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アフリカ経済の新しい地図を描く――「多様性」を再評価する時が来た

更新日:1月20日

シリーズ: 知新察来


◆今回のピックアップ記事:

McKinsey Global Institute, "Reimagining economic growth in Africa: Turning diversity into opportunity" (McKinsey & Company, 2023年6月5日)

  • 概要:アフリカの54カ国を、気候・地理・産業構造の類似性に基づいて8つの経済圏(アーキタイプ)に分類し、それぞれの強みを活かした成長戦略を提案。多様性を障害ではなく機会として捉え直し、2040年までに年間最大5,000億ドルの追加GDPを生み出す可能性を示唆。



富良野とPhronaが、マッキンゼー・グローバル・インスティテュートのレポートを手に取りました。そこには、これまで「課題」として語られてきたアフリカの多様性を、むしろ「機会」として捉え直す新しい視点が示されていました。54カ国、13億人、多様な気候帯、2,000以上の言語――この複雑さは本当に経済成長の障害なのでしょうか。


レポートが提示するのは、従来の「アフリカ全体」という括りを超えた、より細やかな経済圏の見取り図です。気候や地理、産業構造の類似性に基づいて8つの経済圏に分類し、それぞれの強みを活かした成長戦略を描いています。都市化が進む地域、農業の可能性を秘めた地域、資源に恵まれた地域――多様であることが、実は選択肢の豊かさを意味するのだとしたら。


二人は、この「多様性の経済学」が、アフリカだけでなく、私たちの地域や社会を見る眼差しそのものを問い直すのではないか、と考え始めます。




「アフリカ」というくくりを疑ってみる


富良野: このレポート、最初の問いかけからなかなか鋭いんですよね。「アフリカ」って一つの経済圏として語られることが多いけど、54カ国もあって、気候も産業も文化もバラバラなわけで。


Phrona:ああ、確かに。ヨーロッパを一つの経済圏として語るのと同じくらい、乱暴な話かもしれませんね。ノルウェーとギリシャを同じ戦略で扱うみたいな。


富良野: そうそう。で、このレポートは8つの経済圏、アーキタイプって呼んでるんですけど、それに分類してるんです。たとえば「都市化が進む沿岸部」とか「農業の潜在力が高い内陸部」とか。


Phrona:つまり、地理や気候、産業構造が似てる国同士をグループ化したわけですね。なるほど、それなら確かに戦略も立てやすそう。


富良野: ただね、これって単なる分類じゃなくて、見方の転換なんだと思うんです。これまで「多様性」って、どちらかというと課題として語られてきたじゃないですか。統一的な政策が取りにくいとか、市場が分断されてるとか。


Phrona:ああ、それを逆に機会として見るわけですか。多様だからこそ、選択肢がたくさんある、みたいな。


富良野: まさにそう。レポートのタイトルも「多様性を機会に変える」ですからね。で、面白いのは、この8つの経済圏それぞれに、独自の成長の道筋があるって示してるんです。


Phrona:一つのモデルを全体に当てはめるんじゃなくて、それぞれの強みを活かす、と。でも、実際にはどういう道筋なんですか?



8つの経済圏、それぞれの可能性


富良野: たとえば「都市化が進む沿岸部」のグループ。ナイジェリアとか南アフリカとかが入るんですけど、ここはもう都市人口が60%を超えてて、製造業やサービス業の基盤がある程度できてる。


Phrona:じゃあ、そこはさらに産業を多角化して、雇用を増やしていく方向ですかね。


富良野: そうですね。一方で「農業の潜在力が高い内陸部」っていうグループは、まだ都市化率が30%台で、農業が主要産業。でも土地や水資源は豊富なんです。


Phrona:そういう地域は、農業の生産性を上げて、そこから徐々に加工業や都市化につなげていく感じでしょうか。


富良野: まさに。で、レポートが強調してるのは、どちらが優れてるとか遅れてるとかじゃなくて、それぞれの段階に応じた戦略がある、ってことなんです。


Phrona:なるほどね。でも、気になるのは、こういう分類って、結局のところ誰が決めるんですか?外から見た便宜的な区分けに過ぎないんじゃないか、っていう疑問もありそうですけど。


富良野: 鋭い指摘ですね。確かに、気候や地理で分けるのは客観的なようでいて、実際にはその土地に住む人たちの感覚とはズレがあるかもしれない。文化的な境界線と経済的な境界線は、必ずしも一致しないし。


