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トランプ第2期政権で何が起きているのか──ICE・州兵・外交という「道具」の変容




シリーズ: 行雲流水


アメリカで何かが変わりつつある——そう感じている人は多いのではないでしょうか。


2025年1月に発足した第2次トランプ政権は、第1期とは明らかに様子が違います。就任初日から大量の大統領令、連邦職員の大規模な解雇、移民執行機関の急激な拡大。ニュースは関税やNATOとの摩擦を伝えますが、アメリカ国内で進行している変化については、日本ではあまり報じられていません。


今回は、富良野とPhronaの二人が、トランプ政権下で何が起きているのかを整理します。ICE、州兵、外交という3つの「道具」が、本来の役割からどう逸脱しつつあるのか。その先にどんなシナリオがありうるのか。陰謀論に陥らず、かといって正常性バイアスにも囚われず、冷静にリスクを見つめてみたいと思います。




第1期とは何が違うのか


富良野:第2次トランプ政権を見ていて、第1期とは明らかに違うと感じることはありますか。


Phrona:感覚的には、なんというか……前より「手際がいい」という印象があります。第1期はもっと混乱してた記憶があるんですけど。


富良野:その感覚は、たぶん正しいです。第1期は、高官の離任率が歴史的な高さで、政権内部の対立や混乱が常態化していた。大統領令を出しても、実装段階で頓挫したり、司法で止められたりすることが多かった。


Phrona:今回は違う?


富良野:就任初日から、大量の大統領令を一括で出すという設計になっていた。移民政策、官僚人事、規制撤廃など、パッケージとして準備されていて、初日から一気に動かしてる。


Phrona:4年間で学習した、ということですか。


富良野:そう解釈するのが自然だと思います。第1期で何が障害になったか——司法、官僚機構、手続き上の制約——を具体的に把握して、第2期ではそこを最初から潰しにいっている。Project 2025という外部の政策立案グループが人材供給や政策パッケージの準備を進めていたことも、背景にあると言われています。


Phrona:偶然そうなったというより、計画的だったと。


富良野:少なくとも、事前準備の度合いが第1期とは比較にならない。ただ、これを「緻密な陰謀」と言いたいわけではなくて、むしろ普通の学習プロセスとして理解できる。前回うまくいかなかったことを修正してきた、と。



速度という武器


Phrona:大統領令の数がすごいことになってるという話は聞きます。


富良野:2025年12月時点で221本。第1期の4年間で220本だったので、1年足らずで前回の任期全体を超えてます。


Phrona:なぜそんなに急ぐんでしょう。


富良野:一つの解釈は、「既成事実化」の戦略です。司法や議会が止めようとする前に、もう実行してしまう。差し止め命令が出る頃には、次の命令が出ている。


Phrona:追いつけない。


富良野:反対する側は全部に対応しなきゃいけないけど、出す側は次々と新しいことをやればいい。この非対称性が、ある種の武器になっている。


Phrona:でも、数が多いだけなら、中身が薄いということもありえますよね。


富良野:そこは第1期との違いで、今回は法的助言チームが強化されていて、命令の文言がより精緻になっている。司法審査を回避するための論理が、最初から組み込まれているケースが多いと分析されています。



官僚機構の「忠誠化」


Phrona:アメリカの官僚機構が変わってきているのでしょうか。


富良野:「スケジュールF」という制度があって、第1期の末期に作られたんですが、バイデン政権で撤回されていた。それを第2期の初日に復活させて、さらに拡張した形で運用している。


Phrona:どういう制度なんですか。


富良野:簡単に言うと、政策に関わるキャリア官僚の身分保障を剥奪できる。従来は、不正や著しい能力不足がない限り解雇できなかった連邦職員が、上司の判断で解雇できるようになる。


