top of page

サンリオの好調が証明する、ファンとの新しい関係性

更新日:19 時間前

 シリーズ: 書架逍遥


◆今回の書籍:David Meerman Scott, Reiko Scott 『Fanocracy: Turning Fans into Customers and Customers into Fans』(2020年)

  • 概要: デジタル時代における真の人間的つながりの重要性を説き、ファンを中心としたビジネス戦略の構築方法を提示。顧客を情熱的なファンに変える具体的手法を解説。



サンリオの株価がここ数年で数倍に成長し、高い水準を維持している。かつて子ども向けキャラクタービジネスの代名詞だった同社が、なぜ今、投資家からも高く評価されているのでしょうか。


一方で、ディズニーは苦戦し、日本の多くのコンテンツ企業もファンとの関係構築に悩んでいます。この差は一体どこから生まれるのか。


今回は、David Meerman ScottとReiko Scottの『Fanocracy』という本を手がかりに、富良野とPhronaが現代のIPビジネスとファンの関係について語り合います。企業がファンを愛することは可能なのか、それとも全ては計算なのか。サンリオの成功とディズニーの苦悩から、私たちの時代が直面している本質的な問いが浮かび上がってきます。




サンリオの変貌とファンの力


富良野:Phronaさん、最近サンリオが調子いいですよね。この『Fanocracy』を読んでいたら、まさにサンリオがやってることじゃないかって思ったんです。


Phrona:ああ、辻社長の改革ですよね。でも富良野さん、これって本当にファンを愛してるんでしょうか。それとも...


富良野:巧妙な計算?


Phrona:そう。だって、クロミちゃんを病みキャラとして再定義したり、ハローキティをストリートブランドとコラボさせたり。これって、大人の財布を狙った戦略にも見えるじゃないですか。


富良野:確かに。でも、結果的にファンは喜んでるんですよね。ピューロランドは聖地化してるし、推し活文化とも見事に融合してる。


Phrona:そこなんですよ。この本が言う、コントロールを手放すっていう考え方。サンリオは昔の厳格なブランド管理をやめて、ファンの解釈を受け入れた。それが今の成功につながってる。


富良野:でも、それって勇気いりますよね。キャラクターのイメージが崩れるリスクもあるのに。


ディズニーの苦悩と過度なコントロール


Phrona:その点、ディズニーは対照的ですよね。最近、ちょっと迷走してる感じがします。


富良野:政治的正しさを意識しすぎて、かえってファンが離れてるって話も聞きます。


Phrona:私、思うんですけど、ディズニーって二つの失敗を同時にやってるのかも。一方では、昔からのファンの声を無視して、新しい価値観を押し付けようとしてる。でも他方では、Disney+で大量にコンテンツを作って、特別感を薄めちゃってる。


富良野:ああ、過度なコントロールと過度な商業化の両方ですね。


Phrona:そう。この本でいう、必要以上に与えるっていうのとは違うんですよ。量は多いけど、ファンが本当に求めてるものとはズレてる。


富良野:入場料の値上げもそうですよね。短期的な収益は上がるかもしれないけど、ファンとの関係は...


Phrona:まさに、愛じゃなくて計算だけになっちゃった感じ。


IPビジネスの本質的なジレンマ


富良野:でも、これって難しいですよね。上場企業は株主に対する責任もあるし。


Phrona:そこが、この本が投げかけている根本的な問いなんだと思います。ファンを愛することと、利益を追求することは両立できるのかって。


富良野:サンリオの場合は、今のところうまくいってるように見えますけど。


Phrona:でもね、富良野さん。それって、たまたまファンの欲求と企業の利益が一致しただけかもしれない。もし、ファンが求めるものが利益にならなくなったら、企業はどうするんでしょう。


富良野:厳しい問いですね...。結局、企業である以上、利益を無視はできない。


Phrona:だから、純粋な愛なんてないのかもしれない。でも、それでいいのかも。


富良野::というと?


新しい関係性の可能性


Phrona:私たちの日常の関係だって、完全に無償じゃないでしょう。友達と会うのだって、楽しい時間を過ごしたいっていう期待があるし。


富良野:確かに。純粋な利他主義なんて、現実にはほとんどない。


Phrona:だから、企業とファンの関係も、お互いにメリットがある形でいいんじゃないかな。問題は、そのバランスと透明性だと思うんです。


富良野:透明性?


