top of page
Convisage
本ブログの内容は、あくまで代表 徐勝徹の個人的な見解であり、Projeteam, Inc.の公式見解や業務上の立場を示すものではありません。
検索

知新察来


戦略的不可欠性を交渉力に変える──迂回されない国という設計課題
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Patrick Foulis, "Trump's trade war shifts from shakedown to lock-in" (Financial Times, 2026年7月24日) 概要:トランプ政権の通商政策が、関税による短期的な利益回収から、同盟国を含む各国が米国中心のシステムから抜け出しにくくする方向へ変化していると論じる記事(論考)。決済やAI、防衛技術を横断する事例を通じて、超大国としての地位がどのように収益源へと転換されつつあるかを描いている。 トランプ政権の通商政策をめぐる議論は、長らく関税率の高さに集中してきた。だが、争点はすでにそこにない。決済網、AIモデル、クラウド、知的財産、防衛装備。グローバル化を支える基盤を誰が握るかという競争へ、通商交渉の対象そのものが移っている。 フィナンシャル・タイムズのパトリック・フーリスは、2026年7月の論考でこの変化を「みかじめ料の徴収(shakedown)」から「囲い込み(lock-in)」への転換と表現した。高い代金を払わせ

Seo Seungchul
8月2日読了時間: 14分


Pix関税問題から読む、デジタル基盤をめぐる統治の争い──「国益」と私益のグラデーション
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:"Brazil's beloved payments system has drawn Donald Trump's ire" (The Economist, 2026年7月19日) 概要: ブラジル中央銀行が運営する即時決済システムPixが、対ブラジル関税の争点として扱われた経緯を検証し、保護主義や米国企業への損害という米国側の主張が実証的に支持されないことを示す論考。この攻撃がブラジル国内でPixへの支持とルラ大統領の政治的立場をむしろ強めた経緯にも触れている。 2026年7月15日、米国トランプ政権はブラジルからの輸入品に25%の関税を課した。約1年にわたる通商調査の末に下されたこの措置には、複数の争点が挙げられているが、その中で異彩を放っているのがPixである。決済アプリの名前が、国家間の関税交渉の理由に並ぶという事態は、それ自体が問いを誘う。なぜ、無料の送金システムが通商摩擦の対象になるのか。 Pixとは何か Pixは、2020年にブラジル中央銀行が開始した決済システムである。新しい通貨で

Seo Seungchul
8月2日読了時間: 14分


AI主権論は、依存を無くすのではなく、依存を選び直す発想で──AIサプライチェーン論から国家の統治能力論への接続
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Florian Mueller et al., "Resilience by Design: Preparing Your AI Stack for an Era of Uncertainty" (Bain Insights, 2026年7月7日) 概要: 企業のAIスタックに対するリスクが、技術障害やベンダーの値上げだけでなく、輸出規制や地政学的対立によるアクセス遮断へと広がったことを指摘し、柔軟性・選択肢・説明責任を設計原則として最初から組み込むべきだと論じる。 企業のAIスタックに関する実務的な提言を読みながら、国家の話を考え始めることに、正当な理由はあるのか。ないかもしれない。Bain & Companyが2026年7月に発表した論考は、あくまで経営者向けに書かれたものであり、輸出規制や地政学的対立を念頭に置いてはいても、国家の主権論を意図してはいない。 それでもこの論考が扱っている構造、依存の合理性と依存の脆弱性をどう両立させるか、という問いは、企業の外側でも同じ形をして立ち現れる。本稿は

Seo Seungchul
8月2日読了時間: 12分


制度がずるさを選び、鍛えている──Dファクターと、人格を持たないシステムの話
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Nate Scharping, "These are the countries with the darkest personalities, according to science" (BBC Science Focus, 2026年7月18日) 概要: コペンハーゲン大学のインゴ・ツェットラーらが2025年にPNAS誌で発表した研究をもとに、約180万人分の性格診断データと、腐敗、暴力、格差、貧困からなる「嫌悪的社会条件指数」との相関を紹介する記事。国別・米国州別のランキングと、その限界を扱っている。 性格心理学の世界に、Dファクターと呼ばれる指標がある。自己利益を優先し、そのために他者の不利益を受け入れ、必要とあらば損害を与えることさえ正当化する、そうした傾向をひとつにまとめた概念だ。2025年にコペンハーゲン大学のインゴ・ツェットラーらが発表した論文は、この指標を世界規模のデータで測り、腐敗や暴力、格差といった社会条件との相関を確かめた。結果は小さいが、有意だった。悪い社会条件の場所ほど

