top of page

瞑想の静寂と社会変動の騒乱──内なる平和と社会変動の交差点

更新日:9月14日

ree

シリーズ: 知新察来


◆今回のピックアップ記事:Alisha Sijapati "Vipassana during a revolution" (Nepal Times, 2025年9月13日)

  • 概要:ネパールでヴィパッサナー瞑想のリトリート中に社会変革が勃発した体験を通じて、個人の内面の平和と社会変動の関係性について考察した体験記



10日間の沈黙の瞑想修行中に、外の世界では大きな社会変動が起きていた。そんな劇的な体験を通じて見えてくるのは、個人の内面の変化と社会の変革の間にある、思いがけない深いつながりです。


ネパールの瞑想センターで起こったこの出来事は、私たちに大切な問いを投げかけます。真の変化はどこから始まるのでしょうか。街頭での抗議活動から?それとも一人ひとりの心の奥底から?


この記事では、ヴィパッサナー瞑想という古代の修行法と現代の政治的混乱という、一見対立する二つの現実を体験した筆者の証言を通じて、変化の本質について考えていきます。静寂の中で培われる洞察と、騒乱の中で求められる智慧。そこに見えてくるのは、個人と社会が共に歩むべき治癒への道筋です。




静寂の中の気づき


富良野:10日間の瞑想中に社会が大きく動いていたなんて、この記事を読んでて身震いしました。


Phrona:本当に。筆者が瞑想センターの窓から黒い煙を見て、最初はゴミを燃やしてるって思ったっていうくだりが印象的でした。実際は建物が燃えてたのに。


富良野:筆者がやっていたのって、10日間完全に沈黙を保つ修行なんですよね。外界との接触を断って、ひたすら内観する。そんな状態で外では政権が倒れて、建物が燃えて、人が亡くなってる。


Phrona:すごい対比ですよね。内側では静寂と平安を求めてるのに、外側では激しい怒りと混乱が渦巻いてる。でも、だからこそ見えてくるものがあったんじゃないかしら。


富良野:筆者が言ってるアニッチャ、つまり無常の教えですね。すべては変化するっていう仏教の根本的な洞察。政治システムも権力構造も、すべて移ろいゆくものだと。


Phrona:無常って言葉、日本語でもよく聞くけど、こういう文脈で考えると深いですね。変化すること自体が自然の摂理で、それに執着するから苦しみが生まれるという考え方。


富良野:でも興味深いのは、筆者がこの体験を通じて、個人の変化と社会の変化を結びつけて考えてることです。真の変革は外からではなく、内から始まらなければならないって。


怒りの根源と癒しの可能性


Phrona:アングリマーラの話も出てきましたね。殺人を繰り返していた凶悪犯が、お釈迦様に出会って心を入れ替えたっていう。


富良野:ああ、お釈迦様が「私は止まった。あなたも止まりなさい」って言った話ですね。これ、すごく象徴的だと思うんです。暴力の連鎖を止めるには、誰かが先に止まらなければならない。


Phrona:筆者が体験した社会の変動も、きっと長い怒りの蓄積の結果だったんでしょうね。政治腐敗への怒り、社会への不満、そして何世代にもわたるトラウマ。


富良野:記事にも書いてありますが、ネパールの人々には「世代を超えたトラウマ」があるって。2001年の王室虐殺事件や、過去の政治的混乱の記憶が積み重なってる。


Phrona:トラウマって、個人の中にも社会の中にも宿るものなんですね。そして、それが癒されないまま時間が経つと、ある日突然爆発してしまう。


富良野:だからこそ、筆者は言ってるんでしょうね。真の治癒は個人から始まらなければならないって。外に向けてばかり怒りをぶつけていても、根本的な解決にはならない。


Phrona:でも、これって結構難しい問題だと思うんです。社会に不正があるのに、「まず自分の心を整えなさい」って言うのは、ある意味で現状維持を肯定してしまうリスクもある。


富良野:なるほど、鋭い指摘ですね。確かに、内面の平和だけを追求して社会問題を見て見ぬふりするのは、それはそれで問題かもしれません。


変化の真の源泉


Phrona:でも筆者は、どちらか一方だけが正しいって言ってるわけじゃないと思うんです。内面の変化と外面の変化、両方が必要だけど、そのバランスが大切だって。


富良野:そうですね。記事の最後で、新しい女性首相が「救世主」として現れたけれど、それでも私たち一人ひとりが責任を持たなければならないって書いてある。


Phrona:ヴィパッサナー瞑想って、単なるリラクゼーションじゃなくて、現実をありのままに見る訓練なんですよね。自分の心の動きを観察することで、反応的に生きることから離れていく。


富良野:つまり、怒りや恐怖に支配されるんじゃなくて、それらの感情を客観視できるようになる。そうすると、建設的な行動が取れるようになるってことかな。


Phrona:筆者が瞑想センターから街を見下ろしながら感じたメッタ、慈愛の気持ちも印象的でした。みんながエゴや些細なことにとらわれて苦しんでるように見えたけど、だからこそ慈悲の心が湧いてきたって。


