AIが地球温暖化を加速する?──技術革命の隠れたコスト
- Seo Seungchul

- 7月9日
- 読了時間: 9分
更新日:7月23日

シリーズ: 知新察来
◆今回のピックアップ記事:Niklas Sundberg "Tackling AI's Climate Change Problem" (MIT Sloan Management Review, 2023年12月12日)
ChatGPTに質問を投げかけるたび、画像生成AIで絵を作るたび、私たちは知らず知らずのうちに地球に負荷をかけています。OpenAIのChatGPTが世界を席巻してから、AI技術は目覚ましい発展を遂げていますが、その陰で深刻な環境問題が浮上しています。
AI革命の真のコストとは何でしょうか。華々しい技術進歩の裏で、データセンターの電力消費は急増し、大手テック企業の温室効果ガス排出量は軒並み増加しています。Googleは2019年比で48%、Microsoftは2020年比で29%もの排出量増加を報告しているのです。
一方で、AIは気候変動対策の切り札としても期待されています。エネルギー効率の最適化、気候モデルの精度向上、再生可能エネルギーの管理など、環境問題の解決に向けたAIの応用は無限の可能性を秘めています。
今回は、この複雑な状況について、環境問題とテクノロジーの交差点で思考を重ねてみたいと思います。AI技術の恩恵を享受しながら、どうすれば地球への負荷を最小限に抑えられるのか。その答えは決して単純ではありません。
見えないエネルギー消費の正体
Phrona:最近のAIブームって、すごいスピードで進んでるけど、ChatGPT一回使うのに電球20分点灯分の電力って聞くと、なんか申し訳ない気がしてきますね。
富良野:そうですね。でも興味深いのは、AI企業がこのデータをほとんど公開してないことなんですよ。OpenAIとかもエネルギー使用量を明かしてない。
Phrona:透明性の問題ですか。企業って都合の悪いデータは隠したがりますもんね。でも、なんで今になってこの話題が注目されるようになったんでしょう?
富良野:2017年が転換点だったみたいです。それまでデータセンターの電力消費って横ばいだったのに、AIが本格化してから一気に倍増してる。アメリカの全電力の4.4%がデータセンターに使われてるって数字は、僕も驚きました。
Phrona:4.4%って、想像つかないですけど相当な量ですよね。しかも、これからもっと増えていくわけでしょう?
富良野:そうなんです。AIモデルって大きくなればなるほど、エネルギーをもっと食うんですよ。規模の経済が働かない。GPT-3の訓練だけで1.3ギガワット時、アメリカの平均的な家庭120軒分の年間消費電力に相当するって試算もある。
Phrona:うーん、でも私たちって普段そんなこと意識してませんよね。スマホでサクッと質問したり、画像作ったりしてるだけなのに。
データセンターという巨大なエネルギー怪物
富良野:データセンターの実態を知ると、さらに深刻さが分かりますよ。1つの平均的なデータセンターで、年間5万世帯分の暖房に相当するエネルギーを消費してる。
Phrona:5万世帯って、中規模な市一つ分ですよね。そんなに使ってるなんて、全然実感がわかない。
富良野:しかも、AIのためのデータセンターは従来の7〜8倍もエネルギー密度が高いんです。普通のコンピューティング作業とは次元が違う。
Phrona:なるほど、AIって特別にエネルギーを食う作業なんですね。でも、なんでそんなにエネルギーが必要なんでしょう?
富良野:大規模言語モデル、LLMって呼ばれるやつですが、これの訓練には何万ものハイエンドチップが必要なんです。GPT-3は1750億のパラメータを持ってる。それを処理するための計算量が膨大で。
Phrona:1750億って、もう想像を超えてます。でも、訓練が終わったら電力消費は減るんじゃないですか?
富良野:これが意外なんですが、実際に使う段階、推論って呼ばれる段階の方が、もしかすると訓練よりもエネルギーを使うかもしれないって研究もあるんです。
Phrona:え、そうなんですか?私たちが質問するたびに、訓練するのと同じかそれ以上のエネルギーが?
富良野:正確にはまだ分からないんですが、可能性としてはあります。しかも、みんな一回の質問で満足しませんよね。何度も聞き直したり、もっと詳しく聞いたり。
水という忘れられがちな資源
Phrona:電力の話ばかり聞いてましたけど、水の消費量も大事な問題なんですよね。
富良野:そうなんです。データセンターって冷却のために大量の水を使うんですよ。1キロワット時あたり2リットルの水が必要って試算があります。
Phrona:2リットルって、ペットボトル1本分ですね。それがキロワット時ごとに。積み重なると相当な量になりそう。
富良野:しかもこれ、「クラウドコンピューティング」なんて呼ばれてるから、なんとなく雲の上の話みたいに感じちゃうけど、実際は物理的な施設で物理的な資源を使ってるんですよね。
Phrona:クラウドって名前のマジックですね。見えないから意識しないけど、実際は地上にあって、水も電気も使ってる。
富良野:製造段階の環境負荷も深刻です。GPUっていう高性能チップの製造は、普通のCPUより複雑で、その分炭素排出量も多い。電子廃棄物も年間5700万トン、万里の長城と同じ重さって話もある。
Phrona:電子廃棄物が万里の長城と同じ重さって、なんかシュールですね。でも分かりやすい比較かも。
AIは気候変動の救世主か、加害者か
Phrona:でも、AIって気候変動対策にも使われてるんですよね?この矛盾をどう考えたらいいんでしょう。
富良野:そこが複雑なところなんです。Googleは自社のデータセンターでAIを使ってエネルギー効率を最適化してる。気候モデルの精度向上、スマートグリッドの管理、材料科学での新発見、農業の効率化。用途は無限にありますね。
Phrona:具体的にはどんな効果があるんでしょう?
