火山の「ささやき」を木々が教えてくれる話 ──人工衛星で見る、木の葉っぱに隠された危険予知の可能性
- Seo Seungchul

- 8月31日
- 読了時間: 7分
更新日:9月2日

シリーズ: 知新察来
◆今回のピックアップ記事:James Riordon "Volcanoes Send Secret Signals Through Trees And NASA Satellites Can See Them" (SciTechDaily, 2025年5月20日)
火山が噴火する前に木々が緑豊かになるって知っていましたか?まるで自然界の早期警戒システムのように、木の葉が火山の活動を教えてくれているのです。
NASAとスミソニアン研究所の共同研究により、火山から放出される二酸化炭素が周辺の植物をより青々と成長させることが衛星画像で確認できるようになりました。世界人口の約10%が火山の危険にさらされている現在、この発見は数千人の命を救う可能性を秘めています。
富良野とPhronaの二人が、この興味深い研究について語り合います。自然が持つ予知能力と最新技術の融合、そして私たちが見過ごしがちな「木々のメッセージ」について、一緒に考えてみませんか?噴火という破壊的な現象の裏に隠された、意外にも美しい自然のコミュニケーションシステムが見えてくるかもしれません。
木の緑が教える火山の「前兆」
富良野: 火山が噴火する前に木々が緑豊かになるという現象、面白いですよね。マグマが上昇する際に放出される二酸化炭素を木が吸収して、結果的に葉っぱが青々としてくるという。
Phrona: それって、なんだか木々が火山の気持ちを代弁しているみたいですね。火山が活発になると、木たちがざわめき始める。人間には聞こえない会話が、森の中で交わされているような。
富良野: そうですね。しかも、今まで科学者たちは地震波や地面の隆起といった物理的な変化に注目していたけれど、生物の反応という全く違う角度からアプローチしている点が新鮮です。
Phrona: でも考えてみると、植物って環境の変化にとても敏感ですよね。私たちが気づかないような微細な変化にも反応する。ある意味、森全体が巨大なセンサーネットワークになっているのかもしれません。
富良野: まさにその通りで、記事によると世界の約10%の人口が火山の危険地域に住んでいるとあります。日本も火山国ですから、こうした早期警戒システムの改良は切実な問題ですね。
Phrona: 日本の場合、火山と共に暮らしてきた歴史が長いから、もしかしたら昔の人たちは経験的にこういう植物の変化を感じ取っていたのかもしれませんね。科学技術が、伝統的な知恵を裏付けているという側面もありそうです。
見えない危険信号をどう捉えるか
富良野: ただ、技術的にはなかなか難しい課題もあるみたいですね。二酸化炭素自体は大気中にもともと大量に存在するから、火山由来のものだけを検出するのは困難だと。
Phrona: そこが興味深いところで、直接測定できないから生物の反応を「代理指標」として使うという発想なんですよね。木々が火山の通訳をしてくれているような感じ。
富良野: 研究者たちは実際に火山の周辺に行って、木の葉のサンプルを採取したり、二酸化炭素濃度を測定したりしているそうです。コスタリカのリンコン・デ・ラ・ビエハ火山での調査では、なんとパチンコを使って高い木の枝に二酸化炭素センサーを設置したとか。
Phrona: パチンコですか!なんだかユーモラスですけど、でもそういう工夫って研究の現場らしくて好きです。最先端の科学研究と原始的な道具の組み合わせが面白い。
富良野: でも同時に、世界には約1,350の活火山があって、その多くが人里離れた山岳地帯にあるという現実もある。全部を人力で監視するのは物理的に不可能ですよね。
Phrona: だからこそ人工衛星の出番なんでしょうね。宇宙から森を見守って、木々の小さな変化を捉える。なんだかとてもロマンチックな科学技術だと思いませんか?
