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保管される価値から、移動する担保へ――金の再通貨化を四つの段階で分解する

更新日:7月6日


シリーズ: 論文渉猟


◆今回のレポート:Ronald-Peter Stöferle et al., "Back to the Monetary Future (In Gold We Trust report 2026)" (Incrementum AG, 2026年5月20日)

  • 概要:20周年を迎えた金市場の年次分析レポート。2025〜26年の記録的な価格変動を振り返りつつ、信認の低下・地政学的分断・財政赤字の常態化を背景に、金が準備資産・担保・決済の各層で通貨的な役割を取り戻しつつあるという見取り図を提示する。



2026年の金市場は、二つの記録を同じ年に刻んだ。1月の史上最高値と、3月の史上最大の月間下落である。この乱高下を単なる相場の話として消費することもできる。だが、金の調査レポートとして20年の蓄積を持つ In Gold We Trust の2026年版は、これを通貨秩序の再編の兆候として読む。金は再び通貨システムの中へ戻りつつある、と。


この主張をどう受け取るべきか。金本位制の復活かと問えば、答えは明らかにノーである。しかし、だから金の復権論は時代錯誤だと切り捨てるのも早い。本稿では、まずレポートの論旨を忠実にたどったうえで、その中心概念である再通貨化を四つの段階に分解し、レポートが半歩しか踏み込んでいない領域——トークン化された金は金そのものではない、という緊張——まで議論を進める。



二〇二六年が見せた金の二つの顔


まず、レポートが描く2026年の状況を確認しておく。


金は2025年に米ドル建てで64.4%上昇した。1979年以来の上昇率である。2026年1月には史上最高値5,595ドルをつけた。ところが3月、イラン危機によるホルムズ海峡の封鎖を引き金に、金は1か月で611ドル下落する。月間の絶対額として史上最大であり、1月の高値からの下落率は27%に達した。


安全資産がなぜ危機のさなかに暴落するのか。レポートの答えは明快で、危機の局面では、売りたいものではなく売れるものが売られるからだ。ホルムズ封鎖で湾岸産油国のドル収入が途絶し、長年ドルの余剰を金に換えてきた政府系ファンドや中央銀行が、現金を確保するために金を手放した。同時に、金利上昇とドル高が投資家に証拠金の追加を迫り、換金しやすい金から処分された。金が売られたのは信頼を失ったからではなく、最後まで買い手がつく資産だったからである。


レポートはここに歴史の型を見る。2008年10月、リーマン破綻の証拠金請求の連鎖で金は29%下落した。2020年3月、コロナ初期の換金売りで12%下落した。いずれの場合も、その後の中央銀行による大規模緩和が金の大相場の起点になった。リーマン後の量的緩和で金価格は3倍になり、コロナ後の財政金融の同時拡張で7割上昇した。だから2026年3月の急落もまた、次の上昇の起点になる——これがレポートの読みである。


ここで一度、線を引いておきたい。過去2回の急落が緩和を呼び、緩和が金を押し上げたという観察は事実として検証できる。だが、今回も同じ経路をたどるという予測は、事実ではなくシナリオである。In Gold We Trust は一貫して金に強気なマクロレポートであり、その記述には検証可能な数字と立場を反映した解釈が同居する。以下では、この二つを腑分けしながら読む。



信認という見えないインフラ


レポートの理論的な土台は、価格モデルではなく信認の理論にある。著者たちは20年の分析の中心に一貫して信認を置いてきた。信認は社会の協働を可能にする見えない接着剤であり、通貨システムの見えないインフラである。市民が国家の約束——貨幣価値の安定を含む——を信じられなくなると、人々は紙幣を長く持たなくなり、実物資産へ逃避し、より高いリスクプレミアムを要求する。ミーゼスを引きながらレポートはこう述べ、いま起きているのは信認の再価格付けであり、市場はその判定をオンス単位で下している、と続ける。


この枠組みの上に、時代診断が載る。1945年以来の政治・軍事・通貨秩序であるパックス・アメリカーナが終わりつつあり、世界は旧秩序が凝集力を失い新秩序がまだ定義されない空位期間にある。制裁、準備資産の凍結、関税戦争として始まった個別の衝撃が、通貨枠組み全体の構造的な再価格付けへ合流しつつある——。壮大な診断だが、レポートが挙げる材料は個別具体的だが、重要なポイントは以下の3点。


