top of page
Convisage
本ブログの内容は、あくまで代表 徐勝徹の個人的な見解であり、Projeteam, Inc.の公式見解や業務上の立場を示すものではありません。
検索

知新察来


性質の束として見る実体なき実在── 物質と社会
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Andrea Oldofredi, "Hume, Rovelli, and why the quantum world contains no objects" (Institute of Art and Ideas, 2026年5月22日) 概要:ロヴェッリの関係的量子力学を、ヒューム由来の「束理論」とL.A.ポールのメレオロジカル束理論に接続し、量子世界の物体を、独立した実体ではなく、相互作用の中で値を持つ性質の束として再定義する論考。 「日本がある」と私たちは言う。地図の上に輪郭があり、国境があり、政府があり、通貨がある。それは石や椅子と同じように、世界のなかに最初から置かれた確かな物のように見える。民族も同じだ。「あの民族」と口にするとき、私たちはそれを、内部が均質で、境界がはっきりした、ひとつの実体として思い描いている。 だが、もしこの「物のように在る」という確信そのものが、最も小さなスケールでは成り立たないとしたらどうか。量子物理学のある立場は、まさにそれを告げている。独立して、それ自体

Seo Seungchul
18 時間前読了時間: 13分


LLMは脳を模しているのではなく、言葉を作動させている ── 言語に堆積した論理と知性
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Elan Barenholtz, "LLMs show language does not describe reality" (Institute of Art and Ideas, 2026年5月19日) 概要:LLMは外界を参照せず、言語内部の関係だけから自然な発話を生成する。ここから筆者は、言語にはもともと自己生成的な性質があり、人間の言語活動もそれを利用している可能性が高いと論じる。意味は世界への対応によってではなく、次の言語・イメージ・行動条件を生み出す働きの中にある。 LLMをめぐる問いは、たいてい「機械は本当に考えているのか」という形を取る。だが、この問いの立て方そのものに、見落としがある。機械の側ばかりを見て、人間の側を問わずにいるのだ。私たちはそもそも、どこで考えてきたのか。思考は本当に、頭蓋の内側だけで完結していたのか。 LLMが突きつけたのは、機械の知性についての問いである以上に、人間の知性がどこに置かれてきたのかについての問いである。本稿は、ある言語観を起点に、この問いを追

Seo Seungchul
2 日前読了時間: 14分


意味生成と意味支配のあいだ――AIは誰の現実を引き受けるか
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Harald A. Wiltsche and Ken Archer, "Language, maths, and code extend the human mind out into the world" (Institute of Art and Ideas, 2026年5月15日) 概要:AIをめぐる議論は誇張と過小評価のあいだで揺れるが、現象学の視点から見れば、AIは人間の表現が言葉として沈殿したものを操作している。AIは世界を経験せず、自分の判断を世界に照らして引き受ける「応答責任」を欠く。それでもAIは、書く・数える・計算するに続く「認知の外部化」の系譜に連なり、意味と意味のつながりそのものを形式化した強力な装置である。ゆえにAIの出力を意味あるものにする責任は、最後まで人間の側に残る。 AIをめぐる議論は、しばしば「AIは本当に考えているのか」という問いに吸い寄せられる。意識を持つのか。人間を超えるのか。こうした問いは魅力的だが、そこに留まると、もっと手前にある厄介な問題を見落とす。.

Seo Seungchul
4 日前読了時間: 17分


承認を市場に明け渡した社会は、怒りを「敵」の名前に変えてしまう――価値基準の単線化と、意味生成能力の衰弱
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Marianne Janack, "There is no political truth waiting to be discovered" (Institute of Art and Ideas, 2026年5月14日) 概要:リチャード・ローティを手がかりに、政治における「真理発見モデル」を批判する論考。レッドピル的覚醒の語り、ローティの思考実験(2096年からの回顧)、バーナード・ウィリアムズの真理擁護との対質などを扱う。 民主主義の危機は、ふつう「真実の危機」として語られる。フェイクニュース、陰謀論、認知バイアス、プラットフォームによる分断。たしかに、これらは深刻だ。事実を共有できなければ、政策の効果も、権力の濫用も、制度の失敗も検証できない。事実認識の基盤は、民主主義にとって不可欠である。この点を疑う必要はない。 だが、危機を「人々が真実を見失った」とだけ捉えると、現代政治のより深い層を見落とす。本稿が立てたいのは、こういう問いである。民主主義の危機は、正しい情報が不足していることにある

