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2026年、世界はどこで火を噴くのか――専門家が見通す紛争リスクの地図

シリーズ: 知新察来


◆今回のピックアップ記事:Paul B. Stares "Conflicts to Watch in 2026" (Council on Foreign Relations, 2025年12月)

  • 概要:CFRの紛争予防センターが18年間継続している年次調査。約620名のアメリカ外交政策専門家が30の紛争シナリオを「発生可能性」と「米国への影響度」で評価し、3段階の優先度に分類。2026年版では初めて、紛争予防と解決のための具体的な介入機会も特定している。



トランプ政権の2期目が始まり、世界の紛争地図は劇的に塗り替わろうとしています。外交問題評議会が毎年発表する紛争予測レポートは、単なる警告ではなく、アメリカの外交政策専門家約620名が「どこで何が起きうるか」を評価し、優先順位をつけたリスクマップです。


今年の調査で浮かび上がったのは、第二次世界大戦以来最多となった武力紛争の数と、大国間戦争のリスクが年々高まっている現実。そして何より、紛争予防のための政府機能が解体されつつあるという皮肉でした。


富良野とPhronaは、このレポートが示す30の紛争シナリオから、リスク評価の仕組みそのものが持つ意味を読み解いていきます。予測することと、予防すること。その間にある、見えにくいけれど決定的な距離について。




なぜ専門家は未来の紛争を「格付け」するのか


富良野:このレポート、読んでて不思議な気持ちになるんですよ。紛争を三つの階層に分けて、発生確率と影響度でマトリクスに並べてる。まるで投資ポートフォリオのリスク評価みたいで。


Phrona:ああ、分かります。Tier Iが「高確率・高影響」で、Tier IIIが「中確率・低影響」って。確かに金融の世界の言葉遣いですよね。でも、扱ってるのは人の命なんですけど。


富良野:そこなんだよね。でも考えてみると、これって米国の政策担当者が「限られたリソースをどこに割くか」を判断するためのツールなわけで。全部に同じだけ関心を払うことはできないから、優先順位をつけざるを得ない。


Phrona:優先順位をつけるってことは、つまり「この紛争は後回しでいい」って判断が入るってことですよね。スーダンの内戦は「高確率・低影響」でTier IIに分類されてる。確率は30の中で最も高いのに、米国への影響が小さいから優先度が下がる。


富良野:うん。18万人以上が亡くなって、1100万人が避難してるのに、ね。でも逆にいえば、こういう明示的な格付けがあるからこそ、「なぜスーダンが後回しにされているのか」が可視化される。透明性があるともいえる。


Phrona:可視化されたところで、優先度が変わるわけじゃないですけどね。むしろ「これはTier IIIだから」って、無視する理由を与えてしまうような。


富良野:そうだね。ただ、今年のレポートには新しい試みがあって。専門家に「予防や解決のチャンスがある紛争はどれか」も聞いてる。単なるリスク評価じゃなくて、介入の余地があるかどうかも評価してる。


Phrona:ああ、それは少し違いますね。リスクが高いけど手が打てる場所と、リスクは低いけど放っておくと悪化する場所と。そういう別の軸が入ってくる。


富良野:112人の専門家がウクライナ・ロシア戦争を「米国が影響力を行使できる最大のチャンス」に挙げてる。次がガザで49人。この数字の差も、米国がどれだけレバレッジを持ってると専門家が考えてるかを示してる。


Phrona:でも、影響力があるからって実際に行使されるかは別の話ですよね。トランプ政権は紛争を終わらせようとしてるって書いてあるけど、同時に西半球の同盟国に対して武力を使うって脅してる。ベネズエラへの直接的な軍事作戦がTier Iに入ってるのって、政権の意向が反映されてるんじゃないですか。


富良野:まさにそこが興味深いところで。このレポート、トランプ政権に対してかなり批判的なんだよ。紛争予防や平和構築のための政府機能を組織的に解体してるって明言してる。予算もカットされてる。


Phrona:つまり、リスクを評価するシステムは残ってるけど、それに対応するための道具は取り上げられてるってことですか。地図はあるけど、車がない。


富良野:そういうこと。しかも、この調査自体がカーネギー財団の助成金で成り立ってる。政府じゃなくて民間の資金でリスク評価をやってる。その構造自体が、何かを物語ってると思うんだよね。


