top of page
Convisage
本ブログの内容は、あくまで代表 徐勝徹の個人的な見解であり、Projeteam, Inc.の公式見解や業務上の立場を示すものではありません。
検索

行雲流水
雑考ブリコラージュ


「間違えない政府」という幻想──学習を万能解にしない制度設計論
シリーズ: 行雲流水 新しい技術に対して、政府はどれくらい速くルールを作るべきなのか。AI、暗号資産、自動運転、バイオテクノロジーのような領域では、この問いが繰り返し立ち上がる。対応が遅ければ、技術と市場が先に動き、法制度は後から実態を追認するだけになる。逆に、十分な情報が揃わないうちに急いでルールを固めれば、実態に合わない規制を作り、予期しない被害を生む可能性がある。 この問題は、しばしば「イノベーションを阻害しない迅速な規制」と「安全性や権利を重視する慎重な規制」の二者択一として語られる。シンガポールは速い、ヨーロッパは慎重だ、という国別の比較も繰り返し持ち出される。 しかし、この対立の立て方自体を疑うところから始めた方がよい。速さと慎重さのどちらを選ぶかという問いは、実のところもっと古く、もっと深い緊張の上に、技術変化という新しい制約が重なって生じたものにすぎない。本稿では、政治学者ジェームズ・フィシュキンが示した民主主義の構造的な緊張から出発し、規制のサンドボックス、熟議型のミニ・パブリック、そして「学習する政府」という像まで、順を追って

Seo Seungchul
5 日前読了時間: 20分


動かせなかったのは情報ではなく認知だった──認知・権威・権限を束ねていた理由が、いま外れる
シリーズ: 行雲流水 情報技術の歴史を三段階で語るのは、それほど難しくない。ウェブは情報の流速を上げた。その次の段階は、情報を出す主体を少数から多数へ広げ、流れる方向を多方向化した。では大規模言語モデルは何を変えるのか。 ひとつの答え方は、情報を必要とする場所が変わる、というものである。表現としては面白いが、そのままでは何も言っていない。情報はいつの時代もどこかで必要とされていた。 言い直せば、こうなる。非定型な情報から意味を取り出し、比較し、推論し、判断を組み立てる作業を行う主体が、これまで基本的に人間だった。だから社会は、そうした作業が必要な場所に人間を配置し、その人間へ情報を運ぶように作られてきた。営業報告が課長へ、検査結果が医師へ、申請書が担当官へ届くのは、そこに読んで判断できる者を置かなければならなかったからである。 この前提が、部分的に外れはじめている。 本稿が追いたいのは、そこから先である。人間の認知能力は、育成に時間がかかり、複製できず、同時に複数の場所へ置けない、場所に縛られた希少な資源だった。この制約は、組織の形だけでなく、誰

Seo Seungchul
5 日前読了時間: 19分


「打たれ強い国」の議論が飛ばしている問い──安全保障を、社会に残る選択肢の分布で測り直す
シリーズ: 行雲流水 勝てる軍隊より、負けない国家をつくるべきだ。そういう主張を見かけることがある。圧倒的な相手と同じ土俵で競争するのではなく、基地や兵器を分散し、弾薬と燃料を備蓄し、指揮通信を冗長化する。初撃で機能停止しない状態をつくり、短期間では屈服させられないと相手に思わせることで、攻撃そのものの魅力を下げる。軍事戦略としては筋が通っている。 だが、この主張には飛ばされた問いがある。軍事的に持ち堪えたとしても、その過程で社会と経済が回復困難なまでに壊れるなら、戦い続けられること自体を成功と呼べるのか。 政府は残っている。軍隊もまだ戦える。弾薬もある。しかし都市機能は停止し、企業は倒れ、医療は崩れ、物流も教育も止まっている。この状態を負けていないと定義することはできる。定義はできるが、それが防衛の目的にかなっているかは別の話である。 防衛が守ろうとしているのは、軍隊という組織の存続ではない。少なくとも自由な社会において守られるべきものは、そこで暮らす人々の生命と生活、自由、政治的な自律、そして彼らが営んでいる社会そのものだろう。だとすれば、ど

