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AIは少子化を代替せず、雇用の役割を組み替える──AI時代の制度的な時間差

9月10日
読了時間: 17分

シリーズ: 論文渉猟


◆今回の論文:Seth G. Benzell, Laurence J. Kotlikoff, Victor Yifan Ye, "The Global Transition – The Impact of Demographics and AI on Economic Power" (NBER Working Paper 35618, 2026年8月)

  • 概要:150か国超を17地域にまとめた動学的一般均衡モデルを使い、国連の2017年版・2024年版人口予測と三つのAI・自動化シナリオを比較する。人口、国際資本移動、技術導入、GDP、賃金、金利、社会保障財政を2100年まで推計している。



AIが人間の仕事をどこまで奪うかという予測は、数字が大きいほどニュースになりやすい。何割の職務が影響を受けるのか。何百万人が職を失うのか。もちろん無視できない問いである。ただ、雇用者数だけを数えていると、別の変化が遅れて現れる。


仕事には、いま必要な財やサービスを作る役割がある。同時に、若手が失敗しながら技能を身につける場でもあり、給与から税や社会保険料を集める経路でもある。二十世紀後半の先進工業国では、雇用が生産、所得分配、技能形成、社会保障をまとめる主要な結節点になっていた。


人口動態とAI・自動化を同じ一般均衡モデルへ入れたNBERの新しい論文は、この結びつきの一部を数値にする。AIで経済全体が豊かになっても、給与税で支える年金はむしろ苦しくなる。生産能力と制度の財源が、別々に動くからだ。


このねじれを年金だけの問題として読むべきではないだろう。初級業務が減れば、現在の生産性と将来の熟練者供給も別々に動き得る。AI雇用論で数える対象を、仕事の数から、仕事が担っていた機能へ広げる必要がある。



七年で変わる覇権


論文の表題にある「移行」は、人口と経済力の重心が今世紀を通じて動くことを指す。17地域にまとめられた150か国超は、世界人口の99%を占める。人は子ども、労働者、退職者として最大100歳まで生き、働く量と貯蓄を決める。企業は国際移動する資本と、高・中・低の三技能労働を使って一種類の財を生産する。政府は税を集め、年金などの給付を行う。


著者たちは、この大きなモデルへ国連の2017年版人口予測と2024年版人口予測を順に入れた。予測の公表時期は七年しか違わない。それでも2024年版の2100年世界人口は、2017年版より8.9%少ない。とりわけ中国の下方修正が大きく、2100年人口は10.3億人から6.35億人へ減る。


経済力の順位も変わる。2017年版の人口予測では、中国の2100年GDPは218.4兆ドル、世界GDPシェアは25.6%となり、米国の95.7兆ドル、11.2%を大きく上回る。2024年版では中国が114.6兆ドル、14.9%へ下がり、米国は110.7兆ドル、14.4%となる。論文の言葉を使えば、米国から中国へ経済的覇権が移る経路が消える。


この数字を中国の生産性低下と読むのは正しくない。世界の労働者一人当たりGDPは、どちらの人口予測でも2017年から2100年まで年2.1%で伸びる。中国の平均賃金も2024年版の方がわずかに高い。著者たちが主経路とするのは人数効果である。働く人が減るから総生産が減るのであり、一人の働き手が急に作れなくなるわけではない。


総量と一人当たりの暮らしを分ける。この区別は地味だが、論文の覇権物語より長く使える。人口減少は労働者の不足だけを生まない。消費者、納税者、貯蓄する人、次の世代を構成する人も少なくする。AIが一人当たりの生産性を上げても、この全体を一つの代替率で埋めることはできない。



人口配当の時間差


人口減少の負担は、出生数が落ちた年から一直線に増えるわけでもない。論文は、全地域の出生率を基準より女性一人当たり0.5人低くする国連の低出生率シナリオを試している。2050年の世界GDPは基準より1.3%高く、一人当たりGDPは9.5%高い。


理由はよく分かる。生まれなかった子どもは、2050年時点ではまだ「生まれなかった労働者」になっていない。扶養する子どもが減り、働く世代の人口比率が上がり、家計の貯蓄も増える。同じ程度の生産物を少ない人口で分けるため、一人当たりの値も高くなる。出生減は当初、小さな人口配当を生む。


その配当は長続きしない。2100年には、かつて生まれなかった子どもが働く世代から抜け落ちている。世界GDPは基準より32.3%低くなり、2050年から2100年の成長率は年1.8%から0.9%へ下がる。それでも一人当たりGDPは基準との差が約1%に収まる。ここでも主因は生産性ではなく人数である。


