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地球が「片側だけ暗くなっている」──人類が招いた半球間バランスの崩壊


シリーズ: 論文渉猟


◆今回の論文:Norman G. Loeb et al. "Emerging hemispheric asymmetry" (Proceedings of National Academy of Sciences of the United States of America, 2025年9月29日)

  • 概要:NASAのCERES(Clouds and the Earth's Radiant Energy System)による24年間の衛星観測データを分析し、地球の北半球と南半球における吸収太陽放射の非対称性が増大していることを発見。北半球は10年あたり0.34±0.23 Wm⁻²の速さで南半球よりも多くの太陽エネルギーを吸収しており、この変化はエアロゾルと放射の相互作用、地表アルベドの変化、水蒸気の増加によって説明される。この発見は、雲が強制的な半球間非対称性を自然に補正するという従来の仮説に疑問を投げかけている。



50年来の常識が、今、揺らいでいる。地球の北半球と南半球は、ほぼ同じ量の太陽光を反射してきた。陸地と海の配置も、エアロゾルの分布も全く異なるのに、なぜか地球全体としては見事なバランスを保ってきた。科学者たちはこの不思議な対称性に長年魅了されてきたが、2025年、NASAの研究チームがPNASに発表した論文は、その均衡が崩れ始めていることを示した。24年間の衛星観測データから浮かび上がったのは、北半球が南半球よりも速く「暗く」なっている現実だった。


問題は、これが単なる自然変動ではないということだ。世界人口の約90パーセントが住む北半球で、氷が溶け、大気汚染対策が進み、水蒸気が増える。その結果、太陽光の吸収が増え、気温がさらに上昇する。この非対称性は、地球全体の気象システムを撹乱する要因になりうる。雲は本当に気候システムの非対称性を補正する役割を果たしているのか。そして、この新しいバランスの下で、降雨パターンや海流はどう変わっていくのか。気候学者の富良野と、人類学的視点を持つPhronaが、この観測結果の意味を探る。


 


明るさとは何か――アルベドという尺度


Phrona:ところで、地球が明るいとか暗いとかって、どういう意味なんですか?


富良野:アルベドという概念があって。惑星に届く太陽光のうち、どれくらいが反射されるかを示す値なんです。0から1の間で表されて、1に近いほど明るい、つまり反射率が高い。


Phrona:地球はどのくらいなんですか?


富良野:現在の地球の平均アルベドは約0.3、つまり30パーセントです。太陽光の30パーセントを反射して、70パーセントを吸収してる。


Phrona:半分半分じゃないんですね。


富良野:ええ。で、これが面白いんですけど、金星はアルベドが0.76もあるんですよ。惑星全体が厚い雲で覆われてるから、すごく明るく見える。


Phrona:逆に暗い天体もあるんですか?


富良野:月がそうですね。夜空であんなに明るく見えるのに、実はアルベドは0.12しかない。地球よりずっと暗い天体なんです。


Phrona:へえ……じゃあ地球の明るさって、何で決まってるんですか?


富良野:雲が一番大きいですね。地球の表面の60パーセントくらいを雲が覆ってて、雲は太陽光をよく反射するから。あとは雪と氷も反射率が高い。逆に海とか森、都市のアスファルトは光を吸収する。


Phrona:だから氷が溶けると、地球が暗くなるんですね。


富良野:そうです。白い氷の下から、暗い海や陸地が顔を出すと、それだけ太陽光を多く吸収するようになる。で、吸収が増えると気温が上がって、さらに氷が溶ける……悪循環ですね。


Phrona:実際、どのくらい暗くなってるんですか?


富良野:2021年の研究によると、1998年から2017年の間に、地球全体のアルベドが0.5パーセント減少してるんです。


Phrona:0.5パーセント……大きいんですか、それ?


富良野:地球全体で見ると、決して小さくはないですよ。そしてさらに重要なのが、今回分かったことなんですけど。


50年続いた不思議なバランス


富良野:これ、かなり意外な発見なんですよ。1960年代から衛星で地球を観測し始めてから、ずっと科学者たちが不思議がってきたことがあって。


Phrona:何ですか?