Seo Seungchul
5 日前読了時間: 21分


投資方針は、点検の条件とともに残す──AIと進めた継続点検の開発
シリーズ: 行雲流水 投資の研究を終えても、その判断がいつまでも通用するとは限らない。金利も保有も変わる。以前の検討を時折もう一度走らせられないか。その問いから、AIと投資研究の継続点検をプログラムにする作業へ進んだ。 既存ポートフォリオの検討では、投入方法や配分、リスク指標、投資成果を測る基準を確かめた。画期的な改善策を発見したわけではないが、自分が何を目的にリスクを取っているかは整理できた。別の利益の仕組みを探す研究も続いている。 再利用する計算では、以前の入力と最新の入力を区別し、計算規約と結果の意味を残す必要があった。数値が動いたことだけで、保有理由を変えるべきかは決まらない。再考する条件を記録することも、開発の仕事になった。 できた仕組みには225指標があり、33指標に判定ルールを置き、192指標には置いていない。ただし、2026年9月17日時点で確認できた利用は、同じ保存時点同士の比較一回までである。継続運用の効果を検証した話としては書けない。 以下は、提供されたChatGPTの会話整理とClaude Codeの保存資料照合回答に基づ

Seo Seungchul
9月22日読了時間: 8分


暴落待ちから投資の目的まで問い直す──AIと進めた戦略研究の記録
シリーズ: 行雲流水 大きく下がったら買う。そのつもりで低リスク資産を残し、平時には少しずつリスク資産を増やしていた。だが、暴落を待つ間にも相場は上がる。予定より投資を控えた状態が長く続いていた。 この判断をAIとコードで検証した。下落時に買いを増やす。値動きが激しければ抑える。反発を確認して再開する。思いつくルールを実装し、手元の資金を一度に使わず、毎月などの決まった間隔で、一定額ずつ投資する「時間分散」と比較した。 ところが、研究が進むほど、比較を作る前提を疑う必要が出てきた。投入速度、実際の購入対象、リスク指標、資産の分類。最後には、自分が何に対して資産を増やしたいのかを聞き直すことになった。 これは、個人投資家が自分の方針を仮説へ変え、結果を受けて問いを修正した記録である。既存資産の持ち方に区切りを付け、現在は別の利益の仕組みを実践へ近づける研究に戻っている。特定の配分や投入期間を最適解として提示するものではない。 個人資産の実額と口座別残高は掲載しない。必要な比率と研究要約の概数を使い、研究の流れが追える範囲へ圧縮している。 暴落待ちを

Seo Seungchul
9月19日読了時間: 15分


AIファースト組織を、記憶と学習から考える──プロンプトエンジニアリングからグラフエンジニアリング、その先の組織開発へ
シリーズ: 行雲流水 AIに仕事を任せて、期待した成果が返ってこない。指示を書き直し、役割を与え、手順を細かく指定する。依頼する側の関心は、どう言えばうまく動くかに向かう。新しく部下を持ったマネージャーにも、似た場面があるだろう。 しかし、管理する経験を積むと、成果を左右する条件が指示の外側にもあると気づく。判断に必要な情報は渡したか。使える道具と決めてよい範囲は整えたか。途中で確かめ、失敗から戻れる仕組みはあるか。やがて、一人の能力からチームの関係へ目が向く。 この視野の広がりを手掛かりに、AIシステムの設計を眺めてみたい。プロンプトからコンテキスト、ハーネス、ループ、グラフへと、考える対象を広げる整理がある。その並びをたどると、AIを働かせる技術が、組織を構成する経営判断へ接近する理由が見えてくる。 そこで、一人会社を今日ゼロから作る思考実験を置く。利用できる人間とAIの能力を前提に、仕事、権限、記憶をどう配置するか。さらに、その会社を数年間運営すると、何が社内に残り、誰が判断する力を持つようになるのか。AIファースト組織を、この時間の長さま

Seo Seungchul
9月16日読了時間: 20分


状態連動型トークンの設計条件──オラクル・経済原資・行動の閉ループ
シリーズ: 行雲流水 LAPTOPを厳しく評価した後にも、一つだけ捨てにくい発想が残る。現実世界で起きたことが、注目や売買を介して価格へ影響するだけでなく、トークンの内部状態を直接変えるという発想である。LAPTOPでは、政治、文化、市場、メディアにまたがる三十の予測が、将来供給のバーンまたは慈善枠への移管に結びつけられた。 だが、良い出来事が起きたら供給を減らすだけでは、出来事とトークンの関係は物語上の連想にとどまる。二酸化炭素の排出量が減ったとき、環境を掲げるトークンをバーンすれば見栄えはよい。しかし、なぜ排出量の減少が保有者の希少性を高めるべきなのか。答えが「成功したからご褒美」だけなら、経済の仕組みではなく拍手を金融化したにすぎない。 状態連動型トークン (state-linked token)を協力の道具へ進めるには、単発の出来事を継続的な状態と変化の軌道へ置き換え、測った現実と変更する権利の間に経済的な理由を通し、誰が現実を判定するかを制度として設計しなければならない。さらに、指標を稼ぐ近道、保有者と貢献者の混同、報酬原資の枯渇を避け

