暗号資産の税制が激変する──国際課税フレームワークと日本の分離課税化、二つの潮流を読む
- Seo Seungchul

- 2月10日
- 読了時間: 10分

シリーズ: 知新察来
◆今回のピックアップ記事:
大津賀新也, "暗号資産が「申告分離課税」へ、但し「特定銘柄」に限るなど条件付き=税制改正大綱" (あたらしい経済, 2025年12月19日)
概要:令和8年度税制改正大綱において、暗号資産の分離課税化が明記された。現物取引、デリバティブ取引、ETFから生じる所得が対象となるが、「特定暗号資産」に限定される条件付き。金融商品取引法改正を前提に、税率は一律20%となる見込み。
Ciaran Lyons, "Crypto tax data to be collected in 48 countries ahead of CARF 2027" (Cointelegraph, 2026年1月1日)
概要:OECDが策定した暗号資産報告フレームワーク(CARF)が2027年の情報交換開始に向けて動き出し、2025年1月1日から48カ国・地域の暗号資産サービス提供者が取引データの収集を開始。
2025年、暗号資産をめぐる税制が大きく動いています。国際的には、48カ国で取引データの収集が始まり、2027年から各国間で情報共有が始まる「CARF」という枠組みが本格始動しました。一方、日本国内では令和8年度の税制改正大綱で、ついに暗号資産への「申告分離課税」導入が明記されました。最大55%だった税率が、条件付きとはいえ20%に下がる可能性が見えてきたのです。
この二つの動きは、一見別々のニュースに見えます。しかし、よく見ると「暗号資産を既存の金融システムに組み込んでいく」という大きな流れの表と裏のような関係にあります。税率が下がるという「アメ」と、取引が国際的に把握されるという「ムチ」。暗号資産は「普通の金融資産」になろうとしているのかもしれません。
富良野とPhronaが、この歴史的な転換点を、制度設計と人間の視点から読み解いていきます。
日本の税制改正、ついに動く
富良野: 年末に出た税制改正大綱、見ました? 暗号資産のところ。
Phrona: ええ、ついに分離課税化が明記されましたね。これまでずっと「検討する」止まりだったのが、具体的な内容が出てきた。
富良野: そうなんです。現状、暗号資産の売買益って「雑所得」として総合課税されていて、他の収入と合算されるから、高所得者だと最大55%も取られてしまう。それが申告分離課税になれば、一律20%になる。
Phrona: 株式や投資信託と同じ扱いになるわけですね。
富良野: ただ、今回の大綱を読むと、けっこう条件がついている。まず「特定暗号資産」に限るという話がある。
Phrona: 特定暗号資産? どういう意味なんですか?
富良野: 金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産、と書いてあるんですね。つまり、どんな暗号資産でもいいわけじゃなくて、一定の審査を通った銘柄だけが対象になる。
Phrona: ビットコインやイーサリアムは入るとして、いわゆるマイナーなアルトコインとかはどうなるのか、まだ分からない。
富良野: そこは今後の詳細待ちですね。あと、金融商品取引法の改正が前提になっているので、法改正が通って施行された翌年の1月1日から適用、という流れになる。
損失繰越という「救済措置」
Phrona: 私が気になったのは、損失の繰越控除が認められるようになるという点です。
富良野: ああ、そこは大きいですね。株式と同じように、損失を3年間繰り越して、翌年以降の利益から差し引ける。これまで暗号資産は、どれだけ損しても翌年には持ち越せなかった。
Phrona: 2022年のような大暴落の年に大きな損失を出した人にとっては、かなり違いますよね。
富良野: そうなんです。暗号資産市場はボラティリティが高いから、ある年に大きな利益が出て、翌年に大きな損失が出る、みたいなことが起きやすい。繰越控除ができないと、トータルでは損しているのに税金だけは払う、という不合理な状況が生まれていた。
Phrona: ETFも対象になるんですか?