半世紀の時間差は、政策判断を難しくする。子どもの減少で一時的に財政や一人当たり所得が改善すれば、社会は人口構成の変化を利益として経験する。労働者不足が本格化する頃には、判断した政治家も経営者も退いているかもしれない。短期の合理性と長期の維持可能性が一致しない。


資本市場にも同じ時間差がある。高齢者は若い時期に蓄えた資産を持ち、働く人は少なくなる。労働者一人当たりの資本が増えれば、追加の資本が生む収益は下がる。論文の通常シナリオ(BAU)では、世界の税引後実質資本収益率が2017年の5.9%から、2024年人口予測の2100年に1.6%まで低下する。低出生率シナリオでは0.8%である。


老後に備えて一人ひとりが貯蓄することは合理的だ。しかし、世界全体では運用先を求める資本が増え、その資本を使って働く人が減る。人口高齢化が生むのは労働不足だけではない。資本余剰でもある。



先端技術の採用条件


AIが加わると、資本余剰の経路は逆向きになる。ただし、この論文がAIと呼ぶものを先に限定したい。著者たちは生成AI、AIエージェント、ロボット、科学研究の自動化を個別にモデル化していない。AI・自動化を、コブ=ダグラス型生産関数における資本と技能別労働の所得シェアの変化として扱う。


米国の先端技術における資本所得シェアは、2017年の33.8%から、2050年に通常シナリオで36.6%、加速AI (Accelerating AI) で44.3%、変革的AI (Transformative AI) で59.6%へ上がる。資本が増えるぶん、三技能層の労働所得シェアは下がる。変革的AIとは、この資本への移行を近年の約十倍の速さで進める仮定である。


技術の採用は各地域が毎年決める。既存技術と、資本・高技能労働を多く使う先端技術を、その年の要素価格で比較し、生産量が多くなる方を選ぶ。AI技術が米国だけへ与えられる設定ではない。労働が高く、資本へのアクセスが安い地域ほど、労働を節約する先端技術を早く採用する。


米国は、高い全要素生産性(TFP)、高賃金、高技能労働の厚み、比較的低い資本コストによって、どのシナリオでもすぐ採用する。中国では労働が相対的に安いため、労働を節約する投資の採算が取りにくい。2024年人口予測の中国は、通常シナリオなら2024年に採用するが、加速AIでは2037年、変革的AIでは2042年まで待つ。技術が急に資本集約化するほど導入が遅れる。これは論文の興味深い逆説である。


もっとも、その逆説は現在のAIについての一般法則ではない。モデルでは、AIが高技能者を補完する経路を一部含むものの、新職種の誕生、AIによる学習、研究開発の加速、組織の変化をほとんど扱わない。各地域の全要素生産性の将来経路も外から与えられ、米国は世紀を通じて中国への優位を保つ。米国の長期的優位は、モデルが発見した結果であると同時に、校正が置いた条件にも支えられている。


従って、変革的AIの数字は予言として読むより、資本所得シェアを急激に上げたとき、人口、投資、賃金、税がどう連鎖するかを見る条件付き実験として読む方がよい。この限定によって論文の価値は下がらない。何をAIとして計算したのかが分かる。



国際資本の移動と覇権の尺度


2024年人口予測の2050年に、変革的AIは米国GDPを通常シナリオの46.0兆ドルから87.5兆ドルへ増やす。約90%の増加である。同じ時点の世界GDPは321.7兆ドルから328.1兆ドルへ、2.0%しか増えない。


差の多くは国際資本の移動から生じる。先端技術を採用した米国、西欧、日本・韓国などが高い収益率で資本を引き寄せる。未採用地域から投資が移り、そちらの資本装備が薄くなる。変革的AIは、世界全体の生産性を同時に押し上げる前に、資本の使われる場所を変える。


この短期的な資本不足によって、人口高齢化が作った低金利も消える。世界の実質資本収益率は、2024年人口予測の変革的AIで2050年に7.4%、2100年にも約6%となる。人口高齢化による資本供給と、AIによる資本需要が、反対方向から金利を動かす。


資本蓄積が追いつく2100年には、世界GDPも通常シナリオより22.7%高くなる。ただ、最終的に世界全体が豊かになるからといって、移行期の資本流出は消えない。サハラ以南アフリカの2100年世界GDPシェアは、通常シナリオの3.9%から変革的AIの2.4%へ下がる。いつ恩恵が現れるか、誰が待つことになるかは、世界GDPの合計から読めない。


