top of page

DeFi貸付残高が3年ぶりの高水準に──分散型金融の制度化が示す新たな信頼の形

更新日:6月30日

シリーズ: 知新察来


  • 出典: Mitrade Insights(2025年6月14日公開)

  • 概要: DeFi市場における貸付残高が240億ドルを突破し、3年ぶりの高水準を記録。Aaveプロトコルが169億ドルで市場をリード。ステーブルコイン需要とDEX取引が成長を牽引し、ETH価格の安定が市場の信頼を支えている。


2025年6月、分散型金融(DeFi)の貸付残高が240億ドルを超え、3年ぶりの高水準を記録しました。この数字は、2022年の市場崩壊から立ち直っただけでなく、DeFiが投機的な実験から実用的な金融インフラへと変貌を遂げつつあることを示しています。


なぜ今、人々は再び顔も知らない相手との間で、コードが仲介する貸し借りを行うようになったのでしょうか。そこには、信頼という概念そのものの変化があるのかもしれません。


今回は、この現象が持つ技術的・社会的な意味を探ります。効率と人間性、分散と集中、自由と規制。相反する要素が交錯する中で、私たちの金融システムはどこへ向かおうとしているのでしょうか。



なぜ今、再び信頼が戻ったのか


富良野:Phronaさん、このDeFiの貸付残高が3年ぶりの高水準っていうニュース、どう読みます?240億ドルって、相当な規模ですよ。


Phrona:そうですね、富良野さん。でも私が気になるのは、なぜ今なのか、ということなんです。2022年のTerraやFTXの崩壊で、みんな懲りたはずじゃないですか。


富良野:確かに。でも、今回の成長は質が違うと思うんです。記事を見ると、NFT貸付は97%も減少してる。つまり、投機的な要素は淘汰されて、実需に基づく貸付が中心になってるんですよ。


Phrona:実需、ですか。でも、そもそもDeFiで借りる実需って何なんでしょう。普通の銀行じゃダメなんですか?


過剰担保という逆説的な仕組み


富良野:いい質問ですね。DeFiの貸付って、過剰担保が基本なんです。借りる額より多くの資産を預ける必要がある。一見非効率に見えるけど、これが重要なんです。


Phrona:えっ、それって本末転倒じゃないですか?お金があるのに、なぜ借りるの?


富良野:そこがミソなんですよ。例えば、ETHを持ってるけど売りたくない。でも現金が必要。そんな時に、ETHを担保にステーブルコインを借りるんです。値上がりを期待しながら、流動性も確保できる。


Phrona:なるほど、資産を手放さずに使えるってことか。でも、それって結局、持てる者のための仕組みじゃないですか。


富良野:鋭い指摘です。確かに、信用がない人が借りられる仕組みじゃない。でも、逆に言えば、国籍や身分に関係なく、資産さえあれば誰でも平等にアクセスできるんです。


Phrona:平等、か。でもその平等って、すでに持ってる人たちの間での平等ですよね。新しい排除を作ってるような気もします。


240億ドルが意味する規模と可能性


富良野:そうかもしれない。でもPhronaさん、この240億ドルという数字の意味を考えてみてください。これ、アメリカの中堅地方銀行の貸付規模に匹敵するんです。


Phrona:え、そんなに大きいんですか?


富良野:ええ。Fifth Third BankとかKeyBankみたいな中堅地銀の貸付額が300〜600億ドル規模。DeFiの240億ドルは、もう一つの中規模金融機関が生まれたようなものです。


Phrona:それが中央管理者なしで動いてるってことですよね。ちょっと信じられない。


富良野:そう、そこなんです。技術的・制度的な意義は金額以上に大きい。SoFiとかLendingClubみたいなフィンテック大手を複数足したような規模が、完全に自律的に回ってる。


Phrona:うーん、でも世界の銀行融資市場全体から見たら、まだ小さいんじゃないですか?


富良野:確かに、アメリカの商業銀行の貸付総額10兆ドルと比べたら0.3%程度です。でも、成長速度を考えてください。1年で倍近くになってる。このペースが続けば、CeFiの中規模層を本当に脅かす存在になりますよ。


分散と集中のパラドックス


Phrona:脅かす、ですか。でも富良野さん、さっきの話に戻りますけど、Aaveが169億ドルも占めてるんですよね。これって健全なんでしょうか。


富良野:分散型なのに集中してる、という皮肉ですね。でも、これが面白いところで、技術的には分散してるけど、信頼は集中してるんです。


Phrona:みんなが使うから安全、安全だからみんなが使う、ってことですか。


富良野:まさにネットワーク効果です。でも銀行との決定的な違いは、Aaveのコードは誰でも見れる。何が起きてるか、リアルタイムで検証できる。


Phrona:透明だけど理解できない人には意味がない、とも言えそうですけど。


コードが仲介する新しい信頼関係


富良野:関係性?