5つの最高リスク――何が「米国の利益」を定義するのか


Phrona:Tier Iに5つの紛争が入ってますけど、これ、よく見るとすごく異質なものが並んでますよね。ヨルダン川西岸とガザ、ウクライナ、ベネズエラ、そして米国内の政治的暴力。


富良野:米国内の政治的暴力が「高確率・高影響」で最高リスクに入ってるのは、2024年の調査でもトップだった。2025年は「中確率」に落ちたんだけど、2026年でまた最高ランクに戻ってきた。


Phrona:国内の問題が、国外の戦争と同じレベルの脅威として扱われてる。それ自体が、すごく象徴的な気がします。外と内の境界が溶けてきてるっていうか。


富良野:そうだね。でも「米国の利益への影響度」の定義を見ると、ちょっと複雑なんだよ。高影響は「米国本土、防衛条約同盟国、または死活的戦略利益を直接脅かし、米軍の対応を引き起こしそうなもの」。つまり、軍事的対応の可能性があるかどうかで判断してる。


Phrona:ああ、なるほど。だから中東の紛争が多いんですね。イスラエルとの関係があるから、自動的に「高影響」になる。


富良野:中東関係が6つもTier IとIIに入ってる。すべてイスラエルが関わってる。イランとイスラエルの再衝突、レバノンの不安定化、シリアの内戦再燃。全部つながってる。


Phrona:でも、アフリカの紛争は9つあるのに、そのうち6つがTier IIIなんですよね。スーダンだけがTier IIで、しかも「低影響」。スーダンの人道危機は第二次世界大戦以来最悪規模なのに。


富良野:そこが「米国の利益」っていう言葉の冷たさなんだよ。人道的な深刻さと、米国への戦略的影響は別の軸で測られてる。低影響の定義は「米国にとって戦略的重要性が限られた国に影響するが、深刻で広範な人道的結果をもたらす可能性がある」。つまり、人道危機は認識してるけど、優先度は下がる。


Phrona:認識してるけど優先度は下がるって、すごく誠実な言い方ですね。偽善って言わずに。でも、それって本当に仕方ないんでしょうか。


富良野:難しいところだね。米国が全世界の紛争に同じレベルで関与できるかっていうと、それは無理だと思う。でも、この評価の仕方が、結果的に特定の地域を「見えない場所」にしてしまってる。


Phrona:見えない場所っていうか、見ても手を出さない場所、ですよね。スーダンに対しては国際的な取り組みを支援する機会がある、って専門家30人が指摘してるんですけど、実際にはどうなんでしょう。


富良野:レポート自体も、この限界は自覚してるんだよ。評価するのは「比較的明確な政治的・軍事的事態」で、気候変動とか人口動態とか技術発展みたいな広範なトレンドは扱わない。そういうトレンドは紛争を引き起こすけど、短期間では判断しにくいから。


Phrona:でも、スーダンの内戦だって、背景には気候変動による水不足と食料危機があるわけですよね。その部分は評価の外に置かれてる。


富良野:そう。だから、このレポートが描く紛争地図は、ある意味で「すでに燃え始めてる場所」の地図なんだよね。火種がくすぶってる段階では捉えられない。


Phrona:予防のためのレポートなのに、予防にはもう遅い段階の話をしてる。矛盾してますね。


富良野:いや、でもそれが政策立案者の時間軸なのかもしれない。今年起こりそうなことに対応するので精一杯で、10年後の火種まで見る余裕がない。


大国間戦争のリスク――「起こりうる」と「起こしてはならない」の間


Phrona:Tier Iにもう一つ、すごく怖いのがあるんですよね。台湾に対する中国の軍事的・経済的・政治的圧力が激化して、地域と米国を巻き込む深刻な危機になるっていう。


富良野:台湾海峡危機は「中確率・高影響」で、専門家31人が「米国が影響力を行使できる機会」に挙げてる。同じカテゴリーに、ロシアとNATO加盟国の武力衝突、北朝鮮の核実験再開もある。


Phrona:どれも、起きたら大国間戦争になりうるものばかり。中確率ってことは、コイン投げくらいの確率で起こるってことですよね。


富良野:そうだね。でも興味深いのは、南シナ海での中国の攻撃的な行動は「低確率・高影響」のTier IIに分類されてること。フィリピンが関わる紛争だけど、台湾ほどの切迫感はないと評価されてる。


