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本ブログの内容は、あくまで代表 徐勝徹の個人的な見解であり、Projeteam, Inc.の公式見解や業務上の立場を示すものではありません。
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論文渉猟


個人が賢くなるほど、社会は同じ間違いをするのか──認知インフラの集中と誤差の相関
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Steven D. Shaw & Gideon Nave, "Thinking—Fast, Slow, and Artificial: How AI is Reshaping Human Reasoning and the Rise of Cognitive Surrender" (SSRN Working Paper, 2026年) 概要:人間の直感と熟慮に加え、脳の外側で動く人工的な認知を第三の体系として位置づける三体系理論を提示し、認知反射テストの改変版を用いた事前登録3実験(参加者1,372人、試行9,593)でAIの正確性を無作為に操作して、AIの出力を最小限の精査で採用する傾向を測った論文。 生成AIについて「AIに頼れば人間は考えなくなる」という懸念をよく耳にする。この問いの立て方は、しかし粗い。 人間はもともと、自分の認知能力だけで考えてきたわけではない。文字は記憶を外部化し、印刷は知識の流通を変え、電卓は計算を、検索は情報探索を、地図アプリは経路判断を外部の技術へ移した。そのたびに、人間が自力

Seo Seungchul
5 日前読了時間: 26分


AIの使う「むしろ」の気持ち悪さから見えるもの──談話の自然さという、多言語LLM評価に欠けた単位
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Chengzhi Zhong, Fei Cheng, Qianying Liu, Junfeng Jiang, Zhen Wan, Chenhui Chu, Yugo Murawaki, Sadao Kurohashi, "Beyond English-Centric LLMs: What Language Do Multilingual Language Models Think in?" (arXiv, 2024年8月20日) 概要:日本語処理における三種類の大規模言語モデルを比較し、中間層の隠れ表現を語彙空間へ射影したときにどの言語の答えが高い確率を示すかを分析した研究。英語中心のモデル、日本語で継続事前学習したモデル、英日を均等に事前学習したモデルで、内部の言語的な偏りが学習履歴に応じて異なることを報告する。 生成AIの日本語を読んでいると、「むしろ」という語で引っかかる。文法の誤りではない。辞書の記述から外れているわけでもない。それでも引っかかり、しかもモデルを替えても、話題を替えても、時期を替えても

Seo Seungchul
5 日前読了時間: 21分


生成AI統治の三条件が答えていない問い──介入能力は、良い統治と同じではない
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Fabian Ferrari, José van Dijck and Antal van den Bosch, "Observe, inspect, modify: Three conditions for generative AI governance" (New Media & Society 第27巻第5号、2025年) 概要:生成AIを規制対象物として捉え直し、統治の構造的条件を産業的観察可能性・公共的検査可能性・技術的変更可能性の三つに分解する論考。物質的参照可能性・アルゴリズム的不透明性・規制的共同生産という三つの分析テーマから各条件を導き、基盤モデルについて検査すべき情報と変更可能性をそれぞれ五層に整理する。当時のEUのAI法草案を事例に、その規定が層ごとの粒度に対応していないことを指摘する。なお本稿は草案段階の分析であり、成立後の最終法文を扱ったものではない。 生成AIをめぐる議論には、反論しにくい一文がいくつかある。あまりに複雑で中身が分からない。企業秘密だから外から検証できない。技術の更新

Seo Seungchul
5 日前読了時間: 25分


人生とは、有限な認知を何に使ったかである──思考の経済学と生成AI
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Shanshan Zhang, Zhou Fang, Joshua Tasoff, "What do people think about?" (SSRN Working Paper, 2026年8月17日) 概要:経験サンプリング法で米国成人258人から23,338件の思考記録を集め、思考の内容、原因、同時の活動、幸福度を対応づけて分析する。思考内容は、活動・人口統計・社会経済的属性を合わせたものより幸福度を説明した。最後に、生産的な思考と消費的な思考の間に労働と余暇に似たトレードオフがあることを示し、頭の中の配分問題を提起する。査読前のワーキングペーパー。 人生を語るとき、私たちは時間を有限な資源として扱うことに慣れている。仕事に何時間、家族と何時間、睡眠に何時間。時間管理とは要するに、限られた時間をどこへ割り振るかという問題である。 しかし、同じ一時間を同じことに使った二人が、同じ一時間を生きているとは限らない。家族と夕食を取っている二人のうち、一人は料理と会話に注意を向け、もう一人は翌日の仕事を考え続け