Phrona:そう。サンリオは、ビジネスであることを隠してない。でも同時に、ファンの創造性も大切にしてる。その正直さが、かえって信頼を生んでるのかも。


富良野:なるほど。愛を装うより、ビジネスとしての側面も認めた上で、でもファンを大切にするって姿勢の方が本物っぽく感じられるのかな。


日本のIPビジネスの未来


Phrona:この本の考え方、日本のIPビジネスには特に重要かもしれませんね。日本って、もともと二次創作文化が強いし。


富良野:でも、多くの企業はまだ厳格な管理をしてる。ゲーム実況とか、グレーゾーンのまま。


Phrona:もったいないですよね。ファンの創造力を活かせば、もっとIPが広がるのに。


富良野:ただ、どこまで自由にするかは難しい。初音ミクみたいに最初から開放的なIPもあれば、厳格に管理すべきIPもある。


Phrona:そう、画一的な答えはないんですよね。それぞれのIPの性質と、ファンコミュニティの文化を理解して、最適なバランスを見つける必要がある。


富良野:この本が言う3.6メートルの法則も興味深いですよね。物理的な距離の重要性。


Phrona:デジタル時代だからこそ、リアルな体験の価値が上がってる。ピューロランドの成功も、まさにそれかも。


問いは続く


富良野:結局、ファンを愛することと利益を追求することの関係って、どう考えればいいんでしょう。


Phrona:答えは一つじゃないと思います。でも、少なくとも、その緊張関係から目を背けないことが大切なんじゃないかな。


富良野:サンリオの成功も、いつまで続くかわからないですしね。


Phrona:そう。でも、だからこそ面白いんだと思います。企業もファンも、常に関係性を更新し続ける。その動的なプロセスこそが、現代のIPビジネスの本質なのかもしれない。


富良野:固定的な答えを求めるんじゃなくて、問い続けることが大切ってことですね。


Phrona:ええ。この本が提起している問題は、簡単には解決しない。でも、だからこそ、考え続ける価値があるんだと思います。




ポイント整理


  • ファノクラシーの実践例

    • サンリオは厳格なブランド管理から脱却し、ファンの創造性を受け入れることで大きな成功を収めた。一方、ディズニーは過度なコントロールと商業化で苦戦している。

  • コントロールを手放す勇気

    • IPホルダーが完全な管理を諦め、ファンに創造の自由を与えることで、IPの価値と生命力が拡大する可能性がある。ただし、どこまで自由を許容するかの線引きは難しい。

  • 物理的体験の重要性

    • デジタル時代においても、テーマパークやイベントなど、リアルな体験の価値は減じない。人間の脳が3.6メートル以内で最も強い感情的つながりを感じるという生物学的事実は、IPビジネスにも応用できる。

  • 透明性のある関係構築

    • 企業がビジネスであることを隠さず、しかしファンを大切にする姿勢を示すことで、偽善的でない信頼関係が構築できる。

  • 日本のIPビジネスの可能性

    • 二次創作文化が根付いている日本は、ファノクラシー的アプローチと親和性が高い。ただし、各IPの性質に応じた最適なバランスを見つける必要がある。

  • 動的な関係性の重要性

    • 企業とファンの関係は固定的なものではなく、常に更新し続ける動的なプロセス。この緊張関係を受け入れることが、持続可能なIPビジネスの鍵となる。



キーワード解説


【ファノクラシー(Fanocracy)】

ファンを中心に据えたビジネス戦略と組織運営


【IPビジネス】

知的財産(キャラクター、物語等)を活用したビジネス


【二次創作】

ファンによる原作を基にした創作活動


【推し活】

特定のキャラクターや人物を応援する活動


【ブランド管理】

企業がブランドイメージをコントロールすること


【ファンコミュニティ】

共通の興味を持つファンの集まり


【体験型マーケティング】

物理的な体験を通じた顧客との関係構築


【クリエイター・エコノミー】

創作者が直接ファンと繋がる経済圏



本稿は近日中にnoteにも掲載予定です。
ご関心を持っていただけましたら、note上でご感想などお聞かせいただけると幸いです。
bottom of page