Phrona:なぜ台湾と南シナ海で評価が違うんでしょう。どちらも中国の海洋進出の話なのに。


富良野:台湾は中国にとって「核心的利益」で、絶対に譲れない問題として位置づけられてる。一方、南シナ海は重要だけど、即座に武力行使するほどの優先度ではない、っていう判断じゃないかな。あと、台湾には半導体産業があって、世界経済への影響が桁違いに大きい。


Phrona:結局、紛争リスクの評価って、その場所が持ってる経済的・戦略的価値で決まるんですね。どれだけ人が住んでるかとか、そういうことじゃなくて。


富良野:残酷だけど、そうなんだろうね。ただ、この評価には別の意味もあると思う。「中確率」で「高影響」の紛争をリストアップするってことは、政策担当者に「これを低確率に下げるために今すぐ何かしろ」ってメッセージを送ってる。


Phrona:予測じゃなくて、警告なんですね。


富良野:そう。だから専門家が「介入の機会」を指摘するのも意味がある。たとえば、ウクライナ・ロシア戦争について112人が機会を指摘してるのは、今ならまだ米国が影響を与えられる、という判断だと思う。


Phrona:でも、介入の機会があるからって、それが平和的な解決につながるとは限らないですよね。トランプ政権はたしかに紛争を終わらせようとしてるけど、同時に新しい紛争を作り出してる。ベネズエラへの直接攻撃の可能性とか。


富良野:そこが一番の皮肉なんだよ。レポートは、トランプ政権が不必要に不安定化させる行動をしてるって批判してる。武力や強制措置を同盟国にさえ向けてる、と。そして同時に、紛争予防のための政府機能を解体してる。


Phrona:予防する能力を奪っておいて、紛争が起きたら軍事力で解決しようとする。それって本末転倒じゃないですか。


富良野:本末転倒だね。でも、ある種の一貫性はあるんじゃないかな。外交的な予防措置よりも、直接的な力の行使を優先する世界観。そこには「予防なんて時間の無駄だ」っていう価値判断が入ってる。


Phrona:それって、短期的な問題解決には見えるけど、長期的にはもっと多くの問題を生むんじゃないですか。予防に失敗したから危機が起きて、危機に対応するためにさらに多くのコストがかかる。


富良野:まさにそう。レポートの冒頭で言ってるんだよ。「米国の政策担当者はしばしば紛争関連の危機に不意を突かれ、注意とリソースを他の優先事項から逸らされる。後から振り返って、もっと予防すべきだったと嘆く」って。


Phrona:でも、その教訓が活かされてないんですね。毎年同じことを繰り返してる。


富良野:繰り返してるというか、悪化してるね。第二次世界大戦以来最多の武力紛争が起きてて、しかも国家間紛争の割合が増えてる。冷戦後のトレンドが逆転してる。


紛争予測の逆説――地図を持つことと、道を変えることの違い


Phrona:このレポートを読んでて感じるのは、予測することと予防することって、本質的に違う活動なんだなって。


富良野:どういうこと?


Phrona:予測は「何が起こりそうか」を知るためのもので、予防は「それを起こさせないため」のもの。でも、予測に長けることが、予防を上手にすることにつながるとは限らない。


富良野:ああ、分かる。むしろ、予測が正確になればなるほど、「これは避けられない」って諦めに近い感覚が生まれるかもしれない。


Phrona:そうなんです。このレポートも、紛争を確率で語ることで、どこか運命論的な雰囲気を醸し出してる。「高確率で起こりそう」って言われたら、起きるのが当たり前みたいに聞こえる。


富良野:でも、レポート自体はそう受け取られることを警戒してるんじゃないかな。だから今年、初めて「介入の機会」を聞いたんだと思う。ただ予測するんじゃなくて、変えられる余地がどこにあるかを示そうとしてる。


Phrona:変えられる余地があるって示すことと、実際に変えることの間には、また大きな溝がありますけどね。スーダンに30人の専門家が「国際的取り組みを支援する機会がある」って言っても、それが政策になるかどうかは別の話。


富良野:そうだね。でも、このレポートが18年間続いてるっていうのは、それなりに意味があるんじゃないかな。毎年、専門家の意見を集約して、優先度をつけて、公開する。そのプロセス自体が、一種の透明性の担保になってる。