米中の数字にも別のずれがある。2024年人口予測の通常シナリオでは、中国の2100年世界GDPシェアは14.9%である。しかし国民総所得(GNI)のシェアは15.6%となり、米国の13.6%を上回る。中国は国内で使うより多くの資本を持ち、保有資産のおよそ三分の一を国外へ投資する。国内の生産拠点としては縮小しても、国外から所得を受け取る資本所有国として残る。


GDPシェアをそのまま経済的覇権と呼ぶ論文の尺度は、ここで少し揺れる。国内で作る量、資本を所有して受け取る所得、技術や通貨の規則を決める力は同じではない。国民総所得も軍事力や政治的影響力を測らないので、代わりの万能指標にはならない。それでも、論文自身の結果が、生産地と所有者を分けて考える必要を教える。


なお、変革的AIと2024年人口予測を組み合わせた表19では、米国の世界GDPシェアは2050年26.7%、2100年25.3%、中国は2100年16.9%である。結論部には米国の2100年値を26.7%と読める記述があるが、表では26.7%が2050年値なので、ここでは表の25.3%を採用する。遠い将来の精密な数字ほど、表と本文の素朴な照合が要る。


ここまでが原論文の主要な比較である。人口は総生産と資本供給を変え、AIは資本需要と採用時期を変え、国際移動する資本は地域別の成長を組み替える。その連鎖の先に、雇用中心社会へ直接つながる結果が一つある。給与税である。



給与税の細い入口


変革的AIによって米国の生産が増えると、政府全体の財政余力は改善する。2024年人口予測の2100年に、所得税、消費税、給与税を合わせた総実効税負担は、通常シナリオの47.0%から25.9%へ下がる。成長によって、同じ給付を軽い平均負担で支えられる。


給与税だけを見ると逆である。米国の税率は28.2%から37.5%へ上がる。年金給付を支える賃金総額が、経済全体ほど増えないからだ。西欧と先端技術の導入前の中国では、給付を維持すると労働への合計税率が100%近く、またはそれ以上になる。モデルは給与税率を45%で止め、その後は給付を削る。


政府に支払い能力がないのではない。生産された価値が給与所得を経由しなくなり、従来の徴収口が細くなる。著者たちは、賃金を財源とする社会保険と変革的AIは両立せず、年金財源を消費や資本所得へ移す必要があると結論する。


この判定は、福祉国家の終わりを意味しない。むしろ反対である。経済全体には給付を支える生産能力があるのに、賃金だけを課税対象とするため制度が苦しくなる。守るべきなのは現在の徴収方法ではなく、退職後の生活である。目的と手段を分ければ、税の入口を変えられる。


年金のねじれは、雇用が複数の機能をまとめていたことを数値で表している。雇用契約は企業へ労働を提供し、労働者へ給与を配る。その給与から国が保険料を集め、退職者へ移す。AIが生産と賃金の結びつきを弱めれば、企業の生産性が上がっても社会保険の財源は自動的に増えない。


この構造を技能形成へ移すと、論文が扱わなかった問題が始まる。



初級業務が持つ二つの役割


法律事務所の判例調査、コンサルティング会社の資料作成、ソフトウェア開発の小さな修正、病院での初期的な記録。企業にとって、これらは成果物を作るための作業である。若手にとっては、熟練者の判断を見て、自分の誤りを直し、少しずつ難しい案件を任される訓練でもある。


生成AIは、この入口の仕事を得意とする。初稿を作り、要約し、定型的なコードを書き、候補を並べる。企業が完成品だけを評価するなら、熟練者二人と若手八人より、熟練者二人とAIの方が安い場合が出てくる。だが十年後の熟練者は、現在の若手から育つ。


ここには二つの時間が重なる。今期の生産性と、将来の技能供給である。各社が若手採用を減らせば人件費は下がる。一社が育てた人材は他社へ転職するかもしれないので、企業は育成の利益をすべて回収できない。個々の企業にとって合理的な判断を足し合わせると、業界全体で将来の熟練者が不足することがある。


米国の若手雇用には、気になる兆候がある。ブリニョルフソンらがADPの給与データを調べた2026年改訂研究では、AIにさらされやすい職種の22~25歳の雇用が、さらされにくい同年代と同じ伸びを続けた場合より19%低かった。差は解雇より採用の減少へ強く現れ、AIが人の作業を代替する用途の多い職種に集中した。


ただし、研究者たちはAIの因果効果を19%と推定したわけではない。教育条件を調整すると差は弱まり、一部には生成AI普及前から異なる動きがある。ADP標本の差は全国調査より大きい。経済全体で広範な雇用喪失も確認されていない。現時点では、入口から変化が始まっていないかを追う早期の指標である。


