暴落待ちから投資の目的まで問い直す──AIと進めた戦略研究の記録

シリーズ: 行雲流水
大きく下がったら買う。そのつもりで低リスク資産を残し、平時には少しずつリスク資産を増やしていた。だが、暴落を待つ間にも相場は上がる。予定より投資を控えた状態が長く続いていた。
この判断をAIとコードで検証した。下落時に買いを増やす。値動きが激しければ抑える。反発を確認して再開する。思いつくルールを実装し、手元の資金を一度に使わず、毎月などの決まった間隔で、一定額ずつ投資する「時間分散」と比較した。
ところが、研究が進むほど、比較を作る前提を疑う必要が出てきた。投入速度、実際の購入対象、リスク指標、資産の分類。最後には、自分が何に対して資産を増やしたいのかを聞き直すことになった。
これは、個人投資家が自分の方針を仮説へ変え、結果を受けて問いを修正した記録である。既存資産の持ち方に区切りを付け、現在は別の利益の仕組みを実践へ近づける研究に戻っている。特定の配分や投入期間を最適解として提示するものではない。
個人資産の実額と口座別残高は掲載しない。必要な比率と研究要約の概数を使い、研究の流れが追える範囲へ圧縮している。
暴落待ちを研究にする
私の方針には、暴落したら本来の配分へ近づけるという意図があった。しかし、十分に大きな下落とは何かを決めていなかった。下がれば追加下落を待ち、上がれば割高だと感じる。どちらへ動いても、待つ理由を作れる状態だった。
まず、いつ投入するかと、どの配分へ投入するかを分けた。購入対象を固定し、即時投入、一定期間の均等投入、下落に応じた加速などを比較する。配分とタイミングを同時に替えれば、結果が良くても、その理由を分けられない。
待機資金にも短期債などの収益があった。そのため待つ費用は、投資先と待機先の総収益の差として見る。無利息の現金を前提にした待つ費用を、そのまま持ち込むことはできなかった。
投入研究の前には、二つの株価指数の価格関係が戻ることを狙う相対価値取引や、値動きが同じ方向へ続くことを狙うトレンド戦略も調べた。値動きがよく連動することと、価格関係が戻ることは同じではない。トレンドも、今回の条件では通常時の成績が期待ほど良くなかった。AIで実装できることと、使う価値があることを分けるところから始まった。
賢い買い方の対照実験
深く下がったら買いを加速し、値動きが激しければ抑える。理屈は分かりやすいが、両条件は同時に起きやすい。加速と抑制を掛け合わせれば打ち消し合い、執行量だけを抑える設計にしても、今回の条件では抑制がほとんど働かない場合があった。
下落時の加速が、ゆっくりした定期投入より良く見えたときにも、その理由を疑った。下落情報が役に立ったのか、単に平均投入速度が速かったのか。そこで、投資済み割合や資金を待たせた程度が近い時間分散を対照に置き直した。
比較条件を近づけると、S&P 500の配当込み指数で投入方法を調べた10年評価では、下落時の加速案の勝率は54.5%だった。比較した345件は毎月ずらした開始日の組で、窓が大きく重なる。独立した345回の相場で勝ったわけではない。一部の条件が良くても、安定した優位とは認めなかった。初期暴落では、下落の途中で投入を加速し、底までに資金を使いすぎる場合もあった。
では、反発を確認してから入ればよいのか。移動平均の回復などを条件にした案と、一定日数だけ待つ案も比較した。保存集計の240組では、最終資産額と最大下落率に差がなかった。日次で条件を見ても再開する判断は月次なので、確認時点が違っても投入日が同じになることがある。この実装で、相場を読む確認条件に上積みは残らなかった。一時反発で再開した後にさらに下がるか、急回復に出遅れる。私はここで、市場状態による投入タイミングの研究を閉じた。
時間分散の保険
次に、手元の資金を一度に使わず、毎月などの決まった間隔で、一定額ずつ投資する時間分散を検討した。給与から毎月新しい資金を投資する継続積立とは異なる。今回は、今すぐ投入できる資金の一部を、あえて待たせる問題だ。
投入対象部分の初期暴落では、時間分散を長くするほど損失を抑えられた。しかし、待機先を上回って相場が上がる間は、待つ費用を払う。バンガードの一括投入と時間分散に関する解説でも、待つ費用と損失回避の選好を分けている。私の研究は、それを自分の条件で測る作業だった。