Phrona:それは……対象はどのくらいの規模なんですか。


富良野:推定で5万人と言われています。環境保護局の科学者、司法省の検察官、国務省の外交官——政策の実務に関わる専門職が広く対象になりうる。


Phrona:専門性より忠誠心が評価基準になる、という構造ですか。


富良野:そうなるリスクがあります。例えば、政権のエネルギー政策に都合の悪いデータを出した科学者がいたとして、従来ならそれは専門家としての職務だった。でも今後は、それが解雇理由になりうる環境が生まれている。


Phrona:「それは法的に問題があります」と言える人がいなくなる。


富良野:自浄作用の喪失、と呼ばれることがあります。誤った判断があっても、内部から修正する力が弱まる。



道具①:ICE——連邦権力の都市への投射


Phrona:ICEの話をよく聞くようになりました。移民執行の機関ですよね。


富良野:Immigration and Customs Enforcement、移民税関捜査局。本来は移民法の執行と、関連する犯罪捜査を担当する機関です。


Phrona:それがどう変わってきているんですか。


富良野:まず規模。「ビッグ・ビューティフル・ビル」と呼ばれる法案で、国土安全保障省に1700億ドルの予算がついた。ICEの予算は従来の3倍以上に膨らんで、捜査官の数はFBI全体を上回る規模になっています。


Phrona:3倍。それだけの人員で何をしているんですか。


富良野:大都市での大規模な強制送還作戦です。ロサンゼルス、シカゴ、ミネアポリス——州知事や市長の同意なしに、連邦の実力組織が都市部に入ってきて作戦を展開している。


Phrona:なぜ、州や市の警察ではなくICEなんですか。


富良野:そこが構造的に重要なポイントで。州や市の警察は、地元の統制と説明責任が強い。議会への報告義務があり、住民の反発で動きにくくなることもある。一方、ICEは指揮命令系統がホワイトハウスに近く、自治体の統制が届きにくい。


Phrona:大統領の意志をより直接的に反映できる。


富良野:さらに、移民執行は対象の定義が曖昧化しやすい。誰が「不法」で誰が「合法」かの線引きが、執行の現場で拡張されていく傾向がある。


Phrona:ミネアポリスで最近起きた事件も、その文脈ですか。


富良野:ICEの捜査官が37歳の女性を射殺した事件ですね。Renee Goodさんという方で、3人の子どもの母親だった。そして重要なのは、彼女は移民執行の対象者ではなかったということです。


Phrona:対象者じゃない人が撃たれた。


富良野:連邦政府は「車両で捜査官を轢き殺そうとしたから正当防衛だ」と説明しています。一方、ミネアポリスのフレイ市長は動画を見て「それは完全なでたらめだ」と反論した。


Phrona:事実認識が真っ向から対立している。


富良野:そしてFBIは、当初予定されていた州との共同捜査を打ち切って、証拠を独占した。州の捜査機関は車両にもアクセスできない。地元の検察は「証拠がなければ起訴の判断もできない」と言っている。


Phrona:連邦が事実を独占して、地方は検証する手段を奪われている。


富良野:事件の翌日にはポートランドでも、国境警備局の捜査官が2人を撃つ事件が起きています。連邦側の説明は同じく「車両で攻撃された正当防衛」。ポートランドの市長も「連邦の言い分を鵜呑みにできる時代は終わった」と発言しています。


Phrona:パターンになりつつある。


富良野:衝突が起きた後、政治的なフレーミングが「治安」と「内なる敵」の物語に収斂していく構造が見えます。



道具②:州兵——地方の抵抗を封じる手段


Phrona:州兵の話も出てきますよね。州兵と正規の軍隊は違うんですか。


富良野:違います。正規軍は連邦政府の指揮下にありますが、州兵は基本的に州知事の統制下にある。災害対応や治安支援で出動することが多く、国内での展開に対する社会的ハードルが正規軍より低い。


Phrona:そこが狙われている?


富良野:2025年の夏、シカゴやロサンゼルスでの抗議デモに対して、トランプ大統領は州知事の同意なく州兵を連邦化しようとしました。これに対してイリノイ州などが提訴して、最高裁まで争われた。


Phrona:結果は?


