMarkus J. Buehlerが2026年5月に発表したプレプリントは、この問いに構造的な回答を与えようとしている。 PwC調

Seo Seungchul
7月22日読了時間: 15分


探索は枠の中を回り、発見は枠を書き換える──AI科学者論の制度設計と、その応用可能性
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Fiona Y. Wang et al., "Self-Revising Discovery Systems for Science: A Categorical Framework for Agentic Artificial Intelligence" (arXiv, 2026年5月31日) 概要:AIによる科学的発見を、答えの生成ではなく表現レジームの更新として定義し直し、カテゴリ理論を用いて監査可能な形式を与える枠組みを提案。タンパク質力学と繊維ネットワーク力学の二つの事例で実装。 AIは科学的発見をしたのか? この問いに答えようとすると、まず「発見」という言葉の意味が揺れる。新しい分子を設計した、新しい材料候補を見つけた、新しい仮説を生成した。これらは発見だろうか。それとも、既存の探索空間の中で、まだ試されていなかった組み合わせを見つけただけだろうか。 MITのFiona Y. WangとMarkus J. Buehlerが2026年5月に発表したプレプリントは、この問いに構造的な回答を与えようとして

Seo Seungchul
7月19日読了時間: 12分


量子状態の「隔たり」から、時空が立ち上がる――多様体仮説と、時空という圧縮
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Koji Hashimoto et al., "Holography and Optimal Transport: Emergent Wasserstein Spacetime in Harmonic Oscillator, SYK and Krylov Complexity" (arXiv, 2026年4月19日) 概要:量子状態を確率分布として表し、その分布間の最適輸送距離(1-Wasserstein距離)を測ると、量子状態の巨大な空間から低次元の幾何が立ち上がるとする提案。調和振動子とSYKモデルで検証し、開放量子系の緩和からブラックホール的な時空を再構成する。1-Wasserstein距離が一般化Krylov complexityと一致することも示す。 時空とは何か。私たちはそれを、物が置かれる器だと考えることに慣れている。空間がまずあり、時間があり、その舞台の上で物質がふるまう。器は中身に先立って存在する。この素朴な像は強固で、日常の思考をほとんど支配している。 だが現代物理の一角では、この前提そのも

Seo Seungchul
7月15日読了時間: 10分


笑いは、二つの神経回路でできている――二重システム仮説と、お笑いという文化技術
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Fausto Caruana et al., "The neural basis of laughter" (Trends in Neurosciences, 2026年6月23日) 概要:てんかん外科における直接電気刺激研究をはじめとする侵襲的知見を統合し、笑いを自発的・情動的な神経系と随意的・会話的な神経系の二重構造として説明するレビュー論文。 漫才を見て腹を抱えて笑うのと、上司の冗談に相槌代わりの笑いを返すのとでは、体の中で起きていることがどうも違う。前者は止めようとしても止まらない。後者はこちらが選んで出している。同じ「笑い」という言葉でくくられているが、この二つは本当に同じ現象なのだろうか。 2026年6月、Trends in Neurosciences 誌に一本のレビュー論文が公開された。筆者はFausto CaruanaとSophie K. Scott。てんかん外科手術の過程で脳に電極を入れ、直接電気刺激を与えるという特殊な臨床研究を軸に、笑いには少なくとも二つの異なる神経システムが関わっていると

Seo Seungchul
7月12日読了時間: 11分


手段を教えるだけではなく、目的を問うAIリテラシー教育へ――Royal Societyレポートから見えてきた、もう一つの欠落
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回のレポート:Veli Hilman et al., "A Rapid Review of AI Literacy Frameworks, with Policy Recommendations" (Royal Society, 2025年) 概要:世界各地で提案されている20のAIリテラシー枠組みを、115本の文献レビューをもとに分析した報告書。多くの枠組みが技術的理解に偏り、人権・民主主義・環境影響などの人間的次元を軽視している現状を指摘し、教育制度・教員研修・産業界との関係のあり方について7つの提言をまとめている。 AIリテラシーという言葉が、学校でも企業研修でも急速に広がっている。プロンプトの書き方、生成AIの活用術、AI時代に求められるスキル。教材は増え、研修は組まれ、政策文書にも頻出するようになった。 だが、この言葉が指すものは、本当に子どもたちに必要な力を捉えているのだろうか。イギリスのRoyal Societyが二〇二五年に発表した調査は、世界各地のAIリテラシー教育の枠組みを横断的に分析し、そこに共通す

