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「なんか最近、みんな同じような文章書いてない?」──AIが私たちの言葉を変えている話

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シリーズ: 知新察来


◆今回のピックアップ記事:Matt Jancer "You're Not Imagining It. People Actually Are Starting To Talk Like ChatGPT" (VIce, 2025年6月29日)


最近、メールや報告書、SNSの投稿で「なんだか見たことあるような言い回しだな」と感じることはありませんか。実は、それは気のせいではないかもしれません。ChatGPTのようなAIツールを日常的に使うことで、私たちの文章そのものが変わり始めているという研究結果が発表されました。


今回は、マックス・プランク人間発達研究所の最新レポートをもとに、AIが人間の言語にどんな影響を与えているのか、富良野とPhronaが語り合います。技術の進歩が私たちの最も基本的なコミュニケーション手段である「言葉」をどう変えていくのか。二人の対話を通じて、この興味深い現象の意味を探っていきましょう。




AIっぽい文章って、どういうこと?


富良野: Phronaさん、最近発表された研究で、ChatGPTをよく使う人たちが、自分で書く文章でもAIみたいな表現を使うようになってきているって話、見ました?


Phrona: ええ、見ましたよ。ああ、やっぱりそうなんだって納得しました。富良野さんは、どの部分が一番気になりました?


富良野: 僕が興味深いと思ったのは、特定の単語の使用頻度が変わってきているという点ですね。研究では「delve」とか「adept」「meticulous」「realm」「intricate」「underscore」みたいな単語を、AIがよく使うって指摘してるんです。日本語で言えば「詳細に検討する」とか「巧みに」「綿密な」「領域」「複雑な」「強調する」といった感じでしょうか。


Phrona: ああ、確かにそういう単語って、なんとなく堅苦しいというか、ちょっと気取った感じがしますよね。でも最近、そういう言い回しを使う人、増えてきた気がします。


富良野: そうなんですよ。で、面白いのは、これらの単語を使う頻度が、その人がAIをどれくらい使っているかと相関しているらしいんです。つまり、AIを頻繁に使う人ほど、自分が書く文章でもAIっぽい言葉遣いになってきているということです。


Phrona: それって、ある意味で言語の感染みたいなものですよね。私たちが読んでいる文章の影響を受けて、知らず知らずのうちに似たような書き方をするようになるっていう。でも今度は、影響元が人間の文章じゃなくてAIだっていう。


日本語でのAIっぽさとは


富良野: 実は日本語でも、AIっぽい文章の特徴があると思うんですよ。例えば「むしろ」っていう接続詞。人間なら「でも」とか「っていうか」って言うところで、やたらと「むしろ」を使う気がします。


Phrona: あ、分かります!あと「響き」っていう言葉も。普通なら「〜っぽく聞こえる」って書くところを「〜という響きがあります」みたいに書いたり。


富良野: そうそう。それから「構え」なんて言葉も。「基本的な構え」とか書かれても、普通のメールや文書では使わないですよね。あと「紡ぐ」「醸し出す」「育む」みたいな、なんというか文学的すぎる表現を選びがちなんです、AIって。


Phrona: 面白いのは、英語でも日本語でも、AIは教科書的で正しい文章を書こうとするあまり、かえって不自然になるっていうことですよね。人間の自然な文章って、もっとくだけていて、揺れがあるものだから。


書き言葉から始まる変化


富良野: 興味深いのは、この言語の変化が主に書き言葉で起きているってことなんです。メール、レポート、SNS投稿、そういった文章を書く場面で、AIの影響が顕著に現れている。


Phrona: そうか、確かに話し言葉への影響はまだそこまでじゃないかもしれませんね。でも考えてみれば、私たちがAIと接するのって、ほとんどが文章を通してですもんね。ChatGPTに質問して、返ってきた文章を読んで、それを参考に自分の文章を書く。


富良野: まさに。で、これって過去の技術による言語変化とはちょっと違うパターンなんですよ。例えば電話が普及した時は話し言葉から変化が始まったし、メールの時代は新しい書き言葉のスタイルが生まれた。でも今回は、AIが生成した文章を読むことで、無意識のうちに私たちの書き方が影響を受けているんです。


Phrona: なるほど。つまり、読むことと書くことの循環の中で、AIの文体が私たちに浸透してきているってことですね。でもこれ、いずれは話し言葉にも影響してくるんじゃないですか?書き言葉って、結局は話し言葉にも影響を与えますから。


富良野: まさにそこがポイントですね。僕たちは意識せずに、AIの言語パターンを内面化してしまっているんです。これは単なる流行語の問題じゃなくて、もっと深いレベルでの言語変化かもしれません。


言葉の均質化への不安


Phrona: 私が怖いなって思うのは、みんなが同じような話し方をするようになることで、個性とか、その人らしさみたいなものが薄れていくんじゃないかってことなんです。


富良野: 確かに。AIは膨大なデータから学習しているから、ある意味で平均的な、最大公約数的な言語を使うんですよね。それを僕たちが真似していくと、言葉の多様性が失われていく可能性があります。


Phrona: でも、それって本当に悪いことなのかしら。言語って元々、コミュニケーションのためのツールですよね。もしAIの影響でみんながより明確に、誤解なく意思疎通できるようになるなら、それはそれで進化と言えるんじゃないですか?