それでも経験者の失職だけを測るよりはよい。技能の供給が細る場合、最初に減るのは熟練者ではなく、熟練者になる前の席だからだ。人口減少が「生まれなかった労働者」として数十年後に現れるように、初級業務の減少は「育たなかった熟練者」として遅れて現れ得る。



成果代行と学習支援


初級業務を残せば人が育つ、と単純に決めることもできない。退屈な転記や、意味を理解しないまま続ける定型作業は、時間を使っても技能にならない。AIが頻繁な助言を返し、熟練者の着眼点を広く伝えられるなら、従来より速い学習経路を作れる。


5,179人の顧客対応担当者を調べたNBER研究では、生成AI支援によって処理件数で測る生産性が平均14%上がり、経験の浅い人や低技能の人では34%上がった。熟練者の応答の型をAIが広め、新人が経験曲線を早く進んだ可能性も報告されている。AIは初級者を不要にするだけでなく、初級者を早く育てる方向にも使える。


使っている最中の成果と、使わなくなった後の能力は分けなければならない。約1,000人の高校生を対象にした数学の実地実験では、通常型AIと学習支援型AIのどちらも演習中の成績を上げた。ところがAIを外した試験では、通常型を使った生徒が対照群を下回った。自分で考えるよう促す仕掛けを入れた学習支援型では、その悪影響が大きく緩和された。


学校数学の結果を企業内訓練へ直接移すことはできない。それでも、同じ基盤技術が成果代行にも学習支援にもなり得ることは分かる。完成した答えを速く出すことと、次回は人が一人で判断できるようになることは、別の成果である。


企業の短期評価は前者へ寄りやすい。処理件数、人件費、納期はすぐ測れる。五年後に難しい例外を扱える人が何人育ったかは遅れて分かる。AI製品の性能だけでなく、企業がどちらの成果を評価し、誰が育成費用を負担するかが技能形成を左右する。


私は、若手を守るために初級業務をそのまま保存する案には賛成しない。必要なのは苦労の保存ではなく、観察、実践、失敗、修正、責任の範囲を少しずつ広げる経路の保存である。AIが作業を引き受けるなら、その経路を仕事と教育の別の組み合わせで作り直す必要がある。



企業境界をめぐる対抗仮説


ここまでの議論には、大きな反論がある。AIは雇用中心社会を弱めず、既存企業を強くするのではないか。管理者がより多くの部下を見られ、社内の情報探索や調整が安くなり、一人当たり生産性が上がるなら、企業は雇用を保ったまま大きくなれる。


反対方向の力もある。会計、法務、開発、販売に必要な固定費をAIが下げれば、一人会社や小規模チームでも以前より広い仕事を担える。社内で人を雇うより、外部の専門家と短期の案件ごとに組む方が安くなるかもしれない。


どちらが勝つかは、AIが企業内部の調整費用と、市場で相手を探し契約する取引費用のどちらを大きく下げるかに左右される。さらに巨大な計算資源、データ、共通基盤の規模の利益は集中へ働く。AIから一人会社の時代を一直線に導くのは無理がある。


従って、雇用中心社会の解体を前提に制度を論じるべきではない。経済全体の雇用が大きく減らなくても、給与所得の比率、若手採用、企業内訓練、正規雇用を通じた社会保険加入が部分的に変われば、既存制度には十分な影響が出る。見るべきなのは雇用の有無だけでなく、雇用の中身である。


雇用外の経済参加が広がる場合にも、楽観はできない。個人事業、創作、共同開発、趣味から生まれる活動が増える一方、収入は不安定になりやすい。余暇まで閲覧数、収益、順位で測られれば、仕事から自由になる代わりに、遊びが仕事へ変わる。今回はここまでに留めたい。余暇の経済化は、それだけで一本を要する。



機能の移転先


雇用は社会を維持する唯一の仕組みではない。子育てや介護には家族が、基礎教育には学校が、再分配には国家が、所属や相互扶助には地域社会や職業団体が関わってきた。それでも二十世紀後半の先進工業国では、雇用が生産、所得、社会保障、技能形成を束ねる主要な結節点だった。


AIがその束を部分的に切り離すなら、機能を昔の会社へ戻す必要はない。社会保険は給与だけでなく消費や資本所得から支えられる。技能形成は企業をまたぐ訓練基金、学校と仕事を往復する資格制度、AIを使った模擬訓練、職業団体による徒弟的な実習へ分けられる。所得は給与、事業所得、移転、広い資本所有を組み合わせられる。