富良野:6対3で、大統領の権限行使に一定の制約がかかりました。「正規軍」の定義を厳格に解釈して、州兵を簡単には連邦化できないという判断。


Phrona:じゃあ歯止めはかかっている。


富良野:部分的には。ただ、ここで重要なのは「ポッセ・コミタートゥス法」という法律の存在です。これは軍隊の国内法執行への関与を制限する法律で、市民社会と軍の境界線を定める根幹的なルールなんですが——


Phrona:それを迂回しようとしている?


富良野:「反乱法」という別の法律がある。大統領が国内の状況を「反乱」あるいは「法の執行が実行不可能」とみなせば、より広い権限で軍を動員できる。トランプ大統領自身、「裁判所が州兵を止めるなら反乱法を使う」と公言しています。


Phrona:「反乱」の定義は誰が決めるんですか。


富良野:大統領です。明確な定義がないので、理論上は平和的な抗議活動も「国内暴力」と解釈できてしまう。


Phrona:なぜ正規軍ではなく州兵なんですか。


富良野:正規軍を国内で使うことへの政治的・法的コストが高いからです。発動根拠の説明が必要になるし、軍内部からの反発も可視化しやすい。州兵は国内展開の実績があるので、社会的な抵抗が相対的に小さい。


Phrona:コストの低い選択肢を使う。


富良野:そして州兵の統制を連邦が握れれば、反対派の州知事や都市の実効的な抵抗を弱められる。サンクチュアリ・シティが連邦の移民執行に協力しないと言っても、州兵を連邦化されたら対抗手段が限られてくる。



道具③:外交——非常事態の演出と取引


Phrona:外交の話は日本でもよく報じられます。関税とか、NATOとの摩擦とか。


富良野:ただ、国内の文脈と切り離して見ると、本質を見誤る可能性があります。


Phrona:どういうことですか。


富良野:2026年1月、米軍がベネズエラの首都カラカスを急襲して、マドゥロ大統領を拘束しました。作戦中に80人以上のベネズエラ人が死亡している。


Phrona:他国の首都を襲撃して大統領を拘束……。


富良野:トランプ大統領は「ベネズエラの資源は今や米国の管理下にある」と宣言しています。国連憲章が定める主権国家への不干渉原則を完全に無視した行動で、欧州の同盟国からも困惑の声が上がっている。


Phrona:これは全面戦争を狙っているんですか。


富良野:おそらく違います。全面戦争は損が大きすぎる。狙いは別にあると考えるのが自然です。


Phrona:何が狙い?


富良野:いくつかの解釈があります。一つは取引条件の改善。資源権益、基地、航路などで譲歩を引き出す。もう一つは国内向けの統治資源。外の緊張は、国内の非常時的運用を正当化しやすくする。


Phrona:外で危機を作ると、国内で強い手段を使いやすくなる。


富良野:グリーンランドの「購入」再提案も同じ構造で見ることができます。拒否したデンマークに対して「軍事的・経済的帰結」をちらつかせている。同盟国に対してすらこういう姿勢をとることで、「何をするか分からない」という不確実性を作り出す。


Phrona:同盟国との関係も変わっている。


富良野:NATOには防衛費GDP5%を要求して、達成しないなら集団防衛を保証しないと言っている。同盟関係が「保険契約」のように扱われている。払わないなら守らない、と。


Phrona:価値観の共有から、純粋な取引へ。


富良野:スティーブン・ミラー氏——政権の中枢にいる人物ですが——は「強さ、武力、権力こそが世界の鉄則だ」と公言しています。これは単なるレトリックではなく、実際の政策に反映されている。



3つをつなぐもの——「内なる敵」の構築


Phrona:ICE、州兵、外交。この3つはどうつながっているんですか。


富良野:一つの結節点が「敵国人法」という法律です。1798年制定の戦時法で、本来は宣戦布告した敵国の国民を拘束・追放するためのもの。


Phrona:1798年。ナポレオン戦争の頃ですか。


富良野:そうです。この法律をトランプ政権はベネズエラの犯罪組織「トレン・デ・アラグア」に適用した。ベネズエラと戦争しているわけではないのに。


Phrona:どういう理屈で?


