AIと人間の協働が変える職場の未来──組織パフォーマンス向上への新たな視座
- Seo Seungchul

- 2025年9月15日
- 読了時間: 7分

シリーズ: 論文渉猟
◆今回の論文:Aleksandra Przegalinska et al. "Collaborative AI in the workplace: Enhancing organizational performance through resource-based and task-technology fit perspectives" (International Journal of Information Management, 2025年4月)
概要:生成AIツールが組織のタスクパフォーマンスにどのような影響を与えるかを、資源ベース理論(RBV)とタスク技術適合理論(TTF)の観点から実証的に検証した研究。94名の参加者を対象に、マーケティングタスクにおけるAI協働の効果を測定。
最近、ChatGPTをはじめとする生成AIツールが急速に普及し、職場でのAI活用が現実的な選択肢となってきました。しかし、単にAIを導入すれば組織のパフォーマンスが上がるのでしょうか?それとも、もっと戦略的なアプローチが必要なのでしょうか?
今回は、ポーランドのコジミンスキー大学とハーバード大学の研究チームが発表した興味深い研究を題材に、AIと人間の協働について考えてみたいと思います。この研究は、組織がAIをどのように活用すれば競争優位を獲得できるのか、そして人間の創造性とAIの効率性をどう組み合わせるべきかについて、実験的なアプローチで検証しています。
富良野とPhronaが、経営戦略と人間性の視点から、この新しい働き方の可能性と課題について語り合います。AIは単なる効率化のツールなのか、それとも人間の能力を拡張する新たなパートナーなのか。二人の対話を通じて、これからの職場でAIとどう向き合うべきか、その洞察を探っていきましょう。
AIは万能のツールなのか?
富良野:この研究、なかなか面白い切り口ですね。生成AIの効果を単純に測るんじゃなくて、どんなタスクに向いているか、どんな人が使うと効果的かを細かく見ているところが。
Phrona:ええ、私も興味深く読みました。特に印象的だったのは、AIを使ったグループの方が明らかに高い品質のアウトプットを出したという結果です。でも、これって単純にAIが優秀だからという話なんでしょうか?
富良野:いや、そう単純じゃないと思います。研究では4つのタスクタイプを設定してますよね。ルーティンで簡単なタスク、ルーティンで複雑なタスク、創造的で簡単なタスク、創造的で複雑なタスク。全部でAIの効果が出たんですが、その意味合いは違うはずです。
Phrona:そうですね。ルーティンタスクでAIが効果的なのは、まあ予想通りという感じもします。でも創造的なタスクでも効果があったというのは、ちょっと意外でした。人間の創造性って、AIには真似できない領域だと思っていたので。
富良野:僕もそこは引っかかりました。でも論文をよく読むと、AIは創造性を代替するんじゃなくて、補完しているんですよ。たとえば商品名を考えるタスクでは、AIが様々なアイデアを提案して、それが人間の発想を刺激するという。
Phrona:ああ、なるほど。つまりAIは発想の触媒みたいな役割を果たしているんですね。でも待って、それって結局、人間の創造性が必要ということですよね?
経験がもたらす逆説的な結果
富良野:面白いのは、AI経験が豊富な人の方が、必ずしも良い結果を出すわけじゃないという点です。特に創造的タスクでは、経験の差が成果に反映されなかった。
Phrona:それは意外ですね。普通、ツールは使い慣れた人の方が上手く使えそうなものですが。
富良野:論文では、この現象を説明してないんですが、僕なりに考えてみると、AIに慣れすぎると、かえってAIに頼りすぎてしまうのかもしれません。初心者の方が、AIを道具として適度な距離を保てるとか。
Phrona:ああ、それは興味深い視点です。私たちって、新しい道具を手に入れると、最初は慎重に使うけど、慣れてくると過信してしまうことがありますよね。AIも同じなのかも。
富良野:そうそう。組織論的に言えば、AIリテラシーの教育も、単に使い方を教えるだけじゃダメで、AIとの適切な距離感を教える必要があるということかもしれません。
Phrona:でも、そもそも適切な距離感って何でしょう?この研究では、AIが人間より肯定的な感情表現を使い、シンプルな言葉遣いをするという分析結果も出ていましたよね。
AIとの対話が変える思考のかたち
富良野:そこも興味深い発見でした。AIの方が人間より前向きな言葉を使う。これって、ビジネスコミュニケーションには良さそうですが、批判的思考が必要な場面では問題になるかもしれない。
Phrona:私はむしろ、AIがシンプルな言葉を使うという点に注目しました。複雑な概念を簡潔に説明できるのは素晴らしいけど、ニュアンスが失われる可能性もありますよね。
富良野:確かに。ビジネスでは、時に曖昧さや含みを持たせることも重要ですからね。すべてを明確にしすぎると、かえって柔軟性が失われることもある。
Phrona:そう考えると、AIとの協働って、単に効率を上げるだけじゃなくて、私たちの思考や表現のスタイルにも影響を与えるんですね。良くも悪くも。
富良野:組織の観点から言えば、AIを導入する際は、そういう文化的な影響も考慮する必要がありそうです。効率性と人間らしさのバランスをどう取るか。
競争優位の新しいかたち
Phrona:この研究では、AIを持つ企業が競争優位を得られるという仮説が支持されていました。でも、今やChatGPTのようなツールは誰でも使えますよね。本当に競争優位になるんでしょうか?
