top of page

若者が街に出るとき――Z世代デモが政治を揺さぶる理由

更新日:1月24日

シリーズ: 知新察来


◆今回のピックアップ記事:Clara Fong, "How Global Gen Z Protests Have Shocked and Transformed Governments" (Council on Foreign Relations, 2025年11月20日)

  • 概要: 2019年以降、世界各地で若者主導の抗議運動が活発化し、政権交代や制度変革を引き起こしてきた経緯を分析。SNSの役割、非暴力戦術の有効性、そして運動が長期的な政治参加につながる可能性を検討している。



スマホ世代は政治に無関心だと言われてきた。けれど、2010年代半ば以降、世界のあちこちで10代20代が街頭に繰り出し、政権を退陣に追い込んだり、制度を変えたりする出来事が続いている。香港の雨傘運動、アメリカのBlack Lives Matter、韓国のキャンドル集会、チリの地下鉄料金値上げ抗議、スリランカの経済危機デモ、そしてイランの女性たちによる抵抗――。


これらの運動には共通点がある。SNSで拡散され、リーダーがはっきりしないまま広がり、既存の政党や組合とは距離を置く。彼らは単なる「怒り」だけで動いているのではない。むしろ、制度への深い失望と、それでも変化を信じる意志が混ざり合っている。


富良野とPhronaは、この現象をどう読み解くのか。世代論で片づけるには複雑すぎる動きの背後に、何が起きているのだろう。




街頭に現れた「声なき世代」


富良野:2019年って、振り返るとすごい年だったんですよね。香港、チリ、レバノン、イラク……同時多発的に若い人たちがデモに出た。しかもそれが一過性じゃなくて、翌年以降も続いていく。


Phrona:あの時期、ニュースで見るたびに驚いたな。しかも、どこも似たような光景なんですよね。スマホで撮影して、SNSで拡散して、リーダーがいないまま人が集まっていく。


富良野:いわゆるリーダーレス運動ですね。従来の政治運動って、労働組合とか学生組織とか、何かしらの既存団体が主導することが多かった。でもZ世代のデモはそういう構造が見えにくい。


Phrona:見えにくいっていうか、意図的に作ってない感じもしますよね。組織があると、そこが標的にされちゃうから。


富良野:まさに。権力側からすると、誰と交渉すればいいか分からない。だから弾圧しても運動が消えない。むしろSNSで広がるから、抑え込むのがすごく難しくなる。


Phrona:でも、それって新しいようで、実は昔からあった形でもあるんじゃないですか?民衆が自然発生的に集まるっていう。


富良野:たしかに。ただ、今回のポイントは「スピードと規模」なんですよ。SNSがあることで、一晩で数万人が動員できる。それも国境を越えて影響し合う。香港のデモのやり方が、チリで参照されたりしてる。


Phrona:ああ、レシピみたいに共有されていくんだ。


富良野:そう。ただ、だからこそ、中身が薄くなるリスクもあるんですけどね。



非暴力と創造性――なぜ力ずくじゃないのか


Phrona:記事の中で気になったのが、非暴力抵抗の話。Z世代の運動って、意外と暴力的じゃないんですよね。むしろ、歌ったり踊ったり、ユーモアを使ったりしてる。


富良野:エリカ・チェノウェスっていう研究者の分析が有名で、非暴力運動のほうが成功率が高いっていうデータがあるんですよ。暴力を使うと、一般市民が引いちゃう。でも非暴力なら、共感が広がりやすい。


Phrona:なるほど。でも、非暴力って我慢がいるじゃないですか。特に相手が暴力で来るときに。


富良野:そうなんです。だから戦術が重要になる。たとえば、警察が催涙弾を撃ってきたら、それを撮影して拡散する。暴力の非対称性を可視化することで、世論を味方につける。


Phrona:ある意味、カメラが武器になってるんだ。


富良野:正確にはそうですね。ただ、これも諸刃の剣で、権力側も同じ手法を使い始めてる。フェイクニュースとか、監視カメラで参加者を特定するとか。


Phrona:うーん、技術が平等に使えるわけじゃないんですね。資源の差がそのまま出る。


富良野:そうなんです。だから、運動が持続するかどうかは、技術だけじゃなくて、どれだけ多様な人を巻き込めるかにもかかってくる。



デモは終わっても、何かが変わるのか


Phrona:この記事で面白いのは、運動の「その後」を追ってる点ですよね。デモで政権が倒れても、次の政治がうまくいくとは限らない。スリランカの例とか、大統領が逃げ出したけど、結局また元の政治家の家族が戻ってきた。


富良野:構造が変わってないんですよね。デモは瞬間的に強いけど、持続的な制度変革にはつながりにくい。それがジレンマです。


Phrona:じゃあ、あの熱量は何だったの?って思っちゃいますよね。


富良野:いや、でもそこは簡単に割り切れない部分で。たとえば韓国のキャンドル集会は、朴槿恵大統領を退陣させた。その後の政権交代は、少なくとも民主的プロセスを通じて起きた。


Phrona:つまり、デモそのものが民主主義の訓練になってる?