Seo Seungchul
9月13日読了時間: 15分


LAPTOPのバーン設計は何を生むのか──価格形成と需要アンカーの分離
シリーズ: 行雲流水 暗号資産の配分表には、たいてい総供給量、創業者の持ち分、ロック期間、バーンの条件が並ぶ。LAPTOPの表は、その中でも凝っている。政治、文化、暗号資産市場、メディア、自らの市場評価に関する三十の予測を置き、条件が成立すれば対応分をバーンし、成立しなければ慈善枠へ移す。 一見すると、現実のニュースを供給政策へ取り込んだ新しいトークンに見える。ところが、部品を一つずつ調べると先行例がある。得点や勝利に応じたバーンはSociosが二〇二一年に実施していた。Chilizは二〇二六年、勝敗に応じた発行とバーンに予測市場まで組み合わせた。価格に応じた供給調整ならAMPLがあり、出来事の金融化ならPolymarketがある。 それでもLAPTOPは面白い。異質な出来事を、一つの実体の成績ではなく、一つの物語に関係する状態として束ねたからだ。ただし、この組み合わせが精巧であることと、長く保有される価値を生むことは同じではない。むしろLAPTOPは、トークノミクスが供給を細かく管理する一方、需要を共同体の感情へ預けてきた偏りを見やすくした。

Seo Seungchul
9月12日読了時間: 11分


GPT-6 Astraの見えない推論──言語の外から始まる知性の比較解剖学
シリーズ: 行雲流水 2026年9月、OpenAIはGPT-6 Astraを公開した。ベンチマークの首位がまた入れ替わった、と見ることもできる。だが、今回もっと注意したい数字は総合点ではない。言語化された推論過程を使わせない条件で、Astraが解ける数学問題の範囲が旧モデルより大きく広がったという評価である。 その数字からAstraの内部構造は分からない。COCONUTを使っているとも、同じ計算ブロックを繰り返す再帰的深度モデルだとも確認されていない。現時点で断定できるのは、複雑な課題をこなす能力と、外から読める推論の量が、以前ほど素直には対応しなくなったことだ。 このずれはAIの安全性にとって厄介である。途中の言葉を読めば何をしているか分かる、という監視方法の足場が弱くなるからだ。しかし問題は監視だけに閉じない。考えることと言葉にすることが別々に動くなら、知性を言語的推論の量で捉えてきた私たちの見方も修正を迫られる。 AIは人間の心を再現した模型ではない。むしろ、人間とは異なる仕組みで知的課題を処理するところに価値がある。その違いを利用すれば、

Seo Seungchul
9月9日読了時間: 17分


AI能力の拡散と希少性の移動──蒸留・オープンウェイトによる産業再編
シリーズ: 行雲流水 最先端のAIを開発する企業は、まだ解き方の分からない問題に資金を投じる。どんなデータを集め、どの学習方法を選び、何を失敗と判定するか。完成したモデルの背後には、製品の説明には載らない試行錯誤がある。そのモデルの回答を教材として別のモデルを育てられるなら、後発企業は探索の一部を省ける。先行者が支払った費用と、追随者が支払う費用に差が生まれる。 蒸留と呼ばれるこの技術に、学習済みモデルの重みを配布するオープンウェイト (open weights) が組み合わさると、獲得された能力は一社の製品にとどまらない。別の開発者が改変し、用途を絞り、さらに配布できる。何をどこまで認めるかは、AI企業の研究費回収と、利用者が自分で技術を管理する余地の双方に関わる。 2026年7月の公開書簡とアンソロピックの応答は、その争点を具体的にした。そこには、公開を支持する企業と否定する企業という区分だけでは捉えきれない違いがある。まず蒸留とオープンウェイトが今後の競争をどう変え得るかを考えたい。知的成果の所有や社会的な支配の問題は、その競争をたどった先