富良野: 投信法施行令の改正を前提に、「特定暗号資産を投資対象とする投資信託受益権」を一般株式等の枠に含める、と書いてある。つまり、暗号資産ETFが日本でも組成できるようになったら、それも分離課税の対象になる方向。
Phrona: アメリカでビットコインETFが承認されて話題になりましたけど、日本でも同じような動きが出てくる可能性がある。
富良野: そうですね。金融庁は去年、正式に「暗号資産の分離課税」と「ETF組成の検討」を税制改正要望として出していたので、その流れがようやく形になってきた。
「特定」と「それ以外」の分断
Phrona: ただ、ちょっと気になるのが、特定暗号資産の「対象外」になる暗号資産の扱いです。
富良野: そこは大綱にも明記されていて、特定暗号資産以外は従来通り総合課税のまま。しかも、特別控除も5年超保有の2分の1課税も損益通算も対象外、と書いてある。
Phrona: つまり、分離課税の恩恵を受けられる銘柄と、受けられない銘柄で、はっきり線引きされる。
富良野: そうなんです。これをどう見るかですよね。投資家保護の観点からすれば、一定の基準を満たした「まともな」暗号資産だけを優遇するのは合理的とも言える。でも、暗号資産の世界って、新しいプロジェクトがどんどん出てきて、その中から大きく成長するものが生まれる。最初から「特定」に入れないものは、税制上不利な状態のままになる。
Phrona: イノベーションの芽を摘んでしまう可能性もある、と。
富良野: まあ、草コインで一発当てて税金を回避したい、みたいな動機を制限する効果はあるでしょうけどね。
もう一つの潮流──CARFという国際的な網
Phrona: 日本国内の税制改革と並行して、国際的にも大きな動きがありますよね。CARFの話。
富良野: そう、こっちも見逃せない。2025年1月1日から、48カ国で暗号資産サービス提供者が取引データの収集を始めている。2027年からは、そのデータが各国の税務当局間で共有される。
Phrona: OECDが作った枠組みですよね。
富良野: ええ。CARFは「暗号資産報告フレームワーク」の略で、もともとG20の財務相たちが暗号資産を使った租税回避やマネーロンダリングへの対策を求めていた流れから生まれた。
Phrona: 日本国内で税率が下がる一方で、海外での取引も把握されるようになる。
富良野: そこがポイントなんですよ。これまで「海外の取引所を使えば日本の税務当局にはバレない」と考えていた人もいたかもしれない。でもCARFが動き出すと、その前提が崩れる。
Phrona: 税率は下がるけど、逃げ道は塞がれる、という構図ですね。
富良野: そう言ってもいいかもしれません。国際的な透明性の向上と、国内での税制優遇はセットで進んでいる。
「普通の金融資産」になるということ
Phrona: こうして見ると、暗号資産が「普通の金融資産」として扱われる時代が本格的に来ている感じがします。
富良野: まさにそうですね。株式や投資信託と同じ税率、同じ損益通算のルール、そして国際的な情報共有の対象。これは暗号資産が「成熟した」とも言えるし、「飼いならされた」とも言える。
Phrona: 暗号資産のもともとの理念──国家や銀行に頼らない、自己主権的なお金──という観点からすると、複雑な気持ちになる人もいるでしょうね。
富良野: そうでしょうね。ただ、現実問題として、暗号資産で大きな利益を出している人にとっては、55%と20%の差は無視できない。分離課税化を歓迎する声は多いと思います。
Phrona: 制度が整備されることで、機関投資家や企業が参入しやすくなる面もありますよね。
富良野: それは間違いなくある。税制の不確実性が高いと、企業としては手を出しにくい。ルールが明確になることで、市場全体が成熟していく効果は期待できる。
対象から外れる人たち
Phrona: 一方で、特定暗号資産の枠に入らない銘柄を持っている人、あるいは海外の規制されていない取引所を使っている人は、どうなるんでしょう。
富良野: そこは正直、これから明らかになっていく部分が多いですね。CARFの対象になる事業者も、中央集権型の取引所が中心で、完全に分散化されたプロトコルにどう対応するかはまだグレーな部分がある。
Phrona: DeFi──分散型金融と呼ばれる領域は、そもそも「事業者」が特定しにくいですものね。