自然のネットワークと技術の融合
富良野: この研究で特に印象的だったのは、2017年にフィリピンのマヨン火山で実際に避難警報が出て、5万6千人以上が安全に避難できたという事例です。早期警戒システムが命を救った具体例ですから。
Phrona: それは本当に素晴らしいことですね。でも同時に考えさせられるのは、こうした技術の恩恵を受けられる地域とそうでない地域があるということです。監視システムを設置・維持できる経済力や技術力の格差が、災害リスクの格差にもつながってしまう。
富良野: 確かにそれは重要な指摘ですね。記事では、衛星を使った監視システムの利点として、より多くの火山をより早期に監視できることが挙げられています。理想的には、経済力に関係なく世界中の火山地域が同等の保護を受けられるようになるべきでしょう。
Phrona: 一方で、この技術には限界もありますよね。気候によっては十分な森林がない火山もあるし、火災や病気、天候の変化で植物の反応が複雑になることもある。
富良野: そうですね。研究者も認めているように、これは「銀の弾丸」ではないと。でも、従来の地震計や地面変動の観測と組み合わせることで、より確実な予警システムを構築できる可能性がある。
Phrona: 複数の「声」に耳を傾けるということですね。地面の震え、地表の変化、そして木々のささやき。火山という巨大な存在が発する様々なメッセージを、私たちが総合的に理解しようとしている。
未来への問いかけ
富良野: 記事の最後で研究者のフィッシャーさんが言っていることも興味深いです。火山の二酸化炭素に対する木々の反応を調べることで、将来地球全体の木々が高濃度の二酸化炭素にさらされたときの様子も予測できるかもしれないと。
Phrona: ああ、気候変動の文脈ですね。火山研究が同時に地球温暖化の研究にもなっている。一つの現象を多角的に見ることで、複数の問題に対する洞察が得られる。
富良野: この研究の面白さは、火山学と生態学という異なる分野の研究者が協力していることにもありますね。従来の専門分野の枠を超えた学際的なアプローチが、新しい発見を生んでいる。
Phrona: そうですね。そして何より、私たちがつい見過ごしてしまう自然界の微細な変化に、実は重要な意味が隠されているということを教えてくれます。木の葉が少し緑になっただけで、それが命に関わる情報だったりする。
富良野: 自然と技術の関係についても考えさせられますね。人工衛星という最先端技術と、木々という最も身近な自然が協力して、人間の安全を守ろうとしている。
Phrona: 災害予知って、どうしても「いつ起こるか分からない恐怖」という側面が強調されがちですけど、この研究は自然界の協力的な側面を浮き彫りにしてくれますね。森が私たちを守ろうとしてくれているような。
富良野: まあ、もちろん木々が意識的に警告してくれているわけではないでしょうけど(笑)、結果的にそうなっているのは確かですね。自然のシステムの複雑さと美しさを感じます。
ポイント整理
火山活動の新しい早期警戒方法
マグマの上昇で放出される二酸化炭素により、周辺の植物がより緑豊かになる現象を人工衛星で監視
従来手法の限界を補完
地震波や地面変動に加えて、生物反応という新しい指標を活用することで、より確実な予知システムを構築
実用化の成功事例
2017年フィリピンのマヨン火山では、改良された監視システムにより56,000人以上が安全に避難
技術的課題の存在
二酸化炭素の直接検出の困難さ、気候や環境要因による植物反応の複雑さなど解決すべき問題も
学際的研究の価値
火山学と生態学の協力により、従来の専門分野の枠を超えた新発見が実現
グローバルな適用可能性
世界約1,350の活火山に対して、人工衛星による広域監視で早期警戒の地域格差解消に貢献
気候変動研究への応用
火山性二酸化炭素に対する植物反応の研究が、将来の高CO2環境下での生態系変化予測にも活用可能
キーワード解説
【代理指標(プロキシ)】
直接測定が困難な現象を、関連する別の現象で間接的に把握する手法
【Landsat 8】
NASA の地球観測衛星。地表の詳細な画像を継続的に撮影
【AVUELO】
航空機を使った地上検証実験プログラム
【スペクトロメーター】
物質が反射・放射する光の波長を分析する装置
【早期警戒システム】
災害発生前の兆候を検出し、避難などの対策を可能にする監視体制
【学際的研究】
複数の専門分野が協力して取り組む研究アプローチ
【リモートセンシング】
人工衛星や航空機を使った遠隔地の観測技術