Phrona:透明性は大事ですけど、それだけじゃ足りないですよね。見えてるけど手を出さない、っていう状態もあるわけで。


富良野:そこが難しいところなんだよ。このレポートは、米国の政策担当者向けに作られてる。だから評価軸も「米国の利益」なんだけど、それが結果的に、世界の一部を「優先度の低い場所」として固定化してしまう。


Phrona:固定化された上に、そこで起きてることが「予測可能なリスク」として処理される。スーダンは高確率だけど低影響だから、起きても仕方ない、みたいな。


富良野:でも逆にいえば、こういう公開レポートがあることで、なぜスーダンが後回しにされてるのかが可視化される。市民社会や議会が「なぜこれに対応しないのか」って問える根拠になる。


Phrona:根拠にはなるけど、力にはならないかもしれない。結局、優先順位を決めてるのは戦略的利益で、人道的な理由じゃないから。


富良野:そうだね。でも、この調査がなかったら、もっと恣意的で説明不可能な判断が行われるかもしれない。少なくとも、「なぜこう判断したか」が記録される。


Phrona:記録されることに価値がある、っていうのは分かります。でも同時に、記録されただけで満足してしまう危険もある気がするんですよね。予測したから仕事は終わり、みたいな。


富良野:たしかに。予測と予防の間にあるギャップを埋めるのは、このレポートの仕事じゃない。政策を実行する人たちの仕事。でも、その実行のための機能が削られてる。


Phrona:削られてるのに、リスクだけは増え続けてる。それって、地図は充実してるけど、道を歩く足がない状態ですよね。


富良野:うん。でも、足がないことを自覚するのも、一歩だと思う。少なくとも、このレポートはそれを明示的に指摘してる。トランプ政権の政策を批判してる。


Phrona:批判したところで変わるんでしょうか。


富良野:変わらないかもしれない。でも、変わる可能性のための前提条件ではあると思う。問題が問題として認識されないと、変わりようがないから。


数字が語るもの、語らないもの


Phrona:このレポートで一番印象的だったのは、数字の使い方なんですよね。620人の専門家、30の紛争シナリオ、3つの階層。すごくシステマティック。


富良野:システマティックであることの強みは、恣意性を減らせることだね。個人の主観じゃなくて、専門家集団の平均的な見解を示せる。


Phrona:でも、平均的な見解が正しいとは限らないですよね。むしろ、専門家のコンセンサスこそが、新しい脅威を見逃す原因になることもある。


富良野:それはあるね。たとえば、2025年の調査では米国内の政治的暴力が「中確率」に評価されたけど、2026年では「高確率」に戻った。つまり、前年の評価は楽観的すぎたってこと。


Phrona:専門家でも見誤るんですね。しかも、彼らの仕事は紛争を予測することなのに。


富良野:予測の難しさは、未来が過去の延長線上にあるとは限らないってことだと思う。2026年の新規追加項目を見ると、ベネズエラへの米軍の直接作戦とか、ロシアとNATOの衝突とか、去年は想定してなかった事態が入ってる。


Phrona:政権が変わると、紛争の地図も変わる。トランプ政権の政策そのものが、新しいリスクを生んでる。


富良野:そう。だから、このレポートが評価してるのは「何が起こりそうか」じゃなくて、「現在の政策が続いたら何が起こりそうか」なんだよね。政策が変われば、リスクも変わる。


