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実はいちばんリスキーなのが、「投資しない」という選択かもしれない




シリーズ: 行雲流水


投資と聞くと、株価の上下に一喜一憂したり、仮想通貨で一攫千金を狙ったりするイメージが浮かぶかもしれません。「自分には関係ない」「リスクが怖い」と距離を置いている人も多いでしょう。でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。銀行口座に眠っているお金は、本当に「安全」なのでしょうか。


今回、富良野とPhronaが語り合うのは、投資の根本にある考え方についてです。利殖や資産運用のテクニックではなく、もっと手前にある問い——私たちが「価値」だと思っているものは、実は何なのか。円やドルという「物差し」自体が揺れ動いているとしたら、何もしないことの意味も変わってくるはずです。


富良野とPhronaの二人の対話を通じて見えてくるのは、投資が「お金持ちの趣味」ではなく「防衛のためのインフラ」だという視点。そして、元手の大きさによって戦略がまったく変わるという現実です。




円は「物差し」じゃなくて「商品」


富良野:投資の話をすると、だいたい「どの株を買えばいいですか」みたいなところから始まりがちなんですけど、僕はもっと手前のところが気になっていて。


Phrona:手前というと?


富良野:そもそも、自分が持っているお金の価値って、何を基準に測っているのか、という話です。多くの人は円を基準にしているわけですよね。銀行口座の数字が減らなければ安心、みたいな。


Phrona:ああ、それは確かに。給料が振り込まれて、残高が増えて、それが「資産」だと思っている。


富良野:でも、その円自体が動いているんですよ。他の通貨に対しても、モノの値段に対しても。物差しだと思っているものが、実は物差しじゃなくて、それ自体が市場で取引されている商品のひとつにすぎない。


Phrona:物差しが伸び縮みしている、ということですね。


富良野:そうそう。だから「現金で持っていれば安全」というのは、実は「円という商品に全額賭けている」のと同じなんです。


Phrona:それって、けっこう怖い話ですよね。賭けている自覚がないまま、賭けている。


富良野:まさにそこで。投資をしないことが安全だという幻想は、この認識の欠如から来ていると思うんです。



「世界の富」の中での自分の位置


Phrona:じゃあ、投資するとして、何を基準に考えればいいんでしょう。円がダメなら、ドル?金?


富良野:僕が大事だと思っているのは、「世界の富の中で、自分がどれくらいのシェアを持っているか」という視点です。


Phrona:シェア……。絶対額じゃなくて、相対的な位置ということ?


富良野:そうです。世界中の資産——株、不動産、債券、金、いろんな形で「富」は存在している。その総量の中で、自分がどれくらいの割合を持っているか。投資の目的を「円を増やすこと」じゃなくて「相対シェアを減らさないこと」と捉え直すと、見え方がだいぶ変わる。


Phrona:なるほど。世界全体が成長しているときに、自分だけ現金で止まっていると、シェアが縮んでいく。


富良野:ええ。名目上の金額は変わらなくても、周りが増えていれば、相対的には貧しくなっている。


Phrona:それって、インフレとはまた別の話ですよね。物価が上がらなくても、資産価格が上がれば同じことが起きる。


富良野:そこがポイントで。だから投資は「攻め」以前に「防衛」なんです。世界の富の再配分から外れないようにする、という意味での。



大きな船と一緒に沈む


Phrona:でも、投資したって下がることはあるわけですよね。株が暴落したら、やっぱり損するじゃないですか。


富良野:もちろんです。ただ、ここで「何が下がるか」が問題になる。たとえば、世界の時価総額の上位にある資産——アメリカの大型株とか金とか——これらが下がるときって、だいたい全体が下がっているんですよ。


Phrona:世界的な不況とか、金融危機とか。


富良野:そう。そのとき、自分だけニッチな資産に集中していたら、そこが暴落して、メインストリームは持ち直したときに、自分だけ取り残される。でも、大きな船に乗っていれば、沈むときはみんな一緒に沈む。


