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金価格を動かす見えない糸──テザーという巨大な謎

シリーズ: 知新察来


◆今回のピックアップ記事:Mike Dolan "Has gold been Tethered?" (Reuters, 2025年11月25日)

  • 概要:金価格とステーブルコイン「テザー(USDT)」の供給量の間に相関係数0.92という極めて高い連動性があることを報じた記事。テザー社自身の金購入、中国からの資本規制回避、ロシアの制裁回避、新興国の通貨不安など、複数の要因が複雑に絡み合っている可能性を指摘。一方で因果関係を疑問視する声もあり、市場の見解は分かれている。



昨年から今年にかけて金価格は史上最高値を更新し続けました。その裏側で、市場関係者の間である奇妙なパターンが囁かれています。暗号資産「テザー」の発行量が増えると金価格が上昇し、発行量が減ると金価格も下落する。相関係数は0.92──統計的にはほぼ完璧な連動です。


テザーは1ドルと等価を保つステーブルコインで、時価総額は1320億ドルに達する。その発行会社は2023年、突如として35億ドル相当の金を保有していると発表しました。どこで買ったのか、どこに保管しているのか、詳細は明かされていません。一方で、中国やロシアからの資金がテザーを経由して金市場に流れ込んでいるという指摘もあります。


富良野とPhronaが、この不可解な相関関係の背後にある複数の可能性を探っていきます。市場を動かしているのは、テザー社なのか、それとも制裁と規制を回避しようとする世界中の資金なのか。




0.92という数字の意味


富良野:Phronaさん、ちょっと面白い、というか不気味なデータがあるんですよ。金価格とテザーっていうステーブルコインの供給量、相関係数が0.92なんです。


Phrona:0.92って、ほぼ完璧な連動ですよね。偶然でそんな数字、出ないんじゃないですか。


富良野:普通は出ないですね。しかもこれ、2024年の金価格の上昇を説明する要因として、かなり強力らしい。伝統的な説明要因、たとえば中央銀行の買い入れとか金利動向とかよりも、テザーとの相関の方が高いって。


Phrona:でも、テザーって暗号資産ですよね。金とは全然違う世界のものなのに、なんでそんなに連動するんでしょう。


富良野:それが謎なんです。で、この記事ではいくつかの仮説が提示されてる。一つは、テザー社自身が金を買ってるんじゃないかって話。


Phrona:テザー社が? なんのために?


富良野:準備資産としてです。テザーは1ドルとの等価を保つために、それに見合う価値の資産を持ってなきゃいけない。で、2023年の第1四半期に突然、金を15億ドル分持ってるって発表したんです。


Phrona:突然、ですか。それまでは持ってなかった?


富良野:少なくとも公表してなかった。で、その年の終わりには35億ドルに増えてた。わずか数ヶ月で倍以上に増やしてる。


消えた金の行方


Phrona:35億ドル分の金って、相当な量ですよね。どこで買ったんでしょう。


富良野:それが分からないんです。記事によると、どこで購入したのか、どこに保管してるのか、テザー社は詳細を明かしてない。


Phrona:えっ、35億ドルも金を買ったのに、どこで買ったか言わないんですか。


富良野:言わない。で、金市場の関係者も首を傾げてる。そんな大量の金が動いたら、普通は市場で話題になるはずなのに、誰もそれを見てないって。


Phrona:見えない金、ですか。なんだか不気味ですね。


富良野:ええ。で、さらに不思議なのは、テザーの時価総額が1320億ドルもあるのに、金は35億ドル分しか持ってないって公表してること。全体の3%以下です。


Phrona:じゃあ残りは何で持ってるんですか。


富良野:主に米国債と現金、あとは企業向け貸付とか。でも、詳細な内訳は不透明。監査も限定的で、外部から検証するのが難しい。


Phrona:透明性がないんですね。でも、それで1320億ドルもの信頼を得てるって、ちょっとおかしくないですか。


富良野:おかしいです。でも、暗号資産市場ではテザーが事実上の標準決済手段になってて、それに代わるものがない。だから、疑問があっても使い続けるしかない。


中国という巨大な影


Phrona:でも富良野さん、テザー社が金を買ってるだけじゃ、0.92っていう高い相関は説明できないんじゃないですか。35億ドルって、金市場全体から見ればそこまで大きくない。


富良野:鋭い指摘です。実は、もう一つ大きな要因があるんです。中国です。


Phrona:中国?