Phrona:ということは、このレポートは予測であると同時に、政策批判でもあるってことですか。


富良野:そういう面があると思う。特に今年のレポートは、トランプ政権への批判が明確。不必要に不安定化させてる、紛争予防の機能を解体してる、短絡的だ、と。


Phrona:でも、それが政策を変えるかっていうと、疑問ですよね。政権は自分のやり方でやるわけで、専門家の意見なんて聞かないかもしれない。


富良野:たしかに。でも、このレポートの読者は政権だけじゃない。議会も、メディアも、市民社会も読む。だから、一種の説明責任の装置として機能してる。


Phrona:説明責任っていうか、記録として残るってことですね。「あのとき、専門家はこう警告していた」っていう。


富良野:そう。後から振り返ったときに、「誰も予測できなかった」とは言わせない。ちゃんと予測されてたし、警告もされてた、と。


Phrona:でも、予測されてても防げなかったら、それはそれで虚しいですよね。


富良野:虚しいけど、必要なことだと思う。予防に失敗したとしても、なぜ失敗したかを検証するための材料になる。


Phrona:このレポートって、未来の歴史家のための資料なのかもしれないですね。今の政策担当者よりも。


富良野:それは面白い見方だね。でも、僕はもう少し楽観的に見てる。政策担当者の中には、こういうレポートを真剣に読んで、実際に判断の材料にしてる人もいるはず。


Phrona:そうだといいんですけど。


富良野:まあ、完璧なシステムなんて存在しないからね。でも、何もないよりは、こういう評価の仕組みがある方がいい。少なくとも、議論の出発点にはなる。


Phrona:議論の出発点か。たしかに、それは大事ですね。共通の言語がないと、そもそも議論が成り立たないから。


富良野:そういうこと。このレポートが提供してるのは、紛争リスクについて語るための共通言語なんだと思う。その言語が完璧じゃなくても、何かを語り始めるためには必要。


Phrona:語り始めた先で、何が変わるかは分からないけど。


富良野:分からないけど、語らなければ何も変わらない。それだけは確かだと思う。


 

 

ポイント整理

  • 紛争リスクの評価手法

    • 外交問題評議会は18年間、年次調査を通じて米国の外交政策専門家約620名に「発生可能性」と「米国への影響度」の2軸で紛争リスクを評価させ、30のシナリオを3段階の優先度に分類している。この手法は投資リスク評価に似た構造を持ち、限られたリソースをどこに配分すべきかを可視化する。

  • 2026年の最高リスク

    • Tier I(高確率・高影響)には5つの紛争が分類された。ヨルダン川西岸とガザでのイスラエル・パレスチナ紛争、ウクライナ・ロシア戦争の激化、ベネズエラへの米軍直接作戦、米国内の政治的暴力と不安の高まり。特に米国内の政治的暴力が2年ぶりに最高リスクに復帰したことは、国内外の脅威の境界が曖昧になっていることを示す。

  • 地域別の分布と偏り

    • 30の紛争シナリオのうち、中東関連が6つ(すべてイスラエル関連)、アフリカ関連が9つだが、アフリカの6つはTier IIIに分類されている。スーダン内戦は発生確率が30シナリオ中最高であるにもかかわらず、米国への影響度が低いためTier IIに留まる。これは「米国の利益」が評価軸の中心にあることを明示している。

  • 大国間戦争リスクの持続

    • 台湾海峡危機、ロシア・NATO衝突、北朝鮮核実験再開などが「中確率・高影響」で評価され、大国間戦争のリスクが数年来の高水準を維持している。特に台湾については経済的(半導体)・戦略的価値から、南シナ海より高いリスク評価を受けている。冷戦後の国内紛争中心のトレンドが逆転し、国家間紛争が増加している。

  • 予防機能の解体という皮肉

    • トランプ政権は複数の紛争を終わらせようとする一方で、西半球の同盟国に対する武力の脅威など不安定化させる行動も取っている。さらに決定的なのは、戦略的先見性、紛争予防、平和構築を担う政府機能を組織的に解体し、関連予算を削減していること。レポートはこれを「非生産的で近視眼的」と明確に批判している。

  • 介入機会の特定: 2026年版で初めて導入された新機能として、専門家に「予防や解決のチャンスがある紛争」を尋ねた。ウクライナ・ロシア戦争に112人、ガザに49人、台湾に31人が「米国が影響力を行使できる機会」として指摘。また、スーダン、シリア、ハイチなどでは「国際的取り組みを支援する機会」が示された。

  • 評価の限界と自覚

    • レポートは「比較的明確な政治的・軍事的事態」のみを評価対象とし、気候変動、人口動態、技術発展などの広範なトレンドは扱わない。これらのトレンドは紛争を引き起こすが短期間では判断しにくいため。また地震や指導者の死など本質的に予測不可能な事象も除外される。この限定は意図的なものだが、結果として「すでに燃え始めた場所」の評価に偏る構造的バイアスを生む。

  • 透明性と説明責任の装置

    • 18年間の継続調査により、紛争リスク評価の基準と変遷が記録され、政策判断の根拠が可視化される。これは事後的に「なぜ予防しなかったのか」を検証する材料になり、また「この紛争は優先度が低い」という判断を明示することで、市民社会や議会が異議を唱える根拠を提供する。

