top of page

ヨーロッパに開かれた歴史的な「窓」──防衛債券がもたらす連邦制への道

更新日:2025年11月28日

シリーズ: 知新察来


◆今回のピックアップ記事:Carlo Martuscelli "Europe is going full 1790s America"(POLITICO, 2025年3月17日)

  • 概要:トランプ大統領の就任とロシアの脅威を背景に、EUが防衛目的で1500億ユーロの共同債券発行を計画。これはアメリカの「ハミルトニアン・モーメント」に匹敵する、EUの連邦制への転換点になる可能性があるとする分析記事。



トランプ大統領の復活とロシアの脅威を前に、ヨーロッパが大きな岐路に立っています。EUが防衛のために共同債券を発行する―それは単なる財政措置を超えて、ヨーロッパの未来そのものを変えるかもしれません。


アメリカ建国時、アレクサンダー・ハミルトンが各州の債務を連邦債券として統合し、バラバラだった州を一つの国家へと導いた「ハミルトニアン・モーメント」。今、EUにも同じような歴史的転換点が訪れようとしています。1500億ユーロという巨額の共同債券発行計画は、単に武器を買うためのお金の話ではありません。それは「ヨーロッパとは何か」という根本的な問いに対する、新しい答えなのかもしれません。




防衛と債券―危機が生む統合の皮肉


富良野:このPOLITICOの記事、EUが防衛のために共同債券を発行するって話なんですけど、これをアメリカ建国時の「ハミルトニアン・モーメント」になぞらえているんです。


Phrona:ハミルトニアン・モーメント?それって、アメリカの初代財務長官が各州の債務をまとめて連邦債券にしたっていう、あの話ですか。


富良野:そうです、まさにそれ。1790年のことですね。当時のアメリカはまだバラバラの州の寄せ集めだったんですけど、ハミルトンが各州の戦争債務を連邦政府が引き受けることで、実質的に一つの国家として統合されていった。今回のEUの動きも、それに似てるんじゃないかって。


Phrona:なるほど、でも面白いのは、きっかけがトランプさんの復活とロシアの脅威っていう、外からの圧力だってことですよね。自分たちで積極的に統合しようっていうより、追い込まれて…っていうか。


富良野:確かに。記事の中でベルギーの経済学者が言ってますけど、「頭に銃を突きつけられたら考えも変わる」って。実際、ドイツなんかこれまで財政規律にうるさかったのに、今回は賛成に回ってますから。


Phrona:でも、それって悪いことばかりじゃないかもしれませんよ。歴史を見ると、大きな制度変革って、むしろ危機の時に起きることが多いじゃないですか。平和な時には誰も現状を変えたがらない。


戦争と金融―歴史は繰り返す?


富良野:記事で面白いのは、イングランド銀行の設立も戦争がきっかけだったって指摘ですね。1694年、対フランス戦争のために作られた。


Phrona:へえ、そうなんだ。じゃあ、お金の仕組みって、結構戦争と密接に結びついてるんですね。


富良野:フランスの中央銀行も1800年に設立されて、ナポレオン戦争の資金調達に使われたそうです。つまり、近代国家の金融システムそのものが、戦争という非常事態から生まれてきたっていう。


Phrona:うーん、ちょっと皮肉な話ですね。平和のための統合を目指してきたEUが、結局は戦争の脅威によって本当の意味で統合に向かうなんて。


富良野:でも、考えてみれば、EUの前身であるヨーロッパ石炭鉄鋼共同体だって、第二次世界大戦の反省から生まれたわけですから。ヨーロッパ統合の歴史って、常に戦争の影がちらついてるんですよ。


Phrona:そうか、そう考えると、今回の動きも大きな流れの中の一つなのかも。ただ、私が気になるのは、こういう上からの統合が本当に人々の心に響くのかってことなんです。


共同債券は何を変えるのか


富良野:1500億ユーロって、ロシアの2025年の軍事予算全体を上回る規模なんですよ。これだけの金額を共同で調達するってことは、もう後戻りできない変化かもしれません。


Phrona:でも富良野さん、お金を借りるのはいいとして、誰が返すんですか?結局は各国が返済するんでしょう?