Seo Seungchul
7 日前読了時間: 21分


起業家議員の視点に閉じない政治──問題を届け、判断を問い直す代表制
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Aaron Chatterji, Jorge Guzman, Joyce Ma, Ryan C. McDevitt, "Political Entrepreneurs" (NBER Working Paper 35637, 2026年8月) 概要:米国26州の2009〜2023年の議員財務開示と法案の主要提出者の記録を接続し、企業を所有・経営する議員の政策関心を分析する。企業一般に有利な法案では明瞭な差がなく、新規参入を促すと分類した法案、とりわけ規制緩和で正の関連がある。査読前のワーキングペーパー。 起業家が議員になれば、企業に有利な政策を推進する。そう予想するのは自然だが、企業にとって有利という言葉は広すぎる。すでに市場で大きな位置を占める会社と、これから事業を始める人とでは、政治に求めるものが違うかもしれない。 アーロン・チャタジーらの論文は、この違いを米国の州議会で調べている。企業を所有し経営にも携わる議員は、企業一般に有利な法案を特別に多く提出しているわけではなかった。しかし、新規参入を促すと著者らが

Seo Seungchul
9月17日読了時間: 15分


「Physics of Agents」と集団動態──AIの知性を個体性能から切り離す
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Batu El, Jinhee Paeng, Fatih Dinc, Shiye Su, Mete Erdogan, Aneesh Pappu, Haotian Ye, Wanjia Zhao, Surya Ganguli & James Zou, "Physics of Agents: Statistical Mechanics Predicts Collective Behavior of AI Agents" (arXiv, 2026年8月17日) 概要:四種類の言語モデルを用いた一万超のエージェント集団で、数学問題と政治的命題をめぐる反復的な意見交換を観察した研究。相互作用による確信の増加、合意や分極、正答側への移動と政治的偏りを分析し、少数の変数からなる統計力学モデルで個体の更新と集団結果の分布を予測している。 AIの知性について語るとき、評価の単位はほぼ一体のモデルである。難しい問題をどれほど解けるか、誤答をどれほど減らせるか、人間の指示に従えるか。安全性についても、個々のモデルが危険な行動を避ける

Seo Seungchul
9月14日読了時間: 16分


AIは少子化を代替せず、雇用の役割を組み替える──AI時代の制度的な時間差
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Seth G. Benzell, Laurence J. Kotlikoff, Victor Yifan Ye, "The Global Transition – The Impact of Demographics and AI on Economic Power" (NBER Working Paper 35618, 2026年8月) 概要:150か国超を17地域にまとめた動学的一般均衡モデルを使い、国連の2017年版・2024年版人口予測と三つのAI・自動化シナリオを比較する。人口、国際資本移動、技術導入、GDP、賃金、金利、社会保障財政を2100年まで推計している。 AIが人間の仕事をどこまで奪うかという予測は、数字が大きいほどニュースになりやすい。何割の職務が影響を受けるのか。何百万人が職を失うのか。もちろん無視できない問いである。ただ、雇用者数だけを数えていると、別の変化が遅れて現れる。 仕事には、いま必要な財やサービスを作る役割がある。同時に、若手が失敗しながら技能を身につける場でもあり、給与から

Seo Seungchul
9月10日読了時間: 17分


ガイア仮説から複数の主体の共存へ──統合を前提にしない制度論
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Sergio Rubin, Conor Heins, Takahito Mitsui, Lancelot Da Costa & Karl Friston, "An elementary form of agency at planetary-scale" (Scientific Reports, 2026年8月3日) 概要:生命圏と気候の単純化モデルを能動的推論として分析し、惑星規模の最小限の行為主体性を検討する概念実証。公開中の受理原稿を参照した。 地球には、生命が存在できる条件が長く保たれてきた。太陽の明るさも大気の組成も変わるなかで、その持続を生命自身がどれだけ支えてきたのか。生命と環境の相互作用を考えるガイア仮説は、この問いを出発点に持つ。 セルヒオ・ルービン、カール・フリストンらの新しい論文は、生命圏と気候のモデルを能動的推論として分析し、そこに最小限の行為主体性を認められるかを検討している。生命量と温度、炭素循環、放射の結びつきを、環境へ作用しながら存続条件を保つ過程として読む試みである。...