Phrona:でも、少なくとも「アフリカ全体」っていう大雑把なくくりよりは、解像度が上がってる気はしますよね。


富良野: そう、僕もそう思います。完璧な分類じゃないかもしれないけど、思考の出発点としては有用だと。



「一人当たりGDP」を超えて


Phrona:このレポート、面白いのは、成長を測る指標として「一人当たりGDP」だけじゃなくて、「家計消費」にも注目してるところですよね。


富良野: ああ、そこ重要です。一人当たりGDPって、国全体の経済規模を人口で割った数字だから、富が一部に集中してても高く出ちゃうんですよ。


Phrona:でも家計消費なら、実際に人々の生活がどれだけ良くなってるかが見えやすい、と。


富良野: そうです。レポートによると、2000年から2022年にかけて、アフリカの一人当たりGDPは年平均1.9%しか伸びてないんだけど、家計消費は3.5%伸びてる。


Phrona:へえ、それって結構な差ですね。つまり、経済成長の実感が、数字よりも実際にはあった、ということ?


富良野: まあ、そういう見方もできます。ただ、これって逆に言えば、成長の果実が必ずしも全体に行き渡ってるわけじゃないってことでもあるんですよね。都市部と農村部、富裕層と貧困層の間の格差が、むしろ広がってる可能性もある。


Phrona:ああ、そうか。家計消費が伸びてるのは、主に都市部の中間層が増えてるからで、取り残されてる人たちもいるかもしれない。


富良野: そこなんです。だから、どの指標を見るかで、見える景色が全然変わってくる。



気候変動という避けられない変数


Phrona:それにしても、このレポート、気候変動への言及がかなり多いですよね。経済成長の話なのに。


富良野: いや、それがもう避けられないんですよ。アフリカって、地球温暖化の影響を最も受けやすい地域の一つだって言われてて。


Phrona:具体的にはどういうこと?


富良野: たとえば、サハラ以南の多くの地域では、農業が主要産業だけど、降水パターンが変わってきてる。雨が降らなくなったり、逆に短期間で大量に降って洪水になったり。


Phrona:それって、農業の計画が立てられなくなるってことですよね。種を蒔く時期も、収穫の時期も、全部不確実になる。


富良野: そうです。で、レポートが提案してるのは、気候変動を前提にした農業への転換。干ばつに強い作物を育てるとか、灌漑システムを整備するとか。


Phrona:でも、そういうインフラ整備って、お金も時間もかかりますよね。しかも、気候変動を引き起こした原因は、主に先進国の産業活動なわけで。


富良野: まさにそこが倫理的なジレンマなんです。責任は主に先進国にあるのに、被害は途上国が受けてる。しかも、その途上国に「適応しろ」って言ってるわけですから。


Phrona:うーん、なんかモヤモヤしますね。でも、現実問題として、適応しないと生きていけないわけで。


富良野: そう、理不尽だけど待ったなし。だからこそ、先進国からの資金支援とか技術移転が必要なんだけど、それが十分に行われてるかっていうと、疑問符がつく。



地域統合の二面性


Phrona:レポートでは、地域統合の重要性も強調してますけど、これって具体的にどういうことなんですか?


富良野: 簡単に言うと、国境を越えて市場を統合しようってことです。アフリカ大陸自由貿易圏、AfCFTAって呼ばれてるんですけど、関税を下げて、人やモノの移動を自由にする。


Phrona:EUみたいなものですか?


富良野: 規模的にはそうですね。ただ、EUほど統合が進んでるわけじゃなくて、まだ始まったばかり。でも、理論上は13億人の市場が生まれるわけで、これは企業にとっても魅力的なんです。


Phrona:でも、国境を越えるって、そんなに簡単じゃないですよね。ビザの問題とか、通貨が違うとか、インフラが繋がってないとか。


富良野: そう、まさにそこが課題。レポートによると、今でもアフリカ域内の貿易は全体の15%程度しかない。残りは域外、主にヨーロッパやアジアとの貿易なんです。


Phrona:それって、逆に言えば、まだ伸びしろがあるってことでもありますよね。


富良野: その通り。ただ、地域統合って、いいことばかりじゃなくて。たとえば、競争力のある国の企業が、そうでない国の市場を席巻しちゃう可能性もある。


Phrona:ああ、国内産業が育たないまま、外からの企業に占領されちゃう、みたいな。


富良野: そうです。だから、統合を進めると同時に、各国が自分たちの産業を育てる政策も必要なんだけど、そのバランスが難しい。



デジタル化という飛び級の可能性


Phrona:あと、このレポートで印象的だったのは、デジタル化への期待ですね。固定電話を飛び越えて、いきなり携帯電話が普及したみたいな。


富良野: ああ、リープフロッグ効果ってやつですね。従来の発展段階を飛び越えて、最新技術を導入する。


Phrona:具体的には、どういうことが起きてるんですか?