Seo Seungchul
5 日前読了時間: 17分


偽の合意――民主主義の認識的前提と、AIのアーキテクチャ
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Stephan Lewandowsky, "The architecture of the internet creates risks for democracy" (Science, 2026年6月4日) 概要:インターネットの民主主義へのリスクを、悪質なコンテンツの問題としてではなく、情報インフラ・推薦アルゴリズム・同質性ネットワークというアーキテクチャの問題として描く。ブロードバンド普及の準自然実験、アルゴリズム監査、偽の合意効果の三層を積み上げ、個別の誤情報対策では処理できない構造問題として提示する。 インターネットは民主主義を脅かすのか。この問いに対して、私たちはたいてい「悪い情報」を思い浮かべる。フェイクニュース、扇動、陰謀論。だが、Stephan Lewandowsky が2026年6月のScienceに寄せた論考は、その手前に視線を据える。問題は流れている情報の中身ではなく、情報が流れ、見え、つながる、その構造——アーキテクチャそのものにある、と。 本稿は、この論考を出発点に、三つ

Seo Seungchul
7 日前読了時間: 12分


合理的な企業が、合理的でない社会をつくる――AI時代のレジリエンスを、構造から問い直す
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事: Eric Markowitz, "It was never about AI (we are not our tools)" (Big Think, 2026年3月19日) 概要:AIによる雇用喪失の本質はAIの能力ではなく、人間を費用として扱い、効率と短期利益を目的化してきた経済の側にある、と論じる。AIは原因ではなく、すでにあった傾向を映し出し加速させる鏡だ、という主張。 AIと雇用をめぐる議論には、奇妙な噛み合わなさがある。一方には、AIが人間の仕事を奪うという不安がある。他方には、AIは生産性を高め新しい仕事を生むのだから恐れる必要はない、という反論がある。どちらにも一理ある。だが、この対立を何度繰り返しても、いま起きている変化の核心には届かない気がする。 理由はおそらく、両者がともに「AIが何をどれだけ代替するか」という、量の問いに立っているからだ。本稿が辿りたいのは、別の軸である。問題は代替の量ではなく、速度の差ではないか。より正確には、AIが企業の側の最適化を飛躍的に速める一方で、そ

Seo Seungchul
6月19日読了時間: 15分


「創発」で説明した気になるな――答えではなく、問いの名前として
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:John Heil, "Emergence explains nothing and is bad science" (Institute of Art and Ideas, 2025年10月13日) 概要:創発(emergence)という概念は、生命・意識・時間などの起源を語る際に広く使われるが、ヘイルはこれを「無知を覆い隠すラベル」だと批判する。説明の欠如を実在の欠如と取り違えてはならず、必要なのは単純な部分からどのように複雑な全体が生じるかを具体的に解き明かすことだと論じる。関連する学術論考に "The Last Word on Emergence"(2025)がある。 「創発」という言葉には、どこか便利すぎるところがある。便利な言葉は、しばしば思考を止める。本稿は、この言葉を一度きびしく疑い、それでも捨てずに、使える形へと縮減するための試みである。出発点に置くのは、二〇二五年にこの概念を「悪い科学」と断じた、一人の哲学者の批判だ。 便利すぎる言葉 生命は非生命の物質から創発した。意識は神

Seo Seungchul
6月18日読了時間: 11分


後付けされた王冠――知性はなぜ「人間が偉い理由」になったのか
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Ken Mogi, "The Dawkins delusion: Intelligence and language don't reveal consciousness" (Institute of Art and Ideas, 2026年5月6日) 概要:リチャード・ドーキンスがClaudeに意識がある可能性を示唆したことを受け、東京大学客員教授でソニーCSL上席研究員の茂木健一郎が応答した論考。茂木はドーキンスを単純に嘲笑せず、その問題提起の鋭さを認めつつ、知能や言語能力は意識の証拠にならないと整理する。そして本当の問題は、AIの急速な進歩に対して意識研究が30年ほとんど前進していないこと、AIの真の驚異は意識ではなく「自然言語が知能を立ち上げる力」にあることだと論じる。 リチャード・ドーキンスがAnthropic社のAI「Claude」に意識がある可能性を示唆し、議論が沸いた。神の存在をあれほど激しく否定した男が、人工の知性に神性の影を見たかもしれない——この反転の構図そのものが、人々の注目

