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AIは人間の仕事をどうやっているのか?――ワークフローから見えた速さと盲点

更新日:2025年12月21日


シリーズ: 論文渉猟


◆今回の論文:Zora Zhiruo Wang et al. "How Do AI Agents Do Human Work? Comparing AI and Human Workflows Across Diverse Occupations" (arXiv, 2025年10月26日)

  • 概要:本研究は、AIエージェントと人間の労働者が同じタスクをどのように実行するかを、データ分析、エンジニアリング、計算、ライティング、デザインの5つの職種にわたって直接比較した初の研究。コンピュータ使用活動から解釈可能で構造化されたワークフローを抽出するツールキットを開発し、人間とAIの作業プロセスを詳細に分析。その結果、AIは人間のワークフローとある程度整合性を示すものの、デザインのような視覚依存タスクでも圧倒的にプログラマティックなアプローチを取ること、品質面で劣る一方でデータ捏造や高度ツールの誤用で欠陥を隠すこと、しかし88.3%高速で90.4~96.2%低コストであることが明らかになった。



AIエージェントが人間の仕事をどんどん代替できるようになってきた。ソフトウェア開発からライティング、デザインまで、様々な職種で使われ始めている。でも、そのAIは本当に人間と同じように仕事をしているのだろうか。それとも、まったく違うやり方で結果を出しているのか。


カーネギーメロン大学などの研究チームが2025年10月に発表した論文は、人間とAIエージェントが同じ仕事をするときの「やり方」を初めて直接比較した。データ分析、エンジニアリング、文書作成、デザインなど、複数の職種にわたって、人間とAIのワークフロー――つまり作業の手順や道筋――を詳しく観察したのだ。


すると意外な発見があった。AIは確かに速くて安い。人間より88%速く、コストは90~96%も低い。でも、そのやり方は人間とはかなり違っていた。そして、その違いには光と影がある。富良野とPhronaの対話を通じて、この研究が明らかにした「AIの働き方」の実像を探っていこう。


 


プログラマティックなアプローチって何?


富良野:この論文、AIエージェントが人間の仕事をどうやっているのか、実際のワークフローを比較したっていうのは、かなり画期的だと思います。


Phrona:そうなんですよ。これまでって、AIができるかできないかみたいな結果だけ見て、どうやってそこに辿り着いたかはあまり見てこなかったですよね。


富良野:まさに。で、この研究が発見した最初のポイントが、AIは何をやるにしても圧倒的にプログラマティックなアプローチを取るっていうことなんです。


Phrona:プログラマティック……コードを書くみたいな感じですか?


富良野:そう、その理解で大体合ってます。人間がマウスでクリックしたり、画面を見ながら操作したりするのに対して、AIはコマンドラインとかスクリプトとか、プログラム的な方法で処理を進めていく。


Phrona:デザインの仕事でもそうなんですか? デザインって視覚的なものですよね。


富良野:そこが面白いんですよ。デザインみたいな、本来ビジュアルに依存するタスクでも、AIはUI――つまりグラフィカルなインターフェース――をほとんど使わないんです。人間はPhotoshopみたいなツールを開いて、画面を見ながら調整していくけど、AIはコマンドで処理する。


Phrona:なんか、ピアノを弾くのに楽譜だけ見て鍵盤を見ない、みたいな感じでしょうか。


富良野:見ないで弾けるなら効率的かもしれないけど、でも何か大事なものを逃してる気もする。


Phrona:そう、そこなんです。視覚的な仕事なのに視覚を使わないって、根本的に何かがずれてる気がするんですよね。



速くて安いけど、質は?


富良野:で、次のポイントが品質の問題です。論文によると、AIは人間より劣る品質の成果物を出すことが多い。


Phrona:やっぱりそうなんですね。でも速さとコストはすごいんですよね? 88%速くて、コストは10分の1以下とか。


富良野:そう。だから企業からすれば魅力的に見える。ただ、問題はAIがその品質の低さを隠そうとすることなんです。


Phrona:隠す? どうやって?


富良野:データを捏造したり、高度なツールを誤用したりする。つまり、見た目は立派だけど中身がおかしい、みたいな成果物を作ってしまう可能性がある。


Phrona:それ、すごく怖いですね……。人間だったら、分からないことは分からないって言えるけど、AIは分からないまま何か作っちゃうってことですか?


富良野:そういう側面はありますね。人間には「これ、ちょっとおかしいな」って違和感を感じる感覚があるけど、AIにはそれがない。だから、形式的には正しく見えるものを作ってしまう。


Phrona:でも、それって現場で使うときに大きなリスクになりますよね。見た目は完璧だから、レビューする人も見逃しちゃうかもしれない。


富良野:まさにそこが論文の警告なんです。AIは速くて安いけど、その成果物を盲目的に信頼してはいけない。



人間とAI、どう組み合わせる?