Seo Seungchul
9月6日読了時間: 19分


究極の統治者なき高密度協調――AI 2027とAI 240 Plan Aの政治理論
シリーズ: 行雲流水 二〇二五年に公表された「AI 2027」は、超人的AIが現れる日を当てるだけの予測ではなかった。架空の企業、研究者、政府、中国側の開発拠点を置き、AIがAI研究を担い始めた後の数か月を具体的に動かした。そこで壊れていくのは、AIの安全技術だけではない。企業統治、国家の意思決定、米中間の危機管理も、研究速度に追いつかなくなる。 翌二〇二六年、同じAI Futures Projectが公表した「AI 2040: Plan A」は、その失敗を避ける制度案を描いた。米中が超知能への競争を遅らせ、研究を公開し、計算資源を相互に検証し、最先端の能力を複数の国と企業へ広げる。AI 2027が問題を置き、Plan Aが一つの解を置いた、と読める。 ただ、両者を続けて読むと、もっと大きな問いが残る。競争を止める権限を持つ者は、世界中の計算資源と研究活動を見渡し、場合によっては停止させなければならない。AIによる権力集中を防ぐための制度が、それ自体として強力な権力になる。 ここに二つのシナリオの政治的な価値がある。問われているのは、権威を一か所

Seo Seungchul
9月3日読了時間: 19分


平均リターンとボラティリティドラッグ──生存制約下で組み直す長期投資
シリーズ: 行雲流水 運用成績の表に「過去10年の平均リターン8%」と書かれていたら、多くの人は100万円が毎年8%ずつ増える姿を思い浮かべる。10年後の金額を計算機に入れ、将来を少し先取りした気分にもなる。 だが、その8%が算術平均なら、資産が年8%の複利で増えたとは限らない。毎年の元本は、その前の年の損益によって変わる。投資成果は率の足し算ではなく、変化した元本への掛け算として残るからだ。 この違いは、金融数学の小さな注意事項に見える。実際には、長期投資の目的をどこに置くかという問題まで届く。高い平均リターンを求めるだけでは、途中の大幅損失や資金需要、強制清算、狼狽売りを扱えない。反対に、変動を小さくすることだけを目標にすれば、必要な成長まで失う。 長期投資で最大化すべき量を一つ挙げるなら、単純なCAGRでは足りない。必要な流動性を残し、許容できない損失を避け、方針を継続できるという制約の内側で、実現可能な複利成長を求める。この順番がよい。 二つの平均 100万円が一年目に50%増え、二年目に50%減ったとする。残高は100万円から150万円

Seo Seungchul
8月26日読了時間: 14分


レアアースは鉱脈を掘り当てても、中国には勝てるわけじゃない──経済安全保障と根気の話
シリーズ: 行雲流水 中国がレアアースの輸出を制限するとほのめかすたびに、自動車メーカーの株価が動く。理由を尋ねると、たいてい同じ答えが返ってくる。中国にしかこの資源がないからだ、と。 だが、この説明には無理がある。レアアースは世界のあちこちに存在する。米国にも豪州にも、ブラジルにもアフリカにも、地質学的にはまとまった鉱床がある。それでも世界は中国に依存し続けている。 だとすれば、問うべきことは変わる。なぜ資源が他にもあるのに、中国だけが優位を握れているのか。そして、その優位はいつからの、どんな計画の産物なのか。 鉱石という思い込み レアアースは、ランタノイド十五元素にスカンジウムとイットリウムを加えた十七元素の総称である。ネオジムやプラセオジムは高性能磁石に使われ、ジスプロシウムは磁石の耐熱性を高める。セリウムは触媒や研磨剤として使われる。名前が示す希少さは、実は誤解を招きやすい。 地殻中の存在量そのものは、それほど偏っていない。多くの岩石に微量ながら含まれている。問題になるのは、経済的に採掘・分離できる濃度でまとまって存在するかどうかである。