富良野:北半球と南半球が、ほぼ同じ量の太陽光を反射してるんです。地球全体で見ると、見事に左右対称というか。


Phrona:え、でも北半球のほうが陸地が多いですよね。しかもヨーロッパとか北米とか中国とか、工業化された地域も多い。


富良野:そうなんです。普通に考えれば、北半球のほうが明るく見えるはずなんですよ。陸地は海よりも太陽光を反射しやすいし、工場や車から出るエアロゾル、つまり大気中の微粒子も光を反射するから。


Phrona:じゃあなんで同じになってたんですか?


富良野:雲です。南半球のほうが雲が多くて、その雲が太陽光を反射して、陸地の少なさを補ってたんですね。だから結果的に、北も南も同じくらい明るく見えてた。


Phrona:なるほど……でも、それって偶然じゃないですか?たまたまそうなってるだけで。


富良野:それがまさに論争の的だったんです。ある研究者は、地球をランダムに二つに分けた場合、こんなに綺麗に対称になる確率はたった3パーセントだって計算してる。つまり、これは偶然じゃなくて、気候システムが何らかの仕組みでバランスを保っているんじゃないかって。


Phrona:気候システムが自分で調整してる……?


富良野:そういう仮説があったんです。たとえば北半球の雪や氷が減って地表が暗くなったら、大気の循環が変わって雲の分布が調整されて、結局またバランスが取れるんじゃないかって。でも今回の論文は、そうじゃないかもしれないって示してるんですよ。


北半球が「暗く」なっている


Phrona:論文では何が分かったんですか?


富良野:24年間のデータを見たら、両方の半球とも暗くなってる。つまり、太陽光をより多く吸収してるんですけど、北半球のほうが速く暗くなってるんです。10年あたり0.34ワット毎平方メートルくらいの差で。


Phrona:0.34って、大きいんですか?


富良野:研究チームも悩んだみたいですよ。地球が吸収する太陽放射エネルギーの平均が1平方メートルあたり240から243ワットくらいだから、それに比べれば小さく見える。でも統計的には有意な値、つまり偶然では説明できない変化なんです。


Phrona:じゃあ、確実に何か起きてるってことですね。


富良野:ええ。しかも、これが持続的な傾向として観測されたのが重要で。一時的なブレじゃなくて、構造的な変化が起きてるってことですから。


Phrona:で、なんで北半球だけ暗くなってるんでしょう。


富良野:論文では三つの要因を挙げてます。一つ目は、北極の氷と雪が溶けてること。氷や雪は真っ白で太陽光をよく反射するけど、それがなくなると下の海や陸が露出して、暗い色になる。


Phrona:ああ、それは分かりやすいですね。


富良野:二つ目が、大気汚染の減少なんです。


Phrona:え、汚染が減ったら良いことじゃないですか?


富良野:環境と健康には良いんですよ。でもエアロゾル、つまり大気中の微粒子は太陽光を反射するから、それが減ると地球が吸収する太陽光が増えるんです。21世紀に入って、中国やアメリカ、ヨーロッパで大気汚染対策が進んで、北半球のエアロゾルが減った。


Phrona:皮肉ですね……空気を綺麗にしたら、地球が暗くなって温暖化が進むって。


富良野:そういう側面はあります。で、さらに興味深いのが、南半球では逆にエアロゾルが増えてるんですよ。


Phrona:南半球で?なぜですか?


富良野:火山活動とか、オーストラリアでの大規模な山火事とか。ここ何年か、そういう自然現象で南半球の大気中にエアロゾルが増えてる。だから北半球との差がさらに開いてるんです。


Phrona:人為的な要因と自然の要因が、どっちも非対称性を作ってるんですね。


富良野:まさに。で、三つ目が水蒸気の増加。大気が温まると水蒸気を多く含めるようになって、水蒸気は気体だから太陽光を吸収しやすい。雲を形成する氷の粒は光を反射するけど、気体の水蒸気は吸収するんです。


Phrona:全部つながってるんですね。氷が溶ける、汚染が減る、水蒸気が増える……それで北半球がどんどん暗く、つまり熱を吸収しやすくなっていく。


雲は調整役ではなかった?


富良野:で、ここからが本当に面白いんですけど。


Phrona:まだあるんですか。


富良野:雲の話です。従来の仮説では、雲が半球間のバランスを調整してくれるはずだった。北半球が暗くなったら、雲が増えて反射を増やすとか、そういう補正メカニズムがあるんじゃないかって。


Phrona:でもそうなってない?