富良野:ええ。中国では資本規制が厳しくて、人民元を自由にドルに換えたり、海外に送金したりできない。1人年間5万ドルまでって制限がある。


Phrona:それで、その制限を回避するためにテザーを使う、と。


富良野:そう。人民元でテザーを買って、そのテザーで金を購入する。テザーは国境を越えて動かせるし、暗号資産だから当局の監視も逃れやすい。


Phrona:でも、それって違法なんじゃないですか。


富良野:グレーゾーンですね。中国政府は暗号資産取引を禁止してるけど、実際には地下で大規模に行われてる。香港経由とか、海外の取引所を使うとか、いろんな抜け道がある。


Phrona:規制があっても、それを回避する動きの方が強い。


富良野:ええ。で、記事によると、中国の富裕層や企業が資産を守るために、この経路を使ってる可能性が高い。人民元の先行きに不安があるから、ドルペッグのテザーに換えて、さらに金に移す。


ロシアという別の流れ


Phrona:中国だけじゃないんですよね。記事ではロシアのことも触れてましたよね。


富良野:そう、ロシアも重要な要因です。ウクライナ侵攻後、ロシアは厳しい経済制裁を受けてて、国際的な金融システムから切り離されてる。


Phrona:SWIFTから排除されたって話ですね。


富良野:ええ。で、制裁を回避する手段として、暗号資産が使われてる。特にテザーは、ロシアの貿易決済にも使われてるって報告があります。


Phrona:制裁を迂回する道具になってるんですね。


富良野:そう。で、ロシアの資金もテザーを経由して金に流れてる可能性がある。ロシアは伝統的に金の大産出国だし、金への親和性も高い。


Phrona:つまり、中国とロシア、二つの大きな流れがある、と。


富良野:ええ。どちらも、公式な金融システムを使えない、あるいは使いたくない事情がある。で、テザーがその「抜け道」になってる。


Phrona:地政学的な緊張が、暗号資産市場を通じて金市場に影響してる。複雑ですね。


新興国という第三の層


富良野:さらに、新興国全般の要因もあります。


Phrona:新興国?


富良野:ええ。自国通貨が不安定な国では、ドルが不足してる。で、ドルを手に入れる代わりに、テザーを使うんです。


Phrona:テザーは1ドルと等価だから、ドルの代わりになる、と。


富良野:そういうことです。で、テザーを手に入れたら、それで金を買う。金なら価値が保存できるし、自国通貨のインフレからも逃れられる。


Phrona:つまり、世界中の通貨不安が、テザーを経由して金に向かってる。


富良野:そう見ることもできます。アルゼンチンとか、トルコとか、高インフレに苦しんでる国では、こういう動きが顕著らしい。


Phrona:でも、それって各国の金融政策を骨抜きにしてませんか。中央銀行が自国通貨を守ろうとしても、人々が暗号資産に逃げちゃう。


富良野:まさにそう。だから各国政府は暗号資産を規制しようとするけど、規制すればするほど地下に潜るだけで、実態が見えなくなる。


トレーダーたちの「発見」


Phrona:でも富良野さん、こういう複雑な要因が絡み合ってるとして、なんで相関係数が0.92なんていう、ほぼ完璧な数字になるんでしょう。


富良野:それが面白いところで、実は市場のトレーダーたちがこのパターンに気づいて、取引に利用し始めてるらしいんです。


Phrona:パターン取引、ですか。


富良野:ええ。テザーの新規発行が発表されると、金を買う。テザーが償却されると、金を売る。そういうアルゴリズム取引が増えてる。


Phrona:つまり、相関自体が相関を強化してる。


富良野:そう、自己実現的な予言みたいなものです。最初は何らかの理由で相関があった。で、それに気づいたトレーダーがその相関を利用して取引する。すると相関がさらに強くなる。


