AIはクラウドのみにて生くるにあらず──電力、鉱物、水が決める知能の地政学
- Seo Seungchul

- 1月19日
- 読了時間: 20分
更新日:2 日前

シリーズ: 知新察来
◆今回のピックアップ記事:Thijs van de Graaf, "Inside the AI-Led Resource Race" (Finance & Development, 2025年12月)
概要:本記事は、AIの発展を支える物質的基盤——電力、半導体、鉱物資源、水、土地——に焦点を当て、それらの確保をめぐる地政学的競争の全体像を描いている。データセンターは世界の電力消費の1.5%を占め、2030年までに倍増すると予測される。テック大手は再生可能エネルギーの最大購入者となり、電力網の拡張や新技術開発に巨額を投じている。しかし、半導体製造は台湾に集中し、鉱物精錬は中国が8〜9割を掌握しており、供給網の脆弱性が露わになっている。水の消費も深刻で、新設データセンターの3分の2は水不足地域に建設されている。こうした物理的制約が、AI革命の行方と恩恵の分配を決定するという警告が本記事の核心である。
チャット画面に現れる文字の流れは軽やかで、まるで思考が空を舞うようです。でも、その背後には膨大なサーバーがあり、冷却装置が動き、電線が熱を持ち、鉱物が採掘されています。国際通貨基金(IMF)の雑誌『Finance & Development』に掲載された記事は、人工知能が引き起こす資源争奪戦の全体像を静かに、しかし鮮明に描き出しています。AIの進化は、もはやアルゴリズムの洗練だけでは語れません。どれだけ電力を確保できるか、どれだけ半導体を製造できるか、どれだけ鉱物を採掘できるか──こうした極めて物質的な問いが、技術覇権の行方を左右するようになっているのです。
本記事では、ゲント大学のティース・ファン・デ・グラーフ教授の分析を手がかりに、富良野とPhronaがこの新しい資源競争の構造を対話形式で読み解いていきます。電力消費の急増、半導体供給網の集中、鉱物資源の地政学、そして土地や水をめぐる地域紛争まで、AIという一見無形の技術がどれほど深く地球と結びついているか、その実相に迫ります。
AIが食べているもの──電力消費の真実
Phrona:この記事を読んで思ったんですけど、僕たちって普段AIを使うとき、あまりにも物理世界からかけ離れたものみたいに扱いすぎてませんか?
富良野:ええ。ChatGPTで質問したり、画像を生成したりするとき、まるで思考そのものがデジタル空間に浮かんでいるような感覚になる。でも実際には、その裏で膨大な電力が消費されているわけです。
Phrona:クラウドっていう言葉がそもそも罪深いのかもしれませんね。雲じゃなくて、実際には巨大な鉄の箱が並んだ倉庫みたいな建物で、そこに冷却装置やら電線やらが詰まってる。
富良野:そうなんですよ。記事によれば、データセンターは現在、世界の電力消費の約1.5%を占めていて、これはイギリス一国分に相当する。そしてこの数字、2030年までに倍増する見込みだそうです。
Phrona:倍増……想像しにくい規模ですね。私たちの日常からするとイギリス全体の電力って、もうピンとこない。
富良野:ただ、グローバルで見ればまだ全体の一割未満で、電気自動車やエアコンの需要増加に比べれば小さいとも言える。でも、問題は分布が極端に偏ってることなんです。アメリカや日本だと、2030年までの新規電力需要の半分近くをデータセンターが占める可能性がある。
Phrona:半分って、すごいですね。他の産業が電気を必要としていても、AIが先に持っていってしまう、みたいな。
富良野:しかも、地域ごとの集中がさらに深刻で。アメリカのバージニア州北部は世界最大のデータセンター集積地なんだけど、州全体の電力消費の4分の1をデータセンターが食ってる。電気料金が上がって、それが州知事選の争点になったくらいです。
Phrona:それ、住民にとっては相当な話ですよね。自分たちが普通に暮らすために必要な電気が、どこかの大企業のサーバーに使われちゃってる。
富良野:そう。アイルランドのダブリンでは、送電網の負荷が限界に達して、新しいデータセンター建設が2022年に凍結されたそうです。許可が出るのは自前で発電できるプロジェクトだけ。
Phrona:自前って、それはそれでハードルが高いですね。つまり資金力のある企業しか参入できない。
富良野:シンガポールもそうで、2019年に新規データセンターの建設を全面停止した。エネルギー効率の高い施設だけに限定して、ようやく再開したみたいです。
Phrona:これ、本質的には「誰が電気を使う権利を持つのか」っていう問いですよね。産業なのか住民なのか、それとも未来のAI開発なのか。富良野さんはどう思います?