富良野:そう見ることもできる。運動に参加した人たちが、その後も投票に行ったり、地域で活動したりする。そういう長期的な変化が、実は重要なのかもしれない。


Phrona:ただ、それって測りにくいですよね。何年後に効果が出るのか、分からない。


富良野:その通りです。だから支援する側も難しい。すぐに結果が見えないから、資金が続かなかったり、メディアが飽きたりする。



誰が運動を「担う」のか――ジェンダーと見えない労働


Phrona:もうひとつ気になったのが、女性の役割。記事には明示されてないけど、Z世代デモの多くで女性がすごく活発に動いてる。


富良野:イランのマフサ・アミニさんの事件をきっかけにした抗議とか、まさに女性が中心でしたよね。


Phrona:ええ。でも、運動が盛り上がってる最中は女性が前に出るのに、政治的な交渉の場になると男性が代表になったりする。


富良野:それ、すごくありがちなパターンです。運動の「感情労働」は女性が担って、制度化の段階で男性が前に出る。


Phrona:感情労働って、ケアとか、場をつなぐこととか、そういうやつですよね。


富良野:そうです。デモの現場で水を配るとか、怪我人を手当てするとか、SNSで励まし合うとか。そういう目に見えにくい仕事が、実は運動を支えてる。


Phrona:でも評価されにくい。


富良野:されにくいですね。だから、運動が成功しても、女性の政治参加が増えるわけじゃない。構造的な問題がそのまま残る。


Phrona:じゃあ、運動のデザイン自体を変えないとダメなのかな。意思決定の場に最初から女性を入れるとか。


富良野:理想的にはそうですね。ただ、リーダーレスな運動だと、そもそも誰が意思決定してるのか曖昧になる。だから余計に難しい。



デジタルとリアル――街頭の意味は変わったのか


Phrona:SNSの話に戻りますけど、デモって今でも街頭でやる意味があるんですかね。オンラインで署名集めたり、ハッシュタグ運動したりするだけじゃダメなの?


富良野:それ、すごく本質的な問いですね。実際、オンライン運動だけで政策が変わった例もある。でも、やっぱり物理的に人が集まることには意味があると思いますよ。


Phrona:どういう意味で?


富良野:まず、視覚的なインパクト。数千人が広場に集まってる映像って、オンラインの数字とは違う重みがある。それが政治家にプレッシャーをかける。


Phrona:ああ、無視できなくなるんだ。


富良野:そうです。あと、参加者自身にとっても、街頭に出ることで「自分も歴史の一部だ」っていう感覚が生まれる。それが次の行動につながる。


Phrona:共同体験としての価値ってことですね。


富良野:まさに。ただ、リスクもあって。権力側が監視カメラで参加者を特定して、後から報復するケースも増えてる。


Phrona:だから香港では、みんなマスクしてたんですね。


富良野:そう。アノニマス性をどう守るかが、現代の運動では大きなテーマになってる。デジタルとリアルの両方で。



変わらない構造と、それでも続く試み


Phrona:結局、Z世代のデモって、世界を変えたんでしょうか。


富良野:部分的には、間違いなく変えてますよ。政権を倒したり、法律を変えたり、具体的な成果はある。でも、根本的な構造――経済格差とか、腐敗とか――はそう簡単には変わらない。


Phrona:だから、また次のデモが起きる。


富良野:そういうことです。でも、それを「失敗」と見るか、「継続的な挑戦」と見るかで、評価は変わってくる。


Phrona:継続的な挑戦か……なんか、終わりがないですね。


富良野:終わりがないっていうか、民主主義自体がそういうものなのかもしれない。一度決まったら終わりじゃなくて、常に問い直し続ける。


Phrona:それって疲れません?


富良野:疲れますよ。だから、どうやって持続可能にするかが課題なんです。燃え尽きない仕組み、次の世代につなげる仕組み。


Phrona:でも、そういう「仕組み」を作ろうとすると、また組織化されちゃって、リーダーレスじゃなくなる。


富良野:そこがジレンマですね。自由さを保ちながら、持続性も持つ。その両立は、まだ誰も答えを見つけてない気がします。



世代論を越えて――何が本当に違うのか


富良野:最後に、これを「Z世代の特徴」として片づけていいのか、っていう問題がありますよね。


Phrona:ああ、世代論で語るなっていう。


富良野:語るなとまでは言わないけど、注意は必要。実際、60年代にも学生運動があったし、80年代にも民主化運動があった。若者が街に出るのは、別に今に始まったことじゃない。


Phrona:じゃあ何が違うんですか、今回は。


富良野:技術環境が違う。それと、経済的な閉塞感の質が違うかもしれない。かつては「頑張れば報われる」って信じられた。でも今は、頑張っても報われない感覚が広がってる。


Phrona:だから制度そのものを疑う。


富良野:そうです。あと、気候変動みたいな長期的脅威が、若い世代にとってはリアルな問題になってる。それも背景にある。


Phrona:つまり、世代じゃなくて、時代の問題?


