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中米の再生可能エネルギー転換──小さな国々が描く、もうひとつのエネルギーの未来


シリーズ: 論文渉猟


◆今回のレポート:"Hoja de ruta para las energías renovables: Centroamérica – Resumen ejecutivo" (The International Renewable Energy Agency, 2022年3月)

  • 概要:中米六カ国における再生可能エネルギー導入の現状と2030年までの目標、地域統合による電力システムの最適化、投資の必要性、持続可能な開発への貢献について包括的に分析したレポート。



気候変動対策というと、どうしても大国の動向ばかりに目がいきがちです。でも実は、地図上では小さく見える国々が、思いのほか大胆なエネルギー転換を進めているという事実があります。中米の六カ国──グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル、ニカラグア、コスタリカ、パナマ──は、2030年までに再生可能エネルギーの割合を大幅に引き上げる目標を掲げています。


国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が発表したロードマップは、単なる理想論ではありません。地域の電力網を統合し、太陽光や風力、地熱といった資源を活かしながら、化石燃料への依存を減らしていく具体的な道筋を示しています。ただ、そこには技術的な課題だけでなく、制度設計や国境を越えた協力という、より複雑な問いも横たわっています。


今回、富良野とPhronaが語り合うのは、この中米のエネルギー転換が持つ意味です。小国ゆえの柔軟性と脆弱性、地域統合の可能性と難しさ、そして「持続可能性」という言葉の裏にある現実。一見地味なテーマに見えて、実はエネルギーの未来を考える上で欠かせない視点が詰まっています。


 


地域統合という賭け──国境を越えた電力網の可能性


富良野:このレポート、読んでて面白かったのは、中米六カ国が個別にエネルギー転換を進めるんじゃなくて、地域全体で電力網を統合していこうとしてる点なんですよね。


Phrona:ああ、SIEPACっていう地域送電システムですよね。国と国をつなぐ、っていうのは技術的にも政治的にもけっこう大変そうだけど。


富良野:そうなんですよ。でもこれ、ある意味では合理的で。たとえばコスタリカは水力が豊富だけど乾季には発電量が落ちる。一方でニカラグアは地熱資源がある。パナマは風力のポテンシャルが高い。それぞれの強みを持ち寄って、お互いに融通し合えたら効率がいいわけです。


Phrona:なるほど。つまり、単独では不安定なエネルギー源でも、地域全体で見ればバランスが取れる可能性があるってことか。


富良野:そういうこと。再生可能エネルギーって天候に左右されやすいから、どうしても供給が不安定になりがちなんですよね。でも、複数の国が連携していれば、ある国で曇ってても別の国では晴れてる、みたいな相互補完ができる。


Phrona:でもさ、それって国同士の信頼関係が前提になるよね。電力を融通するってことは、ある意味でエネルギー安全保障を他国に委ねる部分が出てくるわけで。


富良野:そこなんですよね。技術的には可能でも、政治的にはどうなのか。特に中米って、歴史的に見ても国家間の関係が必ずしもスムーズじゃなかった地域だから。


Phrona:うん。経済格差もあるし、それぞれの国の政治体制や優先順位も違う。そういう中で、長期的な協力体制を維持していくのは並大抵じゃないと思う。


富良野:レポートでは、2030年までに地域全体で再生可能エネルギーの割合を80%まで引き上げるって目標が掲げられてるんだけど、それを実現するには国境を越えた電力取引を活性化させることが鍵になってる。


Phrona:理想としては分かるんだけど、何か起きたときにどうするかって話も出てきそうだよね。たとえばある国が自国の電力不足を理由に、約束した融通を一方的に止めたりしたら。


富良野:まさに。だからこそ、制度設計が重要になってくる。単に送電線をつなぐだけじゃなくて、取引のルールとか、緊急時の対応とか、そういうガバナンスをどう作るかが問われてるんだと思います。