Phrona:フィードバックループですね。原因と結果が循環してる。


富良野:まさに。だから、元々の因果関係がどうであれ、今では市場の行動パターン自体が相関を作り出してる部分もある。


Phrona:でも、それって脆くないですか。何かのきっかけでパターンが崩れたら、相関も一気に崩壊する。


富良野:そのリスクはあります。実際、記事の中でも懐疑的な声が紹介されてて、「これは偶然の相関に過ぎない」って言うアナリストもいる。


懐疑論という対抗軸


Phrona:懐疑的な人たちは、何て言ってるんですか。


富良野:一つは、相関があるからといって因果関係があるとは限らないって古典的な議論。両方とも別の要因で動いてて、たまたま同じタイミングで上下してるだけかもしれない。


Phrona:たとえば?


富良野:たとえば、世界的なリスク回避の動きとか。地政学的な緊張が高まると、安全資産として金が買われる。同時に、不安定な通貨から逃げる人がテザーを買う。両方とも根っこは同じリスク回避で、だから連動してる、と。


Phrona:なるほど。テザーが金を動かしてるんじゃなくて、同じ要因が両方を動かしてる。


富良野:そういう見方です。で、もう一つの懐疑論は、テザー社が公表してる金の保有量が小さすぎるって指摘。35億ドルじゃ、金市場全体を動かすには足りない。


Phrona:確かに、金市場って数兆ドル規模ですよね。35億ドルは1%にも満たない。


富良野:ええ。だから、テザー社の購入だけで0.92の相関を説明するのは無理がある。他の要因、つまり中国やロシアからの流入がメインで、テザー社の購入はその一部に過ぎないんじゃないかって。


Phrona:でも、そうだとすると、テザー社が金をどれだけ持ってるかって、実はそんなに重要じゃないのかもしれないですね。


富良野:重要じゃないとは言えないけど、むしろテザーが「導管」として機能してることの方が重要かもしれない。世界中の資金がテザーを通過して金に向かってる、その流れ自体が相関を生んでる。


見えない取引の巨大さ


Phrona:でも、そういう資金の流れって、どれくらいの規模なんでしょう。誰か正確に把握してるんですか。


富良野:それが問題で、誰も正確には分かってないんです。記事の中でも、アナリストが「推測はできるけど証明はできない」って言ってます。


Phrona:見えないから、測れない。


富良野:そう。暗号資産取引は匿名性が高いし、国境を越えるから、各国の統計にも出てこない。地下経済の一部みたいなものです。


Phrona:でも、その地下経済が、公式な金市場に影響を与えてる。


富良野:ええ。で、厄介なのは、影響の大きさが測れないから、リスクも評価できないってことです。もし中国やロシアからの流入が急に止まったら、金価格はどうなるのか。誰も確信を持って答えられない。


Phrona:不確実性が大きいんですね。市場にとっては不健全な状態です。


富良野:そう。でも、その不健全さが、むしろテザーの存在意義でもあるんです。透明で規制された市場では実現できない流動性を、テザーが提供してる。


Phrona:必要悪、みたいなものですか。


富良野:悪かどうかは立場によりますけど、少なくとも、現行の金融システムでは満たせないニーズに応えてる。だから使われ続けてる。


金の意味の変容


Phrona:でも、この状況って、金の意味自体を変えてませんか。金が安全資産として信頼されてきたのは、誰の負債でもない、独立した価値を持つからだったはずです。


富良野:ええ、そこは重要なポイントです。金は政府や企業から独立してるから、最後の拠り所になる。でも今、その金が不透明な暗号資産の動きと連動してる。


Phrona:独立性が損なわれてる。金が「汚染」されてるとまでは言わないけど、純粋じゃなくなってる。


富良野:確かに、金を買う投資家は、知らないうちにテザーのリスクも背負い込んでるかもしれない。


Phrona:テザーに何か問題が起きたら、金価格も影響を受ける。


富良野:その可能性はあります。たとえば、テザー社が準備資産を十分に持ってないことが明らかになったら、テザーへの信頼が崩壊する。すると、テザーを経由してた資金の流れが止まって、金価格も下落するかもしれない。