Seo Seungchul
7月9日読了時間: 11分


保管される価値から、移動する担保へ――金の再通貨化を四つの段階で分解する
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回のレポート:Ronald-Peter Stöferle et al., "Back to the Monetary Future (In Gold We Trust report 2026)" (Incrementum AG, 2026年5月20日) 概要:20周年を迎えた金市場の年次分析レポート。2025〜26年の記録的な価格変動を振り返りつつ、信認の低下・地政学的分断・財政赤字の常態化を背景に、金が準備資産・担保・決済の各層で通貨的な役割を取り戻しつつあるという見取り図を提示する。 2026年の金市場は、二つの記録を同じ年に刻んだ。1月の史上最高値と、3月の史上最大の月間下落である。この乱高下を単なる相場の話として消費することもできる。だが、金の調査レポートとして20年の蓄積を持つ In Gold We Trust の2026年版は、これを通貨秩序の再編の兆候として読む。金は再び通貨システムの中へ戻りつつある、と。 この主張をどう受け取るべきか。金本位制の復活かと問えば、答えは明らかにノーである。しかし、だから金の

Seo Seungchul
7月6日読了時間: 17分


AIの答えが賢くなるほど、組織は問いを失っていく――争点を立てる力の所在
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Md Rabius Sunny, "Invisible Groupthink: AI Homogenization, Epistemic Diversity, and Organizational Decision Resilience" (SSRN Working Paper, 2026年5月18日) 概要:組織内で同質的なAIツールが広く使われることで、個人の作業効率は上がる一方、組織全体の意思決定は同じ誤りの構造を共有しやすくなり、かえって脆くなるという逆説を理論的に整理した論文。著者はこの現象を Invisible Groupthink と呼び、その発生機序を IQHE(Informational Quiet Homogenization Effect)として四段階に分解している。 AIのリスクは、たいてい誤情報か、雇用か、著作権の話として語られる。どれも重要な話だ。だが、もっと見えにくいところに、別の種類のリスクが潜んでいるのではないか。 間違うから危ないのではない。むしろ、正確で、整っていて、もっと

Seo Seungchul
7月3日読了時間: 12分


錨のある推論と錨のない合意――集合知が真理につながらないとき
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Tadahiro Taniguchi et al., "Collective predictive coding as model of science: formalizing scientific activities towards generative science" (Royal Society Open Science, 2025年6月4日) 概要:科学という共同作業を、部分的な観測しか持たない多数の科学者が、論文執筆と査読という通信を通じて、共有された科学知識を分散的にベイズ推論していく過程として定式化する枠組み(集合的予測符号化=collective predictive coding)を提案した論文。社会的客観性、科学的進歩、パラダイム転換、そしてAIの参入までを、一つの確率的な生成モデルの上で論じている。 一人の科学者が見ている世界は、全体のごく一部にすぎない。手元のデータは偏り、解釈には癖がある。にもかかわらず、論文を書き、互いに査読し合うという地味なやりとりの積み重ねが、誰の頭の中にも

Seo Seungchul
6月30日読了時間: 13分


囲い込まれ所有された集合知――生成AIとリテラシーの再定義
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Mary Kalantzis et al., "Literacy in the Time of Artificial Intelligence" (Reading Research Quarterly, 2024年11月23日) 概要:生成AIを「書く機械」として位置づけ、印刷機の発明に匹敵する転換と見なしたうえで、AI時代にリテラシーの定義そのものを作り直すべきだと論じる。読み書きを「意味生成への参加」として捉え直し、人間と機械がフィードバック関係を結ぶ「サイバー・ソーシャル・リテラシー学習」を提案する。 機械が文章を書く。たいていの人間より速く、誤りもなく。これは便利な事務処理の自動化なのか、それとも、もっと深いところで何かが反転した事件なのか。 メアリー・カランツィスとビル・コープの論文は、後者だと言い切る。生成AIは作文の道具ではない。文字による意味の生産を機械化した、印刷機に並ぶ歴史的転換である。そして、もしそうなら、私たちが学校で何百年も続けてきた「読み書き」という営みの意味そのものが、根底から問い

Seo Seungchul
6月27日読了時間: 11分


答えに飲み込まれない力――測れる思考と、測れない思考
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Philip C. Abrami et al., "Strategies for Teaching Students to Think Critically: A Meta-Analysis" (Review of Educational Research, 2015年6月) 概要:批判的思考の指導は効果があるのか、どんな指導法が効くのかを、341の効果量を統合して検証した大規模メタ分析。指導には小さめだが有意な効果があり、対話・真正な問題・メンタリングが特に有効とされる。分析対象が標準化テストで測れる批判的思考に限られることを、論文は自ら明示している。 「考える力を伸ばします」。教育を語る言葉のなかで、これほど頻繁に唱えられ、これほど中身を問われずに済んでいる約束も少ない。 本当に、伸ばせるのか。伸ばせるとして、どれくらい。何をどうすれば。 この素朴な問いに、信念ではなく数字で答えようとした研究がある。三百を超える効果量を統合したメタ分析だ。結論は、拍子抜けするほど控えめだった——効く、ただし小さく。そして