富良野:難しい問題ですね。ただ、記事が警告しているのは、需要が読めないまま急速に拡張を進めると、結果的に化石燃料に依存したり、過剰投資で無駄が出たりするリスクがあるってことです。電力網の整備には時間がかかるから、計画の精度がめちゃくちゃ重要になる。
Phrona:でも、予測が当たるかどうかも分からない。2030年のデータセンター需要について、最高予測値と最低予測値が7倍も違うって書いてありましたよね。
富良野:そこが悩ましい。予測が外れれば過剰投資、足りなければ競争力を失う。しかも、需要増に合わせて化石燃料に頼ってしまえば、気候変動対策に逆行する。
Phrona:でも同時に、テック大手が再生可能エネルギーの最大購入者になってるっていう皮肉もあって。結果的に太陽光や風力の普及を後押ししてる面もある。
富良野:そうなんですよ。マイクロソフトやグーグル、アマゾンは再生可能エネルギーの長期購入契約を結んで、電力市場に巨額を投じている。原子力や地熱、水素といった新技術にも賭けてる。
Phrona:それって、電力会社みたいな役割を果たし始めてるってことですよね。データセンターを動かすために発電所まで持っちゃう。
富良野:実際、マイクロソフトはペンシルバニアのスリーマイル島の休止中原発を買収する可能性を探ってるとか。グーグルは先進的地熱発電に出資してる。
Phrona:でも、それが本当に持続可能な方向に向かうのか、それとも結局は天然ガスに依存する構造を固定しちゃうのか、まだ分からないですよね。
富良野:ヨーロッパでは再生可能エネルギーが進んでるけど、世界のデータセンターの4割以上を抱えるアメリカでは、まだ天然ガスへの依存が強い。つまり、電力の確保がそのままCO2排出にも直結してくる。
Phrona:ああ、そうか。AIが進化すればするほど、地球の温度も上がるかもしれない。皮肉な構造ですね。
電力だけじゃない──半導体と鉱物資源の争奪
富良野:もうひとつ重要な制約が半導体です。最先端のAIモデルをトレーニングするには、数千個の専用チップが必要なんですが、そのほとんどはエヌビディアが設計して、台湾のTSMCが製造している。
Phrona:台湾に集中してるんですね。
富良野:はい。だから、地政学的にはここが最大のチョークポイント、つまり首根っこを押さえられる急所になってる。アメリカは中国への先端チップ輸出を規制してるし、逆に中国は国内産業を育成しようと巨額を投じてる。
Phrona:でも、規制したからといって中国の進歩が止まるわけじゃないですよね。この記事にも、中国のディープシークっていうモデルが、OpenAIやグーグルの数分の一のコストでトレーニングされたって書いてある。
富良野:そう。むしろ制約が革新を促してる面もある。ディープシークは2025年1月にリリースされたばかりなのに、効率性で話題になった。つまり、ハードウェアへのアクセスが制限されても、ソフトウェアの工夫で乗り越える道はあるってことです。
Phrona:それにしても、半導体の製造工場って、それ自体がものすごく資源を食うんですよね。
富良野:ええ。最先端の工場ひとつで、小都市並みの電力と大量の超純水を消費する。そして、その上流には鉱物資源がある。
Phrona:鉱物、ですか。
富良野:ガリウムやゲルマニウム、シリコン、レアアース、そして銅。データセンターの配線には膨大な銅が使われていて、大型の施設ひとつで中規模の銅鉱山一年分の産出量に相当するそうです。
Phrona:銅って、そんなに使うんですね。イメージしにくいけど。
富良野:2030年までに、データセンターは年間50万トン以上の銅と7万5000トンのシリコンを消費すると予測されてる。銅については世界需要の2%を占めるようになる。ガリウムだと1割を超える。
Phrona:でも、2%とか1割って、聞くとそこまで大きくないような気もしますね。
富良野:ただ、これは電気自動車や風力タービン、防衛産業と同じ資源を奪い合うってことなんです。供給は限られてるのに、需要が一気に集中する。
Phrona:ああ、なるほど。市場全体が引っ張られて、価格が跳ね上がる可能性があると。
富良野:そして、ここでも地政学が絡んでくる。中国はシリコン、ガリウム、レアアースの精錬で世界の8〜9割を支配してるんです。
Phrona:え、そんなに?