  • 米国の金準備の再評価論

    米国は261,498,926トロイオンス、約8,133トンという世界最大の政府金準備を持つが、帳簿上は1973年に法定された1オンス42.22ドルのまま計上されている。市場価格で再評価すれば約1.2兆ドルの含み益が帳簿に現れ、国債発行によらない財政余地となる。これは机上の話ではなくなりつつある。財務長官は政府バランスシートの資産側を収益化すると公言し、FRBは2025年8月に準備資産再評価の国際経験を扱う論文を公表した。1934年、ローズヴェルトが金価格を20.67ドルから35ドルへ引き上げ、実質41%のドル切り下げによって為替安定基金の原資を捻出した前例もある。


  • BRICS圏の決済単位構想

    物理的な金40%、創設5か国の通貨バスケット60%で構成される決済手段の研究が進む。レポート自身が明記する通り、これはロシアの研究者による研究プロジェクトであってBRICSの公式プログラムではない。しかし公式でないにもかかわらず、構想の存在自体が各国の行動を変えている。仮に金を組み込んだ決済圏が成立するなら、参加国の通貨がどんな条件で組み込まれるかは、その時点の金保有量に左右される。1990年代にユーロ加盟候補国が直面した参入レートの問題と同じ力学であり、中国、インド、トルコの目立った金購入は、まだ存在しない制度への席取りとして読める。


  • 上海黄金取引所のインフラ整備

    金をレポ取引に使える担保、準備の構成要素、場合によっては中立的な計算単位として扱える仕組みが積み上がりつつある。金が退避先の資産から決済の道具へ変わる基盤が、アジアを重心に静かに組まれている。


需給の数字もこの見取り図を支える。中央銀行は2025年に863トン、金額にして過去最高の952億ドルを購入した。2022年以降、年間800〜1,000トンの公的購入が常態化している。投資需要は前年比84%増の2,175トン、ETFへの流入は800トンで過去最大。供給側では総供給5,002トンのうち採掘が過去最高の3,672トンだった一方、リサイクルは1,404トンにとどまった。史上最高値でも手持ちの金を売らないという行動は、保有者が通貨価値のさらなる希薄化を織り込んでいることの傍証だとレポートは読む。


これらを束ねてレポートは宣言する。金は布告によってではなく機能によって、革命によってではなく進化によって、通貨に戻りつつある。静かな再通貨化、と。



「通貨に戻る」とは、どの機能に戻ることか


ここからが本稿の展開である。再通貨化という言葉は喚起力が強い。強いがゆえに、放っておくと金本位制の復活かそんなはずはないかという不毛な二択に議論を吸い寄せてしまう。この二択を避けるには、通貨という言葉を機能に分解する必要がある。


通貨には少なくとも、価値保存手段、交換手段、計算単位、決済手段、準備資産、担保資産、最終清算資産という複数の機能がある。金が日常の交換手段や計算単位に戻る見込みは薄い。価格変動が大きく、税務処理が煩雑で、企業会計は法定通貨建てのままだからだ。パンを金で買う社会は戻らない。この点を先に認めてしまえば、浅い反論は片づく。問題は残りの機能である。価値保存、準備、担保、清算補助。金の復権が起きるとすれば、この深層の機能群においてであり、それは表の通貨としてではなく、通貨システムを裏から支える資産としての復帰を意味する。


この視点から、再通貨化の過程を四つの段階に分けて見ると、現在地が正確に測れる。

第一段階は準備資産化である。中央銀行が外貨準備をドルと米国債から金へ振り向ける。2024年には金が国際準備に占める割合が1990年代半ば以来はじめて米国債を上回った。この段階はすでに進行中の事実である。ただしここでの金は、国家のバランスシート上の信認補完資産にとどまる。


次に第二段階は市場商品化である。ETF、先物、ファンドを通じて、金は民間投資家にとって流動性の高い金融商品になった。この段階もほぼ完了している。しかし注意すべきは、ETF化は市場化であって通貨化ではないことだ。ETFは金を買いやすくしたが、使いやすくはしていない。ETFの持ち分は支払いに使われず、信用創造の基盤にもならない。金へのアクセスが良くなることと、金が金融インフラの構成要素になることのあいだには、質的な断絶がある。