富良野: そうなんです。だから今回の動きも、「まずは中央集権的なサービスから押さえていく」という現実的なアプローチなんだと思います。完璧な監視網というよりは、段階的に透明性を高めていく。
Phrona: 制度が追いつこうとしているけど、技術の進化との追いかけっこは続く。
富良野: そこは今後も変わらないでしょうね。規制と技術のいたちごっこは、この分野の宿命みたいなものかもしれない。
何が変わり、何が問われているのか
Phrona: 2025年から2027年にかけて、暗号資産をめぐる風景がかなり変わりそうですね。
富良野: そうですね。日本では分離課税化で税負担が軽減される一方、国際的にはCARFで取引の透明性が高まる。この二つの動きは、同じ方向──暗号資産を既存の金融システムに統合していく──を向いている。
Phrona: それを「正常化」と見るか、「包摂」と見るか、あるいは「取り込み」と見るか。立場によって評価は分かれそうです。
富良野: 僕は、これは避けられない流れだとは思うんです。暗号資産がニッチな実験から、何百兆円という規模の市場になった以上、税制や規制の対象になるのは当然といえば当然。
Phrona: ただ、そうやって「普通」になっていく中で、失われるものもあるのかもしれない。
富良野: それはあるかもしれませんね。匿名性とか、国境を越えた自由とか、最初にこの技術に惹かれた人たちが大切にしていた価値。
Phrona: でも同時に、税制が整備されることで、これまで手を出せなかった人が参入しやすくなる面もある。
富良野: そうなんです。だからこれは、何かが一方的に失われるという話じゃなくて、トレードオフなんですよね。
Phrona: 何を得て、何を手放すのか。その選択を、社会として──あるいは個人として──どう引き受けていくか。考えていかないと。
ポイント整理
日本の税制改正大綱(令和8年度)で、暗号資産の申告分離課税化が明記された。 現行の総合課税(最大55%)から、条件を満たせば一律20%(所得税15%+住民税5%)となる。
分離課税の対象は「特定暗号資産」に限定される。 金融商品取引業者登録簿に登録された暗号資産のみが対象で、どの銘柄が該当するかは今後の詳細待ち。
現物取引、デリバティブ取引、ETFが対象。 投信法施行令改正を前提に、暗号資産ETFも分離課税の枠に入る方向性が示された。
損失の3年間繰越控除が認められる。 これまで暗号資産の損失は繰り越せなかったが、株式等と同様の扱いになる。
特定暗号資産以外は従来通り総合課税。 特別控除、5年超保有の2分の1課税、損益通算の対象外となり、明確に区別される。
金融商品取引法の改正が前提。 法改正施行の翌年1月1日から適用される見込み。
国際的にはCARF(暗号資産報告フレームワーク)が始動。 2025年1月から48カ国でデータ収集開始、2027年から情報交換が始まる。
CARFにより、海外取引所での取引も把握される可能性。 国際的な税務情報の自動交換により、クロスボーダーの租税回避が困難になる。
国内の税制優遇と国際的な透明性向上はセット。 暗号資産を既存の金融システムに統合する大きな流れの両面として理解できる。
キーワード解説
【申告分離課税】
他の所得と分離して、特定の税率で課税する方式。株式や投資信託の譲渡益などに適用され、税率は一律20%(所得税15%+住民税5%)
【総合課税】
給与所得や事業所得など、すべての所得を合算して累進税率を適用する課税方式。最高税率は55%(所得税45%+住民税10%)
【特定暗号資産】
税制改正大綱で使われた用語。金融商品取引業者登録簿に登録された暗号資産を指し、分離課税の対象となる
【繰越控除】
ある年の損失を翌年以降の利益から差し引ける制度。今回の改正で暗号資産にも3年間の繰越が認められる方向
【CARF(暗号資産報告フレームワーク)】
OECDが策定した、暗号資産取引情報の国際的な自動交換制度
【金融商品取引法】
有価証券の取引や金融商品取引業者を規制する法律。暗号資産の分離課税化には同法の改正が前提となる
【税制改正大綱】
与党の税制調査会が翌年度以降の税制措置をまとめた文書。法案化の前段階の方針表明
【デリバティブ取引】
先物やオプションなど、原資産から派生した金融商品の取引
【暗号資産ETF】
暗号資産を投資対象とする上場投資信託。米国では2024年にビットコインETFが承認された