富良野:例えば、AIで最適化された自動運転車は効率的なルートを選ぶから排出削減になる。農業では、AIが病害虫を早期発見して、農薬使用量を減らせる。リアルタイムで森林伐採や違法漁業を監視することもできる。
Phrona:それは確かにすごいですね。でも、なんか皮肉な感じもします。気候変動を解決するためにAIを使うけど、そのAI自体が気候変動の原因にもなってるって。
富良野:研究では面白い結果も出てるんですよ。AIによる文章生成は、人間のライターより130〜1500倍も炭素効率がいいって話もある。
Phrona:え、そんなに違うんですか?
富良野:ただし、これは一概には言えない部分もあって。AIが普及することで、例えば自動運転が便利になりすぎて、みんなが公共交通機関を使わなくなる可能性もある。
Phrona:二次的な影響ってことですね。技術が便利になることで、かえって環境負荷が増えちゃう。
解決策は見つかるのか
富良野:でも希望もあります。チップメーカーは省エネ技術を開発してるし、場合によっては96%もエネルギー使用量を削減できた例もある。
Phrona:96%削減って、すごい進歩ですね。技術の力で解決できる部分もあるんだ。
富良野:それから、再生可能エネルギーの活用も重要です。Microsoftは2026年から10ギガワットの再生可能エネルギーを調達する契約を結んでる。Googleも2030年までに24時間365日カーボンフリーエネルギーで運営する目標を掲げてます。
Phrona:でも、現実的にはどうなんでしょう?再生可能エネルギーって不安定じゃないですか。
富良野:そこが課題ですね。データセンターは24時間365日稼働する必要があるから、風力や太陽光みたいな断続的なエネルギーだけでは難しい。実際、データセンターが使う電力の炭素強度は、アメリカ平均より48%高いって研究もあります。
Phrona:つまり、より汚い電力を使わざるを得ないってことですか。
富良野:一方で、AIの訓練は場所に依存しないから、クリーンエネルギーが豊富な地域で行うこともできる。「カーボンアウェア・コンピューティング」って概念ですね。
Phrona:賢いですね。排出量の少ない場所や時間帯を選んで計算処理をする。
私たちにできることは何か
Phrona:結局、私たち一般ユーザーには何ができるんでしょうね。
富良野:まず、透明性を求めることじゃないでしょうか。AI企業にエネルギー使用量やカーボンフットプリントの開示を求める。規制当局も動く必要がある。
Phrona:情報がなければ、改善のしようもないですもんね。
富良野:効率的な使い方も大切です。必要のない質問を繰り返さない、複数のAIサービスを使い分ける。小さなことですが、積み重ねれば効果はある。
Phrona:でも、個人の努力だけでは限界がありそうですね。やっぱり制度や技術の革新が必要なのかな。
富良野:そうですね。でも興味深いのは、AIそのものが解決策にもなり得ることです。エネルギー効率の最適化、スマートグリッドの管理、新材料の開発。技術の進歩が問題を解決する可能性もある。
Phrona:技術が生み出した問題を、技術で解決する。なんだか現代的な話ですね。
富良野:ただし、それには慎重な設計と運用が必要です。単純に「AIで解決」ではなく、全体的な影響を考えながら進める必要がある。
ポイント整理
AIのエネルギー消費は急激に増加している
2017年以降、データセンターの電力消費は倍増し、アメリカ全体の4.4%を占める
1回のChatGPT質問で電球20分点灯分の電力を消費
普通のGoogle検索の10倍近いエネルギーが必要
大手テック企業の排出量が激増
Google(48%増)、Microsoft(29%増)とAI投資に比例して環境負荷が拡大
データセンターは水資源も大量消費
1キロワット時あたり2リットルの冷却水が必要で、地域の水不足に影響
AIモデルの大型化でエネルギー使用量も比例増加
GPT-3の訓練だけでアメリカの平均家庭120軒分の年間電力を消費
企業の情報開示が不透明
多くのAI企業がエネルギー使用量や炭素排出量を公開していない
AI技術自体が気候変動対策にも貢献
エネルギー効率化、気候モデル改善、再生可能エネルギー管理等で活用
技術革新による省エネ化も進展
新しいチップ設計で最大96%のエネルギー削減を実現した例もある
再生可能エネルギーへの移行が課題
データセンターは24時間稼働のため、安定したクリーンエネルギー確保が困難
個人利用の最適化と制度改革の両方が必要
効率的な使用方法の普及と、規制による透明性向上が求められる
キーワード解説
【大規模言語モデル(LLM)】
ChatGPTやGPT-4のような、大量のテキストデータで訓練された巨大なAIモデル
【カーボンフットプリント】
製品やサービスの生産・使用過程で排出される温室効果ガスの総量
【データセンター】
大量のサーバーコンピュータを集約し、24時間稼働でクラウドサービスを提供する施設
【GPU(Graphics Processing Unit)】
AIの訓練や推論に必要な並列計算に特化した高性能チップ
【推論】
訓練済みのAIモデルが実際のユーザー質問に回答を生成する処理
【カーボンアウェア・コンピューティング】
炭素排出量を考慮し、クリーンエネルギーが豊富な場所・時間帯で計算処理を行う手法
【PPA(Power Purchase Agreement)】
企業が再生可能エネルギー事業者と長期間の電力購入契約を結ぶ仕組み
【電子廃棄物(E-waste)】
使用済み電子機器から発生する廃棄物で、世界最大の成長率を持つ廃棄物
【エネルギー密度】
単位面積あたりの消費電力量で、AIデータセンターは従来の7-8倍高い
【カーボンニュートラル】
温室効果ガスの排出量と吸収・除去量を均衡させ、実質的な排出をゼロにする状態