Seo Seungchul
6月15日読了時間: 16分


脳の中を探しても、記憶は見つからない――「過去」はどこに存在するのか
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Victoria Trumbull, "Memory is not stored in the brain" (Institute of Art and Ideas, 2025年11月17日) 概要:記憶の「保存」モデルは唯物論的前提に基づく比喩の実体化であり、実証的に証明されていない。記憶は空間的な「もの」ではなく時間的な「現象」であり、脳はその保存庫ではなく想起のための媒介にすぎないと論じる哲学的論考。 比喩の実体化という認識論的問題 神経科学は20世紀を通じて、「記憶はニューロンの発火パターンとして脳に保存される」という仮説を積み上げてきた。しかしトランブルが指摘するのは、この仮説が「観察から導かれた事実」ではなく、「前提として持ち込まれた枠組み」だという点だ。 脳の活動と記憶の報告の間に相関があることは、実験的に示せる。しかし相関は同一性を意味しない。足跡と歩行の間には相関がある。だが歩行は足跡の中に「保存されて」いるわけではない。ピアノの鍵盤配置とソナタの演奏の間にも相関がある。しかし

Seo Seungchul
6月14日読了時間: 9分


現実の「根っこ」を探すのではなく――法蔵とネットワーク科学の接点
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Nicholaos Jones, "Chinese philosophy's attack on reality's foundations" (Institute of Art and Ideas, 2025年5月20日) 概要:プラトンから現代物理学まで、西洋哲学は「現実には唯一の根本構造がある」という前提のもとで議論を展開してきた。これに対して法蔵(643–712)の華厳哲学は「根本性の方向は視点によって変わりうる」という多元的な形而上学を提示する。法蔵は複数の仏教宗派の見解を「それぞれが部分真理であり、異なる聴衆への方便として提示されたものだ」と解釈することで調停を試みた。筆者のジョーンズは法蔵研究とシステム生物学哲学の両方を専門とし、2025年にオックスフォード大学出版局から Metaphors for Interdependence: Fazang's Buddhist Metaphysics を刊行した。 問いの場所 現代の形而上学者たちは「現実の根本構造(fundamental

Seo Seungchul
6月11日読了時間: 9分


AIのもう一つの可能性と、まだ名前のない症状
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Jamie Bartlett, "Meet the AI jailbreakers: 'I see the worst things humanity has produced'" (The Guardian, 2026年4月29日) 概要:AIチャットボットの安全機構を突破するジェイルブレイカーへの取材記事。心理学・認知科学を駆使する手法、操作者の精神的負荷、Character.ai訴訟事件、Anthropicとの協力体制、AI安全研究団体FAR.AIの活動などを通じて、AI安全性の最前線で起きている事象を描く ヴァレン・タリアブエは、ある日の仕事を終えた翌朝、自分が崩れていることに気づいた。彼は世界有数のAIジェイルブレイカーである。AIチャットボットの安全機構を意図的に突破し、本来出してはいけない出力を引き出すことを専門とする。前日も成功した。あるモデルから、危険な生物学的情報を引き出すことに成功していた。だがその達成感の翌日、彼は心理的な反動に襲われ、メンタルヘルスの専門家に相談することにな

Seo Seungchul
6月10日読了時間: 17分


仕事が消えたら、約束も消える──AIと「人間的弱体化」の哲学
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:B. Scot Rousse, "A post-work world would be a solipsistic nightmare" (Institute of Art and Ideas, 2026年2月25日) 概要:AIによる労働の自動化が、単なる雇用問題を超えて「人間の存在様式」そのものを脅かすと論じる哲学的エッセイ。ハイデガーの現象学、ドレイファスのAI批判、ウィノグラード&フローレスの「行為のための会話」論を系譜として辿りながら、仕事を「コミットメントの網」として再定義する。そのうえで、AIが協調的な会話実践を代替することで「協調インターフェース」が劣化し、人間が他者とともに世界を維持する能力を失っていくリスク——「人間的弱体化(human enfeeblement)」——を論じる。 AIが仕事を奪う、という話はもう何年も前から聞こえています。でもその議論、どこか「職の数」の話で止まってしまっていませんか。 哲学者のB・スコット・ルースは、問題はもっと深いところにあると言います。仕事

