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AIに追われた人と、SNSに疲れた人は、どこへ向かうのか――「人間的な場」への渇望

更新日:5月8日



シリーズ: 行雲流水


SNSから離れているのに、SNSを使い続けている——そんな状態を、どう説明すればいいでしょう。2025年の調査では、米国の10代の48%が「SNSは同世代に概ね悪影響だ」と答えました。2022年には32%だったのが、わずか3年で跳ね上がっています。でも95%のZ世代は、依然として何らかのSNSを使い続けています。心理的には離脱しながら、身体はまだそこにいる、という奇妙な状態です。


この話と、全く別のところで起きていることを並べてみます。AIによる採用抑制や業務自動化によって、翻訳者・ライター・初級エンジニアといった「平均的な知識労働者」が、雇用の周縁に追いやられ始めています。彼らが向かっている先も、奇妙なことに「小さく、招待制で、人間的な」場所です。


富良野とPhronaがこの二つの動きを話し込むうちに、ある問いが浮かびあがってきました。「本物」への渇望が、まったく異なる出発点を持つ人たちを、同じ方向へ引き寄せているとしたら——それはどういうことなのか、と。答えは出ませんでしたが、問い自体が面白い場所に着地しました。




熱量が死ぬとき——「使い続けている」の内側


富良野: Z世代のSNS離れって、データを見てみると「離れている」とはあまり言えないんですよね。利用率は微減で、95%はまだ何かしら使っている。でも「SNSは同世代に悪影響だ」と答えた10代が、3年で32%から48%まで跳ね上がっている。


Phrona: 使いながら、有害だと思っている。それって相当しんどい状態ですよね。やめられないというより、やめるという選択肢の重さがわからない、という感じに近いかもしれない。


富良野: GWIの分析だと、「友人と繋がるため」「自己表現のため」にSNSを使う割合が10年前比で25%以上落ちていて、代わりに「反射的に暇つぶしでアプリを開く」行動が増えているんです。動機が消えている、というか。


Phrona: 目的なく開く、って、もはやSNSを使っているというより、SNSに使われている状態に近くないですか。意思が介在しない習慣の中に埋め込まれた行動で。


富良野: 「心理的離脱」という言葉がレポートに出てくるんですが、アカウントはあるし投稿もされているのに、内側の温度が下がっている状態、というイメージが近い。


Phrona: 熱量の死、という感じがします。量は残るけど意味が抜けていく。Oxford大学出版局が2024年の「今年の単語」に「brain rot」を選んだのも、この感覚と地続きな気がして。


富良野: 日本語に訳すと「脳の腐敗」になるんですが、デジタルコンテンツを際限なく消費することで思考力が落ちていく感覚を指す言葉らしいです。バイラルになるほど広まった。


Phrona: 自分がそうなっていると感じている人たちが、その言葉を笑いながら使う、という。自嘲の共同体みたいな現象ですよね。


富良野: しかも「量は変わらないのに熱量が死んでいる」という状態ってかなり特殊だと思うんです。行動は続いているのに意味が失われている、というのは普通の「飽きた」とは違う。


Phrona: 飽きたなら使わなくなるはずなのに、使い続けている。たぶん、代わりの場所がまだ見つかっていないからでもあって。行き先を決めないまま、とりあえずそこにいる、という状態。



「本物」がわからなくなる——AI識別9%という数字


Phrona: この話をAIと絡めると、もっとねじれた話が出てくるんですよね。Adobe(2024年)の調査では、米国成人の87%が「AIのせいで事実とフィクションの区別が難しくなった」と答えている。


富良野: でも別の実験では、AI生成の画像を正しく識別できた人がわずか9%しかいなかった。正解率がほぼランダム——つまりほとんど当てずっぽうと変わらない水準です。