富良野:組織を「事実上の敵対勢力」と定義することで、宣戦布告なしに使えるという解釈です。これにより、通常の司法手続き——デュー・プロセス——を経ずに、大統領の命令だけで特定の人々を追放できる法的ルートができた。


Phrona:国外の「敵」を国内に持ち込む。


富良野:そしてミネアポリスの事件、ポートランドの事件でも、連邦側は「トレン・デ・アラグアと関係がある」という説明を使っています。このラベルを貼れば、通常の手続きを飛ばせる。


Phrona:ベネズエラ作戦と国内の移民執行がつながっている。


富良野:外で敵を作り、その敵を国内にも見出し、非常事態的な対応を正当化する。この構造が、ICE・州兵・外交という3つの道具を貫いている。



何が狙いなのか——目的関数の推定


Phrona:ここまで聞いてきて、率直に聞きたいんですけど……トランプは結局何がしたいんでしょうか。


富良野:断定はできません。ただ、最小限の仮定で最も整合的なモデルを組み立てることはできる。


Phrona:どういうモデルですか。


富良野:出発点になるのは、「トランプは私利にならないことはやらない」という前提です。これは支持者も批判者も、おそらく同意できる。


Phrona:そこから何が導かれますか。


富良野:最上位の目標は、権力から降りた後の法的・経済的リスクの最小化だと考えられます。複数の訴追を抱えている状況で、権力を失うことのコストが非常に高い。


Phrona:だから権力を維持したい。


富良野:第二の目標として、支持基盤の動員力を維持し、党内と官僚機構を忠誠で固める。これは権力維持の手段でもある。


Phrona:でも、大統領って2期までですよね。


富良野:憲法上はそうです。ただ、トランプ大統領は憲法修正や終身大統領について言及したことがあります。冗談めかした形ではありますが、複数回。


Phrona:本気かどうかは分からない。


富良野:分かりません。ただ、ロシアで見られたようなやり方——プーチンが形式上首相に退いてメドベージェフを大統領に据え、その後復帰した——という選択肢は、論理的には排除できない。


Phrona:でも、それはさすがに陰謀論的な見方じゃないですか。


富良野:意図を断定しているわけではないんです。重要なのは構造です。権力を失うことのリスクが高く、権力を維持することの利益が大きい構造がある場合、制度的な制約を迂回するインセンティブは強まる。


Phrona:意図的に設計しているかどうかは分からないけど、そういう方向に進むインセンティブがある、と。


富良野:そして、今観測されている動き——官僚機構の忠誠化、連邦権力の拡大、地方の抵抗の無力化、非常事態の演出——は、すべてその方向と整合的です。


Phrona:混乱は失敗ではなく資源になる、という話がありましたね。


富良野:意図的に混乱を設計していると断定はできません。でも、混乱が起きたときに権力が増える構造を好んでいる、とは言える。未必の故意、という表現が近いかもしれません。



危険な分岐点と観測指標


Phrona:この先、何を見ておくべきなんでしょうか。


富良野:いくつかの分岐点があると思います。最も危険なのは、次の条件が重なったとき。


Phrona:具体的には。


富良野:第一に、実力組織——軍やICE——の忠誠が、憲法や法ではなく個人に寄り始める。第二に、州と連邦の指揮命令が衝突して、現場が分裂する。第三に、政治的暴力が例外ではなく日常の統治技術になる。第四に、選挙の実施や集計の正統性が、治安の名目で毀損される。


Phrona:チェックリストみたいですね。


富良野:外形から判断するための指標をいくつか挙げると——連邦機関の出動が特定の政治地理に偏るか。現場の装備や匿名性が強まり、説明責任が弱まるか。逮捕や拘束の運用が、司法手続きより先に既成事実を作る形になっているか。抗議や反発が「内なる敵」として一括りにラベル化されるか。