Phrona:連鎖反応ですね。でも、それがどれくらいの規模で起きるのか、予測できない。


富良野:予測できない。だからリスクなんです。見えないリスクが、市場に蓄積されてる。


規制という遅れてきた番人


Phrona:じゃあ、規制当局は何してるんでしょう。こういう状況を放置してるんですか。


富良野:放置してるわけじゃないけど、対応が追いついてないんです。アメリカでは、ステーブルコイン規制法案が何度も提出されてるけど、まだ成立してない。


Phrona:なんで成立しないんですか。


富良野:業界からの反発が強いのと、政治的な対立もある。暗号資産を規制すべきか、それともイノベーションとして育成すべきか、意見が分かれてる。


Phrona:その間にも、市場は動き続ける。


富良野:そう。で、規制が遅れれば遅れるほど、既成事実が積み重なっていく。テザーはもう暗号資産取引のインフラとして定着してるから、今さら禁止するのも難しい。


Phrona:禁止したら、市場が混乱する。


富良野:ええ。だから、規制する側もジレンマを抱えてる。厳しく規制すれば地下に潜るだけだし、かといって放置すれば透明性のない巨大な力が市場を動かし続ける。


Phrona:どっちに転んでも問題がある。


富良野:そうなんです。で、一部の国は別のアプローチを取ってる。規制下に置くことで、透明性を確保しようとしてる。


Phrona:敵対するんじゃなくて、取り込む戦略ですね。


富良野:ええ。でも、それが成功するかどうかは、まだ分からない。テザー社自身が、規制に従うかどうかも不透明です。


誰のための市場なのか


Phrona:でも富良野さん、こういう状況って、結局誰が得してるんでしょう。専門家だけが情報を持ってて、普通の投資家は何も知らないまま影響を受ける。


富良野:情報の非対称性が、極端に大きくなってる。暗号資産市場の内部にいる人は、テザーの動きを追って取引できる。でも、普通に金を買ってる年金基金とか個人投資家は、そんなこと知らない。


Phrona:知らないうちにリスクを負わされてる。


富良野:そう。で、もっと言えば、金の価格が不透明な要因で動いてるなら、価格発見機能が歪んでる。市場が本来の役割を果たせてない。


Phrona:価格発見機能、ですか。


富良野:市場は、需要と供給を反映して適正な価格を見つける場所です。でも、見えない巨大な力が働いてたら、その価格は本当に適正なのか疑問です。


Phrona:歪んだ価格で取引してる。でも、それが歪んでるって気づけない。


富良野:ええ。だから、透明性が必要なんです。何が起きてるのか、誰が市場を動かしてるのか、見えるようにしないといけない。


信頼という脆い基盤


Phrona:でも、根本的な問題は信頼ですよね。テザーは信頼されてないのに、使われ続けてる。なんでそんなことが可能なんでしょう。


富良野:それは、他に選択肢がないからです。暗号資産取引には決済手段が必要で、テザーが事実上の標準になってる。信頼できなくても、使わざるを得ない。


Phrona:必要性が信頼を代替してる。でも、それって脆いですよね。


富良野:とても脆い。本当の信頼は、長い時間をかけて積み重ねられるものです。金が信頼されてるのは、何千年もの歴史があるから。でもテザーは、たかだか十数年で、しかも不透明なままで、巨大な影響力を持ってる。