そして第三の段階が担保インフラ化であり、ここにトークン化——いわゆるRWA、実物資産のデジタル権利化——が登場する。物理的な金を保管庫から一歩も動かさずに、金への権利を細分化し、即時に移転し、担保に差し入れ、スマートコントラクトで自動清算する。金担保の貸付、金担保のステーブルコイン、金を証拠金とするレポ取引。トークン化された金の市場規模は2026年2月に60億ドルを超え、2025年の取引高178億ドルは主要な金ETFの大半を上回った。規模としてはまだ点だが、技術的に可能かという段階はすでに越えている。


最後の第四段階は決済補助資産化である。金が直接の支払い手段になるのではなく、決済ネットワークの裏側で信用補完に使われる。非ドル圏の国際決済における中立的なアンカー、金融機関間の清算資産、ステーブルコインの裏付け。日常の支払いはドル、円、ユーロ、人民元のままで、その下の担保層に金が組み込まれる。これが実現すれば、金を中立担保のレイヤーとして持つ多層的な通貨システムが姿を現す。


四段階を通して見えるのは、古典的な金本位制との決定的な違いである。金本位制は、通貨発行量を金に縛る制度だった。四段階モデルの金は、何も縛らない。法定通貨の発行は中央銀行の裁量のままで、金は担保と清算の層で信用を補強する。アンカーではなく、バラストに近い。



トークン化が解く弱点と、解かない弱点


第三段階の技術的革新を正しく評価するには、古典的な金本位制がなぜ失敗したのかを二つの系統に分けて思い出す必要がある。


ひとつは運用上の弱点である。金は重く、動かしにくく、細かく分割できず、保管にコストがかかり、国境を越える移転に時間を要する。担保として使うには手続きが重い。金は信認の強い資産だったが、金融インフラの中を柔軟に動かすには不向きだった。トークン化が解消するのは、まさにこの系統である。権利のデジタル化は金に可動性を与える。保管される価値から、移動する担保へ。この転換は、19世紀の金本位制設計者が持ち得なかった技術的条件である。


もうひとつはマクロ経済上の弱点である。金の供給量は年率およそ1.8%でしか増えず、経済の信用需要に応じて弾力的に拡大しない。通貨発行を金に縛れば、不況時に金融緩和ができず、国際収支の赤字国にはデフレ圧力がかかり、金保有の多寡が国家間の非対称性を固定する。戦間期の各国がこの硬直性に苦しんだ末に金本位制を放棄した歴史は、よく知られている。そしてこの系統の弱点は、金をどれだけデジタル化しても消えない。トークンは金を速く動かすが、金を増やしはしないからだ。


この線引きは、議論の楽観と悲観の両方を規律する。トークン化は金本位制の失敗をすべて帳消しにする魔法ではない。だが、金を通貨発行のアンカーにせず担保レイヤーにとどめる四段階モデルにおいては、マクロ的硬直性の問題はそもそも作動しにくい。金が縛るものが何もないからである。技術が解く弱点と、制度設計で回避する弱点と、引き受けたまま残る弱点。この三つを混ぜないことが、金の復権論を大人の議論にする条件だ。



米国債との比較——中立担保の条件


金が担保レイヤーに入るという構想の現実性は、現在の支配的な担保である米国債との比較で測るのが早い。


米国債の強みは圧倒的である。市場規模は巨大で、流動性は深く、レポ市場と一体化し、ドル決済網と親和的で、規制上も高品質流動資産として扱われる。金がこれを全面的に置き換えるシナリオは考えにくい。しかし米国債には、規模では埋められない性質がひとつ欠けている。米国債は米国政府の負債であり、米国の財政と政治とドル決済網への依存から逃れられない。準備資産の凍結が現実の政策手段となった世界では、この依存そのものがリスクとして値付けされる。


金の強みは、その裏返しにある。金は誰の負債でもない。発行体が存在せず、どの国家の信用にも依存しない。市場規模と流動性で米国債に劣り、利息を生まず、価格変動も大きい。それでも、国家信用から距離を置けるという一点において、金は米国債が構造的に持ち得ない機能を提供する。


したがって両者の関係は代替ではなく補完である。米国債が提供するのは深い流動性とドルシステムへの接続、金が提供するのは非債務性と相対的な地政学的中立性。平時には前者が支配し、信認が揺らぐ局面で後者の需要が立ち上がる。レポートが金を通貨世界のスイスと呼ぶのは、この中立性の比喩として的確である。ただし、この比喩には注意深く付き合う必要がある。スイスの中立は地形が自動的に保証したものではなく、外交と憲法と数世紀の実践によって維持されてきた。金の中立も同じで、素材の性質が自動的に保証するものではない。とりわけ、金がトークンの形で金融システムに入るとき、この点が効いてくる。