富良野:2023年にガリウムとゲルマニウムの輸出規制を始めて、2024年後半にはタングステン、テルル、ビスマス、インジウム、モリブデンにも規制を拡大した。全部、マイクロプロセッサやダイオード、サーバーハードウェアに不可欠な材料です。
Phrona:それ、もう完全に外交カードですよね。
富良野:価格も急騰してる。アメリカやEU、日本、韓国は対抗策として、重要鉱物戦略を打ち出して、アフリカや中南米の資源国との同盟を模索してる。リサイクル技術にも投資を始めてる。
Phrona:でも、急にリサイクルが軌道に乗るわけでもないし、新しい鉱山を開発するにも時間がかかる。結局、中国の精錬能力に依存し続けるしかない、みたいな状況なんじゃないですか。
富良野:そうですね。だからこそ、鉱物は半導体と並んで、AI覇権の決定的な制約要因になってるんです。アルゴリズムがどれだけ優れていても、物質がなければ動かせない。
水と土地──もうひとつの競争
Phrona:電力と鉱物の話はなんとなく分かってきたんですけど、水っていうのもあるんですよね。
富良野:そうなんです。データセンターの冷却には膨大な水が必要で、大規模施設だと一日に数百万ガロン、つまり数千トン単位で消費する。
Phrona:すごい量ですね。
富良野:しかも、2022年以降にアメリカで新設されたデータセンターの3分の2が、水不足地域に建てられてるんです。
Phrona:それ、どうしてそんなことになるんですか?
富良野:おそらく、電力供給や光ファイバー網の整備状況、土地の確保しやすさといった要素が優先されてて、水資源はあとまわしになってるんじゃないかと。
Phrona:でも、水が足りなきゃ冷却できないですよね。
富良野:ええ。アリゾナでは住民と企業の間で、限られた水をどう配分するかをめぐって対立が起きてる。スペインやシンガポールでも似た問題が浮上してる。
Phrona:でも不思議なのは、データセンターそのものが消費する水より、発電所が消費する水のほうがはるかに多いって書いてあったことです。
富良野:ああ、そう。冷却に水を使う火力発電所や原子力発電所のことですね。だから、データセンターの水消費問題は、実は電力供給のあり方ともリンクしてるんです。
Phrona:つまり、水問題と電力問題は別々じゃなくて、重なり合ってる。
富良野:そういうことです。そして土地も同じで、大規模データセンターは農地を潰して建てられることが多い。バージニア州北部やオレゴン州では、かつての農地が延々とサーバーホールに変わってる。
Phrona:それって地域経済にも影響しますよね。農業が消えて、代わりに来たのは大企業の施設。雇用は増えるかもしれないけど、地域の姿そのものが変わってしまう。
富良野:ただ、土地自体の広さは農業や鉱業に比べれば限定的で、むしろ重要なのは立地の条件なんです。寒冷な気候のほうが冷却コストを抑えられるから、アイルランドやノルウェー、アイスランドといった地域が注目されてる。
Phrona:ああ、気候も資源のひとつなんですね。
富良野:そう。それから、アブダビの計画されている5ギガワットのキャンパスみたいに、ネットワーク遅延を最小化するために、地理的な位置が戦略的に選ばれることもある。
Phrona:データの流れる速度まで計算に入れて、場所を決めてる。
富良野:だから、各国政府がどういう条件を提示できるか──安い電力、潤沢な水、優れたインフラ、寒冷な気候──によって、データセンター誘致競争の結果が変わってくる。一方で、規制を強化してグリッドや水資源を守る国もある。
Phrona:つまり、地理そのものが新しい競争の舞台になってる。
富良野:そういうことです。AIはクラウドに住んでいるんじゃなくて、非常に具体的な場所、具体的な資源、具体的な制約の中に存在してるんです。
効率化の逆説──ジェボンズのパラドックス
Phrona:ところで、AIが効率的になればなるほど、全体のエネルギー消費は減るんじゃないですか?
