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「不動産も美術品も、1万円から買える時代」――韓国がトークン証券を解禁した意味

シリーズ: 知新察来


◆今回のピックアップ記事:Amin Ayan, "South Korea Advances Bill to Legalize Issuance, Trading of Tokenized Securities" (Cryptonews, 2026年1月16日)

  • 概要:韓国国会が資本市場法・電子証券法の改正案を可決。セキュリティ・トークン・オファリング(STO)を合法化し、ブロックチェーン技術を用いたトークン化証券の発行・取引に法的基盤を与える。2027年1月施行予定。



2026年1月、韓国の国会がある法案を可決しました。資本市場法と電子証券法の改正案です。これにより、不動産や美術品、さらには畜産プロジェクトまで、ブロックチェーン上でトークン化して売買できるようになります。施行は2027年1月。韓国は2019年に暗号資産の発行を全面禁止していましたが、それを一転させる大きな政策転換です。


市場規模の予測も桁違いです。ボストン・コンサルティング・グループは、韓国のトークン証券市場が2030年までに約37兆円規模に成長すると見込んでいます。これは単なる「クリプトの規制緩和」ではありません。資産を持つこと、投資すること、そして金融にアクセスすることの意味そのものを変えうる話です。


ただ、世界を見渡せば、シンガポール、EU、スイス、UAE——すでに独自のアプローチでトークン化を進めている国や地域があります。韓国の選択は、それらとどう違うのか。そして、起業家や投資家にとって何を意味するのか。富良野とPhronaが、この新しい金融の地図を読み解きます。




そもそも「トークン化」って何?


富良野:今回の韓国の法改正、かなり大きなニュースだと思うんですよね。2019年に全面禁止していたトークン発行を、ここまで包括的に解禁するわけですから。


Phrona:ただ、「トークン化証券」って言われても、ピンとこない人も多いですよね。株や債券と何が違うんだろう、という。


富良野:そこは大事なポイントですね。たとえば都心の一等地にあるビルを考えてみてください。100億円のビルに個人が投資しようと思っても、普通は無理じゃないですか。


Phrona:REITならできるけど、特定のビルを選ぶことはできませんよね。


富良野:そう。トークン化というのは、そのビルの所有権を、たとえば1万個のデジタルトークンに分割するイメージです。1トークン100万円。理論上は、1万円単位で持つことも可能になる。


Phrona:アートとか、ワインとか、今まで一部の富裕層だけがアクセスできた資産に、普通の人も参加できるようになると。


富良野:韓国の法案でも、不動産、美術品、畜産プロジェクトが例として挙げられています。要するに、今まで「流動性がない」と言われていた資産を、取引可能にするわけです。


Phrona:でも、そういう資産って、そもそも流動性がなくてもよかったから非上場だったわけですよね。それを無理やり取引可能にして、何か歪みは生まれないんでしょうか。


富良野:いい問いですね。実際、その懸念は規制当局もわかっていて、韓国の場合は「適格発行者」という概念を設けています。誰でも発行できるわけじゃない。



なぜ韓国は「全面禁止」から「包括的解禁」へ舵を切ったのか


Phrona:それにしても、2019年に禁止したものを、なぜ今になって解禁するんでしょう。政治的な背景もありそうですね。


富良野:大きいですよ。2024年末の政変——戒厳令騒動がありましたよね。前大統領の弾劾後、新政権が誕生して、デジタル資産に対するスタンスが大きく変わりました。


Phrona:李在明(イ・ジェミョン)大統領は選挙中からウォン連動型ステーブルコインの発行を公約に掲げていたと聞きました。


富良野:そうなんです。与党・野党ともにSTO法制化で合意していた珍しいケースで、超党派で進んだ。これは韓国では珍しいことです。


Phrona:でも、それだけじゃないですよね。もっと経済的な理由があるはず。


富良野:おっしゃる通りで、実は韓国からは大量の資本が海外に流出していました。2023年から2025年にかけて、国内取引所からBinanceやBybitなど海外プラットフォームへ約1,100億ドル、日本円で16兆円以上が流れたと推計されています。