Seo Seungchul
8月2日読了時間: 13分


「固有知能」は、失敗を早く出せる組織で育つ──失敗と学習という資産の複利効果
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Sarah Elk et al., "Proprietary Intelligence: How to Win with AI" (Bain Insights, 2026年6月25日) 概要: AI変革に成功する企業と苦戦する企業を分けるのは、モデルの性能ではなく、自社固有のデータ・業務フロー・学習アーキテクチャを組み合わせて競合が模倣できない「固有知能(Proprietary Intelligence)」を構築できるかどうかだ、と論じる記事。Ramp、Bradesco、Adeccoの事例を通じて、姿勢・領域集中・データ・技術アーキテクチャ・オペレーティングモデル・学習システム・ガバナンスという7つの意思決定を提示している。 CEOの8割が、自社のAI変革の遅さに不満を持っている。Bain & Companyの最新調査はそう伝える。奇妙なのは、そこから先だ。技術が遅いのではない。多くの企業が、変革だと思って進めているものが、実はポートフォリオ管理にすぎない。両者はよく似ているが、まったく別のものだ。

Seo Seungchul
8月2日読了時間: 11分


恣意的なアルゴリズムに振り回される情報環境──可視性の配分と公共圏
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Rob Mitchum, "Can We Take the Doom Out of Scrolling?" (Kellogg Insight, 2026年5月27日) 概要: エンゲージメント重視型のアルゴリズムがSNS上の分断・敵意を増幅しているのではないかという仮説を、Bluesky上での実地実験で検証した研究。2024年米大統領選挙の前後8週間、2000人の参加者を異なるフィード条件に割り当て、通常のエンゲージメント型フィードと、極端なユーザーの過剰な影響力を抑える新アルゴリズムを比較した。 SNSを開くたびに、少し疲れる。政治の話でなくても、映画の感想ですら誰かが誰かを叩いている。世の中は、思っていたよりずっと殺伐としている。そう感じたことのある人は少なくないはずだ。 だが、この感覚は正確なのか。社会そのものがそうなったのか、それとも、社会をそう見せている何かがあるのか。この問いに実験的な答えを出そうとした研究がある。 実験室ではなく、実際のSNSで検証された Blueskyという場所を選ん

Seo Seungchul
8月2日読了時間: 13分


世界哲学の認識論的収斂──他者だけに説明を求める制度を変える
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Takeshi Morisato, "The taming of Black thought" (Aeon, 2026年7月27日) 概要: 西洋の大学が黒人思想やアジア思想を既存の哲学体系へ包摂するとき、固有の歴史と急進的な批判が削られ、西洋哲学の普遍性がかえって補強される。Tommy Curryの「認識論的収斂」を軸に、その仕組みを黒人思想、アジア思想、植民地化された大学制度から検討し、研究者に長期的な読書、歴史と言語の学習、自己点検を求める。 2026年7月、Takeshi MorisatoはAeonに「The taming of Black thought」を寄稿した。西洋の大学では、黒人思想やアジア思想を教える機会が以前より増えている。教室の顔ぶれだけを見れば、多様化は進んだ。 Morisatoが調べるのは、その教室で誰の問いが使われているかである。デュボイスをヘーゲルから、ファノンをサルトルから理解し、仏教の無我をヒュームやデレク・パーフィットに似た議論として評価する。非西洋思想は読まれ

Seo Seungchul
8月1日読了時間: 18分


知性は誤りを制度化する──Krakauerの「愚かさの科学」と自己修正する社会
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:David C. Krakauer, "What Makes Humans Stupid" (Nautilus, 2026年7月8日) 概要: 知性を難しい問題を容易にする能力と捉え、その反対側に、理論や信念や技術を投入して問題をさらに難しくする愚かさを置く。誤りの精緻化、理論の誤適用、環境変化、目的の乗っ取り、AIへの検証能力の外部化をたどりながら、知的システムが愚かな結果を生む条件を研究すべきだと提案する記事。 会議室には専門家が揃い、資料も数字もある。全員が担当範囲では筋の通った判断をしている。それでも組織全体が、顧客を失い、環境を傷つけ、自分の存立条件まで削ることがある。失敗の原因を知識不足に求めるだけでは、この種の出来事は説明できない。 David C. Krakauerは、愚かさには知性が要ると考える。知性が高ければ正しい判断が増える、という素朴な期待を裏返す議論である。ただし、知性そのものが悪いわけではない。危険なのは、誤った問題設定を直す経路が閉じたまま、問題解決能力だけが高まること

