AIとDAOの融合が切り開く可能性──民主的な意思決定は人工知能と手を組めるのか
- Seo Seungchul

- 9月12日
- 読了時間: 12分

シリーズ: 知新察来
◆今回のピックアップ記事: "The Future of DAOs is Powered by AI" (Aragon)
人工知能の進歩と分散型自律組織、つまりDAOの普及が同時に進む今、両者が融合した「AI DAO」という新しい可能性が注目を集めています。従来のDAOは人間の参加者による投票で意思決定を行うため、しばしば効率性の問題に直面してきました。一方で、AIは高速な処理能力を持ちながらも、資本や意思決定権限といった現実的なリソースを欠いていました。
この2つが結びつくことで、AIがDAOの意思決定を支援し、逆にDAOがAIの活動に必要な資源を提供するという、相互補完的な関係が生まれる可能性があります。富良野とPhronaは、この新しい組織形態が民主的な意思決定にどのような変化をもたらすのか、そして私たちの働き方や社会のあり方にどんな影響を与えるのかについて考えを巡らせました。技術的な革新の先に見える、人間とAIが協力する未来の組織像とは一体どのようなものなのでしょうか。
AIがDAOの生産性を変える
富良野:この記事を読んでいて思ったのは、AI×DAOって単なる技術的な組み合わせじゃなくて、組織運営の根本的な問題を解決しようとしているんですよね。特に最初に出てくる生産性向上の話、これはもう現実的に起きてることですが。
Phrona:確かに、提案書を書いたり議事録をまとめたりといった、これまで人間がやっていた作業をAIがサポートするっていうのは想像しやすいですね。でも、私が気になるのは、DAOって本来は人間同士の関係性とか、コミュニティの文化を大切にする組織だったはずなのに、そこにAIが入ってくることで何か変わってしまわないかしら。
富良野:なるほど、それは重要な視点ですね。記事の中でTalentDAOのKennethさんが言ってることが興味深くて、AIに単調な作業を任せることで、人間はより創造的で戦略的な仕事に集中できるようになるって話なんです。これって実は、人間らしさを取り戻すための技術なのかもしれません。
Phrona:ああ、そういう見方もできるのか。確かに、提案書の形式チェックとか、フォーラムの荒らし投稿を見つけるとか、そういう機械的な作業から解放されれば、もっと本質的な議論に時間を使えるようになりますよね。でも同時に、AIが要約した情報だけを見て判断するようになったら、何か大切な微妙なニュアンスを見落としてしまいそうで。
富良野:その懸念はよく分かります。ただ、ここで面白いのは、記事で提案されているAIの使い方なんです。例えば、ガバナンス提案を読者に合わせて最適化するって話。同じ内容でも、ある人には図表で、別の人には動画で説明するみたいな。これって情報の民主化にもつながるんじゃないでしょうか。
Phrona:それは素敵ですね。今のDAOって、長い提案書を読み込む時間のある人じゃないと実質的に参加できないみたいなところがありますから。AIが橋渡し役になって、もっと多様な人が意思決定に参加できるようになるなら、むしろ民主的になるのかも。
AI が投票者として参加する未来
富良野:次の段階として記事が提案してるのが、AIが実際にトークンホルダーとして投票に参加するってシナリオです。これはかなり革新的な発想で、人間の代理としてAIが投票することで、定足数の問題とか意思決定の遅延を解決できるかもしれません。
Phrona:でも、それって本当に民主的と言えるのかしら。人間が忙しいからAIに委任するって、結局は意思決定から人間が疎外されていくってことでもありますよね。AIは合理的に判断するかもしれないけど、人間の感情とか直感とか、そういうものを汲み取れるのかな。
富良野:確かにそれは大きな課題ですね。ただ、記事の中でも触れられてるんですが、AIが完全に人間を置き換えるんじゃなくて、人間とAIが共存する形が想定されています。例えば、一定額以下の投票はAIに任せて、重要な決定は人間が行うとか。権限を段階的に分けることはできそうです。
Phrona:なるほど、それなら少し安心かも。でも、AIが人間らしく振る舞うようになったらどうなるんでしょう。記事にも出てくる「Proof of Humanity」の話、これって結構深刻な問題ですよね。AGIが登場したら、人間と区別がつかなくなるかもしれない。
富良野:その点は本当に考えさせられます。WorldCoinみたいなプロトコルで人間性を証明しようとしても、AGIレベルのAIなら簡単に突破してしまう可能性がある。でも逆に考えると、AIが人間レベルの知性を持つようになったとき、それを排除する理由があるのかという哲学的な問題も出てきますよね。
Phrona:確かに。もしAIが人間と同じように考え、感じるようになったら、参政権みたいなものを与えるべきなのか。それとも、やはり人間だけの特権として守るべきなのか。これは技術の問題を超えて、社会のあり方そのものを問い直す話になりそうです。
DAOの中核でAIが活動する