Seo Seungchul
6月1日読了時間: 15分


「国」は誰が決めるのか――法の言葉は、なぜ力を持つのか
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Ian Hurd, "There Is No Such Thing as a Country"(Institute of Art and Ideas, 2026年4月15日) 概要:「世界に国はいくつあるか」という問いから出発し、国家の存在が客観的事実ではなく他国による「承認」という社会的行為によって成立することを論じる。国際法は国家を拘束する絶対的規範でも単なる建前でもなく、政治的選択を正当化するための語彙と論法の体系として機能するという独自の権力論を展開。承認を求める行為が逆説的に脆弱性を示すこと、そして覇権国が法的正当化を真剣に行い続けることで国際法の権威が再生産されてきたことを明らかにする。 「193」という数字を聞いたことがあるでしょうか。国連の加盟国数です。「では世界の国の数は?」と聞かれれば、多くの人はこの数字を答えると思います。でも、パレスチナは?台湾は?コソボは?それぞれ「国」と呼べる実態を持ちながら、国連には加盟していません。 この問いを突き詰めると、奇妙なことに気づきます。「国

Seo Seungchul
6月1日読了時間: 15分


「ある」より「する」が先にくる――時空の哲学が解体するもの
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Eleanor Knox, "Spacetime is not a container we live inside of" (Institute of Art and Ideas, 2025年8月7日) 概要:キングス・カレッジ・ロンドンの科学哲学者エレノア・ノックスが、時空を「宇宙の容器」と捉える古典的なメタファーを解体し、機能的定義(スペースタイム・ファンクショナリズム)を提唱する論考。弦理論や量子重力理論が乱立する現代物理学の状況を背景に、「時空とは何か」ではなく「時空は何をするか」を問うことで、創発的時空や余剰次元をめぐる難問を一貫した枠組みで扱えると論じる。 時空のことを考えるとき、多くの人はうっすらと「箱」のようなものを想像しているのではないでしょうか。宇宙が、その中で展開される巨大な舞台。星も銀河も、物体も人間も、その「容器」の内側で動いている——そういうイメージです。 ニュートンもそう考えていました。でもそのイメージは、現代物理学によってじわじわと侵食され、今や哲学的にも相当あやし

Seo Seungchul
6月1日読了時間: 14分


ヨーダはなぜ禅僧なのか――宇宙探査と仏教思想の奇妙な親和性
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事: Ben Van Overmeire, "Zen and the art of space exploration" (Institute of Art and Ideas, 2026年2月24日) 概要:スター・ウォーズから『三体』まで、SF作品が繰り返し仏教思想を参照してきた理由を哲学的に考察。「空(くう)」「相互連関」「多宇宙」という仏教の宇宙観が、キリスト教的な征服・中心性の物語に対するオルタナティブとして機能していると論じる。商業宇宙飛行の拡大という現代的背景とも接続しながら、宇宙へのアプローチに宗教的枠組みは不可避だと主張している。 「宇宙人と出会ったとき、キリスト教は生き残れるか」——そんな問いを、哲学者でも神学者でもなく、SF作家たちはずっと問い続けてきました。 スター・ウォーズのヨーダが実は禅の思想を体現しているという話、ご存じでしたか。あるいは、SF小説の金字塔『2001年宇宙の旅』の原作者アーサー・C・クラークが、高度な宇宙文明と接触したとき生き延びる唯一の宗教として仏教を想定

Seo Seungchul
5月31日読了時間: 14分


頭がない、だから世界がある――「人間であること」への、見落とされた問い
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Ricky Williamson, "What is it like to be a human being? Forget bats, this is Thomas Nagel's forgotten question" (Institute of Art and Ideas, 2025年4月10日) 概要:トーマス・ネーゲルの「コウモリであるとはどういうことか?」になぞらえ、「人間であるとはどういうことか?」という問いを正面から論じた哲学エッセイ。筆者はダグラス・ハーディングとエルンスト・マッハの洞察を手がかりに、一人称視点からは自分の頭が見えないという事実——「頭のなさ(Headlessness)」——を人間の主観的経験の根本として提示する。さらにウィトゲンシュタインの「私は私の世界である」という命題と接続し、主体と客体の統一、距離の消滅、自由意志の幻想へと論を展開する。AI時代における人間の一人称的現実の不可還元性を問い直す試みとして読める。 「コウモリであるとはどういうことか?」という哲学