Seo Seungchul
8月1日読了時間: 13分


速い会社が、遅さの意味を忘れていく──「AIファースト」組織論が見落としている問い
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Jue Wang et al., "Mobilizing the Organization in the Agent Economy" (Bain Insights, 2026年6月17日) 概要: AI変革を「ツール導入」ではなく組織全体の再設計として捉え、変革を支える六つの前提条件と、四つの成長段階を示したレポート。段階が進むごとに得られる生産性の数値も具体的に示されている。 AIを導入すれば組織は速くなる。この命題に反対する経営者は、もはやほとんどいない。問題は、その先にある。Bain & Companyが2026年6月に公開したレポート「Mobilizing the Organization in the Agent Economy」は、AI変革を四つの段階に分けて描き、各段階で得られる生産性の数値まで具体的に示してみせる。少人数のチームが数百人分の仕事をこなす。承認プロセスは週単位で回る。変化に適応できる人材は、90日から120日で見分けがつくという。 ここまで具体的な記述に触れると、読み

Seo Seungchul
7月31日読了時間: 7分


AIが変える政治資本──説得権力の産業化と選んでいる感覚の設計
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Carolyn Wilke, "Is AI Mastering the Art of Persuasion?" (Kellogg Insight, 2026年5月20日) 概要:生成AIによる個人単位の説得を、情報収集・個人情報の種類・個別化戦略・伝達方法という四つの観点から整理した概念的フレームワークとスコーピング・レビュー。 生成AIが人を説得する力を持ちつつある、という話は、もう目新しさを失いつつある。広告が個人の好みに合わせて出し分けられることも、チャットボットが相談相手のように振る舞うことも、すでに日常の一部になっている。 問いを一段深く掘るなら、ここで確かめておくべきことがある。AIが実際に何をどこまでできるようになっているのか、そしてそれが従来の広告や政治宣伝と、どこで連続し、どこで断絶しているのか。この記事は、その足場を丁寧に組んでから、AI説得の政治的な意味を問い直したい。 説得のカスタマイズ 相手の性格や価値観に合わせて説得のメッセージを調整するという発想は、アリストテレスの弁論

Seo Seungchul
7月31日読了時間: 14分


ディストピアを自己成就的予言にしないために──未来を語る文化と未来を信じられる制度
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Samuel McKee, "Our Culture Needs to Defeat Dystopia — A New Renaissance Is Here, and It Needs Storytellers" (Institute of Art and Ideas, 2026年6月17日) 概要:科学技術はすでに大きな可能性を開いているにもかかわらず、文化はディストピア的な未来像に支配されている。筆者は、この状況を打開するには科学者だけでなく作家・映画制作者・教育者が未来を語り直す新しいルネサンスが必要だと論じる。 科学は止まっていない。AIも遺伝子工学も個別化医療も宇宙開発も、この十年で着実に前進している。それなのに、未来について語られる言葉のほうだけが痩せていく。ニュースは崩壊を報じ、映画は監視社会を描き、SNSは分断を煽る。とりわけ若い世代にとって、未来はもはや「よくなっていくもの」ではなく、「悪化がすでに決まっているもの」として受け取られている。 この違和感に、ひとつの明快な処方箋を与

Seo Seungchul
7月30日読了時間: 11分


仏教という中心なき資源をめぐる攻防──地政学と仏教
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Sudhi Ranjan Sen et al., "China, India Compete Over Buddhism Ahead of Dalai Lama Succession" (Bloomberg, 2026年7月3日) 概要:ダライ・ラマの後継問題が近づくなか、中国が仏教を通じてアジアでの影響力拡大を図り、インドの発祥地としての立場に挑もうとしている状況を、ネパール・ルンビニでの具体的な動きや、過去のパンチェン・ラマ後継問題の経緯を軸に描いた特集記事。 ネパールのルンビニには、中国系の機関が資金を出す施設と、インドが建てる文化センターが、徒歩で行き来できる距離で向かい合っている。仏陀が生まれたとされるこの土地で今起きているのは、宗教施設の建設競争ではない。次のダライ・ラマを誰が決めるのか、本来なら国家の手が届かないはずの問いをめぐる攻防である。 代表を持たない信仰は、誰にも本気で狙われずに済むはずだった。だが現実は逆を示す。中心を欠き、所有者が曖昧な信仰資源であるほど、複数の国家が「自分