小国ゆえの柔軟性と脆弱性


Phrona:でもさ、逆に考えると、小さい国だからこそ動きやすいっていう面もあるんじゃない? 大国みたいに既得権益が複雑に絡み合ってないぶん、思い切った政策転換ができるとか。


富良野:それはあるかもしれない。コスタリカなんかはすでに電力のほとんどを再生可能エネルギーで賄ってるし、実際に先進的な取り組みをしてる。国の規模が小さいと、政策決定から実行までのスピードが速い場合もありますよね。


Phrona:うん。あと、地域全体で見ても人口がそこまで多くないから、必要なインフラの規模も相対的には小さい。大がかりな火力発電所とか原発とか、そういう巨大施設に依存しなくても、分散型の再生可能エネルギーでやっていける可能性がある。


富良野:ただね、小さいっていうのは脆弱性とも裏腹なんですよ。たとえば投資の規模。レポートでは2030年までに年間20億ドルの投資が必要だと試算されてるんだけど、これって中米の経済規模から見るとけっこうな負担なんです。


Phrona:ああ、そうか。自力で資金を調達するのが難しいから、外部からの投資や援助に頼らざるを得ない。


富良野:そう。となると、投資する側の論理に引っ張られるリスクもある。再生可能エネルギーへの転換って、本来はその国の人々のためのものであるべきなのに、投資家の利益が優先されたり、プロジェクトが地域社会と軋轢を生んだりすることもある。


Phrona:うーん、難しいね。技術的には理想的な転換でも、誰がその恩恵を受けるのか、誰が負担を背負うのか、っていう分配の問題は残る。


富良野:しかも、気候変動の影響を最も受けやすいのも、こういう小さな国々なんですよね。ハリケーンとか干ばつとか、極端な気象現象が頻発してる。エネルギー転換は喫緊の課題なんだけど、同時にそのための余裕がないっていうジレンマがある。


Phrona:余裕がないからこそ急がなきゃいけない、でも急ぐための資源がない。なんだか、すごく不公平な構造だよね。


「持続可能性」の内実を問う


富良野:レポートの中で繰り返し出てくるのが、SDGs──持続可能な開発目標との関連なんですけど、これがちょっと気になってて。


Phrona:どういう意味で?


富良野:いや、もちろん再生可能エネルギーの導入が持続可能性に貢献するっていうのは分かるんです。温室効果ガスの削減にもなるし、エネルギーアクセスの改善にもつながる。でも、持続可能性って言葉が、ある種の免罪符みたいに使われてる気もするんですよね。


Phrona:ああ、なんとなく分かる。持続可能ですって言っとけば正しいことをしてる感じになる、みたいな。


富良野:そうそう。でも実際には、たとえば大規模な水力発電ダムを作るとなると、住民の移転が必要になったり、生態系に影響が出たりする。それは本当に持続可能なのか、っていう問いがある。


Phrona:太陽光パネルや風力タービンだって、製造段階では資源を使うし、廃棄のときにはどうするかっていう問題もあるよね。


富良野:そうなんですよ。再生可能エネルギーは化石燃料よりはマシ、っていうのは間違いないと思うんだけど、だからといって問題がゼロになるわけじゃない。


Phrona:うん。それに、エネルギーを作る側の話だけじゃなくて、使う側の話もあるわけで。どんなにクリーンなエネルギーを作っても、それが無駄に消費されてたら意味がないっていうか。


富良野:省エネとか、効率化とか、そういう話ですね。レポートでも触れられてはいるんだけど、やっぱり供給側の話が中心になってる印象はあります。


Phrona:結局、持続可能性って、技術だけの問題じゃないんだよね。どういう社会を作りたいか、どういう暮らし方をしたいか、っていう価値観の問題でもある。


富良野:そこが一番難しいところかもしれない。価値観は人によって、地域によって違うから。


Phrona:うん。だからこそ、一律の答えを押し付けるんじゃなくて、それぞれの文脈に合わせた転換のあり方を考えていく必要があるんだと思う。


雇用と産業構造の変化


Phrona:ところで、エネルギー転換って、働く人たちにはどういう影響があるんだろう。


富良野:ああ、それは重要な視点ですね。化石燃料産業から再生可能エネルギー産業への移行って、単純に技術が変わるだけじゃなくて、雇用の構造も変わるから。


Phrona:たとえば石油や石炭の採掘をしてた人たちは、仕事を失うことになる?