Phrona:相対的な順位は変わらない、と。


富良野:ええ。だから基本は、世界の富の中核を占めているものをまず持つ。全世界株のインデックスとか、そういうものですね。ニッチな攻めは、その上に乗せるサテライト的な位置づけで。


Phrona:土台がないままニッチに全振りすると、一撃で沈む可能性がある。


富良野:そこは本当に大事で。攻めの資産は「なくなっても生活が壊れない額」に限定するのが鉄則です。



富裕層が有利な構造的理由


Phrona:その「なくなっても大丈夫な額」って、人によって全然違いますよね。


富良野:そこなんです。富裕層の本当の強みは、「余剰リスク容量」が大きいこと。失敗しても生活が壊れない範囲が広いから、リスクを取れる。


Phrona:逆に言うと、余裕がない人は守りを強いられる。


富良野:そう。損失耐性が低いから、安全資産寄りにならざるを得ない。でも安全資産は長期の期待リターンが低い。結果として、富裕層との差が開いていく。


Phrona:攻められる人がさらに増やして、攻められない人は現状維持すら難しい。


富良野:加えて、富裕層は投資機会そのものも違う。未公開株とか、一般には買えないファンドとか、税務上有利なスキームとか。


Phrona:あと、貧困税の問題もありますよね。お金がないほど、いろんなコストが高くつく。


富良野:ええ。金利の高い借入しか使えない、まとめ買いできないから単価が上がる、手数料負けする。資産形成以前にキャッシュフローが削られる。


Phrona:努力の問題じゃなくて、構造の問題。


富良野:そこは認識しておく必要があると思います。格差が「自己責任」で片付けられがちだけど、制度的・金融的な非対称がかなり効いている。



元手が小さいときの最適解


Phrona:じゃあ、元手が少ない人はどうすればいいんでしょう。


富良野:正直に言うと、資本が小さいうちは、投資で頑張っても絶対額が知れている。年利5%で100万円運用しても、年5万円ですから。


Phrona:それに時間とメンタルを使うのは、割に合わない。


富良野:そうなんです。ピケティの「r > g」——資本収益率が経済成長率を上回る——という話があるけど、あれは元本がある程度ある前提で効く。小さいうちは、rを最大化するより、元本自体を増やすほうが期待値が高い。


Phrona:つまり、稼ぐ力を上げる。スキルを身につける、転職する、副業する、みたいな。


富良野:そこにリソースを集中させて、投資は最低限の自動積立だけにしておく。市場を追いかけたり、銘柄選びに時間を使ったりするのは、もっと後でいい。


Phrona:でも、「後でいい」と言っても、いつから本腰を入れるべきなのか、というのはありますよね。


富良野:目安としては、1000万円を超えたあたりから資本の影響が実感できるようになる。年50万〜70万円の差が出てくるので。5000万円を超えると、資本収益が副収入として無視できなくなる。1億円あたりで、人的資本より金融資本のほうが成長ドライバーになる。