投入予定資金は、対象ポートフォリオの約1割強である。最大下落率は、運用中の高値から、その後の安値まで、資産額が最も大きく減った割合を指す。全体で測り直した3か月後の暴落シナリオでは、即時投入から6か月の時間分散へ変えた改善は約0.38パーセントポイント、12か月へ変えた改善は約0.87ポイントだった。下落率が10%から9%へ縮まるなら、改善は1パーセントポイントと数える。これは反発確認と固定日数待機の比較とは別の分析で、根拠となる独立した暴落事例も、下落の深さごとに2〜5件と少ない。投入対象部分で大きく見えた保護も、全体では薄まる。
さらに、仮の保有構成を実保有に基づく構成へ替えると、12か月の時間分散の待つ費用は約10分の1まで小さくなった。仮の構成には、追加資金が暗号資産へ向かう設定があり、その過去の上昇を待機の費用としていた。実際には既に目標を上回る保有があり、追加先から外れていた。何を買うかで、保険の値段は変わった。
時間分散を終えた後の新たな暴落には、未投入資金による防御は残らない。ただ、それまでの投入価格で生じた資産額の差が必ず消えるわけでもない。両者を分けて確認すると、即時投入と時間分散の差は全体で小さく、推定の不確かさも大きかった。投入方法をさらに細かく研究する価値は低いと判断した。
未投入という前提
その研究で残ったのは、そもそもこの資金を移すべきなのかという問いだった。未投入と呼べるのは、元の目標配分が正しいと仮定したときである。低リスク資産で保有収益を得ることも、現在の配分として検討できる。
待機側の資産は、対象ポートフォリオの概ね3分の1あった。今回、その比率自体を明白な配分の誤りと認める根拠は見つからなかった。ただし、最適な比率だと証明したわけでもない。配分全体が成り立つことと、その一部を維持するか別の資産へ移すかは、別の問いだった。
実保有の分析では、大まかな分類と価格の動きが一致しない部分も見つかった。不動産投資信託、工業金属、農産物をまとめた代替データでは、相関が約0.5にとどまった。一つの資産クラス名にまとめたからといって、収益の理由まで同じにはならない。
そこで、実際の商品、経済的な収益要因、共通の障害で損失が生じる依存先を別々に整理した。金価格に連動する商品でも、発行者や保管先に依存する。異なる資産を持っていても、同じサービスで一度にアクセスを失う可能性があれば、価格の分散とは別に見る必要がある。
リスク指標と分類
AIは、暗号資産の変動への寄与が大きいことから、保有比率を減らす案を出した。しかし、私にとって金と暗号資産は、資産を増やすための攻めの保有だった。そのために、一定のリスクを理解したうえで受け入れる。この役割と姿勢がAIにはなかなか伝わらず、価格変動を最小にすることだけが目的ではない、と確認し直す必要があった。
そこで、全日の値動きのばらつきを測る分散と、ポートフォリオが下落した日だけで計算し直した分散を比べた。全体へ各資産がどれだけ影響したかを寄与率として見ると、暗号資産と貴金属は全日で約42.4%対25.8%、下落日で約35.2%対34.4%だった。順位は逆転していないが、差はかなり縮んだ。当初の要約は後者を半分散と呼んでいたものの、コード上は下落日を抽出して共分散を再計算する定義だったため、ここでは分けて説明する。
この結果は、2022年8月31日〜2026年9月15日の日次データへ分析時点の配分を固定して当てたものだ。過去の実保有の推移を再現した運用成績でも、世界金融危機やコロナ禍での寄与でもない。何を下落として数えるかに加え、どの期間と配分で測ったかが評価に入る。
分類を細かくすれば、グループごとの寄与や順位も変わる。ただし、同じ保有と価格系列なら、分類名だけで総リスクは変わらない。寄与をどのまとまりへ足し上げたかを、配分削減の根拠と混同しないことが必要だった。
AIが提示した暗号資産の適正レンジも、本人が指定していないリスク予算から逆算されていたため撤回した。私が探したかったのは、期待収益をほぼ維持したまま削れる余分な損失や重複だった。今回の比較では、それほど明白な改善案は見つからなかった。
将来へ置く条件
ここで検討したのは、経済的には待機側にある資金の一部を、別の投資先へ回すことだった。外部から新たに入る資金だけの話ではない。ただし、すべての計算が、待機資産を同額売って候補を買う取引として実装されていたかまでは、提供資料から確認していない。
その資金をどこへ置くかは、過去の成績だけでは決められない。株式なら配当、一株当たり成長、株価が一株当たり利益の何倍かを表す評価倍率を分け、待機先を上回るためにどこまで悪化へ耐えられるかを調べた。金なら価格上昇と実装上の保有収益を分け、その収益が止まる場合も確認する。