Seo Seungchul
7月29日読了時間: 10分


間違っていたのはオンチェーン・ソーシャルだったのか──Baseのクリエイターコイン失敗を考える
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Lucas Tcheyan, "Coinbase Capitulates on Creator Coins in Base Team Shakeup" (Galaxy, 2026年7月17日) 概要:Coinbase傘下のL2チェーンBaseの創設者Pollakが、Base appの責任者から退きチェーン本体に専念すると発表。過去2年進めてきた「オンチェーン・ソーシャルが普及を牽引する」という賭けの失敗を認め、取引・決済・AIエージェントへ再重点化する組織再編を、Galaxy Researchが分析した論評。 Coinbase傘下のL2チェーンBaseが、二年近く進めてきた戦略の一部を公式に取り下げた。創業者のJesse Pollakは、投稿やクリエイターそのものをコインにするという構想を「完全に崩壊した」と評し、取引・決済・AIエージェントへ軸足を移すと表明している。 一つのプロダクトが失敗した、というだけの話であれば、暗号資産業界にありふれた出来事の一つで終わる。だが、この失敗の輪郭をよく見ると

Seo Seungchul
7月27日読了時間: 14分


ステーブルコインは銀行を解体するか──決済と信用創造のきわどい同居
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Peter Thal Larsen, "Why central banks are key to electronic money" (Reuters, 2026年6月30日) 概要:ステーブルコインが本格的な貨幣として機能するには、結局のところ中央銀行という制度的アンカーが必要になる、という論点を、BISのGaston Gelosに聞く形で展開した回。 ステーブルコインをめぐる議論を追っていると、これは貨幣として機能するのか」という問いは繰り返し立てられるのに、「機能するとして、それは何を置き換えるのか」という問いは、なぜかほとんど立てられない。 2026年6月末、ロイターのポッドキャスト番組で、国際決済銀行(BIS)のGaston Gelosが語ったのも、結局は前者の問いだった。彼の結論は明快である。デジタルマネーは、技術がどれだけ進歩しても、最後には中央銀行という制度的アンカーを必要とする。この結論自体に異論はない。ただ、この結論に至る道筋を丁寧にたどっていくと、途中でもっと大きな問いを素通り

Seo Seungchul
7月26日読了時間: 9分


西洋的普遍主義の後の国際秩序──複数世界性と合意の脱植民地化
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Selçuk Aydın, "The Geopolitics of Knowledge from Universalism to Pluriversality: The Crisis of Western Models and the Decolonial Turn" (Al Jazeera Centre for Studies, 2026年5月12日) 概要:西洋近代が普遍として提示してきた自由民主主義・市場経済・人権・国際法が、その正統性を失いつつあるという診断から出発し、複数の知や制度が併存する「pluriversality」への移行を論じる。結論では、新しい世界合意を探すのではなく、「合意」という概念そのものを脱植民地化すべきだと主張している。 西洋近代が提示してきた普遍、自由民主主義や市場経済や人権や国際法は、いま静かに正統性を失いつつある。少なくとも、Al Jazeera Centre for Studiesに寄稿したSelçuk Aydınはそう見ている。彼の論考は、15世紀のヨーロッ

Seo Seungchul
7月24日読了時間: 12分


危機を予測するのではなく、崩れやすさを診断するという発想の転換──「地政学的危機観測所」という構想
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Didier Sornette, "Toward a Geopolitical Crisis Observatory: Diagnosing Systemic Risk in News Flows Using Complex Systems Science" (Al Jazeera Centre for Studies, 2026年6月11日) 概要:複雑系科学とAI、OSINTを組み合わせれば、報道機関は出来事に反応するだけの存在から、危機の前兆を診断する地政学的危機観測所へ進化できるという提案。危機を単発の事件ではなく、内側に蓄積するストレスと外からのショックが絡み合って生じる体制転換として捉え直すことが軸になっている。 戦争が起きる確率は72%だ、と誰かが言ったとする。この数字は具体的に見えて、実際には何も語っていない。なぜその数字なのか、どの情報が効いているのか、その数字が報じられることで現実がどう動くのか。それらはすべて数字の外側にある。 2026年、ホルムズ海峡が緊迫したとき、軍事的な緊