富良野: うーん、難しいところですね。効率性と多様性のトレードオフというか。ただ、僕が思うのは、言葉って単に情報を伝えるだけじゃなくて、感情とか文化とか、その人の背景みたいなものも含んでいるじゃないですか。


Phrona: そうですね。方言とか、世代特有の言い回しとか、そういうものが持つ豊かさってありますもんね。全部が「綿密に検討した結果」みたいな話し方になったら、ちょっと味気ない。


AIらしさの皮肉な側面


富良野: ところで、最近スタンフォード大学の研究で興味深い発見があったんです。AI検出ツールが、英語を第二言語として学ぶ留学生の文章を、高い確率でAI生成だと誤判定しているっていうんです。


Phrona: え、それってどういうこと?


富良野: つまり、英語学習者が教科書的で正確な英語を書こうと努力すればするほど、AIっぽいと判定されてしまうんです。TOEFLの試験エッセイの60%以上がAI生成と誤判定されたそうです。


Phrona: それって皮肉ですね。一生懸命「正しい」英語を書こうとしている人たちが、かえってAIと間違われるなんて。でも確かに、AIも英語学習者も、ある意味で同じような言語パターンに頼っているのかもしれません。


富良野: そうなんです。どちらも安全で無難な表現を選びがちで、口語的な表現や、ちょっとした文法の揺れみたいなものを避けるんですよね。人間らしさって、実はそういう不完全さの中にあるのかもしれません。


Phrona: なるほど。つまり、AIっぽさっていうのは、正確すぎることの裏返しでもあるんですね。私たち、普段はもっといい加減に話してるってことか。


これからの言葉との付き合い方


富良野: でも、この流れは止められないでしょうね。AIツールはどんどん普及していくし、僕たちの生活にもっと深く入り込んでくる。


Phrona: だからこそ、意識的に自分の言葉を大切にすることが重要になってくるのかもしれません。AIから学ぶことは学びつつ、でも自分らしい表現も忘れないようにするというか。


富良野: そうですね。あと、この研究が明らかにしたことで良かったのは、こういう現象が起きているということを僕たちが認識できるようになったことです。無意識だったものを意識化できれば、ある程度コントロールも可能になりますから。


Phrona: 私、思うんですけど、言語の変化って止められないし、それ自体は悪いことじゃないんですよね。大事なのは、その変化の中で何を残して、何を新しく取り入れるかを、私たち一人一人が選択していくことなのかもしれません。


富良野: ええ。AIと共存する時代の言語のあり方を、僕たち自身が創っていく必要があるんでしょうね。受動的に影響されるだけじゃなくて、能動的に関わっていくというか。


Phrona: そう考えると、この研究は警鐘を鳴らすと同時に、私たちに選択の機会を与えてくれているのかもしれませんね。自分の言葉について、改めて考えるきっかけとして。




ポイント整理


  • マックス・プランク人間発達研究所の研究により、ChatGPTなどのAIを頻繁に使用する人々が、実際の会話でもAI特有の言葉遣いをするようになっていることが明らかになった

  • 英語では「delve」「meticulous」など、日本語では「むしろ」「響き」「構え」などの特定の表現がAIっぽさの指標となっている

  • AIは文学的・教科書的で正確な表現を好む傾向があり、それが不自然さにつながっている

  • スタンフォード大学の研究では、英語学習者の文章が高確率でAI生成と誤判定されることが判明。正確な言語使用がかえってAIらしさと認識される皮肉な状況が生まれている

  • 過去にもチャット用語やSNS用語が言語に影響を与えてきたが、今回の変化はより無意識的に起きている

  • 言語の均質化への懸念がある一方で、コミュニケーションの効率化という側面もある

  • 重要なのは、この変化を認識し、意識的に自分の言葉を選択していくこと



キーワード解説


【大規模言語モデル(LLM)】

ChatGPTのような、膨大なテキストデータから学習したAI


【言語の感染】

ある集団や個人の言語使用パターンが他者に影響を与える現象


【AI検出ツール】

文章がAIによって生成されたかどうかを判定するソフトウェア


【言語の均質化】

多様な表現が減少し、画一的な言葉遣いが増える現象


【無意識的言語変化】

話者が気づかないうちに起こる言語使用パターンの変化


【誤判定(False Positive)】

AI検出ツールが人間の文章をAI生成と間違って判定すること



本稿は近日中にnoteにも掲載予定です。
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