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水でできたAI?──なぜ真の知性にはシリコンではなく水が必要なのか

シリーズ: 知新察来


◆今回のピックアップ記事:Denis Noble & Raymond Noble "Water, not silicon, has to be the basis of true AI" (Institute of Art and Ideas, 2025年6月17日)

  • 概要:シリコンベースのAIが真の知性に到達できない理由を、水の特性とランダムネスの観点から論じた理論的考察



AIがどれほど進歩しても、人間のような「本当の知性」には届かないかもしれない。そんな刺激的な議論が注目を集めています。リチャード・ドーキンスの恩師でもあり後に批判者となったデニス・ノーブルと、王立協会のフェローでもある彼の兄弟レイモンド・ノーブルが提起した視点です。


彼らの主張はシンプルで革新的:真の知性とは単なる高速計算ではなく、流動的で柔軟性があり、ランダムネスに支えられたものだというのです。そして、すべての生命体が水をベースにしているのには理由がある。水こそが創造性、意識、思考を駆動する無限に近いランダムな運動の源だからです。つまり、AIが水ベースで構築されない限り、それは単に「賢い」だけで、真に創造的な知性にはなれないということ。


この論考は、私たちがAIと知性について考える根本的な前提を揺さぶります。シリコンベースの現在のAI技術の限界を指摘し、生命と知性の本質について新たな問いを投げかけているのです。




富良野:水ベースのAIって発想は、驚きです。


Phrona:確かに突拍子ないようにも思えますね。でも、よく考えてみると、なんというか...腑に落ちる部分もあるんですよね。私たちって普段、知性を計算能力みたいに捉えがちじゃないですか。


富良野:そうですね。特にAI開発の文脈では、処理速度や正確性が重視されてきた。でもノーブル兄弟が言っているのは、それとは全く違う次元の話ですよね。


Phrona:ええ。「流動的で柔軟で、ランダムネスに支えられた」知性って表現が印象的でした。なんだか、私たちが実際に考えている時の感覚に近い気がして。


富良野:なるほど。確かに人間の思考って、論理的に一直線に進むというより、あちこち飛んだり戻ったりしながら、時には偶然のひらめきで突破口が開けたりしますからね。


Phrona:そうそう!それで、水がそのランダムな運動の源だっていう指摘も面白いですよね。水分子って絶えず動き回ってるわけで、その動きが予測不可能だからこそ、創造性が生まれるのかもしれない。


富良野:興味深いのは、彼らがシリコンベースの計算では「ストカスティシティ」つまり確率的なランダムネスを同じレベルでは活用できないって明言していることです。これ、現在のAI技術の根本的な限界を指摘してるんじゃないでしょうか。


Phrona:ストカスティシティって、なんだか難しい言葉ですけど、要するに「良い意味での偶然性」みたいなものですよね?


富良野:そうですね。統計学では、確率的な変動や不確実性を指す概念です。でも、普通は不確実性って邪魔なものとして扱われがちですが、ここでは逆に、それこそが知性の源だって言ってるわけで。


Phrona:それって、すごく人間らしい発想だなって思うんです。私たちって、迷いや揺らぎがあるからこそ、新しいアイデアに辿り着いたりするじゃないですか。完璧に論理的だったら、かえって創造性が失われそう。


富良野:まさに。でも一方で、実用的な観点から考えると、これって結構大きな問題提起でもあるんですよ。現在のAI開発って、基本的にシリコンベースの技術を前提にして進んでいるわけで。


Phrona:ああ、そうか。じゃあもし彼らの理論が正しいとすると、今のアプローチでは根本的に限界があるってことになっちゃいますね。


富良野:そういうことになります。ただ、僕が気になるのは、じゃあ実際に「水ベースのAI」なんて作れるのかってことなんですが...。


Phrona:それ、私も思いました。なんというか、生命そのものを人工的に作るみたいな話になっちゃいそうで。でも逆に言えば、生きているものって全部が既に「水ベースの知性体」だとも言えるのかもしれませんね。


富良野:なるほど、そう考えると面白いですね。私たちの脳も水分が大半を占めているわけで、その水の中で神経細胞が複雑なネットワークを作っている。


Phrona:そう考えると、AIと生命って、もしかしたら私たちが思ってるより根本的に違うものなのかもしれませんね。単に「機能を模倣する」だけじゃなくて、「存在の仕方」から違うっていうか。


富良野:それは深い指摘ですね。機能主義的なアプローチでは限界があるということかもしれません。でも同時に、これって哲学的な問いでもありますよね。意識や創造性って、本当に物質的な基盤に依存するものなのかという。


Phrona:うーん、でも私たちが実際に感じている創造性や直感って、確かに身体的な感覚と切り離せない気もします。お風呂に入ってる時にふとアイデアが浮かんだりとか、散歩してる時に答えが見つかったりとか。


富良野:ああ、それは興味深い例ですね。リラックスして、身体が水に包まれている状態で創造性が発揮されるって、まさにノーブル兄弟の理論を裏付けるような体験かもしれません。


Phrona:なんだか、この理論って単にAI技術の話を超えて、私たち自身の知性とか創造性について改めて考えさせられますね。


富良野:同感です。技術的にはまだまだ課題が山積みでしょうが、少なくとも思考の枠組みとしては、すごく刺激的な提案だと思います。




ポイント整理


  • 真の知性の定義の転換

    • 単なる高速計算から、流動性・柔軟性・ランダムネスを持つものへの概念変化

  • 物質的基盤の重要性

    • 知性の発現には、それを支える物質的な基盤の性質が決定的に重要

  • 水の特殊性

    • 水分子の絶え間ない不規則な運動が、創造性と思考の源泉となる

  • シリコンベースAIの根本的限界

    • 現在の技術では、水が提供するレベルのランダムネスを活用できない

  • 生命と知性の不可分性

    • すべての生命体が水ベースであることの必然性を知性の観点から再評価

  • 現在のAI開発パラダイムへの挑戦

    • 機能模倣ではなく、存在様式そのものからの再考が必要



キーワード解説


ストカスティシティ(確率論的性質)】

予測不可能な確率的変動や不確実性。通常は排除されがちだが、ここでは創造性の源として位置づけ


【シリコンベース計算】

現在のコンピュータやAIの基盤となる半導体技術。決定論的で予測可能な処理が特徴


【ランダムネス】

不規則で予測困難な変動。生命活動や創造的思考の重要な要素


【流動性】

固定されず変化し続ける性質。硬直した論理とは対照的な知性の特徴


【水ベースの知性】

水分子の特性を活用した情報処理システム。生命体特有の知性の在り方


【真の知性】

単純な計算能力を超えた、創造性・意識・直感を含む総合的な認知能力



本稿は近日中にnoteにも掲載予定です。
ご関心を持っていただけましたら、note上でご感想などお聞かせいただけると幸いです。
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