Phrona:ええ。顔も名前も知らない相手と、コードを介してお金の貸し借りをする。これって、人間の信頼関係を根本から変えてしまいそうじゃないですか。


富良野:確かに、伝統的な信用の概念とは違いますね。でも、考えてみれば、現代の銀行だって似たようなもんじゃないですか。窓口の人と親しくなったって、融資の判断はアルゴリズムがしてる。


Phrona:そう言われると、そうかも。でも、銀行にはまだ人間の顔があるじゃないですか。責任を取る誰かがいる。DeFiには、それがない。


富良野:責任の所在が曖昧になる、と。でも、逆に言えば、特定の誰かの恣意的な判断に左右されないとも言える。


冷酷な効率性への両義的な感情


Phrona:恣意性がない代わりに、温情もないってことですよね。清算ラインを割ったら、問答無用で資産が売られる。


富良野:そこは確かに冷酷です。ETHが1500ドルを割ったら自動清算。情け容赦ない。


Phrona:でも富良野さん、それでも人々が使い始めてるってことは、何か魅力があるってことですよね。


富良野:予測可能性じゃないですかね。ルールが明確で、裏切られない。人間よりコードの方が信用できる、みたいな。


Phrona:人間不信の時代の産物、ということですか。ちょっと寂しい気もしますけど。


富良野:でも、見方を変えれば、新しい信頼の形を模索してるとも言える。コードという共通言語で、国境を越えて信頼を構築する試み。


エコシステムの多様化と競争


Phrona:そういえば、記事にKaminoとかBaseとか、新しいプロトコルも成長してるって書いてありましたね。


富良野:ええ、イーサリアム以外のチェーンでも貸付市場が育ってる。多様性は保たれてるんです。完全な独占じゃない。


Phrona:競争があるから健全、ということですか。でも私、思うんです。この240億ドルって、実体経済とどうつながってるんでしょう。


実体経済との接点と乖離


富良野:鋭い質問ですね。確かに、DeFiの中だけで回ってる部分もある。ステーブルコインを借りて、DEXで取引して、利益を出して返済する。自己完結的です。


Phrona:それって、現実から遊離した世界を作ってるんじゃないですか?バブルみたいに。


富良野:その危険性はあります。ただ、ステーブルコインは法定通貨と連動してるし、完全に切り離されてるわけじゃない。むしろ、伝統的金融と新しい金融の接点になってる。


国家権力との不可避な衝突


Phrona:ただ、この成長が続いたら、どうなるんでしょう。国家の通貨主権とか、金融規制とか、そういうものと衝突しませんか。


富良野:必ず衝突するでしょうね。でも、それは避けられない流れかもしれない。技術が可能にしたものを、永遠に封じ込めることはできない。


Phrona:封じ込められないから受け入れるしかない、ということですか。でも、そこに人間の意志や選択の余地はあるんでしょうか。


技術と人間の選択


富良野:うーん、難しい問題です。技術決定論に陥りたくはないけど、確かに抗いがたい流れはある。でも、どう使うか、どう規制するか、そこには選択の余地があるはずです。


Phrona:選択、ね。でも、私たちは本当に選んでるんでしょうか。それとも、選ばされてるんでしょうか。


富良野:深い問いですね。答えはないかもしれない。でも、少なくとも、何が起きてるかを理解しようとすることは大切じゃないですか。


Phrona:理解する、か。でも、この240億ドルという数字の向こう側で、本当は何が変わろうとしてるんでしょうね。



ポイント整理


  • DeFiの貸付残高が240億ドルを突破し、3年ぶりの高水準を記録した

  • 2022年のTerra/Luna、FTX崩壊後の信頼回復が進み、投機から実需中心の市場へ転換

  • Aaveが169億ドルの貸付残高で市場をリードし、プロトコルへの信頼の集中が進む

  • NFT貸付が97%減少し、投機的要素が淘汰された一方、ステーブルコイン需要が成長を牽引

  • ETH価格の安定(2500ドル台維持)と清算ライン(1500ドル)の設定により、担保の予測可能性が向上

  • イーサリアム以外でも、KaminoやBaseなど新興プロトコルが成長し、エコシステムの多様化が進行

  • 過剰担保による貸付という非効率に見える仕組みが、信用評価不要のグローバルアクセスを実現

  • 透明性のあるコードベースの信頼と、人間的な温情のない自動執行の両面性が特徴


キーワード解説


【貸付残高(アクティブローン)】

現在貸し出されている資金の総額


【過剰担保(オーバーコラテラル)

借入額以上の資産を担保として預ける仕組み


【清算ライン】

担保価値が下落した際に自動的に清算が実行される価格水準


【ステーブルコイン】

米ドルなど法定通貨と価値が連動する暗号資産


【DEX(分散型取引所)】

仲介者なしで直接取引できる暗号資産取引所


【プロトコル】

DeFiサービスを提供する自律的なプログラムの仕組み


【Terra/Luna崩壊】

2022年に起きた大規模なDeFiプロジェクトの破綻事件


FTX】

2022年に破綻した大手暗号資産取引所


【Aave】

最大手のDeFi貸付プロトコル


【Kamino】、【Base】

新興チェーン上で成長する貸付プロトコル


本記事と同じ内容は、noteにも掲載しております。
ご関心を持っていただけましたら、note上でご感想などお聞かせいただけると幸いです。
bottom of page