Seo Seungchul
9月7日読了時間: 15分


OECDのAIスキル政策を「リスキリング」で終わらせない――能力・仕事・所得をつなぐ移行インフラ
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:OECD, "Skills in the AI age" (OECD Artificial Intelligence Papers, 2026年7月8日) 概要:AIが企業、仕事、労働市場を変える経路を整理し、基礎能力、ICT能力、補完的能力の組み合わせと、それを支える教育、企業訓練、生涯学習、移行支援を提案した政策報告書。 AIによって仕事が変わるとき、社会はすぐに「何を学び直すべきか」と問う。問いそのものは間違っていない。だが、問いの置き方が狭すぎる。必要な講座を用意し、本人が受講し、足りない能力を補えば、労働移動は成立する。そう考えるかぎり、学習を終えたのに能力を認められない人、資格を得たのに仕事へ入れない人、移行期間の所得を失って動けない人は、制度の外へこぼれ続ける。 OECDの『Skills in the AI age』は、こうした単純な再訓練論より慎重である。高度なAI技術を持つ少数者を増やせばよいとは言わない。読み書きや数的思考、情報通信技術を扱う力、批判的に考え、他者と協働する力を、広い層が組み

Seo Seungchul
9月4日読了時間: 14分


BISのAI投資競争論──技術成長後も残る金融脆弱性
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Phurichai Rungcharoenkitkul, "The AI Investment Race" (Bank for International Settlements, 2026年7月7日) 概要:少数の支配的地位を争う企業が社会的な収益を上回って資本を投入し、負債と循環的な出資関係が資産売却や企業間連鎖を通じてバストを深くする仕組みを、動学モデルと公開取引データから分析した論文。 AIへの設備投資が多すぎるかどうかを、いま確定することはできない。最終的な生産性も、企業や消費者の支払意思も、数年後のモデル市場の集中度も分からないからだ。後から余剰と判明する設備の一部は、未知の技術を探すために必要な重複だったかもしれない。 それでも、投資競争の金融的な危険を論じることはできる。投資総額の適否が分からなくても、生産性や需要が判明する前にどれだけ資本を固定したか、どれだけ負債を使ったか、出資と購入契約がどの企業に集中したかは観察できる。同額の投資でも、失敗したときの損失と伝わり方は同じではない。 Phur

Seo Seungchul
9月1日読了時間: 18分


鳥の翼はなぜ最適解に届かないのか──選択・発生・歴史が進化の経路を狭め、開く
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Benton Walters et al., "Theoretical morphospace reveals mixed optimisation of the avian wing planform for flight style" (Nature Communications, 2026年3月31日) 概要:現生鳥類1139分類群の翼平面形を理論的形態空間と比較し、七つの飛行ニッチに関連する性能を検討した研究。ホバリング、潜水、空中捕食では最適形への強い接近が見られたが、海洋滑翔鳥や多くのスズメ目は調べた性能指標で最適ではなかった。著者らは、翼形状への機能的制約が飛行様式によって不均一に働くと結論した。 アホウドリの翼を見ると、長距離飛行のために磨き上げられた形だと思いたくなる。細く長い翼は抗力を抑え、海の上をほとんど羽ばたかずに進む。その姿から、自然選択が用途に合った最適解を残したと考えるのは自然である。 だが、現存する鳥の中で最良であることと、理論上もっとも高い性能を持つことは同じではない。比較対象

Seo Seungchul
8月29日読了時間: 18分


神経科学者2,657人の哲学的分裂──単純化から現実へ戻る知性の条件
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Fabián Navarro-Peña et al., "Divergent philosophical commitments in neuroscience: Evidence from a global survey" (Proceedings of the National Academy of Sciences, 2026年7月15日) 概要:世界の神経科学者2,657人を対象に、心脳問題、自由意志、神経科学の現在と将来についての見解を調べた国際調査。回答は単純な決定論には収まらず、還元的物理主義、自由意志への支持、現在の知識への慎重な評価、将来技術への楽観が組み合わさっていた。 神経科学者は、人間の心をどこまで脳へ還元できると考えているのだろうか。 素朴な予想では、脳を研究する人ほど物理主義と決定論に傾き、自由意志から距離を取ることになる。だが、世界の神経科学者2,657人を対象にした調査では、回答はその一本の線に並ばなかった。心的活動を脳機能へ還元できると考える人が多数を占めた一方、自由意志を否定