富良野:それが必ずしもそうならないのが面白いところなんです。記事でも触れられてるけど、エヌビディアの最新チップやグーグルのTPUは、以前のモデルより消費電力あたりの計算能力が大幅に向上してる。
Phrona:じゃあ、やっぱり効率化で問題は解決するんじゃ……。
富良野:ところが、効率が上がると使用量がそれ以上に増えるっていう現象があるんです。ジェボンズのパラドックスって呼ばれてる。
Phrona:ジェボンズ?
富良野:19世紀の経済学者ウィリアム・ジェボンズが、石炭の話で指摘したんです。蒸気機関の効率が上がったら石炭消費が減ると思われたけど、実際には効率化で使いやすくなったから、かえって消費量が増えた。
Phrona:ああ、なるほど。安くなったらもっと使いたくなる、みたいな。
富良野:そう。AIも同じで、チップやソフトウェアが効率的になればなるほど、新しい用途が生まれて、全体としての需要が膨らむ可能性がある。
Phrona:だから、ディープシークみたいなモデルが少ないコストでトレーニングできるようになっても、それで全体の消費が減るわけじゃない。
富良野:むしろ、もっとモデルが作られて、もっと推論が実行されて、結果的にエネルギー消費が増えるかもしれない。
Phrona:それって、ちょっと絶望的な構造ですね。技術が進めば進むほど、負荷も増える。
富良野:ただ、一方でAIには省エネに貢献できる面もあるんです。電力網のバランス調整、再生可能エネルギーの出力予測、ビルや工場のエネルギー管理。こういう用途では、AIが全体の効率を押し上げる。
Phrona:でも、それがAI自身のエネルギー消費を相殺できるかどうかは、まだ分からない。
富良野:そうなんです。だから、技術の進歩だけに頼るのは危険で、どう使うか、どこに優先順位を置くか、そういう政策的な判断が不可欠になってくる。
持続可能性と公平性──誰のための資源か
Phrona:ここまで聞いてきて思うんですけど、これってすごく不公平な構造じゃないですか?
富良野:というと?
Phrona:資源を持ってる国は採掘や精錬で環境負荷を引き受けて、でもAIで儲けるのは先進国のテック企業。電力も水も鉱物も、結局は富裕層の技術に吸い取られていく。
富良野:記事の最後でも、そこが強調されてる。AIブームの恩恵が先進国に偏って、途上国は単なる原材料供給者のままに留まるリスクがある。
Phrona:しかも、途上国にとっては電力や資本のコストも高いから、AIの技術を導入するハードルも高い。
富良野:そう。だから、持続可能性と公平性っていうのは、セットで考えなきゃいけない。環境負荷を抑えるだけじゃなくて、技術の恩恵がどう分配されるかも問われてる。
Phrona:でも、実際にそれを実現するのは難しそうですよね。企業は利益を追求するし、政府は自国の競争力を優先する。
富良野:ただ、記事が指摘してるのは、そこで透明性が鍵になるってことなんです。今はデータセンターの電力消費や水使用量、鉱物調達の情報がほとんど公開されてない。
Phrona:企業秘密だから開示したくない、みたいな?