請求権というアキレス腱


ここまで意図的に先送りしてきた問題に向き合う。トークン化された金は、金そのものではない。それは金に対するデジタルな請求権である。


物理的な金塊には発行体リスクがない。だがトークンには、発行体が実在の金を本当に同量保管しているかという裏付けの問題、監査の信頼性、償還の可否と条件、準拠法、発行体破綻時の資産保全、カストディアンの集中、スマートコントラクトの脆弱性、価格オラクルの操作可能性が、すべて付着する。誰の負債でもないという金の強みを、誰かが管理する請求権の形式でしか流通させられない。ここに金RWAの根本的な緊張がある。信用リスクのない資産を、信用と法と技術の体系の上に載せ直す操作。便利さの源泉と脆さの源泉が、同一である。


さらに、担保インフラ化が進むほど別のリスクが育つ。金を担保に貸付が行われ、金担保のステーブルコインが発行され、そのトークンが再担保として別の取引に差し入れられる。金の上に信用の階層が積み上がっていく。土台の金は安全なままでも、積層された請求権の側は、レバレッジ、担保不足、償還の集中、発行体破綻に対して脆弱である。安全資産を土台にした信用膨張が土台の安全性と混同されたとき何が起きるかは、2008年が教えた通りだ。金そのものが安全であることと、金を使った金融商品が安全であることは、別の命題である。


そして、この積層構造は冒頭の急落と一つの円環をなす。3月に金が売られたのは、売れるからだった。金トークンが担保として金融システムの深部に組み込まれた世界で次の流動性危機が来れば、価格下落は担保価値の毀損として即座に伝播し、自動清算のプログラムが強制売却を連鎖させる。金は安全資産としてではなく、換金可能な担保として真っ先に処分される。可動性の代償は、危機時に一括で請求される。トークン化は金の売られやすさを、人間の判断を介さない速度にまで高めうるのである。


本稿の見立てでは、金RWAの制度設計上の核心はここに絞られる。金の非債務性を活かしながら、その上に過剰な信用階層を積み上げないこと。物理金との一対一対応、償還の法的保証、監査の透明性、カストディの分散、再担保の制限、危機時の清算ルール。これらが整わない金トークンは、中立担保ではなく、金の意匠をまとった発行体リスクにすぎない。


もうひとつ、混同を避けるべき点がある。中央銀行の金購入と民間の金トークンは、現時点では別々の潮流である。中央銀行が積んでいるのは物理的な金であり、主権的管理と制裁耐性こそが購入動機なのだから、民間発行のトークンを準備資産に組み入れる理由は当面ない。両者は国家信用の外に立つ資産を求めるという動機を共有するが、制度的に合流するには、国際清算機関や規制当局が関与する準公的なデジタル金インフラという橋が必要になる。世界金評議会が卸売市場向けの共有インフラを提唱しているのは、この橋の設計図の一つと読める。橋が架かるかどうかは、まだ分からない。



金本位制2.0ではなく、金担保レイヤーを持つ多層システム


In Gold We Trust 2026 が描く再通貨化は、金本位制への回帰ではない。レポート自身がそう明言しており、本稿の分解もそれを裏づける。金は通貨発行を縛るアンカーとしてではなく、準備・担保・清算補助の各層に浸透する中立資産として戻りつつある。上層には法定通貨と中央銀行マネーがあり、その下に銀行預金やステーブルコインなどの民間信用マネーがあり、さらにその下の担保層に米国債と並んで金が置かれる。金だけが、その層で唯一、誰の負債でもない。


この構図を金本位制2.0と呼ぶのは、だから正確ではない。金本位制は金に通貨を従属させる制度だったが、ここで生まれつつあるのは、法定通貨の体系を維持したまま、その信認を下から補強する金担保レイヤーを持つ多層システムである。金は表舞台に復帰するのではなく、舞台の下の基礎工事に戻る。