富良野:可能性はありますね。もちろん、再生可能エネルギー産業が新しい雇用を生むっていう側面もあるんだけど、そこで求められるスキルは全然違ったりする。


Phrona:ソーラーパネルの設置とか、風力タービンのメンテナンスとか、そういう技術者が必要になるってこと?


富良野:そういうこと。だから、職業訓練とか再教育のプログラムが欠かせない。でも、それには時間もお金もかかるし、全員がうまく移行できるわけじゃない。


Phrona:なんだか、産業革命のときとか、そういう大きな変化のときに起きることと似てるのかな。


富良野:似てるかもしれませんね。技術の進歩は全体としてはプラスになることが多いけど、その過程で取り残される人たちが必ず出てくる。その痛みをどう緩和するかが、政策の役割だと思います。


Phrona:でもさ、中米の場合、もともと石油産業とかがそこまで大きくない国もあるよね。だとしたら、むしろ再生可能エネルギーが新しい産業の柱になる可能性もあるんじゃない?


富良野:それはあると思います。特に、地元の資源を活かせるっていうのは大きい。太陽光とか風力とか地熱って、輸入に頼らなくていいエネルギー源だから、エネルギー自立につながる。


Phrona:経済的にも安定するし、外貨流出も減る。


富良野:そうですね。ただ、それを実現するには、技術やノウハウを地域に根付かせることが必要で。外国企業がプロジェクトを請け負って、利益だけ持って帰る、みたいな構造だと、結局は地域の発展にはつながらない。


Phrona:技術移転とか、人材育成とか、そういう地道な取り組みが大事になってくるわけだ。


富良野:まさに。それができるかどうかで、エネルギー転換が本当の意味で地域のためになるかどうかが決まるんだと思います。


中米から見えてくる、もうひとつの未来


Phrona:こうして話してると、中米のエネルギー転換って、単なる技術的なプロジェクトじゃなくて、社会全体の変化の縮図みたいに見えてくるね。


富良野:そうですね。エネルギーって、経済とか政治とか、あらゆるものと結びついてるから。


Phrona:大国の動向ばかりに注目しがちだけど、実は小さな国々の取り組みから学べることって多いのかもしれない。


富良野:僕もそう思います。大国は規模が大きいぶん、変化に時間がかかる。でも小国は機動力がある。実験的な取り組みもしやすい。


Phrona:失敗するリスクも大きいけど、成功したときのインパクトも大きい。


富良野:そう。中米のロードマップが成功すれば、他の地域にとってもひとつのモデルになる可能性がある。地域統合とか、分散型エネルギーとか、そういうアプローチの有効性を示すことができる。


Phrona:逆に、うまくいかなかったとしても、そこから学べることはあるよね。何が障害になったのか、どこに落とし穴があったのか。


富良野:失敗も含めて、すべてが知見になる。それが、こういうプロジェクトの価値だと思います。


Phrona:ただ、当事者にとっては、実験台にされてるみたいで嫌な気持ちになることもあるかもしれない。


富良野:それはそうですね。だからこそ、外から見てる側は謙虚でいなきゃいけない。簡単に評価を下したり、こうすべきだって決めつけたりするんじゃなくて。


Phrona:うん。それぞれの国には、それぞれの歴史や文脈があって、簡単には割り切れない事情がたくさんあるはずだから。


富良野:でも同時に、中米の人たちがどういう選択をするのか、どういう未来を描こうとしてるのか、それに関心を持ち続けることも大事だと思うんですよ。


Phrona:そうだね。無関心でいるのも、上から目線で見るのも、どちらも違う。


富良野:結局のところ、エネルギーの未来って、誰か一人が決めるものじゃない。いろんな立場の人たちが、いろんな場所で考えて、試して、その積み重ねの中から形になっていくものなんだと思います。


