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「超加工食品は問題なし」と証明しようとした科学者が、逆に危険性を発見してしまった話──同じカロリーなのに、なぜか太る食べ物の正体

更新日:6月30日

シリーズ: 知新察来


◆今回のニュース:"Why Is the American Diet So Deadly?"
  • 出典: The New Yorker,(2025年1月13日号)

  • 筆者: Dhruv Khullar医師(Weill Cornell Medicine)

  • 概要: 超加工食品と健康リスクの関連性について、最新の科学的エビデンスと社会的背景を包括的に分析した記事


「超加工食品が肥満の原因だという仮説を否定してやろう」。そう意気込んで研究を始めた科学者が、むしろその仮説を強化する結果を得てしまった。アメリカ人のカロリー摂取の3分の2を占める超加工食品は、単なる栄養の偏りを超えた何かを私たちの体に引き起こしているのかもしれない。


工業的に大量生産され、添加物で彩られた食品たち。それらは確かに便利で安価で美味しい。しかし、同じカロリーを摂取しても、なぜか超加工食品は私たちをより太らせ、より病気にする。問題は単純に「何を食べるか」ではなく、「どう作られた食べ物か」にシフトしている。


一方で、すべての加工食品が悪というわけでもない。朝食シリアルやヨーグルトには保護効果を示すデータもある。加工の度合いは連続体であり、私たちが向き合うべきは、食品の善悪を決める新たな基準と、それを取り巻く複雑な経済・政治・文化の構造だ。食べ物をめぐる常識が、いま静かに書き換えられている。



富良野: ニューヨーカー誌のこの記事、面白いですよ。医師が書いた超加工食品の話なんですけど、研究者が自分の仮説を否定しようとして、逆に証明してしまったっていう。


Phrona: あー、それって皮肉ですね。でも超加工食品って、具体的にはどういうものなんですか?なんとなく体に悪そうっていうイメージはあるけど。


富良野: NOVA分類っていう基準があって、4段階に分けるんです。1群が未加工、2群が調理用素材、3群が通常の加工食品、そして4群が超加工食品。工業的な製法と化学的添加物がポイントですね。


Phrona: 工業的な製法...つまり、工場で大量生産されてるものってことですか?でも、それって現代の食品のほとんどじゃないですか。


富良野: そうなんです。実際、アメリカ人のカロリー摂取の3分の2が超加工食品からきてる。で、興味深いのは、NIHの実験で同じ人に2週間ずつ最小加工食品と超加工食品を食べさせたら、超加工食品の期間に1日500キロカロリーも多く食べちゃったんですよ。


Phrona: え、同じ人なのに?それって、超加工食品が何か食欲をコントロールできなくさせるってことですか?怖いなあ。


富良野: 研究者のケビン・ホールは、脱水による高エネルギー密度とか、脂質と糖の組み合わせが超嗜好性を誘発するって説明してます。要するに、やめられない止まらないの仕組みが科学的に組み込まれてるんです。


Phrona: なるほど...でも、それって企業が意図的にやってるってことですよね。中毒性を高めて、たくさん食べさせようとしてる。なんかタバコ会社と似てる気がします。


富良野: まさに。実際、ラテンアメリカの一部の国では、超加工食品にタバコみたいな警告表示を義務付けてるんですよ。でも面白いのは、すべての超加工食品が一律に悪いわけじゃないってことなんです。

Phrona: というと?

富良野: ハーバードの大規模研究では、炭酸飲料や加工肉は確かにリスクを上げるけど、朝食シリアルやフレーバーヨーグルトは逆に病気のリスクを下げるっていう結果が出てるんです。


Phrona: え、それじゃあ加工度よりも、何の食品かの方が重要ってことですか?シリアルって砂糖まみれのイメージなのに。


富良野: そこが複雑なところで。最新の実験では、加工度そのものより、エネルギー密度と味の設計の方が決定要因らしいんです。高密度で超嗜好性が強いと1日1000キロカロリー超過、でも密度も嗜好性も抑えた超加工食品なら、最小加工食品と摂取量は変わらないって。


Phrona: つまり、工場で作られてること自体が問題じゃなくて、どう設計されてるかが問題ってことですね。でも、それって企業の良心に委ねるってことになりませんか?