Phrona:段階があるんですね。


富良野:だから戦略も段階で変わる。小さいうちは稼ぐ力に全振り、中間では両輪、大きくなったら資本中心。この順番を間違えると、効率が悪くなる。



「安全」の意味を問い直す


Phrona:ここまで聞いてきて思うのは、「安全」という言葉の意味が、普通に使われているのとだいぶ違うということですね。


富良野:そうなんですよ。多くの人は「価格が動かない=安全」と思っている。でも本当に守るべきは「将来の購買力」であって、名目の数字じゃない。


Phrona:銀行口座の残高が変わらなくても、10年後に同じものが買えなくなっていたら、実質的には損している。


富良野:だから、投資は「円で増やすゲーム」じゃなくて、「将来の購買力をどの形で持つか」という設計なんです。


Phrona:形を選ぶ、という感覚。


富良野:ええ。現金、株、債券、不動産、金——どれも「価値を保存する器」の選択肢で、それぞれにリスクとリターンがある。現金だけが特別に安全なわけじゃない。


Phrona:むしろ、現金だけに集中しているのは、分散できていない状態。


富良野:そういうことです。投資をしないことがリスク回避だと思っている人は、実は最もリスクの偏ったポートフォリオを持っている可能性がある。




ポイント整理


  • 法定通貨は絶対的な価値基準ではない

    • 円やドルは「価値の物差し」ではなく、それ自体が市場で取引される「商品」のひとつ。購買力も他通貨に対する価値も、政治・金融政策によって常に変動している。

  • 「無リスク資産」は基準通貨内での見かけにすぎない

    • 自国通貨建ての預金や国債は名目上安定に見えるが、インフレや通貨安という形で外側から価値が削られるリスクを常に抱えている。

  • 投資の目的は「相対シェアの維持」

    • 購買力を保持するとは、世界中の富の中で自分の相対的な取り分を減らさないこと。絶対額ではなく、世界の資産総量における自分の位置を意識することが重要。

  • 世界の富の中核を持つことが基本戦略

    • ニッチ資産の急騰急落に賭けるより、時価総額上位の資産(グローバル株式インデックスなど)をまず保有し、相対順位の維持を優先する。

  • 「大きな船と一緒に沈む」戦略の合理性

    • 中核資産が下がる局面は全体が下がる局面であることが多く、相対的な順位は崩れにくい。ニッチに集中して単独で沈むリスクを避けられる。

  • 攻めの投資は「なくなっても痛くない額」に限定

    • 生活防衛資金を侵食せず、長期の積立計画を中断せず、暴落時に売らされない範囲でのみリスクを取る。

  • 富裕層の構造的優位性

    • 余剰リスク容量が大きいため攻めの投資が可能、投資機会へのアクセスが広い、専門家を雇える、暴落時に買い増しできる、といった複合的な優位が格差を再生産する。

  • 貧困税(Poverty Tax)の存在

    • 資産が少ないほど、高金利借入、まとめ買い不可による単価上昇、手数料負けなど、様々なコストが余計にかかり、資産形成の土台が削られる。

  • 元手が小さいうちは「稼ぐ力」に集中すべき

    • r > gは元本がある程度ある前提で効く。小資産期は人的資本への投資(スキル、収入、事業)のリターンが最も高い。

  • 資本が「効き始める」閾値の目安

    • 1000万円超で資本の影響が実感できるようになり、5000万円超で資本収益が副収入として大きな柱に、1億円前後で資本中心のゲームになる。

  • 「安全」の再定義が必要

    • 価格が動かない=安全ではない。守るべきは将来の購買力であり、現金のみに集中することは最もリスクの偏ったポートフォリオを持つことに等しい。



キーワード解説


購買力(Purchasing Power)】

通貨で実際に購入できるモノやサービスの量。名目の金額ではなく、実質的な価値を測る指標。


相対シェア】

世界全体の富の中で、自分が保有する資産の割合。絶対額ではなく、他者との相対的な位置関係で資産状況を捉える視点。


r > g】

経済学者ピケティが提唱した概念。資本収益率(r)が経済成長率(g)を上回るため、資本を持つ者がさらに富を蓄積しやすい構造を示す。


コア・サテライト戦略】

資産運用の基本手法。コア(中核)に安定的な資産を置き、サテライト(衛星)として高リスク・高リターンの資産を配置する。


インデックス投資】

市場全体の動きを反映する指数(S&P500、全世界株式など)に連動する投資。個別銘柄選択より分散効果が高く、低コスト。


貧困税(Poverty Tax)】

貧困層が直面する追加的なコスト。高金利借入、小口購入による割高、手数料負担など、資産が少ないことで余計にかかる費用の総称。


人的資本】

個人が持つスキル、知識、経験、健康などの総体。将来の収入を生み出す源泉であり、金融資本と並ぶ重要な資産。


流動性】

資産を現金化しやすいかどうかの度合い。株式は流動性が高く、不動産は低い。流動性が低いと、必要なときに売却できないリスクがある。


ボラティリティ】

価格変動の大きさ。ボラティリティが高い資産は短期的には上下に大きく動くが、長期では平均回帰する傾向がある。


分散投資】

複数の資産クラス、地域、銘柄に投資することでリスクを軽減する手法。「銘柄数」ではなく「異なる価値体系への分散」が本質。



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