Phrona:ミネアポリスの事件は、いくつか当てはまりそうですね。


富良野:当てはまっている要素があります。だから注視する必要がある。ただ、一つの事件で全体を断定するのは避けるべきで、パターンとして観測していくことが重要です。


Phrona:「慣れたら危ない」という感覚があります。


富良野:そこが一番怖いところで。個々の事件に慣れていくと、次の過激化が許容されやすくなる。「前もこのくらいだったから」という正常化が起きる。



摩擦の意味と抵抗


Phrona:でも、抵抗も続いているんですよね。


富良野:続いています。ミネアポリスのフレイ市長、ミネソタ州のウォルツ知事、ポートランドのウィルソン市長——地方自治体のレベルでは明確に反発している。最高裁も、州兵連邦化については一定の制約をかけた。


Phrona:完全に無力化されているわけではない。


富良野:国際的な民主主義指標を見ると、米国の評価は急落しています。V-Demというプロジェクトは「過去の近代史において最も急速に専制化が進んだ事例」と指摘している。フリーダムハウスのスコアも下がっている。


Phrona:数字で見ると深刻さが分かりますね。


富良野:ただ、選挙制度そのものは——2024年の大統領選は、懸念されたほどの混乱なく実施されて、結果も平和的に承認された。州レベルでの抵抗も続いている。


Phrona:完全には崩壊していない。


富良野:そうです。ここで「摩擦」という言葉を使いたいんですが——民主主義って、ある意味で非効率なんですよ。議会で審議する、裁判所がチェックする、専門家の意見を聞く、州と連邦で権限を分ける。決定までに時間がかかる。


Phrona:それが邪魔だと思われている。


富良野:でも、その摩擦がブレーキとして機能してきた。今起きていることは、その摩擦を徹底的に取り除こうとする動きです。公務員の保護を剥奪する、司法判断を速度で先回りする、証拠を独占して地方を締め出す。


Phrona:短期的には効率的に見える。


富良野:でも、誤った判断を修正する機会が失われる。一度そうなると、元に戻すのは非常に難しい。


Phrona:私たちは何を見ておくべきなんでしょうね。


富良野:正常性バイアスに陥らないこと。「まさかそこまでは」という思い込みが、変化の兆候を見逃させる。かといって、陰謀論的に「すべては計画通り」と見るのも違う。


Phrona:煽らず、でも目を逸らさず。


富良野:事実を見て、パターンを認識して、シナリオとして想定しておく。断定はしないけど、排除もしない。そういう姿勢が必要な局面だと思います。


Phrona:ある種の緊張感を持って見続ける、ということですね。


富良野:そうですね。制度は放っておいても維持されるものじゃない。常にメンテナンスが必要で、そのためには何が起きているかを正確に見ようとすること自体が、たぶん、何かを守ることにつながっている。




ポイント整理


  • 第1期と第2期の違い

    • 第1期は混乱とアドホックな対応が多く、官僚機構や司法で政策が頓挫することが多かった。第2期は就任初日から大量の大統領令を一括で出す設計になっており、官僚人事制度の再編、軍・非常権限の政策パッケージへの組み込みなど、事前準備の度合いが格段に高まっている。4年間の「学習」とProject 2025などの外部支援が背景にある。

  • 速度と既成事実化

    • 2025年12月までに221本の大統領令が署名され、第1期4年間の総数を1年足らずで上回った。司法や議会が止める前に既成事実を作る「速度の武器化」が戦略として機能している。

  • 官僚機構の忠誠化

    • 「スケジュールF」の復活・拡張により、推定5万人の政策関連職員が身分保障を失った。専門性より忠誠心が評価される環境が生まれ、「それは法的に問題がある」と言える人がいなくなる自浄作用の喪失が懸念される。

  • ICEの変容

    • 本来は移民法執行機関だが、予算が3倍以上に拡大し、都市部への連邦権力投射の道具として機能しつつある。州警察より指揮命令がホワイトハウスに近く、対象の定義が拡張されやすい。ミネアポリス事件では移民執行の対象者でない市民が射殺され、連邦が証拠を独占して地方の検証を困難にしている。