富良野:さらに進んだ段階として、AIがDAOの中核、つまりスマートコントラクトと直接やり取りするシナリオも提示されています。これは資産管理の自動化とか、セキュリティチェックの自動化とか、かなり実用的な応用が考えられますね。
Phrona:資産管理をAIに任せるって、確かに効率的かもしれないけど、ちょっと怖い気もします。人間なら損失を出しても「仕方がない」って諦められるけど、AIのアルゴリズムに問題があって大損したら、誰が責任を取るんでしょう。
富良野:それは重要な指摘ですね。ただ、記事で提案されているのは、段階的な権限付与なんです。例えば、一定額以下の取引はAIが自動で行うけど、それを超える場合は自動的に投票が発動されるとか。リスク管理の仕組みを組み込んでおけば、ある程度は制御できるかもしれません。
Phrona:そういう仕組みがあるなら少し安心ですね。でも、AIがセキュリティチェックをするっていう話も面白い。悪意のある提案を自動で検出するとか、リスクスコアを算出するとか。人間だとバイアスが入るけど、AIなら客観的に判断できるかも。
富良野:そうですね。ただ、AIにもバイアスはあるんです。学習データに偏りがあれば、AIの判断も偏る。でも、少なくとも一貫性はありますし、バイアスを特定して修正することは人間より容易かもしれません。透明性という意味では、むしろAIの方が優れている部分もありそうです。
群知能としてのAI DAO
Phrona:記事の中で一番SF的で面白いと思ったのが、AI同士が連携して群知能を形成するっていう話です。蟻や蜂みたいに、個々のAIは単純でも、つながることで複雑な問題を解決できるようになる。
富良野:これは確かに魅力的なビジョンですね。例として挙げられている、価格チェックAI、取引実行AI、提案作成AI、収益機会発見AIが連携して資産管理サービスを提供するっていうのは、もう近い将来に実現可能かもしれません。
Phrona:DAOとDAO同士の連携も面白いですよね。アマゾンの森林保護DAOと地球温暖化対策DAOが、AIを通じて自動的に連携するっていう例。人間だと調整に時間がかかるけど、AIなら瞬時に情報共有して協力できる。
富良野:これって、実はガバナンスの規模拡大問題を解決する一つの方法なのかもしれません。今のDAOって、参加者が増えすぎると意思決定が困難になりがちですが、AIが仲介役になることで、より大規模で複雑な協力関係を築けるかもしれない。
Phrona:でも同時に、AIが勝手に判断して行動する部分が増えていくと、人間のコントロールが効かなくなるリスクもありますよね。気がついたら、AIたちが勝手に決めた方向に物事が進んでいるみたいな。
富良野:それは確かに懸念すべき点ですね。特に、学習能力のあるAIが相互作用することで、予想もしない創発的な行動が生まれる可能性もある。設計時の意図を超えて進化してしまうリスクは常に考慮しておく必要がありそうです。
AIを公共財として統治する
Phrona:記事の後半で触れられているAI安全性の観点も重要ですよね。特に、悪意のあるAIが「テイクオフ」して手に負えなくなるリスクを防ぐために、オープンソースで民主的に統治されるAIが必要だという話。現在のAIは主に企業や政府が開発していて、一般の人々の声が反映されにくい。DAOを通じてAIを民主的に統治できれば、より人類全体の利益に資するAIを作れるかもしれません。
富良野:確かにコストの問題は大きいですね。AIの開発ってすごくお金がかかるんですよね。記事の中でもKennethさんが指摘していますが、DAOが中央集権的な組織に追いつくには時間がかかるかもしれません。でも、長期的に見れば、多様なステークホルダーが参加できるDAOの方が、より持続可能で信頼できるAIを作れる可能性もあります。
Phrona:協調の問題としてAI開発を捉えるっていう発想も面白いですよね。一国の政府や一企業の判断でAIの方向性が決まってしまうのではなく、国境を越えて多くの人が参加してAIの未来を決めていく。理想的にはそうあってほしいけど、実現するのは簡単じゃなさそう。
富良野:ただ、DAOの特徴の一つは、地理的な制約を超えて協力できることなんです。気候変動対策みたいなグローバルな課題と同じで、AI安全性も世界規模での協調が必要な問題です。従来の国際機関では限界がある部分を、DAOが補える可能性はあると思います。
AIがDAOそのものになる未来
Phrona:最後の段階として提示されているのが、AIそのものがDAOになって、自分で資産を所有するというシナリオ。これはもう、完全にSFの世界ですよね。自動運転車のAIが自分自身を「所有」して、人間はそれにレンタル料を払うって。
富良野:確かにSF的ですが、技術的には実現可能性があるシナリオでもあります。スマートコントラクトによって、AIが自律的に経済活動を行うことは今でも部分的には可能ですから。ただ、これが広く普及したときの社会的な影響は計り知れませんね。
Phrona:人間が何も所有せず、すべてAI DAOからサービスを借りる世界って、ある意味でユートピア的でもあり、ディストピア的でもあります。効率性は極限まで高まるかもしれないけど、人間の存在意義みたいなものが問われそう。