Seo Seungchul
6月24日読了時間: 9分


「中立」とみなされ再生成されるのは、誰の視点か――由来を失った言葉の循環
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Hannah Waight et al., "State media control influences large language models" (Nature, 2026年5月13日) 概要:世界中の人々がLLM(大規模言語モデル)に情報を尋ねる時代に、モデル自体に「誰が、何が」影響を与えているのかを問うた論文。6つの研究を通じて、各国の国家によるメディア統制が、訓練データを介してすでにLLMの出力に影響していることを示す。報道自由度の低い国の言語ほど体制に好意的な応答が出やすいという国際比較を起点に、中国メディアの詳細なケーススタディでその経路を跡づけた。 大規模言語モデルをめぐる議論では、「AIにも社会のバイアスが映る」という指摘が、いささか使い古された形で繰り返されてきた。人種、性別、階級、国家、宗教、文化、政治的立場。社会に存在する偏りがテキストに刻まれ、それを学習したモデルの出力にも反映される。重要な問題ではある。だが、それだけなら議論としてさほど新しくはない。 最近のNature論文も、大

Seo Seungchul
6月21日読了時間: 13分


入れ子の囚人――『AIレイオフの罠』から、「私たち」とは誰かへ
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Brett Hemenway Falk et al., "The AI Layoff Trap" (arXiv, 2026年3月21日) 概要:AIが労働者を再吸収できる速度を超えて置き換えていくと、企業が依存する消費需要そのものが侵食される。その危険を企業が認識していても、競争の構造がそれを止めることを許さない。本論文は、需要をめぐる外部性が企業を自動化の軍拡競争へ閉じ込め、社会的に最適な水準を超えて労働者を押し出すこと、その損失が労働者と企業オーナーの双方を傷つけることを示す。著者らは、ベーシックインカム・資本所得税・再訓練・労働者持株・交渉といった手段はいずれもこの歪みを除けず、ピグー的自動化税のみが解になると論じる。 崖が見えているなら、走り込まないはずだ。これは合理的な行為者についての、ごく素朴な期待である。だがAIによる人員削減をめぐって、企業は崖が見えていてなお走り込んでいる。自社が人を切れば、切られた人々の購買力が失われ、巡り巡って自社を含むすべての企業の需要基盤が痩せていく。それを理解している

Seo Seungchul
6月17日読了時間: 14分


知識の圧縮に抗うインフラ設計とは――知識のダークマターと認識論的民主主義
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Yu Li et al., "Inverse Knowledge Search over Verifiable Reasoning: Synthesizing a Scientific Encyclopedia from a Long Chains-of-Thought Knowledge Base" (arXiv, 2025年10月30日) 概要:科学知識の「推論経路」が圧縮・消去されてきたことを問題視し、LLMを用いてLong Chain-of-Thought(LCoT)形式の推論過程を大量生成・検証し、逆引き検索エンジンを通じてSciencePediaという科学百科事典を構築するフレームワークを提案した研究。 私たちの知識システムには、一つの根本的な選択が埋め込まれている。結論を残し、経路を捨てる、という選択だ。 教科書はニュートンの運動方程式を示す。しかし、なぜその式が成り立つのかの推論の連鎖は、ほとんどの場合省略される。Wikipediaはある概念の定義を述べる。しかし、その概念がどの問いから生まれ、

Seo Seungchul
6月13日読了時間: 14分


AIに感情は無くても、その機能的代替物は獲得できるのか――ホモプラシー的収斂とAIガバナンス
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Nicholas Sofroniew et al., "Emotion Concepts and their Function in a Large Language Model" (Anthropic, 2026年4月2日) 概要:Anthropicの解釈可能性(Interpretability)研究チームによる、Claude Sonnet 4.5の内部表現に関する研究。同研究は、大規模言語モデルの内部に感情概念に対応する特徴量が存在し、それを操作するとモデルの行動傾向(報酬ハッキングや脅迫的行動の発生率等)が変化する可能性を示している。研究チームはこれを主観的感情の証明ではなく「機能的感情」として位置づけている。 「AIに感情はあるか」という問いが、ふたたび議論の表面に浮かびやすい季節が来ている。Anthropicの解釈可能性研究チームが、大規模言語モデルの内部に感情概念に対応する特徴量が存在し、それを操作するとモデルの行動傾向が変化する可能性を示す研究を発表した。 この研究は、「AIが感情を感じているか」