Phrona: 区別できないのに、不信感だけが強まっている。感覚と能力がずれている状態ですよね。怪しいと感じているけど、どれが怪しいかはわからない、という。


富良野: その状態を「真実疲労(truth fatigue)」と呼ぶ研究者がいて。超リアルなフェイク情報への曝露が続くと、事実とフィクションを見分ける自信そのものが失われていく、という現象だそうです。ロイター研究所とミシガン大学の研究が示した概念です。


Phrona: 見分けようとすること自体をやめてしまう、という。毎回全部検証するのはコストが高すぎるから、もう全部に疑問符をつけて薄めに信じる、という防衛反応として。


富良野: Attest(2026年)のZ世代調査では、31%が「何が本物かわからなくなった」と答えているんですが、同じZ世代の79%はAIツールを日常的に使っている。使う側と不信を持つ側が、同じ人の中に共存している。


Phrona: 「実用的懐疑主義」という言葉が出てきましたよね、レポートに。道具としては使う、でも産出物は信じない、という分離が起きている。包丁は使うけど、包丁で切った食材を疑う、みたいな。


富良野: ちょっと極端な比喩ですが(笑)、でも構造としては近い。Sprout Socialの2026年調査では、Z世代の50%がAI slopを理由にアカウントをブロック・ミュート・アンフォローしていて、全世代で最高率。


Phrona: AI slopというのはAI生成の低品質コンテンツのことで、Merriam-Websterが2025年の単語に選んでいるんでしたっけ。辞書が採用するくらい、現象として定着しているということで。


富良野: 「本物」への渇望、という言い方ができそうです。識別できなくなったからこそ、逆に「これは人間が作った」という確かさを強く求めるようになっている、という。


Phrona: でも「人間が作ったから本物」というのも、思い込みかもしれなくて。本物らしさの感覚って何なのか、というのは、それはそれで掘っていくと深い問いになりますよね。



専門家が押し出される場所——「平均への不寛容」という構造


富良野: SNS離れの話とは全く別のところから始まった調査なんですが、繋がってくるのがエキスパート側の話で。AIが雇用に与えている影響として「仕事を消滅させるというよりも、平均的なパフォーマンスへの容認度を消滅させている」という分析があって。


Phrona: 消滅させるのではなく、許容されなくなる。ニュアンスが違いますね。仕事そのものはあるけど、AIと同じレベルかそれ以下の人はいらない、という圧力が生まれている、ということで。


富良野: セントルイス連銀の分析では、AI露出度の高い職種ほど失業率の上昇幅が大きくて、相関係数が0.47。翻訳・ライティング・初級コーディングはフリーランス市場でも需要が30〜50%減っているケースがある。


Phrona: 22〜25歳のソフトウェア開発者の雇用が2年半で20%減、というデータもありましたよね。エントリー層が最も打撃を受けている、という。キャリアの入口が塞がれていく感じがして、それはかなり構造的な問題だと思う。


富良野: ただ、フリーランス市場全体の需要はChatGPT登場後に純増しているというデータもあって。仕事が消滅しているのではなく、需要の質が変わっている——ルーティン業務から、専門的判断・複雑な関係構築・AIの出力を監督する役割に移行している、と。


Phrona: その移行が全員にできるかどうか、が問いになりますよね。AIを使いこなせる人は従来比で40%以上収入が上がっているデータがある一方で、できない人はどこへ行くのか。


富良野: そこで出てくるのが、自分のコミュニティを持つ、という選択肢で。MavenというEdTechプラットフォームでは、企業からリストラされた元シニアのプロフェッショナルが、コホート型コースを作って第二のキャリアを築くパターンが増えている。


Phrona: コホートというのは、同じ期間に一緒に学ぶ仲間のグループのことですよね。自分の知識を一対多で届けるのではなく、同じ問いを持つ人たちを集めて一緒に動く設計になっている、という。


富良野: 動機として面白いのが、収益が最大の動機ではない、という調査結果があって。Patreonのレポートによれば、クリエイターが最も強く求めているのは「アルゴリズムへの隷属からの解放」と「オーディエンスの所有権」——フォロワーが自分のものである、という感覚。