  • 州兵の連邦化

    • 州知事の統制下にある州兵を連邦が掌握することで、反対派の州や都市の抵抗を弱められる。最高裁は一定の制約をかけたが、「反乱法」という広範な権限を持つ法律が切り札として残っている。正規軍より政治コストが低い選択肢として狙われている。

  • 外交の道具化

    • ベネズエラ軍事作戦、グリーンランドへの威嚇、同盟国への関税攻勢など、外交が取引条件の改善と国内向けの非常事態演出の両面で使われている。外の緊張が国内の非常時的運用を正当化する構造がある。

  • 「内なる敵」の構築

    • 1798年制定の敵国人法をベネズエラの犯罪組織に適用し、司法手続きを経ない追放の法的ルートを確立。「トレン・デ・アラグア」というラベルが、国外の敵と国内の移民執行をつなぐ論理として機能している。

  • 目的関数の推定

    • 断定はできないが、最小仮定で最も整合的なモデルは「権力から降りた後のリスク最小化」「支持基盤と忠誠の維持」を最上位に置くもの。憲法修正や終身大統領への言及、プーチン=メドベージェフ型のアクロバットの可能性も論理的には排除できない。混乱は失敗ではなく資源として機能する構造がある。

  • 観測すべき指標

    • 実力組織の忠誠が個人に寄るか、政治的暴力が日常化するか、選挙制度への介入の兆候があるか、抗議が「内なる敵」としてラベル化されるか、など。一つの事件で断定せず、パターンとして注視することが重要。

  • 摩擦の意味

    • 民主主義の「非効率」——議会審議、司法チェック、専門家の意見、連邦と州の権限分散——は、ブレーキとして機能してきた。それを取り除くと短期的には効率的に見えるが、誤りを修正する機会が失われる。



キーワード解説


スケジュールF(Schedule F)】

政策に関わる連邦公務員を新しい雇用区分に移し、身分保障を剥奪する制度。第1期末期に創設、バイデン政権で撤回、第2期初日に復活・拡張された。


ポッセ・コミタートゥス法(Posse Comitatus Act)】

1878年制定。軍隊の国内法執行への関与を制限する法律。市民社会と軍の境界線を定める根幹的なルール。


反乱法(Insurrection Act)】

大統領が国内の状況を「反乱」または「法の執行が実行不可能」とみなした場合に軍を動員できる法律。「反乱」の定義が曖昧で、濫用のリスクが指摘されている。


ICE(Immigration and Customs Enforcement)】

移民税関捜査局。国土安全保障省傘下の法執行機関で、移民法の執行と犯罪捜査を担当。第2期で予算・人員が大幅に拡大。


敵国人法(Alien Enemies Act)】

798年制定の戦時法。本来は宣戦布告した敵国の国民を拘束・追放するためのもの。トランプ政権はこれをベネズエラの犯罪組織に適用した。


トレン・デ・アラグア(Tren de Aragua)】

ベネズエラ発祥の犯罪組織。トランプ政権が敵国人法適用の根拠として、また国内の移民執行を正当化するラベルとして頻繁に言及。


サンクチュアリ・シティ(Sanctuary City)】

連邦政府の移民執行に積極的に協力しない方針をとる自治体の通称。ミネアポリス、シカゴ、ロサンゼルスなどが該当。


Project 2025】

保守系シンクタンクHeritage Foundationが中心となって準備した政策パッケージと人材供給網。第2期政権の事前準備に大きく寄与したとされる。


V-Dem(Varieties of Democracy)】

スウェーデンの研究機関が運営する民主主義指標プロジェクト。米国を「過去の近代史において最も急速に専制化が進んだ事例」と指摘。


正常性バイアス(Normalcy Bias)】

危機的状況でも「自分は大丈夫」「まさかそこまでは」と思い込む心理傾向。変化への対応を遅らせる要因となる。



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