富良野:世代と時代が重なってる、っていうのが正確かな。Z世代だからこうだ、じゃなくて、この時代に若者であることの意味が問われてる。


Phrona:それって、次の世代も同じ問題を引き継ぐってことですよね。


富良野:残念ながら、たぶんそうです。だからこそ、今起きてることをちゃんと記録して、学びを次につなげないといけない。


 

 

ポイント整理


  • 2019年以降、世界各地でZ世代主導の抗議運動が活発化

    • 香港、チリ、レバノン、イラク、スリランカ、イランなど、地域を越えて若者が街頭デモに参加。従来の政治運動とは異なる特徴を持つ。

  • リーダーレスな運動構造

    • SNSを通じて自然発生的に広がり、明確な指導者や組織が不在。このため権力側が交渉相手を特定しにくく、弾圧が困難になる一方、持続的な制度変革につなげにくい課題も。

  • 非暴力戦術の有効性

    • エリカ・チェノウェスらの研究によれば、非暴力抵抗は暴力的手段より成功率が高い。一般市民の共感を得やすく、広範な支持を集めることができる。創造性やユーモアを活用した抗議手法が特徴的。

  • デジタル技術と街頭行動の相互作用

    • SNSは動員やメッセージ拡散に不可欠だが、物理的に街頭に集まることの象徴的・心理的意義は依然として大きい。ただし監視技術の発達により、参加者の匿名性確保が新たな課題に。

  • 運動の「その後」の課題

    • デモで政権交代や法改正を実現しても、根本的な経済構造や腐敗は容易に変わらない。スリランカのように、運動後に旧体制が復活するケースも。長期的な政治参加への移行が重要。

  • ジェンダーと見えない労働

    • 運動の現場では女性が積極的に参加するが、交渉や制度化の段階で男性が前面に出る傾向。感情労働やケア労働など、評価されにくい貢献が運動を支えている。

  • 世代論を越えた構造的理解の必要性

    • Z世代の特性だけで説明するのではなく、経済的閉塞感、気候変動への危機感、既存制度への不信など、時代背景との相互作用を理解することが重要。

  • 持続可能性とバーンアウトのジレンマ

    • 高い熱量で始まる運動をどう持続させるか。組織化すれば弾圧の標的になり、自由なままでは制度変革が困難。この矛盾をどう乗り越えるかが未解決の課題。



キーワード解説


Z世代】

概ね1990年代半ばから2010年代初頭に生まれた世代。デジタルネイティブとして育ち、SNSを日常的に使用。


リーダーレス運動】

明確な指導者や中央組織を持たず、分散的に展開される社会運動の形態。


非暴力抵抗】

物理的暴力を用いずに政治的目標を達成しようとする抗議手法。座り込み、ボイコット、市民的不服従など。


エリカ・チェノウェス】

非暴力抵抗運動の成功率に関する実証研究で知られる政治学者。暴力的手段より非暴力的手段のほうが政権転覆に成功しやすいことを示した。


SNS動員】

ソーシャルメディアを通じて短時間に大規模な参加者を集める手法。情報拡散が速く、国境を越えた連帯が可能。


監視資本主義】

デジタル技術を用いた個人データの収集・分析が経済活動の中心となる社会システム。権力側による運動参加者の特定にも利用される。


感情労働】

対人サービスにおいて自分の感情をコントロールし、相手に特定の感情を引き起こすことを目的とした労働。運動の文脈では、参加者のケアやコミュニティ維持などを指す。


制度変革】

一時的な政権交代ではなく、法制度や政治構造そのものを変えること。デモの成果を持続的なものにするための課題。


デジタル・リアルのハイブリッド運動】

オンラインでの情報共有・組織化と、街頭での物理的動員を組み合わせた現代的な社会運動のあり方。


バーンアウト】

運動への参加による精神的・身体的疲労が蓄積し、活動継続が困難になる状態。持続可能な運動のデザインが必要とされる。



本稿は近日中にnoteにも掲載予定です。
ご関心を持っていただけましたら、note上でご感想などお聞かせいただけると幸いです。
bottom of page