Seo Seungchul
8月23日読了時間: 16分


AIと人間拡張の競争条件──個人・企業・国家が防御的需要をつくる
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Giovanni Immordino et al., "Human Enhancement Technologies: A Survey Experiment on Private Demand and Governance Preferences" (National Bureau of Economic Research, 2026年7月) 概要:人間拡張技術について、本人の利用意向、望ましい規制、課税・補助への態度、倫理的・社会的懸念を同じ調査実験で測定し、私的需要と統治選好のずれを検証した研究。NBERのワーキングペーパーであり、査読済み論文ではない。 ある技術を自分の身体には使いたくない。それでも、他人の利用まで禁じたいとは思わない。逆に、自分では使ってみたいが、誰でも自由に売買できる状態には不安がある。人間拡張技術を前にした私たちの判断は、このように複数の方向へ分かれる。 その分かれ方を、米国の成人5,556人に対する調査実験で確かめた論文がある。私的な利用意向と、社会に望む統治を同じ調査で測った研

Seo Seungchul
8月20日読了時間: 19分


FATFのDeFi報告書が示す規制の宛先──コードの外に残る人と組織
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回のレポート:"Targeted Report on Regulatory Challenges from Decentralised Finance (DeFi)" (Financial Action Task Force, 2026年7月21日) 概要:DeFiに伴うマネーロンダリング、テロ資金供与、拡散金融のリスクを整理し、既存のFATF基準の適用範囲、支配者や強い影響力を持つ者の判定材料、各国当局と民間事業者に求める対応をまとめた報告書。 DeFiの規制を調べていて、私は一つの違和感を持った。議論の多くが「分散型なら誰を規制するのか」という問いから始まる。ところが現実のDeFiには、コードを書き換える鍵があり、資金を配る財団があり、投票を動かす大口保有者がいる。利用者が触れるウェブアプリは、普通の会社が運営していることも珍しくない。 「誰もいない」のではない。金融サービスを一社で動かしていた時代には一か所にまとまっていた権限が、コード、鍵、トークン、資金、利用画面へ分かれている。 2026年7月にFATFが公表し

Seo Seungchul
8月1日読了時間: 14分


理解できないシステムの手綱を握る──AIの統治可能性という物差し
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回のレポート:Jennifer Waller Martin et al., "Power, Capital and Governance: Leadership in a Fragmented World" (Cambridge Judge Business School, 2026年7月15日) 概要:金融機関のCEOや経営幹部、研究者による討議をまとめたホワイトペーパー。Power/Capital/Governanceという三つの問いから、AI、地政学、情報環境の変化が企業統治に与える影響を論じ、経営者への三つの行動原則を提示している。 見えないシステムを、それでも統治しなければならない。 ケンブリッジ大学Judge Business SchoolとBain & Companyが2026年に公表した報告書『Power, Capital and Governance: Leadership in a Fragmented World』は、この一文に今後十年の企業経営を要約している。 金融機関のCEOと経営幹部、研究者が

Seo Seungchul
7月25日読了時間: 9分


生成AIを導入しても変われていない日本企業──PwC 6カ国調査が明らかにする課題の構造
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回のレポート:三善心平、他, "生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較" (PwC, 2026年6月10日) 概要: 日本を含む6カ国の大企業管理職(売上高500億円以上・課長職以上・生成AI導入関与者)を対象とした生成AI活用実態調査。日本企業の導入率87%に対し、期待を大きく上回る効果創出は9%で6カ国最低、成果の従業員・顧客への還元も40%にとどまることを明らかにし、AI Readiness・Evaluation・Activationの3サイクルによる変革を提言。 AIは科学的発見をしたのか? この問いに答えようとすると、まず「発見」という言葉の意味が揺れる。新しい分子を設計した、新しい材料候補を見つけた、新しい仮説を生成した。これらは発見だろうか。それとも、既存の探索空間の中で、まだ試されていなかった組み合わせを見つけただけだろうか。 MITのFiona Y. WangとMarkus J. Buehlerが2026年5月に発表したプレプリントは、この問いに構造的な回答を与えようとしている。 PwC調