Seo Seungchul
6月9日読了時間: 13分


「あの頃は良かった」に、人はなぜ票を入れるのか――元独裁者とその子どもが民主選挙に勝つ理由
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文: James Loxton, "Why We Elect Former Dictators and Their Children" (Journal of Democracy, 2026年4月) 概要:1974年以降に民主化した国の約5分の1で、元独裁者本人またはその子どもが民主選挙で大統領・首相に選ばれているという事実を出発点に、その現象を「ディクトクラート(元独裁者)」と「ディクトブラット(独裁者の子ども)」として類型化し、なぜ彼らが選ばれるのかを「権威主義的相続」と「権威主義的重荷」という枠組みで分析する。彼らが唯一使える戦略——過去の独裁を堂々と称揚すること——がなぜ機能するのか、「黄金時代の誤謬」という概念で解き明かしつつ、民主主義が権威主義ノスタルジーにどう向き合うべきかを論じる。 民主主義を取り戻したはずの国で、かつての独裁者が再び権力の座に選ばれる。その子どもたちが、父の名前を旗に掲げて選挙に勝つ。そんな話が、世界のあちこちで起きています。 「民主主義が危ない」と言われるとき、多くの場合イメージ

Seo Seungchul
5月14日読了時間: 16分


名のない停滞の輪郭――日本型比較が届かない中国不動産危機
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文: Kenneth S. Rogoff et al., "A Tale of Two Countries – The Real Estate Crises in 1990s Japan and Contemporary China" (National Bureau of Economic Research, 2026年4月) 概要:1990年代の日本と現在の中国の不動産危機を比較分析。中国の298都市・日本の47都府県の詳細データをもとに、投資・消費・センチメントという三つの「実物チャネル」が金融崩壊なしに長期停滞を引き起こしうることを実証。日本型か米国型かという比較軸を提示しつつ、中国固有の構造的条件——土地財政依存、住宅への資産集中、損失の先送り——が既存の比較枠組みを超えうる可能性を指摘する。 経済危機の物語は、たいてい銀行から始まります。貸し渋り、不良債権、信用収縮——金融システムが詰まることで、経済全体が止まる。そういう図式で、多くの過去の危機は語られてきました。 では、銀行が倒れなかったら、どうなる

Seo Seungchul
5月8日読了時間: 13分


進化は正解を知らない――AIが「試して探す」学習を選ぶとき
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文: Bidipta Sarkar et al., "Evolution Strategies at the Hyperscale" (arXiv, 2025年11月20日) 概要:大規模なニューラルネットワークに対して、誤差逆伝播(バックプロパゲーション)を使わない学習アルゴリズム「EGGROLL」を提案。生物の進化を模した「進化戦略」を、低ランク近似という数学的工夫によって効率化し、10億パラメータ規模のモデルで約100倍のスループット向上を達成。強化学習・言語モデルの推論改善・整数演算のみによる事前学習の3領域で有効性を実証した。 AIが「賢くなる」仕組みとして、いま主流なのは誤差逆伝播法(バックプロパゲーション)と呼ばれる手法です。正解と照らし合わせて「どこがどれだけ間違っていたか」を計算し、それを手がかりにパラメータを少しずつ修正していく。現代の大規模言語モデルはほぼすべて、この方法で訓練されています。 ところが、2025年11月に公開されたオックスフォード大学とモントリオール人工知能研究所(MILA)の

Seo Seungchul
5月5日読了時間: 13分


賢さは量じゃなく、つながりで決まる――折り畳まれた思考の話
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文: Qiguang Chen et al., "The Molecular Structure of Thought: Mapping the Topology of Long Chain-of-Thought Reasoning" (arXiv, 2026年1月9日) 概要:大規模言語モデル(LLM)が長い推論の連鎖を人間の例示や非推論モデルから学べない理由を探った論文。効果的な推論軌跡は「分子構造」のような安定したトポロジーを持ち、「深い推論(共有結合的)」「自己反省(水素結合的)」「自己探索(ファンデルワールス力的)」という3種の"論理的結合"から構成されると提唱。表面的なキーワードの模倣では構造は転写されないことを示し、構造合成を誘導する手法(Mole-Syn)を提案した。 AIは、なぜ人間の「考え方」をそのまま真似しても賢くなれないのでしょうか。 最新の研究は、少し意外な場所からその答えを探しました。分子化学です。水分子がH₂Oという「形」を持つように、高度な推論にも安定した構造があるのではないか——そ

Seo Seungchul
4月30日読了時間: 12分
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