新興国の期待収益を高く置いた理由は、先進国より割安という説明では足りなかった。主に高い成長仮定によるものだった。そこで、高い成長が実現するかへの賭けとして整理し直した。一点の収益予測より、各案のために何を信じる必要があるかを比べる方が役に立った。
金と株式を混ぜたシナリオも計算したが、最終資産額はほぼ線形に変わった。その計算条件では、中間配分に特別な上積みはなかった。途中の損失や変動についての分散効果を否定した結果ではない。細かな比率の調整が全体へ与える差は小さく、さらに最適化する理由は弱くなった。
当時の中心仮定では、世界株式のモデル収益は待機先を上回り、金の保有収益が続く仮定でも金よりやや高かった。一方、暗号資産は大幅な上昇や下落のシナリオで調べており、同じモデルで期待収益を順位付けしたわけではない。待機資金の流動性や将来の選択余地の価値も、数値化し切れていなかった。余力が既にあるほど、さらに残す価値が小さくなる可能性はあるが、その減り方を配分比率から証明した結果ではない。
世界の富との距離
そこで、何のために投資するのかを聞き直した。年率5%、できれば10%程度という目標の奥には、世界の富に占める自分の資産の割合を増やしたいという意図があった。AIはこれを、取り残される後悔を抑えるため、と説明したが、それだけでは足りなかった。金や暗号資産への攻めの配分で、世界全体の増加を上回りたいという動機を伝え直した。
この目的から、広い地域の株式は企業活動への参加、金と暗号資産は自分の見通しに基づく積極的な賭け、待機資産は収益と選択余地として読み直せた。待機側の一部を再配分するなら、企業活動への参加を少し補う方が整合的だ、というAIの提案も検討した。これは、具体的な地域配分を採用し、実際に買付を行ったことを意味しない。
待機側の資産は価格の変動が小さくても、世界の企業活動が伸びたときに、その増加への参加が不足する可能性がある。信用やアクセスの依存も、価格の指標だけでは評価できない。低リスクという呼び名は、何の損失を見ているかまで限定する必要があった。
ただし、世界の富は世界株式と同じではない。UBSの2025年版世界富報告書の方法欄では、個人が所有する金融・実物資産から負債を引いた純資産を扱う。住宅なども含むため、株式や債券の市場規模を混ぜた指数は、代替モデルとして区別する必要がある。
基準を数値化すると、基準側の分類と比率で配分差の見え方が変わった。債券が少ないという結果も、金が相対指数を動かしにくいという結果も、代替モデルの作り方に依存する。比較基準を導入した後は、その基準も監査する対象になった。
研究を終えるところ
コードの修正も何度かあった。未来の金利を古い欠損期間へ埋めた処理、別商品の価格で模擬損益を評価する代用、二つの中央値の差を同条件の差の中央値と取り違える比較。AIが大量に計算できても、私が比べたい問題を計算しているかは別だった。
最後には研究用の代替データと、実際に買う商品の範囲も照合した。米国以外の先進国専用として扱った商品に新興国も含まれるなら、実装後の配分はモデルと違う。地域を等分する案も、時価総額配分や最適化の結果ではなかった。
検討を受けて決めたのは、比較的低リスクな資産からリスク資産への投入を、これまでより速めることだった。一定のペースを決めて継続し、これまで以上に地域分散を意識する。概ね3分の1という配分が間違っていたから急ぐ、という判断ではない。具体的な月数や地域の比率、実売買の開始までを示すものではないが、一部の資金の役割を整理する検討は、自分の投入方針を決めるところにつながった。将来への信念まで計算で消せるとは考えなかった。
私にとってAIの役割は、自分の方針を比較できる形へ具体化し、良く見えた説明をさらに疑うための作業を進めることだった。暴落への不安から始めて、何のリスクを、何に対して資産を増やすために取るかを説明できるところまで進んだ。既存ポートフォリオについて画期的な方策を発見したわけではないが、持ち方の検討にはひとまず区切りが付いた。
利益の仕組みを増やす研究へ戻る
そこで現在は、以前から残っていた戦略研究へ戻っている。持つ資産の種類だけでなく、値上がりと保有中の収入以外にも、利益が出る理由を加えたい。この目的から調べてきた方法が、相対価値取引とトレンド戦略だった。