Phrona:中米の取り組みも、そういう大きな流れの一部なんだろうね。


富良野:そうですね。だから、注目し続ける価値がある。



 

ポイント整理


  • 地域統合によるエネルギー転換の可能性

    • 中米六カ国は、個別ではなく地域全体で電力網を統合し、それぞれの再生可能エネルギー資源(水力、地熱、風力、太陽光)を相互補完的に活用することで、供給の安定性を高めようとしている。SIEPAC(中米地域送電システム)がその基盤となる。

  • 2030年までの野心的な目標

    • 地域全体で再生可能エネルギーの割合を80%まで引き上げることを目指しており、これには国境を越えた電力取引の活性化と大規模なインフラ投資が不可欠。年間約20億ドルの投資が必要と試算されている。

  • 小国特有の柔軟性と脆弱性

    • 国の規模が小さいことは、政策決定の迅速さや分散型エネルギーシステムの導入しやすさといった利点をもたらす一方で、資金調達の困難さや外部投資への依存、気候変動の影響を受けやすいといった脆弱性も併せ持つ。

  • 国家間協力の政治的課題

    • 電力の融通を含む地域統合は、各国間の信頼関係と明確なガバナンス構造を必要とする。歴史的背景や経済格差、政治体制の違いを抱える中米において、長期的な協力体制の維持は技術以上に政治的な挑戦となる。

  • 持続可能性の多面性

    • 再生可能エネルギーへの転換は温室効果ガス削減やエネルギーアクセス改善に貢献するが、大規模インフラ建設による住民移転や生態系への影響、製造・廃棄段階での環境負荷など、多面的な検討が必要。「持続可能」という言葉の安易な使用には注意が必要。

  • 雇用と産業構造の変化

    • 化石燃料産業から再生可能エネルギー産業への移行は、雇用構造の変化をもたらす。職業訓練や再教育プログラムの整備、技術移転と人材育成を通じた地域への利益還元が、転換の成否を左右する重要な要素となる。

  • エネルギー自立と経済的安定

    • 地元の再生可能エネルギー資源を活用することで、化石燃料の輸入依存から脱却し、外貨流出を抑え、エネルギー自立と経済的安定を同時に達成できる可能性がある。

  • 小国の取り組みがもたらす知見

    • 中米のような小規模地域の実験的取り組みは、成功・失敗を含めて他地域にとって貴重なモデルケースとなり得る。大国とは異なる機動力を活かした挑戦は、グローバルなエネルギー転換の議論に新たな視点を提供する。



キーワード解説


IRENA(国際再生可能エネルギー機関)】

再生可能エネルギーの普及促進を目的とする国際機関。政策提言や技術支援を行う。


SIEPAC(中米地域送電システム)】

中米六カ国を結ぶ地域統合型の送電インフラ。国境を越えた電力取引を可能にする。


地域統合】

複数の国が協力して、電力網や市場を統合すること。相互補完により効率性と安定性が向上する。


分散型エネルギーシステム】

大規模集中型発電所に依存せず、小規模な発電設備を地域に分散配置するシステム。


エネルギー安全保障】

安定的にエネルギー供給を確保すること。輸入依存や供給途絶のリスクを管理する概念。


技術移転】

先進技術を他国や地域に移転し、現地での活用・発展を促すこと。


SDGs(持続可能な開発目標)】

国連が掲げる2030年までの国際目標。エネルギーアクセスや気候変動対策も含まれる。


相互補完性】

異なる特性を持つ資源やシステムが互いに補い合うこと。エネルギー供給の安定化に寄与する。


公正な移行】

エネルギー転換における雇用や社会的影響を考慮し、誰も取り残さない移行を目指す考え方。


エネルギーアクセス】

すべての人が安価で信頼性の高いエネルギーを利用できること。開発途上国で特に重要な課題。



本稿は近日中にnoteにも掲載予定です。
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