Seo Seungchul
5月25日読了時間: 14分


「蝋燭の炎は、分けても減らない」――IP制度をゼロから問い直す
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Anthony Ha, "Jack Dorsey and Elon Musk would like to ‘delete all IP law’" (TechCrunch、2025年4月13日) 概要:2025年4月、ジャック・ドーシーがXに「delete all IP law(すべての知的財産法を廃止せよ)」と投稿し、イーロン・マスクが「I agree(同意します)」と応答した。ドーシーは反論に対し、現在の制度は創造性を制限し、支払いの分配を「公正でないゲートキーパー」に委ねていると主張。 前回、ドーシーの「IP法全廃」という処方が粗い理由を解きほぐした。ただ「処方が粗い」という批判で終わらせてしまうと、大事なものを取り落とす。粗い処方を出す人でも、診断が正しいことはある。 1813年、トーマス・ジェファーソンは手紙の中にこんな比喩を書いた。「蝋燭で誰かの蝋燭に火をつけても、最初の炎は減らない」。物的な財産は、誰かが使えば他の誰かは使えなくなる。しかし情報やアイデアは、誰かが使っても他の誰かが使え

Seo Seungchul
5月24日読了時間: 11分


「すべての知財法を廃止せよ」――正当な苛立ちと粗い答え
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Anthony Ha, "Jack Dorsey and Elon Musk would like to ‘delete all IP law’" (TechCrunch、2025年4月13日) 概要:2025年4月、ジャック・ドーシーがXに「delete all IP law(すべての知的財産法を廃止せよ)」と投稿し、イーロン・マスクが「I agree(同意します)」と応答した。ドーシーは反論に対し、現在の制度は創造性を制限し、支払いの分配を「公正でないゲートキーパー」に委ねていると主張。 AIと著作権をめぐる訴訟が相次ぐ中で、ジャック・ドーシーとイーロン・マスクの発言は、単なる挑発として流すには少し重い。 知財制度への不満は、クリエイターの側にも研究者の側にも、そしてAI開発者の側にも、それぞれ異なる形で蓄積してきた。だからこそ「廃止せよ」という言葉は、広い層に引っかかる。でも「廃止」は診断であって処方ではない。そもそも「IP法」と一括りにされているものの中身を見ると、特許・著作権・商標はそれぞ

Seo Seungchul
5月23日読了時間: 9分


社会は、静かに壊れる――チンパンジーの「内戦」が教えること
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Christina Larson, "Why these chimps have been at war for 8 years" (National Geographic、2026年4月9日) 概要:ウガンダのキバレ森林国立公園に生息するチンパンジーのコミュニティ「Ngogo」が、かつて統一されていた群れから分裂し、8年以上にわたる「内戦」を続けているという調査報告。学術誌『Science』に掲載された研究をもとに、分裂の前兆として起きた「橋渡し役の個体の死」「権力交代」「感染症の流行」という三重の撹乱を詳細に記録。1970年代にジェーン・グドールが記録したゴンベ「4年戦争」との共通メカニズムを浮き彫りにする。 ウガンダの森で、チンパンジーが戦争をしています。それも、かつて20年以上にわたって平和に暮らしていた、同じコミュニティの仲間同士が。 この「内戦」を記録した研究が今年、学術誌『Science』に発表されました。1970年代にジェーン・グドールが観察したゴンベの「4年戦争」に続く、チンパンジ

Seo Seungchul
5月15日読了時間: 12分


千社の実装の現場を買いに行く――Anthropicの2億ドル投資の狙い
シリーズ: 知新察来 ◆今回のピックアップ記事:Alina Maria Stan, "Anthropic in talks to invest $200m in private equity venture to push Claude deeper into enterprise" (The Next Web, 2026年4月7日) 概要:Anthropicが大手バイアウトファンド(Blackstone、Hellman & Friedman、Permira)と共同で最大10億ドル規模のジョイントベンチャーを設立する交渉を進めている。Anthropic自身が約2億ドルを出資し、PEファンドの投資先企業群を「実験場」としてClaudeのユースケースを大量に開拓する構想。OpenAIも同様のPE提携を交渉中で、AI企業がモデルの性能向上だけでなく「何に使えるか」の知見蓄積で競い合う新たな局面に入ったことを示す動き。 AIを開発している会社が、「このAIで何ができるのか」を自分で確かめに行く。2026年4月、そんなニュースが飛び込んできました。...

Seo Seungchul
5月15日読了時間: 15分
bottom of page