富良野:少なくとも、今のところは補正しきれてないんですよ。雲の変化も北半球の暗化に寄与してはいるけど、その影響は小さい。熱帯域と温帯域で逆方向のトレンドがあって、打ち消し合ってるんです。


Phrona:つまり雲は、思ったほど頼りにならないってことですか。


富良野:少なくとも、単純な補正装置じゃないってことでしょうね。雲の形成には大気の循環が関わってて、その循環自体が気候変動で変わってきてるから。


Phrona:じゃあ、このまま北半球だけ暗くなり続けるんですか?


富良野:それは分からないです。論文も、将来的に雲が補正する可能性は残してる。ただ、もしそうなるとしても、もっと長い時間スケールで起きるかもしれない。数十年単位とか。


Phrona:その間に、気候はどうなるんでしょう。


循環の変化と未来の気候


富良野:半球間のエネルギーバランスって、大気と海洋の循環と密接に結びついてるんですよ。


Phrona:どういうことですか?


富良野:地球全体のエネルギーの流れを考えると、太陽光をより多く吸収する半球は温まるし、その熱を赤道付近から極に運ぶ大気や海流のパターンも変わる。で、その変化がまた雲の分布を変えて……っていう循環があるんです。


Phrona:ループになってるんですね。


富良野:そう。だから北半球が暗くなるってことは、単に北のほうが暖かくなるってだけじゃなくて、地球全体の気候パターンが変わりうるってこと。たとえば熱帯収束帯、つまりITCZっていう赤道付近の雨が多い帯があるんですけど、これが北にシフトするかもしれない。


Phrona:それって何が起きるんですか?


富良野:降雨パターンが変わります。今まで雨が降ってた地域が乾燥したり、逆に乾燥してた地域に雨が降ったり。農業とか水資源への影響は大きいですよ。


Phrona:実際、そういう変化は起きてるんですか?


富良野:研究チームは、北半球の熱帯地域の降水量が南半球に比べて増加してる傾向を確認してるんです。ただ、まだ観測期間が短いから確実な結論は出せないって慎重な姿勢を取ってますけどね。


Phrona:でも兆候は見えてるんですね。


富良野:ええ。エネルギーを多く吸収する側、つまり北半球から、そうでない南半球へ、大気や海流を通じて物質が移動する。その過程で海流や降雨前線の動きも変わっていく。


Phrona:うーん……なんか、一つの変化が連鎖的にいろんなことを引き起こすんですね。


富良野:まさに。しかも、この論文が示してるのは、気候モデルがまだこういう変化をうまく予測できてないってことでもあるんです。


Phrona:モデルが合ってないんですか?


富良野:モデルは元々、半球対称性をちゃんと再現できてなかったんです。観測では対称なのに、モデルでは北が明るすぎたり南が明るすぎたり、バラバラで。そういうモデルを使って未来を予測してるわけだから、どこまで信用できるかは慎重に考えないと。


Phrona:でも、じゃあ私たちは何を頼りに未来を考えればいいんですか?


富良野:難しい質問ですね。少なくとも、今観測されてる変化を真剣に受け止めることかな。アルベド対称性が崩れてるっていう事実は、50年間続いてきた地球のある種の安定状態が終わりつつあるってことかもしれない。


人類が住む半球が暗くなる意味


Phrona:さっき富良野さん、対称性は気候システムの基本的な性質かもしれないって言いましたよね。でも今、それが崩れてる。ということは、基本的な性質じゃなかったってことですか?


富良野:ある研究では、この対称性は過渡的なもの、一時的な現象だって主張してるんですよ。


Phrona:一時的?でも50年も続いてたんでしょう?


富良野:人間の時間スケールだと長く感じるけど、気候システムの時間スケールだと一瞬かもしれない。たまたま20世紀後半から21世紀初頭にかけて、いろんな要因がうまくバランスしてただけで。


Phrona:でも、これって人間にとっては大問題ですよね。


富良野:そうなんです。しかも、世界人口の約90パーセントが北半球に住んでるんですよ。


Phrona:90パーセントも!