富良野: そうなんです。記事では冷凍ラビオリの会社が出てきて、大量生産だけど保存料は極力使わず、冷凍技術で品質を保ってるって例があります。つまり、産業生産イコール超加工じゃないって。


Phrona: でも現実的には、安くて美味しくて日持ちする食品を作ろうとしたら、どうしても添加物とか人工的な味付けに頼ることになりますよね。企業の競争原理と健康って、根本的に対立する部分があるのかも。


富良野: その通りです。で、政策の話になると、また複雑で。2025年のアメリカの食事指針改訂委員会は、超加工食品への一律制限は見送ったんです。エビデンスが限定的だからって理由で。


Phrona: でも、ロバート・ケネディJr.は学校給食から排除とか課税とか言ってますよね。政治的には動きがある。


富良野: そうですね。コロンビアでは課税、チリでは広告規制が始まってる。ただ、これって結構な社会実験ですよね。食べ物の選択肢を政府が制限するって、自由主義経済の原則とぶつかる部分もある。


Phrona: でも、タバコだって最初は個人の自由の問題だったのが、今は公衆衛生の問題として規制されてる。食べ物も同じ道を辿るのかもしれません。


富良野: 興味深いのは、栄養学の歴史を三段階で整理してる研究者がいて。最初がビタミン欠乏対策の時代、次が脂質とか個別栄養素の時代、三番目が地中海食とか食事パターン重視の時代。で、超加工食品の概念は第四段階だって。


Phrona: なるほど、食べ物を見る視点が、栄養素から加工度にシフトしてるってことですね。でも、普通の人にとってはどうなんでしょう。NOVA分類とか言われても、買い物のときにいちいち判断できないですよね。


富良野: そこはマイケル・ポランの有名な言葉が参考になるかも。「Food. Not too much. Mostly plants.」実物の食品を、食べ過ぎず、植物中心で、っていう。シンプルだけど、本質を突いてる気がします。


Phrona: シンプルなのがいいですね。でも、現実問題として、働いてる人が毎食手作りするのは無理がある。便利さと健康のバランスをどう取るかが課題ですよね。


富良野: 記事の結論も、加工度は連続体だから、味の設計と栄養密度を改善すれば健康リスクを抑えられる余地があるって言ってます。つまり、工業生産を否定するんじゃなくて、より良い工業生産を目指すべきなのかも。


Phrona: それって希望的ですね。企業も消費者も政府も、みんなで知恵を出し合えば、美味しくて便利で健康的な食品も作れるはず。ただ、そのためには、やっぱり消費者の意識も変わらないといけないですよね。


富良野: そうですね。安さと便利さだけじゃなくて、健康への影響も含めた真のコストを考える。そういう消費者が増えれば、企業も変わらざるを得ない。食べ物って、結局は社会全体の価値観が反映されるものですから。



ポイント整理


  • 超加工食品の定義

    • NOVA分類に基づく4段階分類で、工業的製法と化学的添加物が特徴の第4群

  • 摂取過剰のメカニズム

    • 高エネルギー密度と脂質・糖の組み合わせが超嗜好性を誘発し、食欲制御を乱す

  • 健康リスクのエビデンス

    • 肥満、2型糖尿病、心疾患、がん、うつ病、早死などとの統計的関連

  • 食品群による差異

    • 炭酸飲料や加工肉はリスク増、朝食シリアルや一部乳製品はリスク減という矛盾した結果

  • 加工度の連続性

    • 産業生産そのものではなく、エネルギー密度と味の設計が決定要因

  • 政策的対応の多様性

    • 警告表示、課税、広告規制など各国で異なるアプローチ

  • 栄養学の新段階

    • 栄養素から食事パターン、そして加工度へと視点が進化

  • 企業と健康の両立可能性

    • 技術革新により工業生産でも健康的な食品開発の余地

  • 社会実験としての側面

    • 食品規制は自由主義経済と公衆衛生の価値観の衝突を含む


キーワード解説


【NOVA分類】

ブラジルの疫学者が提唱した食品の加工度による4段階分類システム


【超嗜好性】

脂質・糖・塩の組み合わせにより中毒的な食欲を誘発する食品特性


【エネルギー密度

単位重量あたりのカロリー含有量


【代謝チャンバースタディ】

密閉空間で代謝を精密測定する実験手法


【食事パターン】

個別栄養素ではなく食事全体の組み合わせを重視するアプローチ


【フードテック

食品技術革新による新しい食品開発・製造手法


【公衆衛生政策

個人の選択を超えた社会全体の健康増進のための政策介入


【栄養疫学】

大規模集団での食事と健康の関連性を統計的に研究する学問分野


【社会疫学】

社会的要因(所得、教育、地域等)が健康に与える影響を研究する分野


本稿は近日中にnoteにも掲載予定です。
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