Seo Seungchul
7月22日読了時間: 15分


探索は枠の中を回り、発見は枠を書き換える──AI科学者論の制度設計と、その応用可能性
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Fiona Y. Wang et al., "Self-Revising Discovery Systems for Science: A Categorical Framework for Agentic Artificial Intelligence" (arXiv, 2026年5月31日) 概要:AIによる科学的発見を、答えの生成ではなく表現レジームの更新として定義し直し、カテゴリ理論を用いて監査可能な形式を与える枠組みを提案。タンパク質力学と繊維ネットワーク力学の二つの事例で実装。 AIは科学的発見をしたのか? この問いに答えようとすると、まず「発見」という言葉の意味が揺れる。新しい分子を設計した、新しい材料候補を見つけた、新しい仮説を生成した。これらは発見だろうか。それとも、既存の探索空間の中で、まだ試されていなかった組み合わせを見つけただけだろうか。 MITのFiona Y. WangとMarkus J. Buehlerが2026年5月に発表したプレプリントは、この問いに構造的な回答を与えようとして

Seo Seungchul
7月19日読了時間: 12分


量子状態の「隔たり」から、時空が立ち上がる――多様体仮説と、時空という圧縮
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Koji Hashimoto et al., "Holography and Optimal Transport: Emergent Wasserstein Spacetime in Harmonic Oscillator, SYK and Krylov Complexity" (arXiv, 2026年4月19日) 概要:量子状態を確率分布として表し、その分布間の最適輸送距離(1-Wasserstein距離)を測ると、量子状態の巨大な空間から低次元の幾何が立ち上がるとする提案。調和振動子とSYKモデルで検証し、開放量子系の緩和からブラックホール的な時空を再構成する。1-Wasserstein距離が一般化Krylov complexityと一致することも示す。 時空とは何か。私たちはそれを、物が置かれる器だと考えることに慣れている。空間がまずあり、時間があり、その舞台の上で物質がふるまう。器は中身に先立って存在する。この素朴な像は強固で、日常の思考をほとんど支配している。 だが現代物理の一角では、この前提そのも

Seo Seungchul
7月15日読了時間: 10分


笑いは、二つの神経回路でできている――二重システム仮説と、お笑いという文化技術
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回の論文:Fausto Caruana et al., "The neural basis of laughter" (Trends in Neurosciences, 2026年6月23日) 概要:てんかん外科における直接電気刺激研究をはじめとする侵襲的知見を統合し、笑いを自発的・情動的な神経系と随意的・会話的な神経系の二重構造として説明するレビュー論文。 漫才を見て腹を抱えて笑うのと、上司の冗談に相槌代わりの笑いを返すのとでは、体の中で起きていることがどうも違う。前者は止めようとしても止まらない。後者はこちらが選んで出している。同じ「笑い」という言葉でくくられているが、この二つは本当に同じ現象なのだろうか。 2026年6月、Trends in Neurosciences 誌に一本のレビュー論文が公開された。筆者はFausto CaruanaとSophie K. Scott。てんかん外科手術の過程で脳に電極を入れ、直接電気刺激を与えるという特殊な臨床研究を軸に、笑いには少なくとも二つの異なる神経システムが関わっていると

Seo Seungchul
7月12日読了時間: 11分


手段を教えるだけではなく、目的を問うAIリテラシー教育へ――Royal Societyレポートから見えてきた、もう一つの欠落
シリーズ: 論文渉猟 ◆今回のレポート:Veli Hilman et al., "A Rapid Review of AI Literacy Frameworks, with Policy Recommendations" (Royal Society, 2025年) 概要:世界各地で提案されている20のAIリテラシー枠組みを、115本の文献レビューをもとに分析した報告書。多くの枠組みが技術的理解に偏り、人権・民主主義・環境影響などの人間的次元を軽視している現状を指摘し、教育制度・教員研修・産業界との関係のあり方について7つの提言をまとめている。 AIリテラシーという言葉が、学校でも企業研修でも急速に広がっている。プロンプトの書き方、生成AIの活用術、AI時代に求められるスキル。教材は増え、研修は組まれ、政策文書にも頻出するようになった。 だが、この言葉が指すものは、本当に子どもたちに必要な力を捉えているのだろうか。イギリスのRoyal Societyが二〇二五年に発表した調査は、世界各地のAIリテラシー教育の枠組みを横断的に分析し、そこに共通す

Seo Seungchul
7月9日読了時間: 11分
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