富良野: たとえばモバイル決済。ケニアのM-Pesaが有名ですけど、銀行口座を持ってない人でも、携帯電話でお金のやり取りができる。これ、実は先進国よりも普及率が高かったりする。


Phrona:へえ、それは面白いですね。銀行のインフラがないから、逆に新しいシステムが受け入れられやすい、みたいな。


富良野: そうそう。レガシーシステム、古いシステムがないから、しがらみなく新しいものを導入できる。これは教育でも起きてて、オンライン学習とか、タブレット端末を使った授業とか。


Phrona:でも、それって前提として、電気とかインターネット回線が必要ですよね。


富良野: そこなんです。レポートも指摘してるんですけど、デジタル化の恩恵を受けられるのは、まだ都市部が中心で。農村部では、そもそも電気が通ってないとか、携帯の電波が届かないとか。


Phrona:デジタル・デバイド、っていうやつですね。技術が格差を埋めるどころか、逆に広げちゃう可能性もある。


富良野: まさに。だから、デジタル化を進めると同時に、インフラ整備も並行してやらないといけない。これがまた、莫大な投資が必要なんですけどね。



人口ボーナスの光と影


Phrona:それと、人口の話も気になりました。アフリカって、今後人口が増え続ける唯一の地域だって言われてますよね。


富良野: そうです。2050年には25億人に達するって予測されてて。で、重要なのは、その多くが若年層だってこと。


Phrona:人口ボーナス、ですか。働き手が増えて、経済が成長しやすくなる、っていう。


富良野: 理論上はそうなんです。ただ、これって両刃の剣で。若者が増えても、雇用がなければ、むしろ社会不安の原因になる。


Phrona:ああ、仕事がない若者が街に溢れたら、それはそれで大変ですよね。


富良野: そう。レポートが試算してるんですけど、2040年までに年間1,200万から1,600万人分の新規雇用を創出しないと、人口ボーナスどころか、むしろ負担になるって。


Phrona:それって、すごい数ですね。どうやって生み出すんですか?


富良野: 製造業の育成、サービス業の拡大、農業の近代化、いろんなアプローチがあるんだけど、どれも一朝一夕にはいかない。で、さらに言えば、雇用の質も重要で。


Phrona:質、というと?


富良野: ただ働けばいいってもんじゃなくて、ちゃんとした収入が得られて、スキルが身について、将来性がある仕事。インフォーマルセクター、非正規の仕事だけじゃ、持続的な成長にはつながらない。


Phrona:なるほど。人が増えることが、必ずしもプラスになるわけじゃなくて、その人たちをどう活かすかが勝負、ってことですね。



「多様性の経済学」が問いかけるもの


富良野: それで、このレポート全体を通して感じるのは、「多様性をどう扱うか」っていう、もっと根本的な問いなんですよね。


Phrona:というと?


富良野: つまり、多様性って、これまでは管理の対象、均質化すべきものって見られてきた側面があるじゃないですか。でも、このレポートは、多様性を活かすことが成長の鍵だって言ってる。


Phrona:ああ、なるほど。一つのモデルに全部を当てはめようとするんじゃなくて、それぞれの違いを認めた上で、それに合った戦略を取る、と。


富良野: そう。で、これって、アフリカだけの話じゃないと思うんです。どんな社会でも、地域や文化、産業の多様性があって、それを一律に扱おうとすると、どこかに無理が出る。


Phrona:確かに。日本だって、東京と地方じゃ全然状況が違うし、同じ政策が効くわけじゃない。


富良野: まさに。多様性を障害じゃなくて資源として見る、っていう視点の転換は、もっと広く応用できる考え方だと思うんですよね。


Phrona:でも、そうすると、政策を作る側は大変ですよね。一つのシンプルな答えがあるわけじゃなくて、それぞれの文脈に応じて考えないといけない。


富良野: そう、まさにそこが難しいんです。でも、逆に言えば、複雑さを複雑なまま扱う能力が、これからの政策立案には必要なんじゃないかって。


Phrona:複雑さを単純化するんじゃなくて、複雑さに付き合う、みたいな。


富良野: それが、このレポートの一番のメッセージかもしれない。


 