Seo Seungchul
7月23日読了時間: 14分


声は、意味になる前から働いている──オウムの喃語と学習の余白
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Virginia Morell, "Wild parrot chicks babble like human infants" (Science, 2026年5月31日) 概要:野生のミドリコシジロインコの雛が、巣の中で一羽だけで発声練習のような行動をとることを報告した研究。人間の乳児の喃語と機能的に似ている可能性が指摘されている。 野生のオウムの雛が、誰にも聞かせるつもりのない声を、巣の中で一人つぶやいているという。これは、単に動物の微笑ましくてかわいい行動、くらいの話と思うかもしれないが、実は「言語とは何の準備によって成立するのか」という、興味深い問いに繋がっている。 断っておくと、オウムが人間のような言語を持つ、という話ではない。文法も、抽象概念も、物語も、オウムの鳴き声とは同一視できない。そこを混同すると、話はすぐに擬人化に流れる。 だが逆に、人間の言語を意味と文法だけの記号体系として見るのも、たぶん足りない。赤ん坊は、最初から意味のある言葉を話すわけではない。声を出し、聞き返し、真似て、少

Seo Seungchul
7月21日読了時間: 7分


自然関係指数が問い直す「豊かさの足場」──外部不経済の可視化
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Yadvinder Malhi "The measure of flourishing" (Aeon, 2026年6月29日) 経済発展を語る言葉は、基本的に「増えるもの」の言葉だった。所得が増える。消費が増える。都市が広がる。インフラが整う。教育や医療へのアクセスが広がる。GDPはその増加を測る指標として、きわめて強力に機能してきた。市場で生み出された付加価値を集計し、国家間の比較を可能にし、政策の成否を判断する共通語になった。 この物語には十分な正当性がある。経済発展は多くの人を貧困から引き上げ、寿命を延ばし、選択肢を広げた。 だがGDPには、設計上の盲点がある。経済活動の「成果」は足し上げるが、その成果を生む過程で何が取り崩されているかを、十分に計上しない。森林を伐採して道路を造ればGDPは増える。災害後の復旧工事でも増える。壊すことと修繕することの区別がつかない。社会が人間に過剰な負荷をかけ、その負荷を処理する産業が伸びても、GDPは上がる。 ここに一つの問いが生まれる。GDPが「成果」とし

Seo Seungchul
7月19日読了時間: 15分


能力主義は人間価値の原理ではない──格差を身分に変換する経路
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Christine Abigail L Tan, "No one is self-made" (Aeon, 2026年6月22日) 能力主義への批判には、どこか扱いの難しさがある。能力主義を批判すると、すぐに「では能力を見なくてよいのか」「医師も裁判官も技術者も、能力ではなく別の基準で選ぶのか」という反論が出てくる。もっともな反論だ。外科医、航空機整備士、インフラ技術者、裁判官、研究者、経営者。これらの職務について、熟練や判断力を無視することはできない。能力評価を放棄すれば、公平になるどころか、他者への被害が増える。 だとすれば、問題は能力主義が正しいか間違っているかという二択ではない。問題は、能力主義が本来の管轄範囲を超えて、人間の価値、政治的発言権、社会的支配力、格差の道徳的正当化にまで拡張されることにある。能力主義は、特定の職務や責任を配分するための限定的原理としては必要だ。しかし、それが社会全体の道徳原理になるとき、社会統合を壊す力を持つ。 荘子が突いた急所 Christine Abigai

Seo Seungchul
7月18日読了時間: 11分


予測市場と真実のロンダリング──社会制度の接続設計問題
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Yasaman Rohanifar et al., "Prediction markets allow the powerful to buy truth" (Institute of Art and Ideas, 2026年6月10日) 概要:予測市場の価格が「群衆の知恵」として流通する過程を「予測ロンダリング」と名づけ、4段階の構造を分析。改革案として、摩擦を消さず可視化する設計思想を提案する。 予測市場の数字が、メディアの見出しに出てくる。AI検索の回答に組み込まれる。金融端末に表示される。いつの間にか、Polymarketの確率表示は、世論調査や専門家の見解と同じ棚に並ぶ情報源になった。 だが「75%」と表示されたとき、その数字を作ったのは誰か。どのような資金が、どのような意図で動いた結果なのか。そこを見ないまま数字だけを受け取ると、何が起きるのか。トロント大学とイリノイ大学の研究者3名が発表した記事は、この過程を「予測ロンダリング」と名づけ、正面から切り込んでいる。 本稿はこの記事の論旨を

Seo Seungchul
7月17日読了時間: 13分
bottom of page