Phrona:時間をかけて築かれた信頼と、必要性から生まれた脆い信頼が、絡み合ってる。


富良野:まさに。で、その絡み合いが、市場を不安定にしてる。どちらか一方が崩れたら、もう一方も影響を受ける。


Phrona:金を持ってれば安心、っていう神話も、もう成り立たないかもしれない。


富良野:少なくとも、昔ほど単純じゃない。金を持つなら、暗号資産市場の動向も理解しておく必要がある。それが今の現実です。


未来への問い


Phrona:じゃあ、これからどうなっていくと思いますか。この相関は続くんでしょうか。


富良野:分からないですね、正直。一つのシナリオは、規制が強化されてテザーの影響力が弱まる。別のシナリオは、テザーがさらに普及して、金融システムの一部として定着する。


Phrona:どっちに転ぶかで、金市場の性質も変わる。


富良野:そう。ただ、どちらにしても、もう後戻りはできないと思うんです。伝統的な金融と暗号資産の境界は曖昧になってて、完全に分離することはできない。


Phrona:じゃあ、この曖昧さと付き合っていくしかないんですね。


富良野:そうかもしれません。で、その中で大事なのは、問い続けることだと思うんです。何が起きてるのか、なぜ起きてるのか、誰が影響力を持ってるのか。


Phrona:透明性を求め続ける。


富良野:ええ。テザー社も、各国の規制当局も、市場参加者も、もっとオープンであるべきです。見えないところで動く巨大な力は、誰のためにもならない。


Phrona:でも、透明にすることで損をする人もいるから、抵抗があるんですよね。


富良野:そう。だからこそ、外部からの圧力が必要なんです。投資家が声を上げる、メディアが追及する、研究者が分析する。そういう積み重ねが、少しずつ透明性を高めていく。


Phrona:時間がかかるけど、やるしかない。


富良野:ええ。で、その間にも、私たちは注意深く市場を見ていく必要がある。パターンの変化に気づくこと、異常を察知すること。それが、見えないリスクから身を守る方法です。



 

ポイント整理


  • 極めて高い相関係数

    • 2024年、金価格とテザー(USDT)供給量の相関係数は0.92。統計的にはほぼ完璧な連動を示し、伝統的な説明要因(中央銀行の買い入れ、金利動向など)よりも強い相関。

  • テザー社の金保有公表

    • テザー社は2023年第1四半期に初めて15億ドル相当の金保有を公表。同年末には35億ドルに増加。しかし、どこで購入したか、どこに保管しているかなど詳細は不明。金市場関係者も大量購入の痕跡を確認できていない。

  • テザーの規模と準備資産構成

    • テザーの時価総額は1320億ドル。金保有は35億ドル(全体の約3%未満)で、大部分は米国債、現金、企業向け貸付など。しかし詳細な内訳は不透明で、監査も限定的。

  • 中国の資本規制回避

    • 中国では年間5万ドルまでの外貨交換制限があり、資本規制が厳しい。人民元→テザー→金という経路で規制を回避する動きが大規模に存在すると推測される。香港経由や海外取引所を使った地下取引が継続。

  • ロシアの制裁回避

    • ウクライナ侵攻後の経済制裁により、ロシアは国際金融システムから切り離されている。テザーは制裁回避の手段として貿易決済にも使用され、資金がテザー経由で金に流れている可能性。

  • 新興国の通貨不安

    • 高インフレや通貨不安に苦しむ新興国(アルゼンチン、トルコなど)では、ドル不足を補う形でテザーが利用され、さらに金に投資する流れが形成されている。世界的な通貨不安がテザー経由で金需要を押し上げている可能性。

  • パターン取引による自己強化

    • 市場のトレーダーがテザー発行と金価格の相関パターンに気づき、アルゴリズム取引に利用。テザー新規発行時に金を買い、償却時に金を売る取引が増加。相関自体が相関を強化する自己実現的予言の様相。

  • 懐疑論と因果関係の不確実性

    • 一部のアナリストは「偶然の相関」と主張。両資産とも世界的なリスク回避という同じ要因で動いているだけで、直接の因果関係はないという見方。テザー社の金保有量(35億ドル)は数兆ドル規模の金市場を動かすには小さすぎるという指摘も。