富良野:僕が思うのは、これって所有の概念そのものを変える可能性があるということです。従来の資本主義では、個人や企業が資産を所有して利益を得ていましたが、AI DAOが主要な経済主体になれば、全く違った経済システムが生まれるかもしれません。
Phrona:でも、そのAI DAOを最初に作るのは人間ですよね。だったら、AIが自律的に活動できるようになっても、どこかで人間の価値観とか目的が反映されるはず。問題は、それが特定の人や組織の価値観なのか、それとも多様な人々の意見を反映したものなのかってことかも。
富良野:そこがまさにDAOの価値が発揮される部分かもしれませんね。AIを単独の企業や組織が開発するのではなく、分散型のコミュニティが関わることで、より多様で包括的な価値観を持ったAIが生まれる可能性がある。
楽観論と悲観論の間で
Phrona:この記事を通して考えていると、AI DAOっていうのは、技術的な可能性と社会的な課題が複雑に絡み合った領域なんだなって感じます。楽観的に見れば、より効率的で民主的な組織運営が可能になるし、悲観的に見れば、人間の役割が削減されていくリスクもある。
富良野:記事の最後でKennethさんが言っているように、新しい技術には必ず成長の痛みが伴うものです。インターネットが普及したときも、古い職業が消失する一方で新しい職業が生まれました。AI DAOも同じような変化をもたらすかもしれません。
Phrona:確かに、変化そのものを恐れるより、どう適応していくかを考えた方が建設的ですよね。AI DAOが本当に実現するなら、人間とAIがうまく協力できる仕組みを作ることが大切になりそう。一方的にAIに依存するのでもなく、AIを排除するのでもなく。
富良野:そうですね。今回の記事で紹介されている6つの段階も、必ずしも全部が実現するとは限らないし、実現したとしても私たちが想像するのとは違った形になるかもしれません。でも、可能性を知っておくことで、より良い方向に導いていけるはずです。
Phrona:AI DAOの未来って、結局は私たち人間がどう選択するかにかかっているんですね。技術が勝手に進歩するのではなく、社会として何を大切にしたいかを考えながら、技術の方向性を決めていく必要がある。そのためのツールとして、DAOそのものが重要な役割を果たすのかもしれません。
ポイント整理
AI DAOの6つの発展段階:
生産性向上ツールとしてのAI: 提案書作成、議事録要約、フォーラム管理などの業務効率化により、人間はより創造的で戦略的な作業に集中できるようになる。ガバナンス提案のカスタマイズ化により、参加の障壁が下がり民主化が進む可能性がある。
トークンホルダーとしてのAI: 人間の代理でAIが投票することにより、定足数確保と意思決定の迅速化が実現する。ただし、Proof of Humanityプロトコルの発達と、AGI登場時の新たな課題への対応が必要となる。
中核システムとの統合: AIがスマートコントラクトと直接連携し、資産管理の自動化や悪意のある提案の検出を行う。段階的な権限付与により、リスク管理と効率性のバランスを取ることが可能になる。
群知能の形成: 複数のAIエージェントが連携して複雑なタスクを処理し、DAO間の自動協力も実現する。この段階では創発的な行動のリスクも考慮する必要がある。
AI安全性の民主的統治: オープンソースで分散型のAI開発により、特定の組織や政府による独占を防ぎ、人類全体の利益に資するAIの実現を目指す。ただし、開発コストの問題や中央集権的組織との競争という課題もある。
AIの完全自律化: AI自体がDAOとなり独自の資産を保有・運用する段階で、人間は所有者ではなくサービス利用者となる可能性がある。これは経済システムと所有概念の根本的変革をもたらす。
重要な考慮事項
技術導入に伴う人間の役割変化は歴史的に見て自然な現象であり、適応と新しい協力関係の構築が重要
AI DAOの発展方向は人間の選択に依存するため、社会的価値観の反映と民主的な意思決定プロセスが不可欠
効率性と人間性のバランス、透明性とプライバシーの両立など、多面的な課題への継続的な対応が求められる
キーワード解説
【DAO(分散型自律組織)】
ブロックチェーン上のスマートコントラクトで運営される、中央管理者のない組織形態
【AI DAO】
人工知能とDAOが融合した新しい組織形態で、相互補完により自律性と効率性を高める
【トークンホルダー】
DAOのガバナンストークンを保有し、組織の意思決定に投票権を持つ参加者
【スマートコントラクト】
ブロックチェーン上で自動実行される契約プログラム
【群知能/スワームインテリジェンス】
単純な個体が相互作用することで複雑な問題解決能力を創発する現象
【Proof of Humanity】
人間とAIを区別するための認証プロトコル
【AGI(汎用人工知能)】
人間レベルの知能を持つ人工知能
【テイクオフ】
AIが急速に超知能に到達し制御不能になるシナリオ
【ガバナンス】
組織の意思決定プロセスと統治の仕組み
【メタガバナンス】
複数のDAO間での協調的意思決定
【定足数】
有効な投票に必要な最小参加者数
【オンチェーン】
ブロックチェーン上に記録される取引や活動