ただし、その帰趨は金自身には決められない。トークン化という技術は金の物理的制約を解いたが、同時に金の中立性を制度の出来に依存させた。カストディ、償還、監査、規制、信用階層の制御。次の20年の金の物語は、地質学でも相場観でもなく、制度設計の物語になるだろう。5千年のあいだ変わらなかったのは金のほうである。変わり続け、試され続けるのは、金を取り巻く私たちの約束の作り方のほうだ。次の危機が測定するのは金の強度ではなく、その約束の網の目の強度である。



 

ポイント整理


  • 史上最大の急落は、金の失格ではなく流動性の証明

    • 2026年3月の27%下落は、2008年(29%)・2020年(12%)と同型の換金売りであり、危機時には売りたいものではなく売れるものが売られる

    • レポートは過去2回と同様に中央銀行の緩和が次の上昇の起点になると読むが、これは事実の記述ではなく強気の立場からのシナリオである

  • 再通貨化の実相は「事実・構想・研究」の三層

    • 中央銀行の年間800トン超の購入は進行中の事実、米国金準備の再評価(含み益約1.2兆ドル)は検討中の政策構想、BRICSの金組み込み決済単位は非公式の研究プロジェクト

    • 三層を混同すると再通貨化が既定の未来に見えるが、研究段階の構想でも各国の金購入という席取り行動を現実に動かしている

  • 「通貨に戻る」は四段階に分解して測る

    • 準備資産化(進行中)→市場商品化(ほぼ完了)→担保インフラ化(入口)→決済補助資産化(構想)

    • ETF化は市場化であって通貨化ではない。金を買いやすくすることと、金融インフラの構成要素にすることのあいだには質的な断絶がある

  • トークン化が解くのは物理的制約、解かないのはマクロ的硬直性

    • 重い・割れない・動かせないという運用上の弱点はデジタル権利化で解消するが、金の供給が経済の必要に応じて増えない性質は変わらない

    • ただし金を発行のアンカーではなく担保レイヤーにとどめる限り、マクロ的硬直性はそもそも作動しにくい

  • トークン化された金は金ではなく請求権であり、そこに設計の核心がある

    • 誰の負債でもないという金の強みは、カストディ・償還・監査・準拠法という制度の束に載せ替えられ、制度の出来に中立性が依存するようになる

    • 金担保の信用階層が過剰に積み上がれば、次の流動性危機で金トークンは自動清算により真っ先に処分される。金の安全性と金融商品の安全性は別の命題である



キーワード解説


【In Gold We Trust レポート】

Incrementum AG(リヒテンシュタイン)のStöferleとValekが毎年発行する金市場の包括分析。2007年の初版は22ページだったが、2026年版は460ページを超え、5言語で刊行される。オーストリア学派の貨幣観に立ち、一貫して金に強気な立場を取る点は割り引いて読む必要があるが、データの網羅性で機関投資家にも広く参照される。


【シャドーゴールドプライス】

通貨供給量を金準備で完全に裏付けると仮定した場合の理論金価格。レポートによれば米国のマネタリーベースを100%裏付けるには約20,900ドル、ブレトンウッズ期の25%カバー率なら約5,200ドルに相当する。実現予測ではなく、通貨膨張の規模を金換算で可視化する物差しである。


【RWA(Real World Assets)】

国債・不動産・貴金属など実世界の資産への権利をブロックチェーン上のトークンとして表現し、移転・担保化・自動清算を可能にする仕組みの総称。トークン化国債が先行し、金は2026年初時点で約60億ドル規模と市場の主要部分を占めるが、トークン化は所有権の移転を容易にするだけで、厚い二次市場の流動性を自動的には生まない。


【ペトロダラー体制】

1973年以降、原油取引のドル建て決済を軸に米ドルの基軸通貨性を支えてきた枠組み。レポートは、イランが原油輸出の人民元建て決済へ移行すれば1956年のスエズ危機が英国覇権に与えたのと同種の転換点になりうると論じるが、これは強い地政学シナリオとして提示されており、コンセンサスではない。


【再担保(rehypothecation)】

担保として受け入れた資産を、受け手がさらに別の取引の担保として再利用すること。担保の連鎖は市場の資金効率を高める一方、同一資産の上に複数の請求権を積み上げるため、危機時には清算の連鎖と担保不足を増幅する。金トークンの信用階層化を考えるうえで中心的なリスク概念となる。



本稿を素材として対話形式で再構成した記事も、近日中にnoteに掲載予定です。
ご関心を持っていただけましたら、note上でご感想などお聞かせいただけると幸いです。
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