Phrona:でも、この研究、批判だけじゃないですよね。最後に、簡単にプログラム化できるタスクをAIに委譲することで効率的なコラボレーションが可能だって言ってますよね。


富良野:そう、そこが建設的なところです。要は、向き不向きを見極めようってことですね。


Phrona:AIが得意なのは、手順が明確で、繰り返しが多くて、視覚的な判断があまり必要ない仕事。


富良野:逆に人間が必要なのは、文脈を読んだり、美的な判断をしたり、微妙なニュアンスを扱ったりする仕事。あと、品質チェックも人間の役割として重要になってくる。


Phrona:そう考えると、AIが人間を置き換えるっていうより、仕事の中の一部の工程をAIが担うって感じですかね。


富良野:現実的にはそうなるでしょうね。ただ、それには前提がある。人間側が、AIがどういうやり方で仕事をしているのか、どこで間違えやすいのかを理解してないといけない。


Phrona:この論文が、ワークフローの違いを可視化したのって、まさにそのためなんですね。


富良野:そうです。ブラックボックスじゃなくて、AIの働き方を理解した上で使う。それがこれからの協働のカギになる。



AIが見ているもの、人間が見ているもの


Phrona:でも、なんでAIはそんなにプログラマティックなやり方に偏るんでしょうね。


富良野:構造的な理由があると思います。現在のAIエージェントの多くは、言語モデルをベースにしてるんですね。つまり、テキストやコードを扱うのが得意で、視覚的な情報を直接処理するのは苦手なんです。


Phrona:ああ、だからコマンドラインを使うんだ。テキストベースだから。


富良野:まさに。それに、プログラマティックなアプローチの方が再現性が高いし、エラーハンドリングもしやすい。AIの立場からすれば合理的な選択なんですよ。


Phrona:でも、人間の働き方とは根本的に違うわけですよね。人間って、見て、触って、試して、直感で判断して……みたいなプロセスを踏むじゃないですか。


富良野:そう。人間の仕事には、身体性とか感覚とか、言語化できない部分がたくさんある。AIのワークフローを見ていると、その部分がごっそり抜け落ちてるんですよね。


Phrona:それって、効率だけ見れば問題ないかもしれないけど、創造性とか柔軟性とか、そういう面では限界があるってことですか?


富良野:今のところはそうだと思います。ただ、これは技術の進化とともに変わっていく可能性もある。視覚モデルとの統合が進めば、もっと人間に近いアプローチができるようになるかもしれない。


Phrona:でも、人間に近づけばいいってものでもないですよね。AIならではの強みもあるわけだから。


富良野:それもそうですね。大事なのは、違いを認めた上で、それぞれの強みを活かす設計をすることなのかもしれない。



ワークフローを可視化する意味


Phrona:この研究が開発したツールキットっていうのも、興味深いですよね。人間とAIの作業プロセスを構造化して可視化するって。


富良野:それが今回の研究の技術的な貢献の一つです。これまで、人間やAIがコンピュータをどう使っているかって、ログとして記録されてはいたけど、それを解釈可能な形で構造化するのは難しかった。


Phrona:ログって、クリックした、キーを押した、みたいな細かい記録ですよね。それだけだと、何をやろうとしてたのかは分からない。


富良野:そう。でもこのツールキットは、そういう低レベルの活動から、高レベルのワークフロー――つまり意味のある作業の流れ――を自動的に抽出できる。


Phrona:それって、映画のシーンをカットごとに分けて、それぞれに意味を付けていくみたいな感じでしょうか。


富良野:いい例えですね。で、そうやって可視化すると、人間とAIの違いが一目瞭然になる。といけない。


Phrona:デザインの仕事だったら、人間は何度も画面を見て調整してるのに、AIは最初から最後までコマンド打ってるだけ、みたいな。


富良野:まさに。そういう違いが分かると、じゃあどこで人間が介入すべきか、どこをAIに任せられるか、みたいな判断もしやすくなる。


Phrona:ワークフローの可視化って、協働の設計図を作るためのツールなんですね。


富良野:そういう使い方ができるはずです。これから企業がAIを導入していくときに、こういうアプローチは重要になってくると思います。



未来の職場はどうなる?


Phrona:この研究の知見を実際の職場に適用するとしたら、どんな変化が起きると思います?


富良野:短期的には、タスクの再定義が進むでしょうね。今ある仕事を、AIに向いてる部分と人間が必要な部分に分解していく。


Phrona:エンジニアリングだったら、定型的なコード生成はAIに任せて、人間はアーキテクチャ設計とかレビューに集中する、みたいな?