富良野:革命の現場を目の当たりにした後でも、その視点を保てたのがすごいですよね。怒りや絶望に飲み込まれるんじゃなくて、より深い理解に到達してる。


Phrona:でも、これって簡単なことじゃないと思うんです。現実に不正や暴力がある時に、平静を保つのは。ある意味で、とても勇気のいることかもしれません。


実践的な智慧への道


富良野:筆者が面白いことを言ってますね。ダンマ、つまり仏教の教えを「瞑想センター用の哲学」ではなく、「実践的な智慧の生の真実」として捉えるべきだって。


Phrona:ああ、それいいですね。宗教や哲学って、どうしても日常生活とは別の領域のものって思われがちだけど、実際は現実の問題に対処するための道具なんだっていう視点。


富良野:記事を読んでると、筆者にとってヴィパッサナーは逃避の手段じゃなくて、現実により深く関わるための準備だったんだなって感じます。内面の静寂があるからこそ、外の混乱にも冷静に対処できる。


Phrona:そして最終的に、変化は意識的な選択なんだって言ってますよね。混乱から生まれるんじゃなくて、一番困難な時にこそ、意識的に努力しなければならないって。


富良野:「いつまで逃げ続けるのか、いつ癒しを始めるのか」っていう最後の問いかけが印象的でした。これは個人にも社会にも向けられた問いですね。


Phrona:結局、外の世界の変化も内の世界の変化も、どちらも「止まる」ことから始まるのかもしれません。怒りの連鎖を止める、反応的な行動を止める、そして意識的に選択し直す。


富良野:筆者の体験は極端な例かもしれませんが、私たちの日常にも通じるものがありますね。ニュースを見て憤ったり、政治に絶望したりする時に、どう対処するか。


Phrona:そうですね。感情に飲み込まれずに、でも無関心にもならずに、現実と向き合い続ける。それがきっと、真の変化への第一歩なんでしょうね。




ポイント整理


  • 個人の内面と社会変革の関係性

    • 筆者の体験は、個人の精神的な修練と社会の政治的変革が表裏一体の関係にあることを示している。10日間の瞑想修行中に革命が起こったという状況は、静寂と混乱、内面と外面、個人と集団という対比を鮮明に浮き彫りにした。真の変化は外部からの圧力だけでは実現せず、個人の意識の変革から始まる必要があることが示唆されている。

  • 無常の教えと現実受容

    • 仏教の根本概念であるアニッチャ(無常)の教えが、政治的混乱を理解する鍵として機能している。政治システムや権力構造も含め、すべては変化し続ける性質を持つため、特定の状態に執着することが苦しみの原因となる。この理解により、変化に対してより柔軟で建設的な態度を取ることができるようになる。

  • 世代を超えたトラウマの蓄積

    • ネパール社会が抱える構造的な問題として、何世代にもわたって蓄積されたトラウマが挙げられている。2001年の王室虐殺事件や過去の政治的混乱の記憶が、個人と社会の両レベルで未処理のまま残っている。これらのトラウマが適切に癒されない限り、怒りと暴力の連鎖は続いてしまう。

  • ヴィパッサナー瞑想の実践的価値

    • ヴィパッサナー瞑想は単なる精神的な修練ではなく、現実の問題に対処するための実践的な道具として位置づけられている。内観によって自分の心の動きを客観視する能力を養うことで、感情的な反応に支配されず、より冷静で建設的な判断ができるようになる。これは個人の成長だけでなく、社会全体の健全性にも貢献する。

  • 慈愛と責任の両立

    • メッタ(慈愛)の実践は、現実逃避ではなく、より深い現実理解に基づく積極的な関わりを可能にする。他者への慈悲の心を持ちながらも、同時に個人と社会の両レベルで責任を果たすことが重要である。この両立により、建設的な社会変革への道筋が開かれる。

  • 意識的な選択としての変化

    • 真の変化は混乱や破壊から自動的に生まれるものではなく、意識的な選択と努力によってもたらされる。最も困難な状況においてこそ、反応的な行動パターンを停止し、より賢明な選択をする勇気が求められる。これは個人レベルでも社会レベルでも同様に適用される原則である。



キーワード解説


【ヴィパッサナー瞑想(Vipassana)】

現実をありのままに観察する仏教瞑想法


【アニッチャ(Anicca)】

仏教の無常の教え。すべては変化し続けるという根本的な法則


【メッタ(Metta)】

慈愛の心。すべての存在への無条件の愛と慈悲


【ダンマ(Dhamma)】

仏教の教え。自然の法則や真理を指す


【アングリマーラ】

殺人を繰り返していた凶悪犯がお釈迦様に導かれて改心した仏教説話の人物


【世代を超えたトラウマ】

一世代から次の世代へと受け継がれる心理的外傷の影響


【ノーブル・サイレンス】

ヴィパッサナー瞑想で実践される神聖な沈黙


【内観】

自分の心の動きや感情を客観的に観察する修練


【反応的行動】

感情や衝動に支配された無意識的な行動パターン


【意識的選択】

冷静な判断に基づく建設的な行動の選択



本稿は近日中にnoteにも掲載予定です。
ご関心を持っていただけましたら、note上でご感想などお聞かせいただけると幸いです。
bottom of page