富良野:ええ。だから北半球が暗くなる、つまりより多くのエネルギーを吸収して気温が上がるってことは、人類の大多数が住んでる地域の気候が変わるってことなんです。


Phrona:それは……影響が大きすぎますね。


富良野:農業も、都市のインフラも、水資源の管理も、すべて今の気候を前提に設計されてるわけですから。その前提が崩れたら、対応は容易じゃない。


過渡的な安定と不安定の間で


Phrona:工業化でエアロゾルが増えて北半球が明るくなったのと、南半球の雲が多いのがちょうど釣り合ってたとか、そういうことですか?


富良野:まさに。でも今、北半球ではエアロゾルが減って、北極の氷も溶けてる。一方で南半球では火山活動や山火事でエアロゾルが増えてる。だからバランスが崩れてきてるんです。


Phrona:じゃあ、これから地球はどこに向かうんでしょう。新しいバランスが見つかるんですか?それとも、ずっと非対称なまま?


富良野:それが分からないんですよ。気候システムって、複数の安定状態を持ちうるから。今の状態から別の状態に遷移してる最中なのか、それとも単に一時的な揺らぎなのか。


Phrona:私たちは、地球が次の状態を探してる過程を目撃してるってことですか。


富良野:そうかもしれないですね。しかもその過程で、気温の上昇とか降雨パターンの変化とか、いろんな副作用が起きる。


Phrona:ちょっと不安になりますね……人間社会って、気候が安定してることを前提に成り立ってるじゃないですか。農業も、都市の配置も、水資源の管理も。


富良野:ええ。だからこそ、この観測結果は重要なんです。地球のエネルギーバランスが変わってるってことは、気候の安定性そのものが問い直されてるってことだから。


Phrona:でも、だとしたら私たちは何ができるんでしょう。


富良野:少なくとも、変化を注意深く見守ることですかね。衛星観測を続けて、どこがどう変わってるのか把握する。そして気候モデルを改良して、予測の精度を上げる。


Phrona:見守るだけじゃ足りない気がしますけど。


富良野:もちろん、温室効果ガスの排出を減らすとか、根本的な対策も必要ですよ。でも同時に、すでに起きてる変化に適応する準備もしないと。降雨パターンが変わるなら、それに合わせて農業や水資源管理を見直すとか。


Phrona:変化を止めることと、変化に適応すること。両方やらないといけないんですね。


富良野:そういうことです。ただ、今回の発見が示してるのは、私たちが思ってる以上に気候システムは複雑で、予測が難しいってことでもある。


見えない調整の糸


Phrona:なんか不思議ですよね。地球って巨大な物体なのに、こんなに繊細なバランスの上に成り立ってるんだって。


富良野:ほんとにそうですね。しかもそのバランスを保ってるのが、雲とか大気の循環とか、目に見えない仕組みで。


Phrona:でもその見えない糸が、今ほつれ始めてる。


富良野:ええ。しかも厄介なのは、その糸がどう絡まってるのか、まだ完全には分かってないってことです。エアロゾルと雲の相互作用とか、海洋と大気の熱のやり取りとか、複雑すぎて。


Phrona:だから気候モデルもうまく再現できない。


富良野:そうです。でも逆に言うと、今回の観測結果は、その複雑な仕組みを理解する手がかりにもなるんですよ。


Phrona:どういうことですか?


富良野:半球間の非対称性がどう変化してるかを見ることで、エアロゾルと雲の関係とか、氷が溶けることの影響とか、個々の要素がどう働いてるのか分かってくる。それをモデルに組み込んでいけば、予測の精度も上がるはずです。


Phrona:つまり、地球が教えてくれてるんですね。自分がどう動いてるのかを。


富良野:まさに。観測って、地球との対話なんですよ。衛星からデータを集めて、それを解釈して、仮説を立てて、また観測する。その繰り返しで、少しずつ理解が深まっていく。


Phrona:でも富良野さん、もし理解が深まったとして、それで変化を止められるんですか?


富良野:……止められるかどうかは、人間がどう行動するか次第ですね。科学は現実を教えてくれるけど、その現実にどう向き合うかは、結局のところ政治とか経済とか、社会全体の選択だから。


Phrona:じゃあ科学者の役割は、警告を発することですか。


富良野:警告というか、情報を提供することかな。今何が起きてるのか、このまま行くとどうなりそうなのか、できるだけ正確に伝える。あとは社会がその情報をどう使うか。


Phrona:それって、すごく重い責任ですよね。科学者も、社会も。


富良野:重いですね。でも避けられない。だって、地球はもう変わり始めてるんだから。


対称性という名の幻想


Phrona:考えてみると、対称性ってある種の美しさがありますよね。バランスが取れてる、調和してるっていう。


富良野:ええ、だからこそ科学者たちも惹かれたんでしょうね。自然界に潜む秩序みたいなものを感じて。


Phrona:でもそれが幻想だったとしたら?