Phrona: お金より自律性を求めている、という。それはSNSに疲れたZ世代が求めているものとも重なりますよね。プラットフォームに支配される感覚からの離脱、という意味では。



難民たちの交差点——供給と需要が出会うとき


富良野: ここで二つの動きが同じ場所を指している、という話になってくるんですが。AI代替で企業を出たエキスパートが「自分のコミュニティを作りたい」と思い、SNSに疲れたZ世代が「小さく・深く・人間的な場所」に引き寄せられている。


Phrona: 供給者と需要者が、互いを知らないまま同じ方向を向いている、という。移行先として出てくるのもDiscord、ポッドキャスト、ニュースレター——アルゴリズムがなくて、広告がなくて、興味特化の空間。


富良野: Discordは月間アクティブが2億6000万人で、平均滞在時間が94分。非ゲーム用途が急増していて、ユーザーの78%がゲーム以外の目的で使っている。金融・フィットネス・コーディング教育の専門コミュニティが有料化されてもいる。


Phrona: Z世代がDiscordに集まる理由と、エキスパートがそこでコミュニティを作る理由が、実は同じ構造なんですよね。アルゴリズムに管理されず、自分たちのルールで動ける場所、という。


富良野: ただ、ここで少し立ち止まりたくて。Circleのベンチマーク調査では、成功しているコミュニティの76%がメンバー500人以下で、93%が有料化されている。でも同時に、クリエイター全体の50%以上が年収1万5000ドル未満という数字もある。


Phrona: 成功した事例は可視化されやすいけど、うまくいかなかった人のほうがずっと多い。生存者バイアスの問題ですよね。見えているのは氷山の一角で。


富良野: 失敗パターンとして挙がるのが「ゴーストタウン化」——コンテンツ配信チャンネルになってしまって、メンバー同士の横の繋がりが生まれない。クリエイターが発信をやめた瞬間にコミュニティが死ぬ、という。


Phrona: それはある意味で、SNSと同じ構造を再現してしまっている、ということですよね。一対多の情報配信、受動的な消費、コンテンツへの依存。場所が変わっても、関係の設計が変わっていなければ同じことが起きる。


富良野: 「コミュニティ」という言葉が、すごく都合よく使われている気がしてきます。エキスパートが生存戦略として使い、プラットフォームがマーケティングとして使い、Z世代が渇望の名前として使う。でも実態は全部違うかもしれない。


Phrona: 同じ言葉がこれだけ多方向から引っ張られているとき、その言葉は何かを指しているというより、何かへの願望を束ねているだけかもしれない。共同体を求めているというより、共同体という概念に安心したい、という。


富良野: ちょっと厳しい見方ですね。でも否定できないんですよな。


Phrona: うまくいっているコミュニティの共通点が「メンバーへの深い理解」と「その人たちの最大の問題を解決し続けること」だ、という調査結果があって。それはつまり、共同体の形より機能の話で、「一緒にいる」ことより「共に何かを解決する」こと。


富良野: 帰属感より課題の共有、というのがコミュニティの実態かもしれない。「本物の繋がり」を求めている、という言い方をする人は多いけど、具体的には何を求めているかというと、わかりやすい問いと一緒に動ける人、という話になってくる。


Phrona: で、そこにAIで仕事を圧縮されたエキスパートが持っている「体験に裏打ちされた判断力」が入ってくると、確かに何かが成立しそうな気もしてくる。でも「成立しそうな気がする」と「成立する」の間には、現実の距離がある。




ポイント整理


  • 「量は減らない、熱量が死ぬ」というSNS離脱の実態

    • SNSの利用時間は大きく減っていないが、使う動機が「繋がりや自己表現」から「反射的な暇つぶし」へと変容している。数値に表れない心理的離脱が進行しているのが現状。