富良野:そこがポイントなんです。今回は融資という形で、各国が借りたお金は各国が返す。でも、記事によると、いずれEUレベルでの課税権が必要になるかもしれないって。


Phrona:え、EUが直接税金を取るようになるってこと?それこそ連邦国家じゃないですか。


富良野:まさに。でも全会一致が必要だから、ハンガリーのオルバン首相みたいなEU懐疑派がいる限り、簡単じゃないでしょうね。


Phrona:でも、一度始まった流れは止められないっていう指摘もありますよね。「魔法のランプから出た精霊は、もう瓶に戻せない」って。


富良野:コロナ対策でも共同債券を発行しましたけど、あれは一回限りの緊急措置だった。でも防衛は長期的な課題ですから、性質が違いますよね。


ヨーロッパの未来―統合か分裂か


Phrona:私、ふと思ったんですけど、これって本当にヨーロッパの人たちが望んでる未来なんでしょうか。確かに安全保障は大事だけど、各国のアイデンティティとか、文化の多様性とか、そういうものはどうなるんだろう。


富良野:難しい問題ですね。記事では「完全に新しいEU」って表現してますけど、それが良いことなのか悪いことなのか…


Phrona:アメリカの例を見ると、確かに強い連邦国家になったけど、同時に各州の独自性もある程度保たれてますよね。EUもそういうバランスを見つけられるのかな。


富良野:ただ、ヨーロッパの場合は言語も文化も歴史もバラバラですからね。アメリカよりずっと複雑です。


Phrona:でも、だからこそ面白い実験なのかもしれません。多様性を保ちながら、どこまで統合できるのか。21世紀の新しい国家のあり方を示せるかもしれない。


富良野:そうですね。トランプ大統領やプーチン大統領は、結果的にヨーロッパ統合の触媒になってるのかもしれません。歴史の皮肉というか。


Phrona:ええ、外圧が内部の結束を生むっていうのは、よくある話ですものね。問題は、その結束が本物かどうか、危機が去った後も続くかどうかですけど。



 

ポイント整理


  • トランプ大統領の就任からわずか6週間で、欧州委員会は1500億ユーロの共同債券発行計画を発表。この金額はロシアの2025年軍事予算全体を上回る規模

  • 従来は共同債券に反対していたドイツが賛成に転じたことで、EU内の力学が大きく変化。財政規律重視から防衛投資重視へのパラダイムシフトが起きている

  • この動きは、アレクサンダー・ハミルトンが1790年に各州の債務を連邦債券に統合し、アメリカの連邦制を確立した「ハミルトニアン・モーメント」になぞらえられている

  • 歴史的に見ると、イングランド銀行(1694年)もフランス中央銀行(1800年)も戦争資金調達のために設立された。金融制度と戦争には密接な関係がある

  • 今回の債券は各国への融資という形を取るが、将来的にはEUレベルでの課税権確立が必要になる可能性があり、これは真の連邦制への道筋となりうる

  • コロナ対策での共同債券は一時的措置だったが、防衛は長期的課題であり、一度始まった統合の流れは後戻りが困難

  • EU条約が掲げる「より緊密な統合」という理念が、皮肉にも外部の脅威によって現実化しつつある



キーワード解説


ハミルトニアン・モーメント

アメリカ建国初期の転換点。各州の債務を連邦化することで国家統合を実現した歴史的出来事


共同債券(ジョイントボンド)

EU加盟国が共同で発行する債券。従来は各国が個別に国債を発行していた


債務ブレーキ(デットブレーキ)

ドイツの財政規律。憲法で政府の借金を制限する仕組み


欧州委員会】

EUの行政執行機関。法案の提案権を持ち、EU全体の利益を代表する


財政規律

政府の支出と収入のバランスを保つルール。EUでは加盟国に厳しい基準を課している


連邦制

中央政府と地方政府が権限を分け合う統治システム。アメリカやドイツが代表例


ブリューゲル(Bruegel)

ブリュッセルに本拠を置く経済シンクタンク



本稿は近日中にnoteにも掲載予定です。
ご関心を持っていただけましたら、note上でご感想などお聞かせいただけると幸いです。
bottom of page