富良野:幻想というか……人間の時間スケールで見えてた一時的な平衡状態、と言ったほうが正確かもしれない。


Phrona:私たちって、つい安定を当たり前だと思っちゃうんですよね。気候も、社会も。でも実際は、すごく微妙なバランスの上に成り立ってて、そのバランスは永遠じゃない。


富良野:そうですね。しかも気候の場合、そのバランスを崩してるのは私たち自身なんですよ。化石燃料を燃やして、森を切り開いて、大気の組成を変えて。


Phrona:だから余計に複雑なんですね。自然の変化と人為的な変化が入り混じってて、どこからどこまでが自然で、どこからが人間の影響なのか、境界線が引けない。


富良野:引けないです。地球システムと人間社会は、もう完全に絡み合ってるから。人新世って言葉があるくらいで。


Phrona:人新世……人間が地球を変える力を持つようになった時代。でも、その力をコントロールできるかどうかは、まだ分からない。


富良野:分からないですね。今回の論文が教えてくれるのは、少なくとも、私たちが思ってるほど地球は予測可能じゃないってことです。雲が補正してくれるだろう、っていう楽観的な仮説は、現実に裏切られた。


Phrona:じゃあこれから、もっと謙虚にならないといけないんですね。地球のことを、気候のことを。


富良野:そう思います。完全に理解してるつもりになるんじゃなくて、分からないことを分からないと認めて、それでも最善を尽くす。


Phrona:最善って、具体的には何ですか。


富良野:観測を続けること、研究を続けること、そしてその結果を真剣に受け止めて政策に反映させること。当たり前のことばかりですけど、それができてないから今の状況があるわけで。


Phrona:当たり前のことを当たり前にやる。簡単そうで、難しいんですよね。


富良野:でも、やるしかない。地球は待ってくれませんから。



 

ポイント整理


  • 地球のアルベドと明るさ

    • 地球の平均アルベド(反射率)は約0.3で、太陽光の30%を反射し70%を吸収している。参考として金星のアルベドは0.76、月は0.12。雪・氷・雲は太陽光を反射し、海・森・アスファルトは吸収する。1998-2017年の間に地球全体のアルベドは0.5%減少している。

  • 半球間アルベド対称性の崩壊

    • 1960年代以来、地球の北半球と南半球はほぼ同量の太陽光を反射してきたが、24年間の衛星観測で北半球が南半球よりも速く暗化していることが判明。北半球の吸収太陽放射は10年あたり0.34±0.23 Wm⁻²の速さで増加している。地球が吸収する太陽エネルギーの平均値(240-243 Wm⁻²)に比べれば小さく見えるが、統計的に有意な変化である。

  • 三つの主要因

    • 北半球の暗化は主に三つの要因による。第一に北極圏の海氷と積雪の減少で地表アルベドが低下、第二に大気汚染対策によるエアロゾルの減少で反射が減少(21世紀以降の排出規制強化の結果)、第三に大気温暖化に伴う水蒸気増加(気体の水蒸気は氷の粒子と異なり太陽光を吸収する)。これらが複合的に作用している。

  • 南半球のエアロゾル増加

    • 北半球でエアロゾルが減少する一方、南半球では火山活動やオーストラリアでの大規模山火事などの自然現象により、近年エアロゾル量が増加している。この逆方向の変化が半球間の非対称性をさらに拡大させている。

  • 雲の補正仮説の挑戦

    • 従来、雲が半球間の非対称性を自然に補正するという仮説があったが、今回の観測結果はこれに疑問を投げかける。雲の変化も非対称性に寄与しているが、熱帯域と温帯域で逆方向のトレンドがあり、補正効果は小さい。

  • 人口分布と影響の重大性

    • 世界人口の約90%が北半球に居住しており、北半球の暗化は人類の大多数が住む地域の気温上昇を意味する。農業、都市インフラ、水資源管理など、すべて現在の気候を前提に設計されているため、気候変動の影響は深刻である。