価格関係が元へ戻ることを狙う相対価値取引と、その方向へさらに進むことを狙うトレンドには、補完を期待した。しかし検証すると、前者は仮説を修正して模擬売買の自動記録を始め、後者は通常時の収益源として保留した。シャープ比は、基準となる収益を上回った分を収益のばらつきで割る指標である。値動きの激しさに応じて保有量を変える方法は、5資産の長期サンプルでシャープ比が基準の約0.612から約0.653へ改善した。ただし、暗号資産を含む10資産の共通期間では約0.812に対して約0.450と下回った。対象と期間を替えても同じ優位が残ったわけではない。
株価指数の配当、資金調達、先物の乗換え費用を含まないなど、比較条件にも制約がある。新しい収益源の候補と、既存資産のリスク量を調整する方法は、実践の前に確かめる内容も違う経路に分かれた。
ここで残っている保有量の調整は、新しい資金を買う時期だけ変える方法とは別である。投入時期の研究では、単純な時間分散への安定した優位を確認できなかった。既に持っている量も増減する方法については、自分の保有へどこまで適用し、どの頻度で売買するかを決める課題が残る。
トレンドには、危機の期間で別の働きが見られた。そのため今後評価するなら、通常時の収益の高さだけでなく、平時の費用に対して危機でどれだけ損失を和らげたかを調べたい。対象市場を大きく広げる案もあるが、実装して確かめた段階ではない。
模擬売買と実践の間
2026年9月16日時点の追加照合では、相対価値取引の自動記録は稼働し、日足2件を受信していた。ただし、開始条件は成立せず、開始・完了した模擬取引はいずれも0件だった。動作を試した600営業日の疑似データは、この実記録へ足していない。仕組みは動き始めたが、利益を評価する取引はまだない。
模擬売買の損益には売買費用と資金調達費用が未算入で、将来記録される結果も現仕様では費用控除前になる。判断用の商品と評価用の商品を分け、評価価格がない日は別の商品で代用しない設計へ修正した。これは研究の品質を変えた例で、投資成績を改善した証拠とは区別している。
保有量の調整は過去データの検証までで、模擬売買には進んでいない。トレンドは常時運用を保留し、危機への備えとして再評価する余地を残す。三つとも、実売買へ進む数値の合格基準は未決定だ。
動くシステム、過去のよい成績、実際の取引で得られる利益は、それぞれ違う証拠である。AIがコードを書けることから、採用する判断までを一息に進めることはできない。使う価格の違い、費用、設定を替えた結果、既存資産と損失が重なる局面を確かめる必要がある。
持ち方を見直した経験は、この先の研究にも生きる。よい数字が出た理由を分け、本人が決めていない条件を採用済みにしない。何を確認すれば実践へ進めるのかを具体化する研究が、現在も続いている。
ポイント整理
投入速度と市場情報の分離
下落時の買い加速が良く見えても、平均投資割合が多い効果を分けて比べる。
反発を見る案には、一定日数だけ待つ対照も置く。
時間分散の保険期間
未投入資金は、投入先の初期下落を受けない。その効果を全体の比率で測る。
投入終了後の防御と、それまでに生じた資産額差の持続を区別する。
配分提案の前提
元の目標配分を正解とせず、現在の収益条件から検討する。
AIが置いたリスク予算を、自分の投資目的と混同しない。
指標と評価基準の監査
分散、下落側、資産の分類を替えても、判断の理由が残るか確認する。
世界の富を代替するモデルも、構成と分析範囲を点検する。
追加研究の価値
候補の差が全体で小さいとき、精密化で選択が変わるかを先に考える。
最後に残る将来への信念と、実装上の選択を本人が引き受ける。
キーワード解説
【保有収益】
利息など、資産を保有することで得る収益。価格変化と合わせた総収益とは区別する。同じ資産価格でも、商品や利用するサービスによって収益条件と依存先が違う。
【下落日のリスク寄与】
本研究では、ポートフォリオの日次収益が負の日だけを選び、その日の共分散で各資産の分散への寄与を計算し直した。基準を下回る偏差の二乗を積み上げる通常の半分散とは区別する。期間と固定した配分、抽出条件を明記して読む必要がある。
【損失の共通依存先】
複数の保有が同時に影響を受けるサービス、発行者、保管先など。価格の動きが異なる資産でも、同じ依存先の障害で損失やアクセス制限が生じる場合がある。
【家計純資産】
家計が持つ金融資産と非金融資産から、負債を引いた資産の価値。株式市場の時価総額だけを指すものではない。国際比較では評価時点と通貨もそろえる必要がある。
【分析範囲】
計算に含めた資産と、比較した期間や条件の範囲。対象ポートフォリオの結果を、個人全体の資産や、モデルに入れていない効果へ広げて解釈しない。