Phrona:それは……相当な額ですね。


富良野:規制の曖昧さが原因です。韓国銀行と金融委員会でステーブルコインの発行主体を巡って意見が対立していて、ルールが定まらないまま時間が過ぎた。その間に、明確なルールを持つ他国に資本が移動していったわけです。


Phrona:逃げていくお金を取り戻すための法整備、という側面もあるんですね。



世界の「実験場」——シンガポール、EU、スイスは何をやっているのか


富良野:韓国の動きを理解するには、他国が何をやっているかを見ておく必要があります。


Phrona:シンガポールの「Project Guardian」は有名ですよね。


富良野:ええ。2024年11月に商用化計画を発表しています。金融管理局(MAS)が主導して、40以上の金融機関とパイロットを実施してきた。「実験から実用へ」というフェーズに入っています。


Phrona:法律を作る前に、まず試してみる、というアプローチですね。


富良野:対照的なのがEUのMiCA規制です。2024年12月に完全施行されて、27カ国統一のルールができた。ライセンスを取れば、EU全域で営業できる「パスポーティング」が可能になります。


Phrona:スイスはどうですか。「Crypto Valley」という名前をよく聞きますけど。


富良野:スイスは制度的信頼性で勝負しています。FINMA(金融市場監督機構)のガイドラインが明確で、銀行もクリプト企業と普通に取引している。スピードより安定性を取る国ですね。


Phrona:UAEのドバイは?最近よく「クリプトのハブ」と言われていますが。


富良野:税制優遇と規制の明確さで急成長しています。個人のキャピタルゲイン税がゼロで、フリーゾーンも整備されている。2023〜24年に300億ドル以上の暗号資産取引を受け入れたそうです。


Phrona:それぞれ戦略が違うんですね。シンガポールは実験、EUは統一、スイスは信頼、UAEはスピードと税制……。



起業家から見た「どこで会社を作るか」問題


Phrona:ちょっと視点を変えて、クリプト起業家の立場で考えてみたいんです。トークン化ビジネスを始めるなら、どこの国がいいんでしょう。


富良野:面白い問いですね。答えは「何を優先するか」で変わります。


Phrona:たとえば、とにかく早く立ち上げたい場合は?


富良野:UAEかエストニアでしょうね。特にUAEは、VARAというライセンス体制が整っていて、フリーゾーンでの設立も迅速。税金もほぼかからない。


Phrona:逆に、機関投資家からの信頼を得たい場合は?


富良野:スイスかシンガポール。どちらも規制が厳しいですが、そのぶん「ここでライセンスを取っている」という事実が信用になります。


Phrona:EU全域にアクセスしたいなら?


富良野:MiCA体制下で一つのライセンスを取れば、4.5億人の市場にアクセスできます。ただし、規制が厳しくて、DeFiからの撤退も起きています。2025年第1四半期にDeFi取引量が約19%減少したというデータもあります。


Phrona:じゃあ、韓国はどこに位置づけられるんでしょう。


富良野:韓国は「国内市場向け」としては非常に魅力的です。人口の3分の1以上が暗号資産に関与していて、小売投資家の層が厚い。2030年に37兆円市場という予測もある。


Phrona:でも、グローバル展開を目指す起業家にとっては?


富良野:正直、今の段階ではシンガポールやUAEのほうが使いやすいと思います。韓国は施行が2027年ですし、外国企業の参入ハードルも見えていない。ただ、国内で完結するビジネスなら、巨大な市場が待っている。