  • 気候システムの複雑性

    • 半球間のエネルギーバランスは大気海洋循環と密接に関連しており、この変化は熱帯収束帯の移動や中緯度低気圧活動の変化など、地球規模の気候パターンに影響を及ぼす可能性がある。研究チームは北半球の熱帯地域の降水量が南半球に比べて増加している傾向を確認しているが、観測期間が短いため確実な結論には至っていない。

  • 過渡的な対称性

    • 半球間のアルベド対称性は気候システムの基本的性質ではなく、20世紀後半から21世紀初頭における一時的な平衡状態だった可能性が示唆される。人為的エアロゾル排出の増加と自然の雲分布がたまたまバランスしていただけかもしれない。

  • 気候モデルの課題

    • 現在の気候モデルは半球間アルベド対称性を正確に再現できておらず、将来予測の不確実性が大きい。観測された非対称性の変化は、モデルの改良と予測精度向上のための重要な手がかりとなる。

  • 将来の不確実性

    • 北半球と南半球のエネルギー吸収の差が今後も拡大し続けるのか、それとも長期的には雲の分布変化などで新たな平衡状態に達するのかは不明。ただし後者の場合でも、調整には数十年以上かかる可能性がある。

  • 地域的影響

    • 半球間のエネルギーバランス変化は均一な温暖化ではなく、地域によって異なる影響をもたらす。特に北半球の亜熱帯域と中高緯度での変化が顕著であり、降水パターンや農業、水資源への影響が懸念される。



キーワード解説


CERES(Clouds and the Earth's Radiant Energy System)】

NASAの地球放射エネルギーシステム観測衛星。2000年以降、地球のエネルギー収支を高精度で継続的に観測している。


【アルベド(albedo)】

物体が太陽光を反射する割合。値が大きいほど明るく(反射率が高く)、小さいほど暗い(吸収率が高い)。雪や氷は高アルベド、海洋や森林は低アルベド。


【半球間アルベド対称性(hemispheric albedo symmetry)】

地球の北半球と南半球が年平均でほぼ同量の太陽光を反射する現象。約50年間観測されてきたが、その物理的メカニズムは完全には解明されていない。


【吸収太陽放射(Absorbed Solar Radiation, ASR)】

地球システムが吸収する太陽エネルギーの量。反射されない分の太陽放射が地球の温暖化に寄与する。


【外向き長波放射(Outgoing Longwave Radiation, OLR)】

地球が宇宙空間に放出する赤外線(熱放射)。温室効果ガスが増えるとOLRが減少し、地球システムにエネルギーが蓄積される。


【エアロゾル(aerosol)】

大気中に浮遊する微粒子。工業活動や車の排気ガスから発生する人為的エアロゾルは太陽光を反射し、地球を冷却する効果を持つ。大気汚染対策で減少すると温暖化が加速する可能性がある。


【地表アルベド(surface albedo)】

地表面が太陽光を反射する割合。海氷や積雪の減少により地表アルベドが低下すると、より多くの太陽エネルギーが吸収され温暖化が加速する正のフィードバックが働く。


【部分放射摂動解析(Partial Radiative Perturbation, PRP)】

観測された放射変化を、雲、エアロゾル、水蒸気、地表アルベドなど個々の要因に分解する解析手法。どの要因がどの程度寄与しているかを定量的に評価できる。


【熱帯収束帯(Intertropical Convergence Zone, ITCZ)】

赤道付近で北半球と南半球の貿易風が収束する帯状の領域。活発な対流活動により大量の降雨をもたらす。半球間のエネルギーバランスが変わるとITCZの位置が移動し、降雨パターンに大きな影響を与える。


【傾圧不安定(baroclinic instability)】

大気中の温度差により生じる不安定性で、中緯度の低気圧や前線の形成に関わる。傾圧活動が強いと雲が多く形成され、アルベドが増加する。


【人新世(Anthropocene)】

人間活動が地球システムに大きな影響を与えるようになった地質年代の提案名称。気候変動、生物多様性の喪失、物質循環の改変など、人類が地球規模の変化の主要な駆動力となっている時代を指す。



本稿は近日中にnoteにも掲載予定です。
ご関心を持っていただけましたら、note上でご感想などお聞かせいただけると幸いです。
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