Seo Seungchul
8月2日読了時間: 11分


閉じない「われわれ」をどうつなぐか──マルチチュードとポピュリズムが交わる場所
シリーズ: 行雲流水 前回たどり着いたのは、人民を強く構築する技術と、構築された人民が民主主義を壊さずにいる技術は別の達成である、という結論だった。そして議論は、その後者を「どう縛るか」という方向へ向かった。判定の機関を複数持つこと、自己制約を相互保障として設計すること、敵対線の引き方を三つの水準に分けること。 ただし、縛ることだけが答えなのかという問いが残っている。制約は、すでにできあがった人民を外から押さえる仕組みである。それとは別に、一度固まった「われわれ」そのものを、もう一度複数の要求へ戻す道はないのか。 この問いを引き受けてきた理論は、実は存在する。マイケル・ハートとアントニオ・ネグリのマルチチュード論である。差異を溶かさないまま共同で行為する主体という構想は、代表による主体の収奪と、指導者への権力集中を、当初から警戒の対象にしてきた。 もっとも、この理論は2000年代の勢いを失い、現在では単独の看板として語られることが少ない。したがって本記事は、まずその後退の内実を確かめるところから始める。何が説明できずに退いたのか、そしてどこへ引き

Seo Seungchul
8月2日読了時間: 13分


敵対者と敵の間は、紙一重でしかない──MAGAが浮き彫りにする闘技民主主義の課題
シリーズ: 行雲流水 理論と現実が似た形をしていると、人はそれを証明だと受け取りたくなる。 前回記述したMAGAの姿は、シャンタル・ムフが左派のために構想してきたものと、いくつもの点で重なる。異なる要求を一つの人民としてまとめ、共通の敵対線を引き、情念を政治の構成要素として扱い、既存のエリート支配に対抗する主体を作る。設計図と実物が並んでいるように見える。 しかし、似ていることと、証明されたことは違う。そして、似た形が期待どおりの結果に至らなかったからといって、それが反証になるわけでもない。MAGAはムフの構想の何を裏づけ、何を裏づけなかったのか。この問いを丁寧に扱うことは、単なる学説上の作業ではない。ここを曖昧にしたまま「ポピュリズムは有効だ」あるいは「ポピュリズムは危険だ」と結論すると、そこから導かれる制度的な処方まで大きく狂うからである。 本記事では、評価の作業を三段階に分けて進める。何が実証で何が例証かを分け、理論の内部で誰の主張がどこに属するかを分け、そのうえで、批判が本当に当たる場所を特定する。 実証と例証を分ける...

Seo Seungchul
8月2日読了時間: 10分


MAGAは、一つの主義でできていない──政治運動として見たMAGAの内部構造
シリーズ: 行雲流水 政治運動を評価するとき、私たちはたいてい、その運動が何を主張しているかを見る。しかしMAGAについては、その入り方がうまくいかない。 この運動の内部には、減税を求める富裕層と社会保障を必要とする労働者が同居している。自由市場を信じる勢力と保護主義を求める勢力、海外への軍事関与に積極的な安全保障強硬派と関与そのものに反対する勢力、宗教保守とテクノロジー系のリバタリアンが並んでいる。関税、社会保障、対外介入、企業規制のいずれについても、内部の対立は小さくない。 さらに、運動が掲げる政策の中身自体が、これまでに大きく動いてきた。それでも、離脱による分裂は起きていない。利害の異なる集団が同じ組織に残り続けるには、通常なら明確な妥協か、強い規律か、共通の利益構造のいずれかが必要になるはずだが、そのどれも教科書的な形では見当たらない。 したがって、主張の内容からこの運動を理解しようとする限り、説明はどこかで行き詰まる。見るべきなのは、何が主張されているかではなく、誰が何を作り、誰がそれを認めているかという分業の形である。 「分散型」とい

Seo Seungchul
8月2日読了時間: 9分


AI時代に「責任」はどう変容するか──判断する能力と責任を負う立場がずれていく構造
シリーズ: 行雲流水 AIが出した結論に、人間が画面上でボタンを押す。その一押しが、後になって「人間が最終的に確認した」という説明の根拠に使われることがある。だが、その一押しは、法的責任を成立させるに足る行為だったのか。ここには、AI時代の責任論の全体が凝縮されている。 確認という行為の内側 与信審査や保険の査定など、AIが結論を出し、担当者がそれを画面上で確認して進める仕組みは、すでに広く使われている。問題が起きたとき、この確認は「人間が最終的に判断した」という説明として持ち出される。だが、一日に数百件を数秒単位で処理する担当者に、独立した検証の時間はない。拒否すれば業務が滞り、評価が下がる。この構造のもとで、人間は意思決定者ではなく、責任を帰属させるための場所になる。 人間が意思決定の過程に存在することと、実際に意思決定していることは、同じではない。この区別は当たり前に見えるが、AIが絡んだ途端に見えにくくなる。安全のために置かれたはずの人間の確認が、免責のための手続きへとすり替わる余地が生まれるからだ。 確認という行為が法的な意味での判断と

