暗号通貨が問いかける「お金の尊厳」とは何か?
- Seo Seungchul
- 6月22日
- 読了時間: 6分
更新日:6月27日

シリーズ: 知新察来
出典: Cointelegraph(2025年6月19日)
筆者: Badi Sudhakaran(VALR共同創設者)Zachary Kelman(弁護士)
概要: 暗号通貨の技術的側面ではなく、金融教育と人間の尊厳という視点から暗号通貨の意義を論じたオピニオン記事
お金に関する知識は、時として人の尊厳そのものを左右します。暗号通貨の世界でよく語られるのは技術革新や投資収益ですが、実はそこには「誰がお金を理解し、コントロールできるのか」という根本的な問いが潜んでいます。
南アフリカの金融プラットフォームVALRの共同創設者Badi Sudhakaranは、最近の論考で興味深い視点を提示しました。暗号通貨の真の価値は価格変動にあるのではなく、人々が金融システムについて「なぜ?」と問うようになることにある、と。
では、お金を理解することと尊厳の間には、どのような関係があるのでしょうか。そして、暗号通貨は本当に既存の金融システムが生み出す格差を解決できるのでしょうか。技術と人間らしさの交差点で起きている変化を、ゆっくりと読み解いてみましょう。
富良野: 金融と尊厳の関係って、僕たちが普段あまり意識しないテーマではありますよね。お金を理解できないことが尊厳を奪うという発想は、なかなか示唆に富んでいます。
Phrona: そうですね。「お金がわからない」って、単純に不便とか困るとかじゃなくて、もっと深いところで何かが削がれていく感覚なのかもしれません。自分の人生をコントロールできているという感覚が薄れていく、みたいな。
富良野: まさにそこですね。記事では「agency over their lives」という表現が使われていましたが、これって「自分の人生に対する主体性」とでも訳せるでしょうか。お金のことがわからないと、なんとなく流されるように生きることになってしまう。
Phrona: 興味深いのは、暗号通貨に触れることで人々が「なぜお金には価値があるの?」「インフレってどうして起きるの?」といった本質的な問いを抱くようになる、という指摘です。技術が人を哲学的にする、というか。
富良野: それは面白い視点ですね。従来の銀行システムって、ユーザーからすると完全にブラックボックスじゃないですか。お金を預けて、カードで決済して、金利がつく。でも仕組みはよくわからない。
Phrona: ブラックボックス、まさにそれです。でも暗号通貨の場合は、嫌でも仕組みに向き合わざるを得ない部分がありますよね。秘密鍵とか、ブロックチェーンとか、最低限の理解なしには使えない。
富良野: ただ、その「向き合わざるを得ない」という部分が、新たな排除を生んでいるという指摘も記事にはありましたね。技術的な複雑さが、今度は別の壁になってしまう。
Phrona: そこが暗号通貨の矛盾というか、ジレンマなんでしょうね。解放のための技術が、また別の形の排除を生み出してしまう。技術リテラシーという新しい格差が生まれる。
富良野: 記事で印象的だったのは、インドの農村部のおばあちゃんが銀行のデジタル決済アプリではなく暗号通貨ウォレットを選ぶ、という例え話です。「誰かに言われたからではなく、自分で目的を理解しているから」という理由で。
Phrona: その例、すごく象徴的ですよね。表面的には同じデジタル決済でも、理解の深さによって体験が全然違ってくる。理解していることの安心感というか、主体性というか。
富良野: でも現実的に考えると、すべての人がそこまで理解する必要があるのかな、という疑問もあります。僕たちだって、電気の仕組みを完全に理解しなくても電気を使って生活していますし。
Phrona: たしかに。でも、お金って電気とはちょっと違う気がするんです。お金は権力と直結していて、理解の有無が人生の選択肢を大きく左右する。電気がなくても生きられますが、お金なしに現代社会で生きるのは難しい。
富良野: なるほど、お金の場合は理解することが生存戦略になる、ということですか。記事でも「知識と主体性の組み合わせ」が真の金融尊厳だと言っていましたね。
Phrona: 気になるのは、この「教育」がどういう形で行われるかです。記事では、フォーマルな研修よりもコミュニティベースの学び合いの方が効果的だと指摘されていました。地域の文脈や文化的理解が重要だと。
富良野: それは重要なポイントですね。トップダウンの金融教育って、どうしても画一的になりがちで、実際の生活感覚とズレが生じる。コミュニティの中で「なぜこれが必要なのか」が自然に共有される環境の方が、確実に浸透しそうです。
Phrona: ただ、コミュニティベースの学習にも課題はありそうです。間違った情報が広まるリスクとか、コミュニティ内の権力関係が学習に影響することとか。
富良野: そうですね。特に暗号通貨の世界って、投機的な側面が強調されがちで、「稼げる」という話が先行してしまう。本来の金融教育からズレてしまうことも多そうです。
Phrona: 記事の最後で、「お金は最終的にもっと意味のあるものになる」という表現がありましたが、これってどういうことだと思います?今のお金には意味がない、ということでしょうか。
富良野: 僕の理解では、今のお金って純粋に交換手段としてしか機能していない部分が大きいんじゃないでしょうか。でも本来は、お金って社会の価値観とか、人々の関係性とかを反映するものでもあるはずで。
Phrona: なるほど。お金が単なる数字ではなく、コミュニティのつながりとか、価値の共有とか、そういったより人間的な要素を含むものになる、ということかもしれませんね。
富良野: ただ、それが暗号通貨によって実現されるかどうかは、まだよくわからないところがありますよね。技術的な可能性はあっても、実際の社会実装となると、また別の話になってくる。
Phrona: そうですね。理想と現実の間には、まだまだ大きなギャップがありそうです。でも、少なくともお金について考える機会を提供している、という点では意義があるのかもしれません。
ポイント整理
金融排除は尊厳の問題
金融サービスにアクセスできないことは、単なる不便さを超えて、人間の尊厳と主体性を損なう問題である
暗号通貨は学習のきっかけ
価格変動が注目されがちだが、真の価値は人々が金融システムの本質について問いを持つようになることにある
知識と主体性の組み合わせ
真の金融尊厳は、知識を持ち、それを基に自らの意思で行動できることから生まれる
コミュニティベースの教育
フォーマルな研修よりも、地域コミュニティ内での学び合いの方が効果的で持続可能
技術の両面性
解放を約束する技術が、技術リテラシーという新たな排除の要因にもなり得る
人間中心の設計思想
技術的機能から出発するのではなく、人々の文化的背景や実際のニーズから設計することの重要性
キーワード解説
【金融尊厳(Financial Dignity)】
お金に関する知識と選択権を持ち、経済活動において主体性を保てる状態
【金融排除(Financial Exclusion)】
銀行口座開設や金融サービス利用から排除される状況
【主体性(Agency)】
自分の人生や決定に対してコントロールを持ち、能動的に行動できる力
【コミュニティベース教育】
地域や共同体内でのピアツーピア学習。文化的文脈を重視した知識共有
【技術ジャーゴン】
一般人には理解困難な専門用語や技術的表現
【インクルーシブデザイン】
すべての人が利用できるよう配慮した設計思想
【グラスルーツ・イニシアティブ】
草の根レベルから始まる市民主導の取り組み