  • 予測と予防のギャップ

    • 予測することと予防することは本質的に異なる活動であり、予測が正確になることが自動的に予防の成功につながるわけではない。むしろ高確率の予測は運命論的な諦めを生む危険すらある。このギャップを埋めるのは政策実行者の役割だが、その能力が削られている現状では、充実した地図を持ちながら歩く足がない状態に陥っている。

  • 専門家コンセンサスの脆弱性

    • 620人という大規模なサンプルでも、前年の評価が翌年に覆されることがある(米国内暴力の評価変動など)。専門家の平均的見解は恣意性を減らす一方で、新しい脅威を見逃すリスクも持つ。特に政権交代などの政治的不連続は予測を困難にし、2026年版で6つの新規シナリオが追加されたことはその証左である。



キーワード解説


紛争予防センター(Center for Preventive Action)

外交問題評議会(CFR)内の専門部門で、世界の致命的紛争の予防・緩和・解決を目的とし、政府、国際機関、NGO、企業、市民社会の代表を集めて特定の紛争に対する具体的戦略を開発する


予防優先度調査(Preventive Priorities Survey, PPS)

米国外交政策専門家が今後12カ月間に発生または激化する可能性のある紛争を「発生可能性」と「米国の利益への影響度」で評価し、優先順位をつける年次調査。18年間継続


Tier I/II/III

紛争リスクの優先度分類。Tier Iは高確率・高影響、Tier IIは高確率・低影響または中確率・中影響、Tier IIIは中確率・低影響の紛争を指す


リスク評価マトリクス

縦軸に「米国の利益への影響度」(高・中・低)、横軸に「発生可能性」(高・中・低)を置き、30の紛争シナリオを配置する評価ツール


高影響の定義

米国本土、防衛条約同盟国、または死活的戦略利益を直接脅かし、米軍の対応を引き起こす可能性が高い事態


低影響の定義

米国にとって戦略的重要性が限定的な国に影響するが、深刻で広範な人道的結果をもたらす可能性がある事態。人道的深刻さと戦略的影響は別の軸で測られる


大国間戦争リスク

米国、中国、ロシアなどの主要国家間での直接的軍事衝突の可能性。冷戦後減少していた国家間紛争が近年再び増加し、内戦中心のトレンドが逆転している


グローバル紛争トラッカー

CFRが提供するインタラクティブなウェブツールで、世界の進行中の紛争をリアルタイムで追跡・更新する。PPSの静的な年次評価を補完する動的システム


クラウドソーシング

調査の第1段階で、ソーシャルメディアを通じて広く紛争候補を募集し、CFRの地域専門家が30のシナリオに絞り込むプロセス


介入の機会(Opportunities for Preventive Action)

2026年版で初導入された評価項目。専門家が「米国が影響力を行使できる紛争」と「国際的取り組みを支援できる紛争」の2カテゴリーで特定


戦略的先見性(Strategic Foresight)

将来起こりうる事態を予測し、事前に対応策を準備する政府機能。トランプ政権による解体の対象となった


紛争予防機能の解体

トランプ政権下で、紛争予防、平和構築、戦略的先見性を担う政府部門が組織的に廃止され、関連予算が大幅削減されたこと


不安定化行動(Destabilizing Behavior)

武力や強制措置の脅威を通じて、同盟国を含む他国に圧力をかける行動。ベネズエラへの軍事作戦の可能性など


説明責任の装置

政策判断の根拠と警告を公開記録として残すことで、事後的に「なぜ予防しなかったか」を検証可能にする仕組み


運命論的諦め

高確率の予測が「避けられない」という感覚を生み、予防努力を阻害する心理的効果


評価の時間軸バイアス

12カ月という短期予測枠が、気候変動や人口動態など長期的トレンドを評価から除外し、「すでに燃え始めた場所」に焦点が偏る構造的問題


第二次世界大戦以来最多の武力紛争

現在の世界の武力紛争数が1945年以降で最も多い水準に達しているという歴史的文脈


カーネギー財団

このレポートの作成を財政支援している民間財団。政府予算ではなく民間資金で紛争リスク評価が行われている構造



本稿は近日中にnoteにも掲載予定です。
ご関心を持っていただけましたら、note上でご感想などお聞かせいただけると幸いです。
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