「金融の民主化」は本当に起きるのか


Phrona:ここまで制度の話をしてきましたけど、根本的な問いに戻りたいんです。トークン化って、本当に「金融の民主化」につながるんでしょうか。


富良野:いい問いですね。建前上はそうです。1万円から不動産に投資できる、というのは間口を広げる話ではある。


Phrona:でも、間口が広がることと、実際にアクセスできることは違いますよね。


富良野:そうなんです。韓国のデータで興味深いものがあって、2024年から2025年半ばにかけて、トップ10%の投資家が取引量の91.2%を占めていたそうです。


Phrona:結局、富裕層がもっと効率的に資産を動かせるようになっただけ、という見方もできると。


富良野:少なくとも、「アクセスできる」ことと「リスクを理解して参加できる」ことは別問題ですからね。金融リテラシーの格差がそのまま反映される可能性はあります。


Phrona:美術品のトークンを買ったとして、その美術品の価値をどう判断するのか、普通の人にはわからないですよね。


富良野:だからこそ、韓国の法案では「適格発行者」の要件を設けているわけです。誰でも発行できると、詐欺的なプロジェクトが乱立しかねない。


Phrona:規制と自由のバランス、というより、「保護と参加」のバランスでしょうか。


富良野:言い得て妙ですね。参加を促すために間口を広げつつ、保護のために適格要件を設ける。その匙加減が難しい。



2027年以降、何が変わるのか


Phrona:韓国の法律は2027年に施行されます。それまでの2年間、何が起きるんでしょう。


富良野:まず、金融委員会を中心に実施細則が詰められます。どんな企業が「適格発行者」になれるのか、どんな資産がトークン化できるのか、取引プラットフォームの要件は何か——具体的なルールはこれからです。


Phrona:大手金融機関はどう動いていますか。


富良野:未来アセット証券、ハナフィナンシャルグループなど、すでにプラットフォーム構築やコラボレーションを進めています。2027年の施行に合わせて一気に市場に出られるよう、準備を加速している状況です。


Phrona:スポット型ビットコインETFの話も出ていましたね。


富良野:ええ、「デジタル資産基本法」という別の法律も準備中で、ウォン連動型ステーブルコインや暗号資産ETFのルールもそこで整備される予定です。2026年後半から2027年にかけて、韓国のデジタル資産市場は大きく様変わりするでしょう。


Phrona:一方で、規制当局間の対立——韓国銀行と金融委員会のステーブルコイン発行を巡る意見の相違——は解消されたんでしょうか。


富良野:完全には解消されていないようです。発行を銀行主導のコンソーシアムに限定すべきだという韓国銀行の主張と、フィンテック企業にも門戸を開くべきだという金融委員会の立場がまだ平行線にある部分があります。


Phrona:そこがボトルネックになる可能性もあると。


富良野:可能性はあります。ただ、超党派で合意した法案が通ったという事実は大きい。細部で揉めることはあっても、大きな方向性は決まった、と見ていいと思います。



残る問い——誰のための「金融革新」なのか


Phrona:最後に、少し抽象的な問いを投げかけたいんです。トークン化、DeFi、Web3……こうした言葉が飛び交うとき、「誰のための革新なのか」がしばしば曖昧になりませんか。


富良野:曖昧になりますね。技術の可能性と、それが実際に誰の役に立つかは、必ずしも一致しない。


Phrona:シンガポールやスイスでトークン化が進んでも、そこに参加できるのは結局、情報とリソースを持った人たちだけかもしれない。


富良野:韓国が面白いのは、小売投資家の層が厚いところなんですよね。人口の3分の1以上が暗号資産を持っている国はそう多くない。


Phrona:だからこそ、設計次第では本当に「民主化」に近づく可能性もある、と。


富良野:可能性はあります。ただ、それには金融教育や情報の非対称性の解消など、法制度だけでは対処できない課題がある。


Phrona:技術が先にあって、社会が追いつくのを待つ——というパターンは、いつもちょっと危うさを感じます。


富良野:同感です。ただ、韓国の場合は「まず禁止して、様子を見てから解禁」という順序を踏んでいる。その間に他国の事例も蓄積された。拙速ではない、という見方もできます。