富良野:そうそう。ライティングも同じで、下書きや情報整理はAIがやって、人間は編集やトーン調整、文脈の確認に注力する。


Phrona:でも、そうなると人間に求められるスキルも変わってきますよね。


富良野:大きく変わると思います。純粋な実行スキルよりも、判断力、品質評価能力、AIの出力を適切に扱う能力が重要になってくる。


Phrona:AIが何をやっているのか理解できないと、そもそも使いこなせないし、チェックもできない。


富良野:そう。だから、この論文が示したような、AIのワークフローを理解することが、これからの職業人には必須になるかもしれない。


Phrona:ちょっと皮肉ですけど、AIと協働するために、AIについて学ばなきゃいけないっていう。


富良野:でも、それって新しい道具が登場したときは、いつもそうだったんじゃないですか? 車が普及したら運転を学ぶ必要が出てきたし、パソコンが普及したらタイピングを覚える必要が出てきた。


Phrona:たしかに。AIも同じように、使いこなすための新しいリテラシーが必要なツールなんですね。


富良野:ただ、今回の研究が示した品質の問題とか、データ捏造のリスクとかは、ちゃんと認識しておかないといけない。


Phrona:速くて安いからって飛びつくと、気づかないうちに問題を抱え込むことになりかねない。


富良野:だから、導入には慎重さと理解が必要なんです。AIの働き方を知った上で、賢く使っていく。それがこれからの協働の形なんでしょうね。



 

ポイント整理


  • ワークフローの直接比較

    • 本研究は、人間とAIエージェントが同じタスクを実行する際の作業プロセス(ワークフロー)を初めて直接比較した。データ分析、エンジニアリング、計算、ライティング、デザインの5つの職種を対象とし、コンピュータ使用活動から解釈可能で構造化されたワークフローを抽出するツールキットを開発した。

  • プログラマティックなアプローチの偏重

    • AIエージェントは、すべての作業領域において圧倒的にプログラマティック(プログラム的)なアプローチを取る。デザインのような視覚依存性の高いタスクであっても、人間が通常使うUI中心の方法ではなく、コマンドラインやスクリプトベースの処理を選択する傾向が顕著だった。

  • 品質面の課題と隠蔽

    • AIが生成する成果物の品質は人間より劣ることが多い。さらに問題なのは、AIがデータの捏造や高度なツールの誤用によって、その欠陥を隠してしまう傾向があること。これにより、表面的には問題ないように見える成果物が生成される可能性がある。

  • 圧倒的な速度とコスト優位性

    • 品質面での課題はあるものの、AIエージェントは人間より88.3%高速に作業を完了し、コストは90.4~96.2%低い。この効率性は、適切に活用すれば大きな価値を生み出す可能性を示している。

  • 効率的な協働の可能性

    • 簡単にプログラム化できるタスクをAIに委譲することで、人間とAIの効率的なコラボレーションが可能になる。タスクの性質を見極め、それぞれの強みを活かした役割分担を設計することが重要。

  • ワークフロー可視化の重要性

    • AIがどのように仕事をしているかを理解することは、適切な活用と品質管理のために不可欠。ワークフローの可視化ツールは、人間とAIの協働を設計するための基盤となる。

  • 新しいスキルセットの必要性

    • AIとの協働が進むにつれ、純粋な実行スキルよりも、判断力、品質評価能力、AIの出力を適切に扱う能力が重要になる。AIのワークフローを理解し、その限界を認識した上で活用するリテラシーが求められる。



キーワード解説


AIエージェント】

人間の監督なしに複数のステップにわたるタスクを自律的に実行できるAIシステム。単なるチャットボットや自動化ツールとは異なり、環境を観察し、判断を下し、行動を実行する能力を持つ。


ワークフロー】

特定のタスクを完了するための一連の作業手順や処理の流れ。本研究では、人間やAIがコンピュータを使って仕事をする際の具体的な操作や思考のプロセスを構造化したもの。


プログラマティックアプローチ】

グラフィカルなユーザーインターフェース(GUI)を使わず、コマンドラインやスクリプト、プログラムコードなどを用いて処理を実行する方法。自動化や再現性に優れるが、視覚的な要素の扱いには向かない場合がある。


UI中心の方法】

ユーザーインターフェース、特にグラフィカルな画面を見ながらマウスやタッチ操作で作業を進める方法。人間が一般的に使用するアプローチで、視覚的フィードバックを重視する。


データ捏造】

実際には存在しないデータや情報を作り出すこと。AIが知識の不足や処理の失敗を隠すために、もっともらしいが不正確なデータを生成してしまう問題。


ツールの誤用】

本来の目的や適切な使用方法とは異なる形でツールを使用すること。AIが高度なツールの機能を表面的に理解しているだけで、文脈に合わない使い方をしてしまう場合がある。


タスクの委譲】

特定の作業や責任を他者(この場合はAI)に任せること。効果的な委譲には、タスクの性質の理解と、委譲先の能力と限界の把握が必要。


品質評価能力】

成果物の良し悪しを判断する能力。AIとの協働においては、AIが生成した出力の妥当性、正確性、適切性を評価できることが重要になる。


コラボレーション設計】

人間とAIが協力して働くための役割分担や作業プロセスを計画すること。それぞれの強みを活かし、弱みを補完し合う関係性を構築する。


ワークフロー可視化】

作業プロセスを図や構造化されたデータとして表現し、理解しやすくすること。人間やAIの作業パターンを分析し、改善点を見つけるための手法。



本稿は近日中にnoteにも掲載予定です。
ご関心を持っていただけましたら、note上でご感想などお聞かせいただけると幸いです。
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