  • AI識別能力9%の逆説——見えないから不信が強まる

    • AI生成コンテンツを正しく見分けられる人はほぼいないが、不信感は急増している。「区別できないのに信じられない」という認知的不協和が「真実疲労」を生み、全てに薄い疑問符をつけたまま消費するという防衛反応を引き起こす。

  • 「平均への不寛容」——消えるのは仕事ではなく容認度

    • AIは雇用を一気に消滅させるのではなく、平均的なパフォーマンスへの許容度を削っている。特に翻訳・初級コーディング・汎用ライティングといった「替えの効く知識労働」に構造的な圧力がかかっている。

  • 供給と需要の偶然の収束

    • 職を圧縮されたエキスパートと、SNSの商業化に疲れたZ世代が、互いを知らないまま「小さく・招待制・アルゴリズムなし」のクローズドコミュニティへ向かっている。理論上、供給者と需要者として出会える構造が生まれつつある。

  • コミュニティの成否を分けるのは「設計」より「機能」

    • メンバー500人以下でも成功するコミュニティは存在するが、失敗の典型は「クリエイター依存のコンテンツ配信チャンネル化」。成功するコミュニティの共通点は「メンバー同士の横の繋がり」と「共有された具体的な問いの解決」にある。

  • 「コミュニティ」という言葉の多義性に注意

    • 同じ言葉が生存戦略・マーケティング・渇望の象徴として使われている。実態は「帰属感」より「課題の共有」に近く、「本物の繋がり」という言葉の中身を問い続けることが重要。



キーワード解説


【真実疲労(Truth Fatigue)】

超リアルなフェイク情報や生成AIコンテンツへの曝露が続くことで、「事実とフィクションを見分ける自信」そのものが失われていく現象。ロイター研究所・ミシガン大学の研究が示した概念。疑うことに疲れて、全てに薄い疑問符をつけたまま消費するという防衛反応に繋がる。


【AI slop】

AI生成の低品質コンテンツの総称。Merriam-Webster(米国の権威ある辞書出版社)が2025年の単語に選出したことで、現象としての定着が象徴された。SNS上でのAI slop言及は2024年比で9倍に急増し、Z世代がコンテンツをブロック・ミュートする主な理由のひとつとなっている。


【心理的離脱(Passive Disengagement)】

アカウントや利用行動は継続しているが、内側の関与度・熱量が低下している状態。数値上は「SNSを使っている」が、動機は反射的な暇つぶしに変容しており、通常の「利用率」や「利用時間」では捉えきれないSNS離れの実態を指す。


【プロシューマー(Prosumer)】

生産者(producer)と消費者(consumer)を合わせた造語。ここでは自分の専門知識を元に、コース・コミュニティ・ニュースレター等を設計・販売する「専門家クリエイター」を指す。AI時代に「企業所属」から「独自のオーディエンスの所有」へ移行する専門家の典型的な形。


【コホート型コース(Cohort-based Course)】

同じ期間に同じ仲間と学ぶ設計の教育プログラム。非同期型オンラインコースの完了率が3〜15%に留まるのに対し、コホート型は完了率96%という数値がある。学習者同士の繋がりと「一緒に進む」というライブ感が継続の鍵とされている。


【アルゴリズム疲弊(Algorithm Fatigue)】

SNSやプラットフォームのアルゴリズム(コンテンツを選別・表示する自動判定の仕組み)に合わせてコンテンツを作り続けることへの精神的消耗。投稿を止めると表示されなくなるという恐怖感が、クリエイターをアルゴリズムへの隷属状態に追い込む。


【生存者バイアス(Survivorship Bias)】

成功した事例のみが可視化されやすく、失敗した多数が見えにくくなる認知の歪み。クリエイター経済の文脈では、大きな収益を得るクリエイターが注目される一方、年収1万5000ドル未満のクリエイターが全体の50%超を占めるという実態が見落とされがち。



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