富良野:良い指摘です。論文では、単にAIを持つだけじゃなくて、それを効果的に統合して活用する能力が重要だと言っています。つまり、技術そのものより、それをどう組織に組み込むかが差別化要因になる。
Phrona:なるほど。でも、それって結局、人間の能力に帰着しませんか?AIを上手く使える組織文化とか、適切なタスク設計とか。
富良野:まさにその通りです。だから僕は、AIは競争優位の源泉というより、競争の土俵を変えるものだと思うんです。これまでは人的資源の質と量で競っていたのが、AIとの協働能力で競うようになる。
Phrona:そうすると、組織にとって大切なのは、AIをどう導入するかじゃなくて、人間とAIの新しい関係性をどう構築するか、ということになりますね。
富良野:その通りです。そして、その関係性は固定的じゃない。タスクの性質、組織の文化、個人の特性によって、最適な協働のかたちは変わってくるはずです。
これからの働き方を考える
Phrona:でも、ちょっと不安も感じます。AIがどんどん賢くなったら、人間の仕事はなくなってしまうんじゃないかって。
富良野:その懸念は理解できます。でも、この研究結果を見る限り、AIは人間を置き換えるというより、人間の能力を拡張するツールとして機能している。少なくとも現時点では。
Phrona:確かに、創造的タスクでも人間の関与は不可欠でしたね。でも、将来的にはどうなるか分からない。私たちは常に、人間にしかできないことは何かを問い続ける必要がありそうです。
富良野:そうですね。そして、その答えは固定的じゃない。技術が進化すれば、人間の役割も進化する。大切なのは、その変化に適応し続ける柔軟性かもしれません。
Phrona:結局、AIとの協働って、私たち自身を見つめ直す機会でもあるんですね。何が人間らしさなのか、何に価値があるのか。
富良野:ええ。そして組織にとっては、効率性と人間性のバランスをどう取るかという、古くて新しい課題に向き合うことになる。AIはその課題を、より鮮明に浮かび上がらせているだけかもしれません。
ポイント整理
AIは全タスクで効果的
ルーティンタスクから創造的タスクまで、AIを活用したグループは一貫して高品質なアウトプットを生成。効果サイズも大きく(Cohen's d = 1.01〜1.47)、実務的に意味のある改善を示している
経験の逆説
AI使用経験が豊富な人が必ずしも良い結果を出すわけではない。特に創造的タスクでは経験による差が見られず、適切な距離感の重要性を示唆
言語特性の違い
AIは人間より肯定的な感情表現を使い(効果サイズ大)、よりシンプルな言語を使用。ただし語彙の多様性は人間の方が高い
タスク複雑性と言語の関係
複雑な文章構造(Gunning Fog指数)が高いほど、タスク品質も向上する傾向。特に競争分析や広告作成タスクで顕著
競争優位の新定義
単なるAI保有ではなく、AIと人材の効果的な統合能力が競争優位の源泉に。組織のAI活用能力が新たな差別化要因
補完的関係の重要性
AIは人間の創造性を代替するのではなく補完。アイデア生成の触媒として機能し、人間の発想を刺激する役割
キーワード解説
【資源ベース理論(RBV)】
企業の競争優位は独自の資源から生まれるという経営理論
【タスク技術適合理論(TTF)】
技術の効果はタスクとの適合度で決まるという理論
【生成AI】
新しいコンテンツを作り出すAI技術(ChatGPT、DALL-E等)
【ハイブリッド・インテリジェンス】
人間とAIが協働して問題解決する仕組み
【認知的負荷】
タスクを遂行する際に必要な精神的努力の量
【語彙多様性】
使用される単語の種類の豊富さを示す指標