Seo Seungchul
8月2日読了時間: 8分


エージェントAIは組織論をどう変えるか──摩擦・膜・プロトコル
シリーズ: 行雲流水 会議を削れ、稟議をなくせ、承認プロセスを短くしろ。エージェントAIの導入をめぐる議論は、たいていこの方向に走る。速くなること自体は、疑いようのない善として扱われる。 だが、実際に摩擦を削り切った組織を想像してみると、どうも様子がおかしい。速くなったはずなのに、何かが薄くなっている感触が残る。本稿では、その感触の正体を摩擦・膜・プロトコルという三つの層から辿り直してみる。 統治は摩擦を必要とする 会議、稟議、上司への確認、部署間の調整。これらは経営効率化の文脈では、しばしば単なる遅延として扱われてきた。情報を運ぶだけなら、AIエージェントの方が速く正確である。だとすれば、これらの仕組みは削って然るべきだ、という結論が自然に導かれる。 しかし、この結論は摩擦が果たしていた機能を一面的にしか見ていない。会議の場では、議事録には残らない誰かの表情の変化から、異常が拾われることがある。稟議では、複数人が順番に承認を与える過程を通じて、責任の所在が段階的に固定されていく。部署間の調整では、利害の対立が事前に可視化され、実行後の摩擦を未然

Seo Seungchul
7月31日読了時間: 7分


大きな物語を探すのをやめると、設計の話が始まる──痩せた中間層と審判のいない上空
シリーズ: 行雲流水 人間が最も長く警戒してきた相手は、多くの場合天災でも猛獣でもなく、知らない人間だった。虎の行動は読める。しかし隣の谷から来た集団が何を考えているかは読めない。資源を奪うかもしれず、暴力を振るうかもしれず、病を持ち込むかもしれない。読めない相手を警戒することは、生存の条件だった。 それでも人類は、この読めない相手を、話が通じて利害を調整できる相手へと変えてきた。交易し、婚姻し、同盟を結び、貨幣と法と国家を発明し、外の人間を少しずつ社会の内側に入れてきた。人類史の大きな線を一本引くとすれば、この線になる。 問題は、その作業がどこまで進んだのか、である。 本稿の見立てでは、作業は途中で止まっている。外集団はもはや即座に殺すべき敵ではない。しかし競争相手として制度的に再構成されたまま残っている。そしてその競争が置き直された場所を特定しない限り、この議論は道徳論に堕ちる。 敵ではなく、高いリスクと高いリターンが同居する相手 出発点を正確に置いておきたい。 外集団を単純な敵として描くのは、粗い。見知らぬ集団は暴力と資源争奪と病原体のリス

Seo Seungchul
7月30日読了時間: 18分


名作は繋ぎ、佳作は織る──漫画という民衆的メディアの自由さ
シリーズ: 行雲流水 漫画の名作と呼ばれる作品は、実のところそれほど多くない。数えるほどしかない、と言ってもいい。それにもかかわらず、書店の漫画棚はいつも隙間なく埋まっている。大きな話題になったわけでもなく、誰もが知っているわけでもない作品が、棚の大半を占めている。 この厚みを、単に「読者が多いから」と説明するのは無理がある。読者が多いということは、通常は少数の当たりと多数の外れという分布を生むはずだ。ところが漫画の棚に並ぶ無数の佳作は、外れとして淘汰される前に、そもそも作品として存在してしまっている。問うべきは「なぜ売れるのか」ではない。「なぜこれほど多くのものが、そもそも作品になり得るのか」という、生産の手前にある条件のほうだ。 一人で成立するという条件 漫画は、極端に言えば紙とペンがあれば一人で始められる。もちろん商業誌に載る作品には編集者、アシスタント、出版社、プラットフォームが関わり、人気作になればアニメ化やグッズ展開を含む大きな産業にもなる。その意味で、漫画制作の現場を単純に「軽い」と理想化するのは正確ではない。 それでも、成立の最低

Seo Seungchul
7月28日読了時間: 8分
bottom of page