  • テザーの「導管」機能

    • テザー社自身の購入よりも、テザーが世界中の資金を金市場に導く「導管」として機能していることが重要。中国、ロシア、新興国からの資金がテザーを通過して金に向かう流れ自体が相関を生んでいる可能性。

  • 取引規模の不透明性

    • 暗号資産取引は匿名性が高く国境を越えるため、各国の統計に現れない。テザー経由の金購入がどの程度の規模なのか、誰も正確に把握できていない。測定不可能なため、リスク評価も困難。

  • 金の独立性の侵食

    • 金は政府や企業から独立した「純粋な安全資産」として信頼されてきたが、不透明な暗号資産の動きと連動することで、その独立性が損なわれている。金投資家は知らないうちにテザーのリスクを間接的に負う構造。

  • 規制の遅れとジレンマ

    • 米国でステーブルコイン規制法案が複数提出されているが成立していない。業界の反発と政治的対立が障害。厳しく規制すれば地下化して透明性が低下し、放置すれば不透明な力が市場を動かし続けるというジレンマ。

  • 情報の非対称性

    • 暗号資産市場の内部にいる専門家はテザーの動きを追って取引できるが、一般的な金投資家(年金基金、個人投資家)は情報がない。知らないうちにリスクを負わされ、市場の価格発見機能が歪んでいる可能性。

  • 脆弱な信頼基盤

    • テザーは完全には信頼されていないが、暗号資産取引の決済手段として代替手段がないため使われ続けている。必要性が信頼を代替している状態は脆く、何らかのきっかけで崩壊する可能性。数千年の歴史を持つ金の信頼と、十数年の不透明なテザーの「信頼」が絡み合っている。

  • 予測不可能な将来

    • 規制強化によりテザーの影響力が弱まるシナリオと、テザーが金融システムに定着するシナリオの両方が存在。どちらにしても伝統的金融と暗号資産の境界は曖昧化しており、分離は不可能。透明性要求と継続的な観察が重要。



キーワード解説


テザー(Tether / USDT)

1米ドルと等価を保つように設計されたステーブルコイン。時価総額1320億ドルで、暗号資産取引の事実上の標準決済手段。


ステーブルコイン

法定通貨や他の資産と価値を連動させ、価格の安定を目指す暗号資産。


相関係数

二つの変数がどの程度連動して動くかを示す統計指標。-1から1の値を取り、1に近いほど強い正の相関。0.92は極めて高い連動性を示す。


準備資産

ステーブルコイン発行体が、発行したコインの価値を裏付けるために保有する資産(米国債、現金、金など)。


ペグ(Peg)

ある通貨や資産の価値を別の通貨や資産と固定または連動させること。テザーは米ドルとの1対1のペグを維持することを目指している。


資本規制

政府が自国通貨や資本の国外流出を制限する政策。中国では年間5万ドルまでの外貨交換制限がある。


SWIFT(国際銀行間通信協会)

国際的な銀行間取引のための通信ネットワーク。ロシアは制裁により一部の銀行がSWIFTから排除された。


アルゴリズム取引

コンピュータプログラムによる自動売買。特定のパターンやシグナルに基づいて高速で取引を実行する。


自己実現的予言

予測や信念が、人々の行動を通じてその予測を実現させてしまう現象。


導管(コンジット)

資金や資源が通過する経路。テザーは世界中の資金を金市場に導く「パイプ」のような役割を果たしている可能性。


価格発見機能

市場が需要と供給を反映して適正な価格を見つける機能。透明性が失われると、この機能が歪む。


地下経済

公式な統計や規制の枠外で行われる経済活動。


透明性(トランスペアレンシー)

組織の活動や財務状況が外部から見える状態。金融市場では投資判断に必要な情報の開示度を指す。


時価総額

発行されている全トークンや株式の市場価格を合計した値。市場規模を示す指標。



本稿は近日中にnoteにも掲載予定です。
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