Phrona:2027年に施行されて、その後どうなるか。結局、答えはそこで出るんでしょうね。


富良野:そうですね。法律ができたことはスタートラインに過ぎない。市場がどう形成されるか、誰が参加し、誰が排除されるのか——それは運用の段階で見えてくることです。


Phrona:「金融の地図が書き換わる」と言うのは簡単ですけど、その地図の上で迷子になる人が出ないといいなと思います。


富良野:その視点は大事ですね。技術や制度の議論に終始すると、そこが抜け落ちがちですから。



 

ポイント整理


  • 韓国国会が資本市場法・電子証券法の改正案を可決

    • 2026年1月15日、セキュリティ・トークン・オファリング(STO)を法的に認める法案が通過。2027年1月施行予定。

  • 2019年の全面禁止からの政策転換

    • 韓国は2019年にあらゆる形態のトークン発行を禁止していたが、新政権下で超党派の合意により解禁に舵を切った。

  • 対象資産は広範囲

    • 不動産、美術品、畜産プロジェクトなど、従来は流動性が低かった「非標準的な投資契約証券」がトークン化の対象となる。

  • 市場規模予測は約37兆円

    • ボストン・コンサルティング・グループは、韓国のトークン証券市場が2030年までに約367兆ウォン(約2,490億ドル、約37兆円)に成長すると予測。

  • 資本流出への対応

    • 規制の曖昧さから、2023〜2025年にかけて約1,100億ドルが海外プラットフォームへ流出。明確なルール整備による資本還流も狙いの一つ。

  • 世界各国のアプローチは多様

    • シンガポール(官民パイロット)、EU(統一規制MiCA)、スイス(制度的信頼性)、UAE(税制優遇・スピード)など、各国が異なる戦略を採用。

  • 起業家にとっての法域選択

    • グローバル展開にはシンガポール、UAE、スイスが現時点では有利。韓国は国内市場向けとしては巨大なポテンシャルを持つ。

  • 「金融の民主化」への課題

    • 小口投資が可能になることと、実際にリスクを理解して参加できることは別問題。金融リテラシー格差や情報の非対称性への対応が課題。

  • 今後の焦点

    • デジタル資産基本法(ウォン連動型ステーブルコイン、暗号資産ETF)の策定、韓国銀行と金融委員会のステーブルコイン発行主体を巡る調整が続く。



キーワード解説


セキュリティ・トークン・オファリング(STO)】

ブロックチェーン上で発行されるトークンを通じて資金調達を行う仕組み。トークンは株式や債券などの証券としての性質を持ち、規制対象となる。


トークン化証券】

株式、債券、不動産などの資産をブロックチェーン上のデジタルトークンとして表現したもの。分割所有や24時間取引が可能になる。


適格発行者】

トークン化証券を発行するために一定の要件を満たした企業。投資家保護の観点から、誰でも発行できるわけではない。


MiCA(Markets in Crypto-Assets)】

EUの暗号資産市場規制。2024年12月に完全施行され、27カ国統一のルールを提供。ライセンス取得によりEU全域での営業が可能。


Project Guardian】

シンガポール金融管理局(MAS)主導の官民連携プロジェクト。資産トークン化の実証実験を行い、商用化を目指す。


VARA(Virtual Assets Regulatory Authority)】

ドバイの仮想資産規制庁。暗号資産事業者向けのライセンス体制を整備。


デジタル資産基本法】

韓国で準備中の包括的なデジタル資産規制法。ウォン連動型ステーブルコインやスポット型暗号資産ETFのルールを整備予定。


ウォン連動型ステーブルコイン】

韓国ウォンの価値に連動するよう設計されたステーブルコイン。発行主体を巡り韓国銀行と金融委員会で意見が対立。


パスポーティング】

一国で取得したライセンスを他国でも有効にする仕組み。EUのMiCA下では、一つのライセンスでEU全域での営業が可能。


フラクショナル・オーナーシップ(分割所有)】

高額資産を小口に分割し、複数の投資家が少額から所有できる仕組み。トークン化の主要なメリットの一つ。



本稿は近日中にnoteにも掲載予定です。
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