 

ポイント整理


  • 多様性の再評価

    • アフリカの54カ国を一つの経済圏として扱うのではなく、気候・地理・産業構造の類似性に基づいて8つの経済圏(アーキタイプ)に分類。多様性を障害ではなく、異なる成長戦略を可能にする機会として捉え直す視点を提示。

  • 8つの経済圏の特徴

    • 都市化が進む沿岸部(製造業・サービス業の拡大)、農業の潜在力が高い内陸部(農業生産性の向上)、資源豊富な地域(資源収入の多角化)など、それぞれの地域が異なる強みと課題を持ち、一律の開発モデルではなく地域特性に応じた戦略が必要。

  • 成長指標の複眼的視点

    • 一人当たりGDPは年平均1.9%の伸びに留まる一方、家計消費は3.5%の成長を示す。経済成長の実態を捉えるには、複数の指標を組み合わせた分析が不可欠であり、成長の果実が誰に届いているかを見極める必要がある。

  • 気候変動への適応

    • アフリカは気候変動の影響を最も受けやすい地域の一つ。降水パターンの変化が農業に深刻な影響を及ぼすため、干ばつに強い作物の導入や灌漑システムの整備など、気候変動を前提とした農業への転換が急務。先進国の責任と途上国の負担という倫理的ジレンマも存在。

  • 地域統合の課題と可能性

    • アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)により13億人規模の統一市場が形成される可能性がある一方、域内貿易は現在15%程度に留まる。国境を越えた人・モノの移動を促進しつつ、国内産業を保護育成するバランスが課題。競争力の差が新たな格差を生む可能性にも注意が必要。

  • デジタル化のリープフロッグ効果

    • 固定電話を飛び越えた携帯電話の普及、銀行口座を持たない層へのモバイル決済の浸透など、従来の発展段階を飛び越えて最新技術を導入する事例が見られる。ただし、都市部と農村部の間のデジタル・デバイド(電気、インターネット回線の有無)が新たな格差を生む懸念もある。

  • 人口ボーナスの両刃性

    • 2050年までに人口が25億人に達し、若年層が中心となる人口構造は経済成長の追い風となりうる一方、2040年までに年間1,200万から1,600万人分の新規雇用創出が必要。雇用の量だけでなく質(収入、スキル習得、将来性)も重要であり、インフォーマルセクターの仕事だけでは持続的成長につながらない。

  • 複雑さとの付き合い方

    • 多様性を一律のモデルで管理しようとするのではなく、それぞれの文脈に応じた政策を立案する能力が求められる。「複雑さを単純化する」のではなく「複雑さに付き合う」姿勢が、アフリカに限らず、あらゆる社会の政策立案において重要になる。



キーワード解説


アーキタイプ(経済圏の類型)】

気候、地理、産業構造などの共通特性に基づいて国や地域を分類したグループ。レポートではアフリカを8つのアーキタイプに分類。


AfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)】

2021年に発効したアフリカ大陸全体を対象とする自由貿易協定。関税削減と人・モノの移動自由化を目指す。


家計消費】

一般家庭が商品やサービスの購入に支出する金額の総計。一人当たりGDPよりも実際の生活水準を反映しやすい指標。


リープフロッグ効果】

従来の発展段階を飛び越えて、最新の技術やシステムを導入すること。途上国が固定電話を経ずに携帯電話を普及させた例など。


人口ボーナス】

総人口に占める生産年齢人口(15〜64歳)の割合が高まり、経済成長を促進する効果。ただし、雇用創出が追いつかない場合は逆効果になりうる。


デジタル・デバイド】

情報技術(インターネット、デジタル機器など)へのアクセスや利用能力における格差。都市部と農村部、富裕層と貧困層の間で顕著。


インフォーマルセクター】

政府に登録されていない非正規の経済活動。社会保障や労働保護の対象外となることが多く、雇用の質が課題。


気候変動適応】

気候変動の影響に対処するため、農業手法や生活様式を変更すること。干ばつに強い作物の導入や灌漑システムの整備など。



本稿は近日中にnoteにも掲載予定です。
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