富良野:そうかもしれないけど、情報が開示されなければ、規制当局も地域社会も、何が起きてるのか把握できない。計画も立てられない。
Phrona:つまり、まず可視化することが第一歩だと。
富良野:ええ。そのうえで、電力網の拡張や供給網の整備を、環境・社会的な配慮を持って進める必要がある。過去の資源ブームみたいに、採掘だけして環境破壊を残すような失敗は繰り返せない。
Phrona:でも、時間がないですよね。AIはもう急速に広がってるし、データセンターもどんどん建ってる。
富良野:そこが難しいところです。予測が不確実なまま、でも投資は待ったなし。過剰投資を避けつつ、競争力も失わず、しかも持続可能に、っていうバランスを取るのは至難の業です。
Phrona:でも、やらないと結局、化石燃料に依存したまま、不平等も拡大したまま、資源枯渇のリスクも抱えたまま突き進むことになる。
富良野:そういうことです。記事の結論もそこにあって、うまく管理すれば、AIブームはクリーンエネルギーの加速や、より強靭な供給網の構築につながる。でも、失敗すれば排出量を固定して、資源依存を深めるだけになる。
Phrona:つまり、この先どうなるかは、まだ決まってないってことですね。
富良野:ええ。技術競争だけじゃなくて、資源をどう確保し、どう使い、どう分配するか。その選択が、AI革命の本当の姿を決めるんです。
ポイント整理
データセンターの電力消費が急増
現在、世界の電力消費の約1.5%を占め、イギリス一国分に相当する。国際エネルギー機関(IEA)は2030年までにデータセンターの電力需要が倍増すると予測しており、その大部分はAIによるもの。アメリカや日本では新規電力需要の半分近くをデータセンターが占める可能性があり、地域的な電力逼迫が深刻化している。
地域ごとの電力集中による社会問題
アメリカのバージニア州北部では州全体の電力消費の4分の1をデータセンターが占め、電気料金高騰が政治問題化した。アイルランドのダブリンでは送電網の負荷限界により新規建設が凍結され、シンガポールでも建設が一時停止された。データセンターの急速な建設が電力網に予期せぬ負荷をかけている。
テック大手が再生可能エネルギー市場の主要プレイヤーになっている
マイクロソフト、アマゾン、グーグルは世界最大級の企業による再生可能エネルギー購入者となり、数十億ドル規模の長期購入契約を結んでいる。マイクロソフトは小型原子炉や休止中原発の買収を検討し、グーグルは先進的地熱発電に投資し、アマゾンは水素によるバックアップ電源を試験している。バイデン政権の気候政策が後退する中、テック大手がクリーンエネルギー投資の牽引役になっている。
半導体製造の地政学的集中が最大のチョークポイントである
最先端AIモデルのトレーニングに必要な数千個の専用チップは、エヌビディアが設計し、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)がほぼ独占的に製造している。アメリカは中国への先端チップ輸出を規制し、国内製造に巨額補助金を投入している。中国は独自産業育成に注力し、ディープシークのような効率的モデルで制約を克服しようとしている。チップへのアクセスは技術主権の試金石となった。
鉱物資源の供給網が極端に集中している
データセンターには銅、シリコン、ガリウム、ゲルマニウム、レアアースなど多様な鉱物が必要で、大型施設一つで中規模銅鉱山の年間産出量に匹敵する銅を消費する。2030年までに年間50万トン以上の銅と7万5000トンのシリコンが必要になり、ガリウムでは世界需要の1割以上を占める見込み。中国がシリコン、ガリウム、レアアースの精錬で世界の8〜9割を支配しており、2023年以降、戦略的輸出規制を段階的に拡大している。
水消費が深刻な地域紛争を引き起こしている
データセンターの冷却には膨大な水が必要で、大型施設は一日数百万ガロンを消費する。2022年以降にアメリカで新設されたデータセンターの3分の2が水不足地域に建設されており、アリゾナ州では住民と企業の間で水配分をめぐる対立が激化している。スペインやシンガポールでも同様の問題が浮上しており、発電所を含めた間接的水消費を考慮すると影響はさらに大きい。
効率化がかえって消費増を招くジェボンズのパラドックス
エヌビディアの最新チップやグーグルのTPU、ディープシークのような効率的モデルは消費電力あたりの計算能力を大幅に向上させている。しかし歴史的に、効率向上は新たな用途を生み、全体としての需要増をもたらしてきた(ジェボンズのパラドックス)。AIが安価で使いやすくなれば、アプリケーションの爆発的増加により、全体のエネルギー消費はむしろ増加する可能性がある。
立地条件が新たな競争軸になっている