どの案にも難点がある。消費課税は低所得者への負担を重くしやすく、資本課税は資産の国外移転と徴税能力を問う。共同訓練基金は、誰が必要技能を決め、訓練の質を確かめるかという問題を持つ。広い資本所有を掲げても、AI資本への入口が少数企業に閉じていれば、言葉だけになる。


だから制度の一覧を並べて終えることはできない。外れた機能ごとに、誰が費用を負担し、誰が利益を受け、失敗したとき誰が直せるかを決める必要がある。企業にとって不要になった仕事が、社会にとって不要になったとは限らない。若手育成は、その差が最も分かりやすく現れる場所である。


原論文は、人口減少をAIが帳消しにするという簡単な答えを出さなかった。人が減れば総生産と資本供給が変わり、AIが資本需要と所得分配を変え、税の集め方によって社会保障の結果が変わる。要素を一つずつ切り離して予測するより、互いのつながりを計算することに価値がある。


その一般均衡的な視線を、雇用の内側にも向けたい。AIで一つの作業が消えたとき、その作業が生産以外に何をしていたのか。給与所得が減ったとき、どの給付の財源が細るのか。若手採用が減ったとき、誰が次の熟練者を育てるのか。


AI時代の雇用政策は、消えた仕事の数を後から数えるだけでは足りない。雇用から外れ始めた機能を先に見つけ、その移転先を作る。仕事の未来を予言するより、こちらの方が急ぐべき仕事である。



 

ポイント整理


  • 人口減少の人数効果

    • 2017年版から2024年版の国連人口予測へ切り替えると、2100年世界GDPは10%低くなるが、労働者一人当たりの長期成長率は変わらない。

    • 低出生率は2050年に小さな人口配当を生む一方、生まれなかった世代が労働年齢へ達する2100年には総生産を大きく下げる。

  • 資本余剰とAI需要の衝突

    • 高齢化は貯蓄する資産保有者を増やし、働く人を減らすため、通常シナリオでは世界の資本収益率を押し下げる。

    • 変革的AIは早期導入地域の資本需要を急増させ、金利を上げるとともに、未導入地域から投資を移す。

  • 覇権指標の限界

    • 中国は2024年人口予測でGDPシェアを大きく下げるが、国外資産から得る所得を含む国民総所得シェアでは米国を上回る。

    • 生産する場所、資本を所有する主体、政治的な規則を決める力を、単一のGDP比率へまとめることはできない。

  • 給与税と技能形成の共通構造

    • AI成長で政府全体の支払い能力が増えても、価値が賃金を通らなければ給与税の基盤は細る。

    • AIで現在の成果が増えても、初級業務が持つ訓練機能を代替できなければ、将来の熟練者供給は減り得る。

  • 雇用者数から機能への転換

    • 雇用が残るか消えるかの二択では、若手採用、給与所得、企業内訓練、社会保険加入の部分的な変化を捉えにくい。

    • 雇用から外れた所得分配、技能形成、社会保障を、誰がどの制度で引き受けるかまで追う必要がある。



キーワード解説


【動学的一般均衡モデル】

人口、企業、政府、資本市場などを同じ体系に置き、ある変化が価格や行動を通じて別の領域へ及ぼす影響を時間に沿って計算するモデル。本論文では、出生率の低下が労働供給だけでなく、貯蓄、金利、税、年金、国際資本移動へ波及する。


【人数効果】

一人当たりの生産性が大きく変わらなくても、働く人数の増減によって経済の総量が変わる経路。中国や世界の2100年GDPが人口予測の変更で下がる主因として、著者たちが挙げている。


【変革的AI (Transformative AI)】

米国の先端技術における資本所得シェアが、2017年の約34%から2050年に約60%へ上がると仮定した論文上のシナリオ。現在の特定のAI製品や、一般的なAIの定義ではない。


【国民総所得(GNI)】

国内で作られた付加価値を測るGDPに、国外から受け取る所得と国外へ支払う所得の差を反映した指標。国外資産を多く持つ国では、GDPよりGNIが経済主体の受取所得をよく表す場合がある。


【人的資本の外部性】

企業が人材を育てても、その人が転職すれば育成の利益の一部を別の企業や社会が受け取ること。育成した企業が利益をすべて回収できないため、各社が合理的に訓練を減らした結果、社会全体では熟練者が不足することがある。



本稿を素材として対話形式で再構成した記事も、近日中にnoteに掲載予定です。
ご関心を持っていただけましたら、note上でご感想などお聞かせいただけると幸いです。
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