データセンターは安価な電力、潤沢な水、優れた光ファイバー網、寒冷な気候が揃う場所を求める。アイルランドは大西洋横断ケーブルのハブとして、ノルウェーやアイスランドは冷却コストの低さで注目されている。アブダビの5ギガワット計画はアジアとヨーロッパへのネットワーク遅延最小化を狙っている。一部政府は規制で抑制し、他は優遇策で誘致を競う、パッチワーク状の地理が形成されている。
透明性の欠如が適切な計画を困難にしている
データセンターの電力・水消費、鉱物調達に関する企業の公開情報はほとんどなく、規制当局や地域社会は実態把握が困難。2030年のデータセンター需要予測は最大値と最小値で7倍の開きがあり、電力網拡張計画の不確実性が高い。過剰投資と過少投資のリスクが並存し、化石燃料依存の固定化や気候目標との矛盾が懸念される。
持続可能性と公平性が問われている
AIブームの恩恵が先進国に偏り、途上国が原材料供給者に留まるリスクがある。途上国では電力・資本コストが高く、AI技術導入のハードルも高い。過去の資源ブームのように採掘だけして環境破壊を残す失敗を繰り返さないためには、環境・社会的配慮を伴った供給網整備が不可欠。適切に管理すればクリーンエネルギー加速と強靭な供給網構築につながるが、失敗すれば排出量固定と資源依存深化を招く。
キーワード解説
【データセンター】
サーバーやストレージ、ネットワーク機器を集約し、大量のデータ処理や保管を行う施設。AIの計算処理には大規模データセンターが不可欠で、電力・冷却・通信インフラの集積地に建設される。
【ハイパースケールデータセンター】
数万台以上のサーバーを収容し、電力需要が数十メガワットから数ギガワットに達する超大規模データセンター。アマゾン、マイクロソフト、グーグル、メタなどが世界中で数百施設を運営しており、次世代施設はさらに大型化している。
【ジェボンズのパラドックス】
技術効率の向上が資源消費の削減ではなく増加を招く現象。19世紀の経済学者ウィリアム・ジェボンズが石炭について指摘した。AIでも、チップやソフトウェアの効率化が新たな用途を生み、全体としてのエネルギー消費を増やす可能性がある。
【TSMC(台湾積体電路製造)】
台湾に本拠を置く世界最大の半導体ファウンドリ(製造受託企業)。エヌビディアやアップル、AMDなど多くの企業の最先端チップを製造しており、AI用半導体の供給において圧倒的なシェアを持つ。その地政学的重要性は極めて高い。
【チョークポイント】
供給網において特定の地点や企業に依存が集中し、そこが遮断されると全体が機能不全に陥る脆弱な箇所。AI産業では台湾の半導体製造や中国の鉱物精錬がチョークポイントとなっている。
【ガリウム・ゲルマニウム】
高速半導体やダイオード、赤外線センサーなどに使用される希少金属。中国が世界の精錬能力の大部分を掌握しており、2023年から戦略的輸出規制を実施している。データセンターの高性能回路に不可欠な材料。
【レアアース(希土類元素)】
周期表のランタノイド系列を中心とする17元素の総称で、磁石、触媒、蛍光体などに使用される。データセンターの冷却ファンモーターにも必要。中国が採掘・精錬で世界の約8〜9割を占め、供給網の集中が懸念されている。
【TPU(テンソル処理ユニット)】
グーグルが独自開発したAI専用プロセッサ。機械学習の行列計算に特化しており、汎用GPUよりも高効率でAIモデルを訓練・実行できる。エヌビディアGPUへの依存を減らす試みのひとつ。
【ディープシーク】
中国のAI企業が2025年1月にリリースした大規模言語モデル。OpenAIやグーグルの同等モデルと比べて数分の一のコストとエネルギーでトレーニングされ、半導体輸出規制下での技術革新の象徴として注目された。
【小型原子炉(SMR)】
従来型原発より小規模で工場生産が可能な次世代原子炉。マイクロソフトなどが安定的なベースロード電源としてデータセンター近隣への導入を検討している。商用化は始まったばかりで、コストや規制面の課題が残る。
【再生可能エネルギー購入契約(PPA)】
企業が太陽光や風力発電事業者と長期契約を結び、発電された電力を固定価格で購入する仕組み。テック大手は世界最大級の企業PPAバイヤーとなり、再生可能エネルギーの市場拡大に貢献している。
【水不足地域】
年間水需要が利用可能な水資源を上回る、または将来的に上回る見込みの地域。アメリカ西部、地中海沿岸、中東などが該当し、データセンターの冷却用水消費が地域住民との対立を引き起こしている。
【送電網の負荷限界】
既存の電力インフラが供給可能な最大電力量。データセンターの急増により地域送電網が限界に達し、新規接続が拒否されたり遅延したりする事態が各地で発生している。
【技術主権】
国家が重要技術の開発・製造・供給を他国に依存せず、独自に確保・管理できる能力。半導体、AI、鉱物資源の分野で技術主権の確保が各国の戦略目標となっている。
【地熱発電】
地下の熱エネルギーを利用して発電する再生可能エネルギー。天候に左右されない安定した出力が特徴で、グーグルなどが先進的地熱技術に投資し、データセンター電源としての可能性を探っている。